ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
体中に付着した催涙ガスの白い着色料だが、結局どう頑張っても一部しか取り除く事はできなかった。
幸い今回は全くの別人に化けるという目的があった為、真っ白になった顔の上から模様を書き足し、茂みに放り込んで無事だった和服を適当に見繕う事で、無理からであるが歌舞伎役者のフリをする形で変装を実現させた。
そして今の所、先導する銀行員を含め誰一人として自分達の正体に気づく者はいない。
「こ、こちらです……!!」
恐る恐るながら銀行員が案内したのは金庫室の前であった。 扉を開き中に入ると、一室を埋め尽くすほどに大きい丸く縁どられた頑丈な隔壁にの右側に、暗証番号に網膜パターンを入力するコンソールが備えつけられている。
この奥に、顧客から預かった大切な財産が整然と収められているに違いない。 歌舞伎の女……束は笑顔ながら無言の圧力を銀行員を見つめる視線にこめる。
銀行員は身震いしつつも、コンソールを入力の後顔を近づけて網膜パターンをスキャンする。
程なくして、 隔壁のレバーがひとりでにひねられ、重々しい音を上げながら隔壁が手前へと開かれていく。
「ご苦労様☆」
束は満面の笑みで連れてきた銀行員に労いの手刀を延髄に浴びせる。
「うっ」
当て身を食らった銀行員はその場に倒れ伏せた。
「悪く思うなよ……さてエックス、クラブロスが戻ってくる前に済ませるぞ」
「了解」
気を失った銀行員をその辺の壁にもたれかけるように座らせ、3人揃って金庫室の中に足を踏み入れた。
中は清潔で整然としており、綺麗に並べられた金の延べ棒の置かれた棚、その他金品が詰まっているキャビネットが軒を並べていた。
束はそんなキャビネットの中から1つを見繕って引き戸を開けると、中に保管されるは綺麗に並べられた皺一つない札束。
現金の束の一つを抜き取り確認すると、キッチリ百枚ピン札の1万円札だった。 これには束も大喜び。
彼女にしてみればネックとなる研究費が一気に解決する程の現金が、このキャビネットだけでなく金庫室の中全てがより取りみどりなのだ。
「それじゃあ戴くとするか……ヘッヘッヘ……なんてね」
わざとらしく悪役ぶった喋りで現金を懐に入れ……かけた所でゼロが待ったをかけた。
「待て束、ピン札はやめろ。 ボロ札にしておけ」
ゼロは束の手から綺麗な札束を取り上げてキャビネット内に押し込むと、それ以外のキャビネットを開けて中を検める。
「何でよゼロ! どうせ持っていくなら綺麗な方がいいじゃない!」
「冗談じゃねぇ。 そんなの使ったらアシが付いちまうだろ」
抗議の声を上げる束をゼロは一蹴する。
「通し番号のせいで追跡の危険性があるし、新札は迂闊に使えないんだ。 こういう時は使用感のあるボロ札の方が、流通しきってる分出所を特定されにくいんだよ」
「……あ」
ゼロと同じくキャビネットを漁りながら、会話を引き継ぐエックスの言葉に、束はうっかりしていたように口元を抑えた。
紙幣1枚1枚のシリアルナンバーの存在を知らない訳ではなかったが、現金の流通などに頓着がない彼女にとってその発想は思いつかなかった。
「まあ、新札と言えども個人商店とかなんかじゃ、流石に一々番号の確認なんかやってないけど……用心に越した事はないからね。 飛行機のチケットの事もあるし」
「そっかぁ……」
「そういう事だ。 ほら、適当なボロ札かき集めたぜ」
キャビネットの中からボロ札を見繕うエックスに、幾ばくかのくたびれた札束を腕で抱え、開かれた旅行鞄の中に放り込んでいくゼロ。
そう言った細かい所に気づける辺りは、曲がりなりにもイレギュラーハンターなのだと、珍しく束は感心していた。
同時に、その公僕がよりによって銀行強盗の片棒を担いでいるなど、悪い冗談にしか聞こえないのも事実だが。
他人の心など、ましてやレプリロイドの頭の中など知る気も無かった束だが、ふと訪ねてみたくなった。
「2人さ、今更だけど強盗に手を貸して痛まなかったりする? 心とか」
束をよそにボロ札やれ書類やれを手にしていたエックス達が動きを止めた。
「……愚問だな。 そもそもだ、レプリロイドがお金儲けを考えるなんて――――」
ゼロの言葉と共に、2人揃って束の方を振り向いた。
「「こいつは間違いなくイレギュラーだ!!」」
経済活動全否定とも取れる発言をするエックスとゼロの両目には、それぞれ『$』と『¥』のマークが黄金色に輝いて見えた。 比喩ではなく文字通り。
「アンタらも立派にイレギュラーだよ!」
