ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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 さあ、第三のヒーロー解体ショーの始まりや。


第14話

 大きく縁どられた窓の外から差し込む青々とした優しい空の光。 緑のテーブルを囲うように置かれた赤く質感の柔らかそうな椅子に身を預け、正午の昼休み時を迎えた女学生達がランチと共に談笑していた。

 観葉植物と投影式のモニターで彩られた、自然とデジタルを融合したデザインのここIS学園が学生食堂は、一般のレストランやカフェにも劣らないお洒落な雰囲気を漂わせていた。

 

「ぬわあぁぁぁぁぁぁん!! 疲れたもおぉぉぉぉぉぉん!!」

 

 そんな中に入口の自動扉が開かれると同時に、一人の少年が心底疲れたような気怠い声を上げながら入ってきた。

 金属の質感を感じさせる足音と共に、その存在に食堂内にいた大半の女生徒が会話を一旦止め、来訪者に好奇の目を寄せる。

 

「お、アクセル! オッスオッス!」

「一夏! マジきつかったよ! 何でこんなにキツいんだよもう!」

 

 やって来たのはアクセルだった。 食堂の一角に親愛なる仲間達と一緒に時を過ごしていた一夏が立ち上がり、やってきたアクセルに対し大きく手を振って呼びかける。

 アクセルはにこやかながらも肩を回し、レプリロイドとは言えケイン博士との過酷なランニングは、あまりに体に堪えた事をアピールしながら彼らの元へと歩み寄る。

 して彼らは壁際の椅子に座っていたが、空を背景に真ん中に一夏が座っており、彼を中心に左には腕を組む箒に模型を組む簪、食事をほお張るラウラと口元を噴いてやるシャルロットがいた。

 右側には頬肘をついて笑う鈴と紅茶を片手に佇むセシリア……そして見慣れない幼げな少女が2人。 優雅な気品を漂わせてセシリアと同様に紅茶を飲む金髪の少女と、その隣の手前の方に一夏の姉とよく似ているが、目が合った途端に視線を逸らすなど、どこか不愛想にも感じる黒髪の女の子がいた。

 

「こらマドカ、きちんと目を合わせろ」

 

 一夏が窘めるが、マドカと呼ばれたその少女はなおもアクセルと目を合わせたがらない。 それを見咎める様に、隣にいた金髪の高貴な少女がティーカップを皿の上に置き、マドカを注意する。

 

「初対面の相手に失礼は許されんぞ。 せめて会釈ぐらいはするのじゃ」

 

 この金髪の子はセシリアとはまた違う、ちょっとお高く留まったかのような口調ではあるが、相応の礼儀と言うものは弁えているようだ。

 

「……アイリスが言うなら」

 

 するとマドカは、アイリスと呼んだその少女に渋々従いながらではあるが、むくれたままこちらを向いて軽く頭を下げ、ぶっきらぼうに他所を向いてしまった。

 どうやらこのマドカというひと際幼い女の子は極度の人見知りだが、隣のアイリスと言った少女にだけは僅かに心を開いているらしい。 その程度の事特に気にしてはいないアクセルだが、彼を前に他の面々は苦笑いする。

 

「ははっ……ごめんなアクセル。 うちの妹は訳あってまだ打ち解けきれてないんだ」

「妹って言うな」

 

 苦笑いしながらフォローを入れる一夏だが、マドカは『妹』呼ばわりに不貞腐れてしまう。 口ぶりからするに一夏の妹なのだろうが、何か訳アリなのだろうか。

 

「まあとにかく座ってくれ、ここにいる2人の事も紹介したいんだ」

 

 アクセルが右側2人を流し見て考えを巡らせていると、箒が口を開き一夏と正面に向かい合うよう、既に置かれていた空席に座るよう促された。

 積もる話もあるし、ここの2人の事も含めてじっくりと話し合おう。 昼休みは始まったばかり、少し息抜きをさせてもらおうとアクセルは箒の呼びかけに従い着席した。

 

「ま、ここの2人とは初対面だから改めて自己紹介するよ……ぼくアクセル。 サミットの警備の為に、1週間ほど前に派遣されてきたイレギュラーハンターなんだ」

「む!?」

 

 イレギュラーハンターと言う単語を聴いた途端、マドカが明らかに警戒した様子でこちらを睨みつける。

 

「やめんかマドカ! お前はもうならず者の一味ではないのだぞ!」

!! ん……ああ……ご、ごめん」

 

