ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
本作品はジョーク満載な二次創作です。
原作とそれらマルチメディア展開による作品の数々、加えて版権元及びに関係者様を誹謗・中傷する意図は一切ございません。
寛大な心で「エックス達はそんなこと言わない」と笑い飛ばして貰えれば幸いです。
夜空に浮かぶ真円の月明りと燈色に輝く街灯のわずかな明かりだけが、数時間前にライトアップの消え失せた、堀の向こうに聳え立つ天守閣を闇夜の中で浮かび上がらせる。
左側通行の国道を行くヘッドライトとテールランプの明かりはまばら。 ここは日本が西の都こと大阪にある大阪城公園。
敷地の中は勿論、日が沈んだ後も喧噪で彩られる公園を囲うビル群も、流石にこの時間帯ともなればどこにも人の気配は感じられない。
「へへっ……ちょろいもんだぜ。 してやったりな気分だ」
皆が寝静まった公園の堀のすぐ側、反対側には木々が植えられた緑地で挟まれた通路を、一人の男が走っていた。
安全帽のようなヘルメットと首から下を覆う厚手のコートの前は開かれ、赤い眼光と防毒マスクのような口元と無機質なアーマーを覗かせていた。
彼はキンコーソーダー。 レプリロイド……の犯罪者、とりわけ凶悪犯に分類される札付きのイレギュラーであった。
力いっぱい締め付ける右脇の中には、コートの生地越しにカバンを抱えていた。 暗がりではっきりした色こそ判別しづらいが、等間隔に設置された街灯の光を横切る度、かろうじてそれが淡いピンクを基調とし、白いリボンやキーホルダー付きのデフォルメされた白いウサギのマスコットがチャックにぶら下がる可愛らしい装飾のあしらわれた、しかし中身の詰まっていそうなカバンである事がわかる。
淡い色彩の見た目と裏腹になかなかの重量があり、手提げこそついているがそれをつかんで下げるような真似はせず、脇に抱えたまま深夜の公園内を走るキンコーソーダーは不審だが、堀の向こうに佇まう大阪城と向かい合うように置かれた背もたれのあるベンチを見つけると、休憩がてら一旦その前で立ち止まってカバンを置き、自身もその隣に勢いよく腰かけた。
金属の体が頑丈に作られている木製のベンチを軋ませる。
「ここまでくりゃもう安心だな。 全く日本の女は警戒心ってもんがありゃしねぇ」
一息つきながら隣のカバンの開け口を得意げに上から軽く叩く。 姿も言動も厳ついキンコーソーダーに似つかわしくない装飾のカバンだが、実際にこれは彼の所有物ではない。
つい数週間前まで収監されていたアメリカのアブハチトラズなる連邦刑務所から、彼の息のかかった看守の手引きで無事脱獄を果たし日本へと高飛びを果たしたキンコーソーダー。
かつて裏社会にて築き上げていた一大勢力のボスとして返り咲く為、まったく懲りていない彼は当面の活動資金を稼ぐ為、まずは軽犯罪であるがひったくりから手を出す事にした。
ちょっとした整えさえあれば銀行強盗さえ難なくやってのけるキンコーソーダーにしてみれば、ちょろいを通り越してしょっぱい仕事であるが、何事も段階を踏んで取り組む事を信条とする身としてそれほど抵抗はなかった。
して、キンコーソーダーは先程まんまとカバンを盗んでやった間抜けな女の姿を思い出す。
20代中頃と思わしき見た目で顔やスタイルは文句なしの一級品。 しかしそれを損なって余りある、青と白の二色のロングスカートのドレスに、長い後ろ髪の頭の上には機械でできたウサギの耳をつけた、どこからどう見ても童話の中から出てきたとしか思えない奇妙な服装。
加えて泥酔してひどく息切れを起こし、レンガ敷きの歩道に倒れ伏せながら悪態をついていたあの時の様子は、酒の場で羽目を外しすぎてほっぽり出された痛々しい女にしか見えない。
