もう一人の魔竜   作:神信陸

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幕間 魔竜と呪われた少年

「人間の姿に戻った感想はどうだい?」

 

 私の目の前にいる男──黒魔導士ゼレフはそう私に問いかけてきた。

 その私の姿はゼレフの手によって人間の肉体を取り戻していた。三百年ぶりの人間の肉体ではあるが不思議なことに身体を動かすにあたってあまり違和感がない。

 尻尾や翼がある上に今の数十倍の大きさの体躯で三百年近くも生きていたというのに人間の肉体でも問題なく動ける。

 

「ああ、問題ないよ。ありがとう」

「いや、礼には及ばないよ。ただ、気を付けてほしい。初めて使う魔法だ。何かしらの副作用があるかもしれない」

 

 ゼレフは私にそう忠告する。

 その危惧は尤もだろう。強力な力にはそれに見合った代償が必要になるのが自然。(ドラゴン)に対して効果的な力を発揮する滅竜魔法にも決して抗えない欠点がある。

 

 竜の力に対して人間の肉体や精神が耐え切れず凶暴化する危険

 

 大きな差がある竜と人間の三半規管から生じる極度の酔い

 

 そして、私や父であるアクノロギアにも起こった肉体が竜に変異する竜化

 

 竜化は自身の能力が上昇するという観点から見るとメリットのように感じられるが、巨大にして畏怖を齎すその肉体は人間の精神と掛け合わせると相当のデメリットだ。人間というのは群れる生き物だから孤独に弱いのだから。

 

 そういう面を考えれば竜化が齎す害は大きく、又、その竜化を解除した魔法にも何かしらの副産物があっても不思議はないというものだ。

 

 しかし、アクノロギアが普通であったということを知っている私からしたらそれほどの不安はない。

 

「ところで君はこれからどうするの?」

 

 これから、か。

 言われてみれば如何するべきだろう。

 私が人里を離れてから三百年近く経っている。それだけの時が経ていれば常識や法といった価値観は大きく変わっているだろう。

 そんな私が人里に降りたとして周囲に馴染めるのだろうか。いや、それ以前に私はこれまで碌に人と関わっていない。アクノロギアとゼレフにさっき会ったメイビスたち、他には昔人間の町に2~3度立ち寄った時くらいのものだ。他には竜以外に意思の疎通を行ったことがない。そういったことも含めると簡単に人間らしく生きるというのは難しいだろう。となると人間社会に入るとなると常識や法を学ぶ必要が出てくる。

 

 しかし、その前に一つやっておきたいことがある。

 

 

 私だけかもしれない

 

 メイビスたちはそんなこと思っていないかもしれない

 

 それでも

 

 

 彼女たちとは、友となれる気がするのだ

 

 だから

 

 今回は例外

 

「人助け」

 

 全面協力はしない。が、人間のゴタゴタに介入するとしよう。


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