 興奮するマドカをアイリスが抑えると、マドカは怒られた子犬のようにしょげてしまった。

 

「すまぬアクセル……こやつは『織斑 マドカ』、少し複雑な事情があってな。 幼い頃に一夏達と生き別れになっておっての、『亡国機業(ファントム・タスク)』なる組織に身を預けておったのじゃ」

「俺も自分に妹がいた事知らなくてな……まあ、色々あってIS学園の生徒として保護される事になったんだ」

 

 アイリスに次いで一夏がマドカの身の上を代わりに紹介すると、アクセルは話を聞いて成程と納得した。

 彼女の醸し出す雰囲気にどこか懐かしさの様なものもあったが、それは自分も『レッドアラート』なる、ならず者も身を置いていた自警組織にいたからだった。

 

「ま、お互い()()()()()って話で」

 ……フンッ」

 

 マドカにしか気づかれぬよう()()の匂いを漂わせ、含みを持たせたアクセルの言葉に、マドカは何か気付いたような素振りながらもそっぽを向く。

 

「おっと、余の話がまだだったのう。 余は『アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク』……東欧がルクーゼンブルク公国の第七王女(セブンス・プリンセス)じゃ!」

 

 アクセルは感心するが、アイリスの王女と言う分かりやすい肩書よりも、ルクーゼンブルクの名が意識に引っかかった。 確か豊富なエネルゲン水晶の鉱脈が最初に発見された場所であり、エックスが過去の2度目のシグマ大戦でイレギュラーと戦った事のある場所でもあった。

 その事なら王女の立場なら詳しいだろう。 アクセルは差し障りのない範囲で聞いてみた。 

 

「確か採掘業で収入を賄ってる国だって聞いたけど」

「うむ。 レプリロイドならエネルゲン水晶の事は知っておるじゃろう。 あれは厳選された良質な物になれば見た者は吸い寄せられ、まるで時を止めたかのように眺め続けてしまう程の美しい輝きがあるらしくな。 別名『時水晶(タイム・クリスタル)』とも言われ、ISコアの原料にもなっておるのじゃ」

「へぇ……意外とISとレプリロイドって共通点あるんだ」

 

 意外な事実にアクセルはおろか、マドカを除く周囲の面々を感心させた。 しかし、一転してアイリスの表情が険しくなる。

 

「……ただまあ、余が幼き頃にそれを巡り、過去にイレギュラーに鉱山を占拠された事があっての。 我が国にISの配備を急かす要因にもなったのじゃ」

「そんな事が……」

 

 生徒達にしてみれば歴史の授業として話半分に聞いていたであろう、過去の大戦とイレギュラーの被害と言う純然たる事実に、周囲の空気が重くなった。 あの頃は世界各国でシグマに賛同したイレギュラーが大暴れしていたのだ。

 アクセルにしてみればある意味最も身近な、エックスの過去の戦いの話。 雰囲気が重くなる事を危惧しあえて触れなかったのだが、彼女自身の口から話し始めてしまうとは。

 これはいけない。 茶化すつもりはないが自分が振った話題のせいで、楽しい昼休み時のムードをぶち壊しにしてしまうのは宜しくない。 皆が沈黙する中少し考えたアクセルは、アイリスと言う名について触れてみた。

 

 両手の平を叩いて注意を引き、アクセルはにこやかに切り出した。

 

「話は変わるけど、僕にも『アイリス』って言う名前の知り合いがいるんだ。 レプリロイドの女の人だけど」

 

 途切れた会話の流れの中に、これ見よがしに世間話を振ったアクセルだが、彼の雰囲気をぶち壊しにするまいと言う意図を、察したであろうアイリスがまず反応した。

 

「ほう。 アイリスなる名はよく聞くが、お主……アクセルの周りにもおったか」

「そうだよ。 レプリフォース所属のオペレーターで、ゼロって言う僕の仲間の恋人なんだ!」

「えっ!? ゼロってあの赤いセイバー使いの!?」

 

 話の途中で簪が目を輝かせた様子でゼロの存在に食いついてきた。 しめしめ、会話が良い方向に流れ始めた。 緊張が解れる様子にアクセルは内心ほくそ笑んだ。

 

「凄い! 復活の特A級ハンターだよね! アクセル君知り合いなんだ!!」

「うん、エックスもいるよ。 いつも3人で組んでハンター業務やってるんだ。 でも今回派遣されてきたのは僕だけだよ」

「簪、エックスとゼロって言うのはそんなに凄いのか?」

 