それだけに仕事は簡単だった。 介抱するフリをして近づき、極度の人見知りなのだろうか男嫌いなのだろうかそこそこに抵抗されたが、持っていたカバンをさっさと奪い後ろから女の罵声を浴びながらまんまと逃げ去った。 ほんの10分程度前のことである。
「それにしても変な女だった。 ありゃ頭がイカレてやがるんだな……さてと」
キンコーソーダーは持ち主の女の事はさておき、戦利品を検めようとカバンの口に手をかけた。 盗難防止の施錠や警報ブザー等、特にセキュリティらしきものは見当たらず。
持ち主の趣味が何であれ、そこそこに重量があり中身の詰まったカバンだ。 さぞかしいいものが入っているのだろうと期待するキンコーソーダー。
難なく開かれたカバンの開け口に街灯の光が入り込み、その中身がキンコーソーダーのアイセンサーにはっきりと捉えられた時、彼は怪訝な声を上げた。
「……何だこりゃぁ?」
ウサギをあしらった可愛らしい造形だが取り立てて高級品と言う訳でもないマジックテープ式の財布……はまあ良いとして、白い金属製の箱と小ぶりな
キンコーソーダーは首をかしげるが、とりま中を確認しようと箱とスティックを取り出した。 箱の方は中々に重い。 おそらくカバンの重量の大半を占めているのがこの箱なのだろう。
こちらも特に防犯装置のようなものは見当たらず、両開きと思わしき蓋には取っ手と両端に留め具があり、指で弾いて外してやると取っ手を立てて蓋を開く。
中に入っていたのは銀一色。 大小様々の
どうやらこれは工具箱らしい。 グリップに消耗や細かな傷が目立ち、使い込まれてはいるがそれでいて中々にまめな手入れはされているようだ。
そしてもう一つ、メモリスティックを取り出し手持ちの端末に差し込んで中身をチェックする。 中に入っていたデータは何らかの設計図らしい。
「……インフィニット・ストラトス第5世代型――――ってなんだっけな?」
レプリロイドの身の上でありながら機械工学には疎い彼には、その名を聞いてすぐに頭には浮かび上がらなかった。
中のデータを流し見ながら思考を巡らせてみるが……ある程度記憶を遡った辺りでようやくその存在を思い出す事ができた。
『インフィニット・ストラトス』……通称ISと呼ばれるそれは今から10年ほど前に登場した、マルチプラットフォームスーツなる新しいカテゴリを築き上げたパワードスーツの一種である。
曰く武器弾薬は量子化技術によって物理的制約が取り払われガンシップに匹敵する装弾数を実現、生身を晒しながらでも絶対防御と呼ばれるバリアが全ての障害を遮り、極めつけに重力を無視して空を自在に飛び回る事ができると言われ、その性能たるや飛行能力持ちの特A級イレギュラーハンターにさえ匹敵又は上回ると言われている。
「これまたどマイナーな代物が出てきたな……あの女あんなナリしてなんでこんなモン……?」
これでもかと素晴らしい性能をアピールした代物であるが、対するキンコーソーダーの関心は薄かった。 何せ彼をして今この場で設計図を目の当たりにするまですっかり存在を忘れていたのだから。
今までに一度も見た事がないとは言わないが、せいぜい各国の軍部の広報部隊や一部宇宙開発の現場……後は競技目的で使われている程度か。
多少性能の優れたパワードスーツが登場しようが、既にレプリロイドが最先端テクノロジーを要求される各界隈に普及しきっている現状、とにかく極めてマイナーな存在に甘んじている。
思いがけない代物が出てきた事に、キンコーソーダーはますます訳が分からなくなる。 おそらくこれもカバンの持ち主の所有物なのだろうが、まさかあんな妙な格好で研究者だとでも言うつもりなのだろうか?