当然のように自らを棚上げする2人に、束はまたもらしくない真っ当なツッコミを入れる。 しかしその程度でへこたれる2人ではない。
「フッ、馬鹿言え。 イレギュラーから怪しい金を押収するのも俺達の仕事だ。 つまりこれは強盗のフリをした真っ当な任務だ!」
「ゼロの言う通りさ! 何だったらこれは……そう、潜入任務だ!」
「何だったらって何だよ! おもっくそ後付けだろ!!」
ハンター業務の中で培われた素晴らしい開き直りの精神。 正当化の塊のようなすがすがしい言い訳を前に、ゼロの言う通り確かに愚問だったかもしれないと束は頭を抱えた。
「(……まあいいや、正義だって言い張るなら、望み通り強盗の罪全部擦り付けてやるよ――――)」
とりあえず気持ちを切り替え、一刻も早くこのクソアホイレギュラー共と縁切りを果たしたい。 そう思ったのも
金庫室の外から伝わる激しい衝撃音に、頑丈な金庫室が僅かに揺れた。
「ええ!?」
「「何だ!? 何が起きた!?」」
エックスとゼロは立ち上がり、開いたままの鞄を抱えて束と共に3人で金庫室の外へ駆け出した。
廊下に飛び出し、キンコーソーダーとハッキングしたISに守らせるロビーへ躍り出ると、3人は声を失った。
カウンターを破壊して黒塗りの高級車が飛び込み、防衛システム用のISを巻き込む形ですぐ隣の壁に突き刺さっていたのだ。
ぶつかった衝撃でひしゃげてはいるものの、見た目以上にかなり頑強なつくりの車だったのだろう。 運転手はしぼんだエアバッグに突っ伏して気絶しているが無傷であり、ISは重たい車の一撃に胴体周りにかなりの損傷を負って火花を散らしてもがいていた。
そしてエックス達はこの車に見覚えがあり、車の持ち主の姿を確認しようと素早く周囲を見渡した。
「どこの回しモンや……ワイの銀行にカチコミとはええ度胸しとるやんけ!!」
「な、何モンだテメェは!? 商売敵かぁ!?」
車の反対側にクラブロスがいた。 後部座席の扉を開けっ放しに怒り肩で立ち、銃を構えながらも狼狽を隠せないキンコーソーダーと対峙していた。
「近づくんじゃねぇ! これ以上寄ったらぶっ放すぞ!」
「撃てるもんなら撃ってみいや! ワイがそないなおもちゃでビビる思うたら大間違いじゃ!!」
「なっ……!!」
警告するキンコーソーダーに臆せず、むしろより声を荒げにじり寄るクラブロス。 小柄な蟹の体からに漂う圧倒的オーラにキンコーソーダーはつい先走った行動に出てしまった。
「ッ!! あのバカ!!」
「よ、寄るんじゃねぇ!!」
発砲!
ゼロが咎めると同時に、気迫に臆して引き金をつい引いてしまったキンコーソーダー。 彼の放った凶弾はクラブロスの体に――――
「効くかボケッ!!」
届く事なく、瞬時に彼の体を包み込んだ大きな泡にあっさりと弾かれてしまった。 弾丸は明後日の方向に跳ね、人質のいるあたりの天井に弾痕を残した。 天井から零れ落ちる欠片に人質が身震いする。
「ば、バカな……対レプリロイド用のスラッグ弾だぞ!?」
「大阪は鬼の住む街や! 蟹のワイがそないな弾で死んどったら、金融グループの会長なんか務まらんのや!! 思い知ったか!」
驚愕に打ち震え銃を取り落とすキンコーソーダー。 戦意を失いつつある彼を得意げに罵倒するクラブロスだが、ふとこちらを振り返る。
「さてと……よくもワイの銀行荒らしてくれたのう、オドレら」
「「「!!」」」
振り返るなり血走った目を向けるクラブロスに、彼らもまた背中に悪寒が走った。
「このISとセットで導入した防衛システムは高かったんや。 それをまあどういうカラクリかは知らんけど、ようムチャクチャに壊してくれたわ」
クラブロスは片手に抱えたままだったタブレットをこちらに投げつける。 咄嗟に胸元に抱えるようにキャッチしたのは束だったが、画面の中には自分達の映像が映ってるが、その自分達やクラブロスの立ち位置を見るに、この映像を実際に誰が映しているのか――――束は恐る恐る車ごと壁に刺さったままのISを見た。
束は気づいた。 どうやらこのタブレットはISの視覚センサーと連動しているらしく、クラブロスが警察よりもいち早く銀行に引き返せたのは、タブレットの映像を通して銀行の異変を察知したからであると推測した。
「ギギッ……警告……当機ヘノ……攻撃ヲ……確……ジジジッ認……」
「やかましいわボケッ!!」
腕を伸ばして何とか侵入者を排除しようと試みる健気な防衛用ISに対し、クラブロスの仕打ちは冷酷かつ苛烈であった。
ISの方を向いた彼の口元らしきシャッターが展開すると、中から突き出した銃口らしきパイプから大量の泡が噴出!