 捲し立てる簪に箒が尋ねるが、目を煌かせたまま呆気にとられる箒の方を振り返る。

 

「凄いも何も! 何度もイレギュラーシグマの反乱を食い止めてきたヒーロー達だよ! さっきアイリスちゃんが話してた鉱山の襲撃だって、そのシグマとの戦いの中で起きた事件だけど、実際にエックスがイレギュラーをやっつけて解決したの! ゲームにもなってるよね、アクセル君!」

「えっ? う、うん……確かに本人も言ってたね」

 

 勢いに圧倒されるアクセルの肯定の言葉に、周囲が一気に色めきだった。

 

「凄い人……って言うかレプリロイドと知り合いなのか! 凄いなアクセル!

「でもそれはエックス達が凄いんであって、僕は7回目から参戦したから――――」

 

 レッドアラートから軌道エレベーター占拠の事をうっかり話しかけ、アクセルが慌てて口を噤むも手遅れだった。

 

「アクセルも戦ってたんだ! 僕初めて聞いたよ!」

「ふむ、今回のサミットの警備に派遣されるだけの理由はあった訳か」

「……知らない」 

「それで余の近衛騎士団長がお主を褒めておった訳だ!」

「何よ水臭いわねぇ! 1週間近くもいたんだから、その事話してくれたって良かったじゃない!」

「それで、そんなエックスさんとゼロさんって方と仲間と言いましたけど、普段はどういう方なのですの?」

 

 アクセルはセシリアの質問に噴き出して机に突っ伏した。

 

「う、うんアレだね……その話は長くなるから、また後にでも話そう」

「そうですの……分かりましたわ、是非午後の授業が終わった夜にお聞かせくださいませ」

 

 少し残念そうにするセシリア達であったが、アクセルは心中穏やかではなかった。 彼女達は何も知らず、簪にしてもあくまでニュースやゲーム化された部分だけを知る、言わばヒーロー像としての2人しか知らない。

 破天荒で日頃無茶振りを見せつける、本当のエックス達の姿を知っているアクセルとしては、今この場で話を振られてもありのままに語ってしまいそうであった。

 本人としては派遣中ぐらいは存在を忘れたかったが、質問の中で迂闊に話題に出してしまったが為に言い淀んだが、幸い先延ばしにする事だけは出来た。 しかし結局は彼女達の授業の終わりとこちらも警備の業務を終えるまでには、極力裏側についてぼかしつつ言いくるめる方法を考えなければいけないのだ。

 果たして触れれば切れるナイフどころか、放射線さえ放ってそうな危険分子をオブラートごときで包む事は出来るのか、アクセルは少しだけ憂鬱になった。

 

「話がそれたね……まあ知り合いの方のアイリスだけど、見た目や雰囲気はここにいるアイリスとは全然似ても似つかないんだよ」

「それはそれで興味があるのう! 是非会ってみたいのじゃ!」

「んー、確かにレプリフォースからも人員派遣されてるって言ってたけど、誰が来たのか知らないしオペレーターだからね……ま、もし本人だったら掛け合ってみるけど、それでいい?」

「うむ! 良きに計らえ!」

 

 アイリスから知り合いのもう一人のアイリスに会わせるよう求められ、ひとまずはそれを受けたアクセル。

 それから彼らは適当に談笑し、時間にして昼休みから15分近くが経過した。

 

ケェイッ!! 可愛い坊やだぜ……この俺が怖いのかい?>

 

 彼らは今、投影式のモニターに映る番組を見ていた。 大きな目のカメレオンの様な姿をした怪人が、ベッドのある狭い室内で若い男に詰め寄る迫真のシーンだ。 この国のヒーロー番組らしく、食堂にいる一部の生徒達は番組の醸し出す雰囲気に飲まれ、特に男子生徒の一夏とヒーローおたくの簪は熱心であった。

 

ケェイッ!! 怯える姿がたまんねぇぜ!>

「おいおい……どうするんだよ……やべぇよやべぇよ……」

 

 ヒーロー番組は男の子の感性に訴えかけるのだろう。 年甲斐もなく緊張した面持ちで番組を見る一夏を、簪以外のほぼ全員がそんな彼を生暖かい目で見ていた。

 

「ほう、これが日本の『とくさつ』と言う物か!」

 

