全く、道化もいいところであえる。
私はピエロではなく、ドラゴンであるというのに。
いや、それは流石に傲慢が過ぎるだろうか。
しかし私が人間というのも些か違う気がするのも事実。
中途半端ということだ。
ならば、人間
クックックッ
我ながら傑作である。
道化というのは間抜けな様を表現していたというのに、いつの間にやら「私」の存在の定義じみたモノを語っている。
まあ、この道化の由来が道化師という、一種の職業からくる例えというのなら、今この時に限っては「道化」ではなく、「大工」だろうか。
例えではなく、事実を述べただけになったがその辺りはご愛嬌。
それにしても、いつの間にやら魔法のみならず純粋な技術も相当の進歩を遂げているようで、私の既存の知識よりもずっと効率のいい作業を行っている。
一度私の持つ全ての専門知識を洗い出した方がいいだろうか。
少なくとも百年前までは魔法を使えるのは極一部で、それは現在も変わりないのだが、限定的なものであれば誰でも使えるような魔法のシステムが確立されている。
人間は弱い。
それは
獣は鋭い牙や爪。
鳥は翼。
場合によっては毒など、生物は皆身体のどこかが武器として発達しており──つまりは他の生物を攻撃することに長けている構造を取っているのに対し、人間はその武器をもっていない。
だからこそ、人間はこれほどの成長を遂げたのだろう。
魔法、という力はあれど、その力を行使できるのは僅かしかいないのだから、つまりは、力を持たない者が多いから、人間は肉体の一部を武器とするのではなく、武器を精製する方向へと進化していった。
その発想が──その弱さが、今に繋がる魔法形態や技術なのだろう。
私やアクノロギアのような存在では到達できない領域。
弱さからくる強さ。
竜の中には人間を見下し、食料としか見なさない者がいる。
彼らのはこういった面があることも知ってもらいたいな。
とはいえ、この進歩も今のままでは竜から見たとき単なる遊びでしかないのも事実。
いや、戦闘方面の一点においては衰退しているといっても過言ではないだろう。滅竜魔法という、竜に対する特効薬の存在を抜きにしたってそうだ。
強大な力には必ず反動や副作用を要する。
出ないとバランスが成り立たず、崩壊する。
利点しかないなんて都合のいいこと、世に中にはない。
これらがいい例だ。
強力な反面、使うのが難しい。
消費魔力が多い、習得難易度が高い、心身を蝕む副作用···挙げれば切りがない。
しかし、どれも強力な力だ。
現代の魔法の大半が、これらの悪い面を取り除き、威力が低下しようとも使い勝手をよくしようと研鑽された結果、なのだろう。
しかし、大きな代償を支払ってまで強力な力を得る必要が──人類の存亡を脅かすほどの外敵がいない以上は仕方ないのだろう。
いや、そうでもないのだったな。
このままいけばそれこそ人類の怨敵なりえる存在が、この近くを跋扈しているんだったな。
山のような巨躯を誇る巨人
災厄と称される悪魔
ゼレフ書の悪魔
デリオラ
§§§
二週間が経った。
けれどウルティアは、ウルに──母に会いたいとは、いや、名前すら一度も発しない。
耳にタコが出来るくらいに喋っていたあのころとは正反対に。
しかしだからといってずっとこのままという訳にはいかない。
あと一週間しかないのに。
先日のウル宅への訪問の際に、彼女と取り決めたことが二つある。
一つ、ウルティアが拒絶している間、私がウルティアを預かる
当の本人が拒絶している以上、下手に接触させるのは不味いだろう。
ここ最近の出来事で回復していっているとはいえ拷問紛いの実験を受けて精神的に不安定な状態だ。不要に刺激するのは問題だろう。
しかしだからといってこのままでもいけない。
プラシーボ効果、というものがある。
端的に言うと思い込みが心身に影響するという現象だ。
だからウルを母として見ずに、そして私を「ようなもの」であったとしても親として見ていれば。 、最悪、ウルとウルティアの親子としての関係性を修復するのは困難となり得るだろう。
だから、三週間、つまりは来週あたりに、一度接触させるべきだと判断し、そう約束を取り付けた。
あまり気は進まないが。
時にがショック療法も一つの手だとは思うが今回のケースだと逆効果かもしれない。
拷問紛いの実験を受けたことで人間の負の側面を知った結果なのか、ウルティアは恐怖心が人並み以上になっている。
何故私は例外なのかは分からないが、この町に来て直ぐの頃、道を聞いたり等で否応なく人と接する時、ずっと私の背に隠れて震えていた。
裏目に出るのではと思ってしまう。
しかし私に出来るのはこの程度が精一杯だ。
イヤ、こんなのは自分を正当化する言い訳だろうか。
親と子は一緒に居るべき、なんてエゴを、ウルティアに押し付けているだけなのではないか。
あとはただ祈るしかあるまい。
ウルティアの拒絶は
自分のことを忘れているのではないか
という、恐怖心から。
だから会うのが、真実を知るのを恐がっている。
そんな気持ちの問題は私にはどうすることも出来ない。
一助にすら、なってやれない。
せめてあと一週間で、少しでも恐怖を和らげられたらと、心からそう思った。