ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
学園、再び
私立ガンブレ学園……ガンプラの制作、及びガンプラバトルに特化した人材教育を目的とした大規模学園都市の一翼を担う学園である。生徒達は皆、ガンプラを愛し、切磋琢磨することでその技術と精神を磨き上げる。
かつては自由にガンプラを楽しむことすら出来なかった時があったもののそれを良しとせず、立ち上がった者達……サイド0の活躍によってガンブレ学園はかつての頃を思い出させるようにガンプラへ情熱を注げる学園へと姿を変えた。
学園が再び新体制へ変化し、その立役者であるサイド0のリーダーでもあったソウマ・アラタも卒業し、輝かしい未来を創造するために一歩を踏み出した。それから一年、そんなガンブレ学園の第10ガンプラ部には三年生となったイチカワ・アヤの姿があった。
かつては第10ガンプラ部の一年生として末っ子のような可愛がり方をされていたが、今ではかつての幼さは見えなくなり、少女から大人の女性へ、そのスタイルも相まってかつてとは見間違うほどに成長していた。
今、彼女は部室に一人、いるようでペラペラと何やらアルバムを捲っては懐かしんだ様子で微笑む。
そこにはかつてこの部の部長であったアイゼン・レイナが自身の趣味で撮った写真達が収められており、この学園に在籍していた多くの生徒達の写真があった。
「時間はあっという間だなぁ……」
何気なく零した言葉にアヤは寂し気に呟く。
かつては末っ子のような存在であったアヤも今では第10ガンプラ部において部長の立場となってこの部を率いている。
勿論、多くの苦労があった。
なにせ今までは目指す側だった自分がいつしか目指される側になってしまったのだから。それすらもあっという間の出来事に思える。
「……ソウマさんはこんな気分だったのかな」
ふとアルバムに載っているアラタの写真を見つめる。
部長だからと気負うところもあった。今となっては全てを抱え込んでいたアラタの心情が分かる気がする。上に立つ者だからこそ見せられない面。そう考えると無茶をしてしまおうとする。
アラタのことを考えていたアヤはふと自身が所持するケースからガンプラを取り出す。
そこに収められていたのはフリーダムインパルスガンダムであった。
かつて使用していたものと同一のガンプラではあるが、あれから何度も何度も改修してその出来栄えはかつての比でない。
フリーダムインパルスを手に取り、可動域を確認する。
今の自分に出来る最大限のことを施したこともあり、満足のいく出来栄えだ。
「……ぶぅーん」
そんな矢先、ふとアヤの口から何かが漏れ聞こえると同時にアヤはフリーダムインパルスを高々と掲げる。
「ぶぅーん、ドドドォーッ」
そしてそのまま擬音を口にブンドド遊びを始めたではないか。
部長という立場上、部室でやることが少なくなったが今はアヤ一人、誰にも見られることはないだろう。
「ギュィイッ、ビューン!」
「……」
「シュイィィィーッ……バァーッ……」
「……」
「……はぁあ!!?」
思いっきりブンドド遊びを楽しんでいるアヤだが、何やら視線を感じて見てみれば、そこにはミツルギ・アカリの姿があったではないか。
かつてはワンサイドアップに纏めていた艶やかな黒髪も腰まで届くポニーテールにしており、凛としたこれまでの印象を更に強くする。そんなアカリは部室の入り口に立っており、彼女の存在に気付いたアヤは身を大きく震わせる。
「い、いいいいつからぁあっ!?」
「ブンドド遊びをし始めた頃からかしら。帰る前に部室に訪れたら……まあ、その」
顔を真っ赤にして目を白黒させるアヤにアカリもアカリで気まずそうに目を逸らしながら答える。
「……あら、アルバムとは」
うぅっ、と机に蹲っているアヤを尻目にアカリは彼女の目の前にあるアルバムに気付く。アカリもアルバムに収められた写真を見て、先程のアヤのように頬を緩ませていた。
