厄神様のただひとつの願い   作:映陸沙汀

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第四 厄神弾闘於天狗山事

 気付けば、かなり長い間移動していた。今は妖怪の山の中腹にいるが、にとりの言うように、ここでは天狗が幅を利かせていた。確かに、連絡を取っていなかったという点ではこちらにも非があるが、昔は「開かれた土地」だったのに、いまや途中ですれ違った山伏天狗にも追われる始末だ。

ただ、山伏たちは警護の役割を担ってはいないため、辛うじてその二人の襲撃はやり過ごした。しかし今やまたひとつ、目前に障壁が立ちはだかっていた。

 

「何の用?」

 

 白狼天狗だ。剣と盾を持っていて、先の者達とは比べ物にならないくらい警戒心をむき出しにしている。確か名を……。

 

「犬走さんですか? 私は鍵山雛と申します。射命丸さんに用があって訪れました」

「そう。でもあなた、許可取ってないんじゃないの? いつもなら追い返しているところだけど、まあ今日は私と“遊んで”くれるんなら特別に通してあげる」

「せっかくですが……、今私はそういう気分じゃないんです。ごめんなさい」

「なら、やっぱりここで朽ち果てていって」

 

 結局、提案に賛同したところで戦うのに変わりはない。それならば、遊びではなく戦いを選びたい。雛はそう感じたのだ。決して戦闘力があるわけではないし、スペルカードを大量に持っているということでもない。それでも彼女は、自分の存在を主張するために、戦いを選んだのだ。

 最初に仕掛けたのは、椛だ。比較的大きな弾を斜めに打っていく。そして二人とちょうど等距離の位置に来ると、突如として軌道を修正、雛のもとめがけて進んでいく。

 雛はそれを回転しながら右へ左へ受け流し、また同時に、連鎖弾を一回転ごとに打って反撃も加える。ただ、如何せん弾数が少ないがために、椛に当たる気配はない。

 これでは膠着状態だ。椛はそう理解してか、次なる行動へと移る。

 

「……ふーん、ならこれはどう?」

 

 手に持っていた剣を天へ見せつけるようにして掲げる。

 

「大人しくさっきので、負けを認めていればよかったの……、よ!」

 

 雛が次に認識した景色は、大きな円を描くようにして放出される密度の濃い弾幕。彼女の剣は「武具」ではなく、「神具」としてあるようだ。実際に振るって使うのではなく、神や自分より上位の超自然的存在に力を分けてもらって初めて効果が発揮される。

 この攻撃に際して、雛は無言で胸に手を当てた。姿勢はそのままにして、全身を回転させる。彼女は回る。黒い“気”を内面からほとばしらせている。いつの間にか、黒い霧は彼女を中心として四方八方に飛散していた。

 

「それで姿を隠したつもりなの? 隠れたって、私の、弾幕からは、逃れられない!」

「逃げようだなんて、思っていませんよ。ただ、私に有利な状況を――」

 

 椛はここで、ようやく違和感に気が付いた。発散された霧を見れば、雛の位置を逆算することは余裕だ。また所々薄い場所があり、そこからも大体の位置は予測できる。

 それなのに、当たっている様子がまるでない。さらに弾幕の密度を濃くしても結果は同じであった。よくよく目を凝らしてみると、弾の破片がパラパラと落ちている。

 

「厄というのは、何も生体にだけ作用する訳ではないのです。そう、いくら弾幕でああっても、災厄からは逃れられない」

 

 この超常現象は、雛から放出された厄が引き起こしている。厄は無生物である弾にも作用する。或いは進むべき方向を曲げて、或いは弾速を遅くし、災厄の元である雛の元に届く弾は数少ない。

 ただ、雛に届く弾が少ないというのは、逆に考えれば「わずかではあるが、直撃の可能性はある」ということを意味する。加えて、椛と彼女の神剣が放出する弾幕は、じわじわと厄の霧を払い去っている。

 あともう一押しで、あの霧を破ることが出来る。そうすれば勝利の女神は椛に微笑むだろう。攻撃をより変則的にしようとするが、同時に雛からの報復が襲い掛かる。守るだけではなく、攻めることも可能とは、かなり手強い。

 

 こうして勝敗の天秤は、その針を絶えず揺らしていた、のだが、結局のところ、「終わり」はあまりにも唐突で、あっけないものであった。

 

「はいはい終わり終わりー。両者とも戦闘を中止してくださーい!」

 

 二人の頭上に迅風が吹くと、その直後人影が現れる。白が大半を占める平凡なシャツに、モノクロームのミニスカート。頭には兜巾(ときん)を乗せている。

 その姿には、双方ともに見覚えがあった。また言う通りにしないと、どんなことが起きるかも。だからといって、雛と椛は弾幕勝負を止められるわけがない。もし彼女の言うとおりに攻撃の手を緩めれば、たちまち全身を相手の弾が貫くだろう。

 

「だから、止めろって……、聞こえませんでしたっ……、か!?」

 

 とうとうしびれを切らしたのか、それとも二人の意中をくみ取ったのか、鴉天狗の少女、射命丸文は厳しくそう問いかけた。そして言葉と言葉の不自然な沈黙は、文が自らの能力を発揮するために必要だった。

 次の瞬間には、彼女は両手をおおきく振りかぶって、彼女の葉団扇――八手の葉が振り下ろされていた。自身が風邪を操る程度の能力を持っている上に、さらにこの能力を助長する道具を用いたならば、文から放たれる風は、もはや「千早振(ちはやふ)る神風」であった。

 雛を覆っていた厄はすべて流され、また二人が放出した弾幕と戦意はきれいさっぱり消散した。

 

「さあ椛、貴女は自分の仕事に取り掛かって。あとは私に任せてください」

 

 体には、未だに強烈な風圧の感覚が残っていた。耳を澄まさなくとも、鋭い刃が大気を斬って進むような松籟が聞こえる。横を向けば、落葉前の色のついた葉が盛大に舞っている。そして風の源を向けば、微かな笑みを浮かべながら、ただ宙に漂うだけだった。

 

 




 更新が随分遅れました。
 あと、タグに「バトル」と書いてあるのになかなかバトルシーンがなくて申し訳ございません! ここで戦闘成分を補充していってください……。
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