我輩は脳無である。
少しばかり、オイタが過ぎたのであろうか。気付けば、あれよあれよという間に改造されておった。
しっかり麻酔はかけてくれていたあたり、変なところでの心遣いを感じてならぬ。
こういう妙な心遣い。これ、おそらくは先生の指図での処置であろうなあ。
だって脳無なのに、ばっちり意識が残っておることであるし。
しかも何やら。にわかには把握できぬほどたくさんの個性が、この身体に入れられているのだな。これが。
そして、そんな身体が。別に拘束されているわけでも。洗脳されているわけでもなく。
普通に。医務室らしき部屋に寝かされていて。
目の前の小さな紙に。「晩ご飯までには帰ってこいよ」と書いてあるのだが。
我輩。さすがにこの状況に、困惑せざるをえぬのであるが。
えぇ……
それしか言葉が出てこない。思考もまとまらぬ。パッとも、シャッキリともせぬ。
ぢっと手を見ると、手の平には肉球が残されていた。だから、そんな妙な気遣いはいらぬのである。
さて。
どうすればいいのか、本気で解らぬ。
はてさて。正解など、用意されているのであろうか。このまま寝て起きたら、あっさりと元に戻っている可能性も否定できないあたりも、実に困る。
だが。せっかくの機会なのだ。何か、こう。脳無ならではの何かをやってみたいではないか。
考える手がかりは、二つ。一つは、この体に宿った、大量の個性。
だが、これ。大量すぎて、どれが手がかりなのかわからぬのであるな。
二つ目。書き置き。
晩ご飯までには帰ってこい。帰るためには、すなわち、出かけねばならぬ。
ははあん。これはつまり。
外で何か、しでかしてこい。そういうことであるな?
たまにはヴィランとして。普通のヴィランのように、暴れて来いと。そういうことであろうか。
だが断る。
我輩はネコである。
そういう普通に暴れるとか。そういった単純なことは、面白くないので却下するのだ!
だがしかし。
逆にヒーローの真似事をするのも。無意味に何らかの上演をやってみるのも。
両方すでに、ボスがやってしまっているのであるよなあ。
前者は、災害救助をヴィラン連合総出で。
後者は、雄英体育祭でヴィラン連合マッチョ化集団の応援ダンスで。
うん。さすがは我輩のボスである。意味が解らない。
なにやってんの、あの人。死柄木って自称の苗字はどこから来たの。元の志村とは最初の文字しか合ってないぞ。
どうするであるかなあ。
ネタがカブってしまうのは、よろしくない。
つまり。善行も無意味な行動もナシである。
それでいて。なにかこう、できれば世間様に、ナニかが残るような。こう、なんと言うであるかな。
「ワンクールのレギュラーより、一回の伝説」
そう、これだ。
「一瞬だけど 閃光のように」
そうだ。そういうやつだ。
都合の良いことに、今は別人。何をやらかそうとも、ネコである我輩には、傷は付かぬ。
やるなら、今である。
加えて言えば、我輩はなんちゃってヴィラン。悪い手段で善いことをして。なおかつ自分はオイシイ思いをできたら最高であるな。
うむ。いいぞ。ワクワクしてきた。
さあ。どうする。いっそ、島でもどこかに作ってやろうか。南鳥島だか、沖ノ鳥島の隣くらいに。
北の方の島のお隣は…… さすがにシャレですまなそうなので、自重するのである。
それとも。逆に山を削って台地にするか。トンネルを開通させようか。
ああ、海底トンネルもいいであるな。四国か九州へのやつなら、きっと喜ばれるであろう。
きっと利権争いで、大変なことになる。
それとも溶けない氷や、骨のような石を使って。海上に町をでっちあげてみようか。
メガフロートまでは無理でも、ひょっこり○ょうたん島くらいなら、一晩でいけそうである。
ついでであるので、木でも生やして……
うん? 植物繁茂。植物を急速成長させる個性であるか。
これ。威力増大の個性が乗るな。
そうだ。中国行こう。
ちょっとばかり、緑化してくるのである。
毎年毎年。悪化するばかりの黄砂とかPMとか。もううんざりなのであるよ。
そういうわけで。
ちょっとばかり。密出国して領空侵犯して不法入国して、勝手に緑化して逃走してこようと思う。
それで、それをネットで動画を流したいのであるが。
誰か、いい人材に心当たりはないですかね、さっき出現した黒い人。
え、いる? というか、ある?
特製のドローン。ふむ。そんな物も造っているのであるな。
それと念のために、確認するけれども。
我輩の元の身体か、元の身体のコピーはあるよね? ちゃんと、とってあるであるよね?
あとで肉体交換で、戻れるのであるよね?
黒い人? 目を逸らさないで、黒い人?
そうだって言ってくれないと。我輩、最終的にはインド通り越して、中東までジャングルにするのも辞さないであるよ?
もしくは、どこぞの大統領の身体と交換するであるよ?
だから、そうだって言うのである。
●「ワンクールのレギュラーより、一回の伝説」
芸人、江頭2:50の名言のひとつ。収入的にも知名度的にもレギュラーで頑張ったほうがいいと思うが、一瞬だけでも輝くのと、長期間のネタとして使える的には間違いでもない。
彼の生き様が良く現れている言葉でもあると思う。彼は色々と伝説と名言が多くて困る。
●「一瞬だけど 閃光のように」
ダイの大冒険より。人間は死ぬけど、だから一生懸命生きるんだ、といつか終わるからこそ、それまで頑張れるんだと、最終局面で大魔王に啖呵切った大魔導士のセリフ。
ガンダムSEEDのクルーゼがこのセリフを言うネタSSも考えてたけど、形にならなかった…