そんな事を考えていた時、不意にキンコーソーダーはすぐ近くから足音を感知した。 すぐさま手荷物を持ったままベンチの後ろの生け垣を乗り越え陰に隠れる。
唐突な来訪者に一瞬驚いたキンコーソーダーだったが、長年悪人街道を突っ走ってきただけあって冷静な頭に切り替えるのも早かった。 生け垣から顔を覗かせやってきた何者かの姿を窺った。
様子を見るキンコーソーダーの目前に、暗闇から街灯の元へとおぼつかない足取りの女性がやってきた。
長いブロンドヘアーに体のラインの浮き出たタイトなスーツにスカート、茶色いブランド物のショルダーバッグを下げている。 この国における所謂OLと呼ばれる人種ではないかと思われた。
悩ましい表情の顔は紅潮し息も少し荒い、どうやら彼女もまた酒に酔っているようだった。
「(この国の女は酒に酔いつぶれるのが流行りなのかぁ……? まあ)」
『仕事』がやり易くて助かる。 人通りの少ない夜道において立て続けに現れる、あまりに無警戒な女性の姿にキンコーソーダーは早くも仕事に取り掛かる頭となっていた。
カバンは一旦取り出した中身を詰めなおし生け垣の後ろの死角、素早く拾い直して逃げ切れるよう取りやすい位置に置き、女性の死角に回り込み生け垣を跨ぐ。
何食わぬ様子を装い女性の元へ歩み寄ると、キンコーソーダーが背後に迫ったあたりで女性はその場にへたり込んでしまった。
絶好のチャンスだ。 キンコーソーダーはしめたと言った様子で女性の正面に回り込み膝をつく。
「お、おいアンタ大丈夫かい?」
介抱するフリを装いつつ相手の顔色を窺った。 こちらが声掛けをしても相手は振り向く様子もなく、見た目は……先程変な服装をしていた女程ではないが中々の美女だ。
かなり注意力が散漫になっているらしく、赤らめた顔に上せきった目つき、遠目で判断した通り泥酔していると見て間違いはない。
「アンタみたいなのが一人でこんな夜道を出歩いてたら……」
女性の肩を揺すりながらも右肩にぶら下げるバッグを手にかけ、抵抗がないとみるや一気にそれを引っ手繰る!
「悪い奴に襲われるぜ!」
「あっ――――」
女性が声を上げる間もなく、キンコーソーダーはまんまとショルダーバッグを奪い去る。
相手を一瞥もせずさっさと生け垣を飛び越えると、裏手に隠したピンクのカバンも回収。 全速力で芝生の上を突っ切っていった。
大した事はなかった。 先のウサギ耳女は少し抵抗していたが、今回は何の抵抗もなくあっさりと奪い取る事ができた。 見るからにキャリアウーマンと言った姿だった女だ。 今度はもっと金目になりそうな物を持っているだろう。
この調子で軍資金を貯め、いずれはもっと大仕事に取り掛かってやるとキンコーソーダーは意気込んだ。
「ちょろい仕事だぜ――――」
だからこそ慢心に繋がったのだろう。 キンコーソーダーが背中を撃ち抜かれ空中を舞ったと自覚したのは、芝生の上に側頭部から叩きつけられ数回地面を転がった後であった。
強い衝撃に痛覚がマヒし、視界に背面への大ダメージを通告するアラートが浮かび上がる。
――――何だ、何が起きた!? 地面に伏せるキンコーソーダー。 体に走ったショックに指先さえ動かす事はかなわない。
「確かになぁ。 言い出しっぺが
逃げ去った方向から女の声が聞こえてくる。 振り向いて姿を確認したい所だがうめき声をあげるのが精一杯だ。
しかしそうするまでもなく、何者かの足音がこちらを回り込むようにして響いてくる。 それは地面にめり込むような重々しい重機の足音であった。
横たわるキンコーソーダーの目前に「そいつ」はやってきた。
「ハッ、
「……あ、ISだと……!?」
等身大よりも一回りも二回りも巨大なサイズの金属の手足。 背後には蜘蛛を連想させる装甲で覆われた8本の巨大な脚と、その付け根には重力を無視して浮かぶスラスター。 そして胴体にして本体たる人間……胴体周りだけを包み込む水着のような薄手の生地に身を包む女性は、今しがたキンコーソーダーがショルダーバッグをひったくった女性であった。
先程のブラウス姿から薄手のスーツに着替えているその姿を見て思った事は、キンコーソーダーが盗品の中で存在を思い出した、正にISそのものであった。
女の右手には銃口から黒い煙の立ち上るレーザーライフルが握られ、口元を釣り上げて邪悪な笑みを浮かべながら、汚いものを見るような目でこちらを見下していた。
「チ、チクショウ……そう言えば聞いた事がある……世の中にゃあ……ISを