それを弱ったISの全身に浴びせかけるや否や、頑強だった筈の機体が煙と火花を散らしながら溶解する。 それはさながら固形のゼラチン質で固めたスープを煮えたぎらせるように、泡を吹いて崩れ落ちていくようにも見えた。
「「と、溶けた!?」」
著しい破損からシールドエナジーは尽きていたのだろうが、それでも金属の塊を作りかけの粘土細工に水でも浴びせるように、いとも溶解させたクラブロスの一撃は束とキンコーソーダーを驚かせた。
だがゼロと実際に戦ったエックスは知っている……『バブルスプラッシュ』、溶解性の溶液とガスの合わせ技で出来た有毒な泡を放つ、クラブロスの持ち武器の一つである。
知ってはいるが、改めてその威力に先の2人程の派手なリアクションではないが、息を呑むなどの何かしらの驚きを隠せない仕草はしていた。
「フンッ。 後で警備会社も思いっきりつっつきまわしたる――――うん!?」
ぼやくクラブロスが、エックス達の持つ鞄を見て目を丸くした。 体が震え、おぼつかぬ指先をエックスの抱える鞄に向けた。
「おまっ……その鞄……まさか……!!」
小刻みに眉を細め、声を上ずらせるクラブロスに、エックス達は揃って己の迂闊さを悟った。
「「「(しまった!! 鞄だけそのままだった!!)」」」
持参した旅行鞄だけがそのままに、何の偽装も行っていなかったのを今更ながらに気づいた。
銀行員達は激しい混乱で注意を寄せていなかったが、クラブロスは違った。 何せこの鞄の事は先程クラブロスだって見ていたのだから。
しかし幸いな事に、細工こそされているが鞄のガワについてはありがちな市販品のままである為、エックス達はとぼける事にした。
「か、鞄が何だと言うんだ! その辺の適当な只の鞄だ!」
「ああそうだ! どこぞのイレギュラーハンターが持ってる鞄と同じだからって、別に中にアダルトグッズだって入ってる訳じゃねぇぜ!!」
「おいコライレギュラーッ!!」
そして例によってゼロが語るに落ちた。 束がキレ気味にゼロの胸倉をつかんで揺らす。
「……ワイ別にハンターとかアダルトグッズとか、んな事一言も言うとらんけどなぁ……?」
「んあっ!! い、いや別にどこぞのビジュアルのかっこいい、すんばらしぃ復活のハンターとは全く関係ねぇぞ!?」
「今更言い訳しても仕方ないだろ!! ――――逃げるぞ!!」
ついでに自画自賛も欠かさないゼロの肩を引っ張り、正体を悟られたエックス達は逃げる事を選択した。
キンコーソーダーもこの隙を見て逃げ出しかけていたが、翻って機敏に動いたクラブロスに腕を掴まれてしまう。
「逃がすかぁっ!!」
「うおっ――――」
キンコーソーダーを背負うように引っ張り、そして投擲!
「うおああああああああああああああッ!?」
投げ飛ばされたキンコーソーダーは、背を向けて逃げるエックス達に向かって弾丸のようにすっ飛んでいった!
「ぐああッ!!」
「ゲッフッ!!」
エックスの背中に突き刺さるように命中したキンコーソーダーともつれ合い、2人どころかすぐ横の束とゼロをも巻き込んで転倒する。
「な、なんて奴だよ……!!」
「キンコーソーダーを投げ飛ばしてくるとはな……!! 痛てててて……!!」
「思い知ったか!! ワイの金分捕るようなアホタレはこないな目に合うんや!! さて、年貢の納め時やなぁ」
倒れ込んだエックス達にとどめを刺そうと、再び口元のシャッターを開けて近寄ってきたクラブロス。
「ク、クソ……俺を投げやがって――――」
そして、エックスに覆いかぶさるキンコーソーダーが起き上がろうとした際に、札束の詰まった開きっぱなしの旅行鞄に誤って腕を突っ込んでしまった時、事件は起きた。
部屋中に響く発射音と共に鞄のボロ札が舞い上がると、何かが目にも留まらぬ速度で鞄から飛び出した!
「オドレら全員溶かしたる――――」
それは一直線に、台詞の全てを言い終わる前のクラブロスの右肩に突き刺さった!
目元がくらむ閃光と爆風に、絶叫するクラブロスの姿は瞬時に飲み込まれた!
「レプリロイドがお金儲けを考えるなんて、こいつはまちがいなくイレギュラーです!」
池原版のゼロがキンコーソーダーを差して言った、あくどい手段で金を稼いだことを咎めるセリフなんですが、そこだけを抜き出して使うと印象って変わるもんですなぁ。(白目)
そして焼きガニ一丁上がり!w