・雛は人間から厄を取り除くため、古くは「幸神」と呼ばれていた。
・「厄を司る」程度の能力を持っているため、基本的に厄は漏れ出さない。∴隣にいるだけではまず不運に見舞われない。
・河城にとりとの友好関係。
といったものです。苦手な方はページバック推奨です。
それではお楽しみください!
大和には
(万葉集巻一 二番歌 舒明天皇)
◆
「ほんとに、いつ読んでもうっとりしちゃう」
幻想郷の景色を説明するとしたら、一体どのような言葉が適切か。「日本の原風景」だろうか。それとも――。
「まあ、海はないんだけどね」
何にせよ、誰かがもっともらしい言葉選びをすれば、いつしかその言葉は人々の共感を誘い、やがて“真実”の一つとなる。そう、それが
「にとりー!」
「おおー、雛か。ずいぶんと久しぶりじゃないか」
心地よい日差しが草木をはぐくみ、自然はあらたな自然、命を呼んでくる。
鼻腔をくすぐる土のにおい、沢を行く清流。原風景の極みには、二人の少女の声が最良の添え物だ。
「ごめんね、厄を捧げきるのに結構手間取っちゃって……」
「そっか、でも、そういうことならまたしばらくは会えるんだよね?」
「うん。にとり、これからもよろしく!」
にとりと呼ばれた河童は、帽子で頭を覆い、ポケットがやたら多い青い服を着ている。対する彼女に話しかけた少女、雛は緑色の髪をもち、その上には大きく赤いリボンを付けている。さらに彼女は装飾がこれでもかとなされた服を身に身を包んでいて、その赤黒い布地を基調とした佇まいは、どこか退廃的で悪趣味なものとして映る。少なくとも、のどかな田舎風景には不釣り合いな着飾りだと言えよう。
雛はその次の会話の糸口をすぐさま見つける。「それは?」と、尋ねると、にとりは間髪をいれずに大声で答える。「いくつか改良を施した我が発明品“のびーるアーム改”さ!」
満面の笑みでコントローラーを握るにとりに、若干の不安を感じざるを得ない雛。一歩足を後ろに出すと、はたしてアームがのびて襲い掛かってきた。恐怖を覚えて瞬時に頭を守り、縮こまる雛だが、特に何をされる気配もない。恐る恐る顔を上げると、目の前にするするとリボンが落ちる。
「ああーっ、ちょっと何するの! これ結ぶの大変なのよ!?」
「いひひ! 悔しかったら捕まえてごらんよ。ほらほらー」
にとりは手あかのついた感すらある常套句を言い放つ。アームを器用に操って空中に浮かぶと、そのまま背嚢に格納されていた「推進ジェット」が火を噴く。
「捕まえられるワケ、ないじゃない」
雛は独り言ち、再びやってきた日常の幸せを十分にかみしめていた。目はうるおい、口元が緩んだのを、彼女は気づいていただろうか?
◆
「ねえにとり。私ね、久しぶりに人里に行ってみようと思うの」
「ええー、それはもうやめといたほうがいいんじゃないか?」
あれから少しの時が経って、合流した二人は野原に寝ころんでいた。空の広々とした余白を眺めながら、他愛のない会話が続く。
「ちょっと、それどういうことよ。私が嫌われているって言いたいの?」
「だってさ、扱うものが“厄”なんだから、怪しまれても仕方ない。しかも人間たちには随分と会っていないんだろ? それなら今頃、“厄が首を絞めて人を殺した”なんて噂が立っててもおかしくはないじゃないか」
「失礼ね。自分のことは棚に上げて……。河童だって、人間の尻子玉抜く“恐ろしい妖怪”ってことになってるじゃない」
「それは決定事項。今さら改善しようったって、ムリなこった。ただ、雛のは不確定だからね。……ま、ありがと。”賭ける機会”を設けてくれてさ」
「もう、にとり……」
会話には時たまの笑みが花咲き――そのほかは無表情で構成されていたが――嫌な顔は一度も見られなかった。二人の仲は相当深い。もはや互いの顔を見ることなく、声の調子だけで相手の思いが手に取るようにわかるのだ。
「じゃあ、そうと決まればさっそく花飾り用の花を集めてこようっと。じゃあね、にとり!」
「はいはい、じゃあ私も賭ける仲間を探してくるとするか」
「まったく、貴女って人は、いつも素直になれないのね」
「え? ごほうびには素直だよ?」