「今更思い出しても遅ぇんだよ!」
ISの重々しいキックが、身動きの取れないキンコーソーダーの腹部に刺さる。 うめき声を上げ、再び数回地面を転がった。
武器弾薬の貯蔵に量子化技術が使われるISだが、それは機体本体の待機モードにも用いられており、見た目は全く生身の状態からパイロットの意思一つで機体の展開及び収納、あるいは一部分の展開にとどめる事も自由自在である。
その高い秘匿性を生かし、一部の悪質なパイロットの中には街中で突如ISを展開し、テロや強盗をはじめとする犯罪行為に走るものも一部には存在する。
なので通常ISは使用はおろか、単純所有においてさえも厳しく制限を受けるのだが、管理が杜撰な所から機体そのものを横流しにされるといった事案も後を絶たない。
恐らくは、この手癖足癖の悪さからはこの女もこちら側の人種らしい。 ちょろい仕事と思いきや、とんだ貧乏くじを引いてしまったようだ。
「さてと、こいつは慰謝料代わりだ。 てめぇがパクったブツは頂いておくぜ!」
「……お、おいテメェ……それは俺のもんだ……!!」
「知るか! てめぇみてぇなむさ苦しい野郎がもつカバンでもねぇだろ! 寝言抜かしてんじゃねぇよ!」
自分の持ってたショルダーバッグを回収しつつも、キンコーソーダーの強奪したピンクのカバンも一緒に拾っていくISの女。 どうやら相手が盗んだものを更に強奪するハイエナだったらしい。
「ふざけんな……このアバズレが……この俺をなめやがって……!!」
「ケッ、うぜぇんだよ! 何なら今ここでスクラップにしてやる――――」
気力を振り絞って立ち上がろうとするキンコーソーダーに対し、ISの女は悪態をつく。 しつこい男に右腕のレーザーライフルを再度構えようとしたが、不意に遠方から見えた街灯のものでない白い光に2人して反応する。
「チッ……しっかり目撃されてんじゃねぇかクソ小悪党が」
舌打ちする女。 視線の先にいる光の主は懐中電灯を持った2名の警官の男だった。 どうやら先のキンコーソーダーのひったくり現場を目撃した市民が通報したらしい。
暗がりで距離も離れてはいたが、街中で発砲した音を聞きつけて公園の方へとやってきたようだ。 現状を把握しきれている訳ではなさそうだが。
「まあいいぜ。 ブツはしっかり頂いたんだ。 今は警察に見つかって目を付けられるのはまずいからな」
「ッ!! お、おいてめぇ……!!」
「テメェごときにかまってる暇はねぇよ! ぶっ殺されなかっただけありがたいと思いやがれ!」
女は当たり前のように無音で宙に浮かぶと、背中のスラスターを吹かし始めた。 スラスターからの爆風に千切れた芝生が舞い上がる。
キンコーソーダーはやっとの思いで身を起こし、今にも飛び去ろうとするISの女にあらんばかりの憎悪をぶつける。
「……こんな事して……タダで済むと思うなよ!? 報いは受けさせてやる……必ずだ!!」
「ハッ! 口の利き方もなってねぇ負け犬が! せいぜい吠えてろ――――じゃあな!」
女は地に伏せるキンコーソーダーなど鼻にもかけず、心底相手をこき下ろすような嘲笑を浮かべその場を飛び去って行った。 ご丁寧に吹かせたスラスターの風をキンコーソーダーに浴びせていった上で。
キンコーソーダーは明後日へと転がされ、体中に草をこびりつかせては地面に丸まった。
「ゲホッゲホッ……ち、チクショウめ……今度会ったらただじゃおかねぇ……!!」
むせ返りながらもなんとか重い身を起こすキンコーソーダー。 あれだけの音を上げて飛び去った以上、警官2名はすぐさまこちらに駆け寄ってくるに違いない。
いいように弄ばれ盗品の横取りもされたとあって腸が煮えくり返る思いであるが、今ここで警官と鉢合わせになる訳にもいかない。
キンコーソーダーは重たい体を引きずりながら、追っ手に気付かれる前に怨嗟の声だけを残して夜の闇へと溶けていった。
「この借りは……絶対に返してもらうぜ……覚えてやがれ……!!」
程なくして警官2名が現場に駆け付けたが、土が抉れ芝生の焼け焦げた痕跡以外の何物も発見できず、ただ首を傾げるばかりで碌に状況を把握することができなかった。
それこそが、大いなる波乱の幕開けである事など知る者はいない……夜空の中で一際輝く月明りを除いて。
月明り「また君か、壊れるなぁ」
はい、2か月ぶりに奴らが帰ってきました。 そして衝撃の事実が打ち明けられる第1話は明日同時刻に投稿します! お楽しみに!