「懐かしいわ。ソウマさんにレイナさん、ユイさんやリョウコさん。みんな、元気かしら」
「……昔みたいに気軽に会えるわけじゃなくなってきたからね」
アルバムを捲るアカリの言葉に何とか回復したアヤはどこか寂しそうに笑う。
昔は学園で毎日、会う事が出来た。しかし段々と卒業し、それぞれの道へ歩んだ今、それが難しくなっている。
「……寂しい?」
「そりゃあね。なんだかんだでみんな、尊敬している人たちだったから」
そんなアヤを見透かしたように問いかければ、アヤはごまかす事なく素直に答える。
「最初はレイナさんやユイさん達。それだけでも寂しかったのに、今度はアラタさんやイオリさん達……。今だって賑やかだけど、どうしてもあの人達の影をどこかで追っている自分がいた」
レイナやアラタ達。ベクトルこそ違えどそこに存在するだけど賑わう力を持った存在達だ。
そんな存在達がいなくなってどこか心で彼女たちの影を追っている自分がいたのだ。
「でもさ。それをいつまでも続けても仕方ないって気づいたんだ。だって私は今や部長様だからね」
寂しそうな笑みも一転、穏やかな笑みへと変えたアヤは顔を上げた。
「部長になっても私の中の部長はレイナさんだけだった。そんな状態で部長になっちゃったからもう大変であの人は卒業していなくなったけど残った私は部の長になってしまった。だからこの部を取り纏めなくちゃいけない……。だから私自身が変わらなくちゃいけなかった」
フリーダムな存在であるアヤだが決して悩みがないなどではないのだろう。
アヤはアヤなりに苦しんで悩んで藻掻いて、彼女の中に根付いた“部長”の存在に引きずりながらもそれでもここまで歩んできたはずだ。
「レイナさんはいなくなった。でもね、そんな事は関係なしに私の背中を目指して慕ってくれる後輩達がいるから。私は目指される側になってしまった。だとしたら……いつまでも去った人の影を探してる暇なんかない。私は……変わるんだって決めた」
だからこそ今のアヤがここにいるのだろう。
彼女は決してちゃらんぽらんに後輩感溢れるあの頃から今のような存在に成長したわけではないのだ。
「私達は学園に残された存在だけど、同時に後輩達に何かを残す存在でもあるのよ。それこそ卒業した人達みたいにね」
卒業した存在達が教えてくれたものがアヤの心に根付いている。そしてそれは今度はアヤを通じて彼女の後輩達に伝わっていくのだろう。
「この第10ガンプラ部は遊び心がテーマ。だからね、私は真摯にガンプラと向き合って遊ぶつもりよ」
「遊びだから本気になれる……。そうね。きっと私たちなりのガンプラへの向き合い方の何かが私達に続く存在に出来ることだと思う」
フリーダムインパルスをケースに収めながら、快活な笑みを浮かべるアヤにアカリも朗らかに笑みを浮かべながらゆっくりと頷く。
「それじゃあもう帰りましょうかーっ! 今日は新作ガンプラの発売日だしねー!」
「あっ、私も行きたいわ。ニッパーを新調したいの」
「そういえばリュウマとはどうなの? いい加減、くっついたら?」
「わ、私達はプラトニックな関係なの! ペースってものがあるのよ」
鞄を手に取り、アヤはアカリと共に部室を後にして穏やかな茜色の日差しを受けながらガンブレ学園を後にする。
現在、そして過去に渡る因縁を破壊し、今を輝く少年少女はそれぞれの道を創造しようと歩み始めた。
それぞれの道へ進むために去って行った者達が過去の存在となっていくなかで残された者達はそれでも残った者として歩もうとする。
──これは残された者達のお話。
本当はアラタ達が卒業し、新生生徒会の長として引っ張るもどこかでアラタの影を追っているリュウマの短編を書いていたのですが、約二か月間、何かぐちゃぐちゃしてきたなということで急遽、プロットをもとに書き直して、残されたアヤを主役に置いた一話完結のお話となってしまいました。申し訳ございません。
……ホント、時間ってあっという間ですね。