 否、その中には王族のアイリスと、普通の生活を送っていなかったであろうマドカも画面に食い入るように見ていた。 そして番組だが、若い男が手に持っていた板切れの様なもので怪人を殴打! ひるんだ隙にすぐ側を通り抜けて逃走を試みるが――――

 

ケェイッ!! くそぉ!! 生意気なガキめッ!!>

 

 すぐさま立ち上がり、突き立てた人差し指をかざすその先端から、奇怪な効果音と共に紫に輝く稲妻(ビーム)の様なものが放たれる! 若い男の後頭部に突き刺さり、全身を紫の光が覆ったと思えば男は逃げるのを止め、背を向けたまま棒立ちになった。

 怪しげなBGMと共に怪人が告げる。

 

ヒェッヒェッヒェッヒェッヒエッヒェッ! 俺様の『催眠光線』を浴びればどんな人間も逆らえないんだよ!>

 

 怪人が催眠術とやらで、動けなくなった男に対して何をするかと思えば……番組を見ていた全員がそのシーンに度肝を抜かれた。 男が操られるがままに服を脱ぎ始めたのだ!

 番組内で繰り広げられる異様なシーンに、一部の女生徒は引き気味になりながらも、黒パンツ一丁になるまでまで脱がせてしまった場面から目を逸らせない。

 

<ケェイッ!! パンツも脱ぐんだよッ!!>

「……何これ?」

 

 いつしか冷めた目で番組を見ていたアクセルが、何気なく呟いた。 アメリカがパワーレンジャー等を通じてある程度、日本の特撮について知っているアクセルであるが、お昼時の時間帯にヒーロー番組をやるのも奇妙だが、何となくいかがわしいシーンが所々に見え隠れしていた。

 それを地上波の上に女子校内の食堂で放送しているだけでも大丈夫かと思っていたが、思いの外女の子達はその場面に吸い寄せられるように、それこそ食堂にいたほぼ全員の視線を釘づけにしていたではないか。 そして男子生徒の一夏も――――

 場面は進み、男をベッドに寝かしつけた怪人が得意げに迫る。

 

<それじゃあ戴くとするかぁ……ヘッヘッヘッヘッヘッヘ――――>

 

 危ないシーンを連想させる瞬間だったが、ここで番組は唐突にニュース番組に切り替わった。

 

「お、おいなんだよ! 折角いい所だったのに!

「は?」

 

 手に汗握っていた一夏が抗議の声を上げ、アクセルは一夏に対し何にとは言わないが、どこか威圧感を込めた疑問符を浮かべていた。 周りの女生徒達もがっかりしたような声を上げるが、キャスターがニュースの内容を読み上げられた瞬間に沈黙した。

 

<番組を中断してお伝えします。 今日午前11時中頃に大阪都心部にて銀行強盗が発生し、犯人と思われる4人組が多額の現金をもって逃走を図り、警察は今なお追跡を繰り広げている模様です。 それでは現場中継です>

 

 スタジオを映していた画面が一転、上空から道路を見下ろす画面に切り替わった。 現場上空を飛ぶリポーターの慌ただしい解説と共に、大阪の街並みを逃げる黒塗りの高級車と大多数のパトカーが追跡し、丁度大和川と思われる大きな河川の橋を渡っている。 正に騒然とした逃走劇が繰り広げられていた。

 

「なんなのこれ? かなりの大事件じゃないの――――」

 

 イレギュラーハンターとして反応せずにいられない。 アクセルが席から立って画面に近づきかけた時、画面外から黒塗りの高級車目掛けて何かが発射され――――爆発!!

 激しい爆音にカメラマンの画面が揺れ、リポーターと共に女生徒達から悲鳴が上がる。

 

<ガガッ……おい! 勝手にナパーム弾を使うな!!

 

 爆発の衝撃による混線か、リポーターのものでない音質の荒い女性の声が聞こえてきた。 カメラマンが慌てて弾頭の飛んできた方に画面を向けると、そこには空中で言い争う白と黒のツートンカラーにパトランプのついたIS2機、警察所属のパイロットらしき2名が言い争っていた。

 

<誰が撃っていいなんて言った!! 発泡許可は出して無いぞ!!>

<フン! 強盗やらかすようなバカな男なんて死ねばいいのよ!>

<何を考えてる! 命令違反だぞ!>

<誰だ勝手に発砲したのは!! お前か! なんて事をしてくれた!!>

<うるさい! 男がいちいち指図するな――――ガガガッ……ザッー!>

 

 羽交い絞めをする同僚を振り払おうと、銃器を持って突如意味不明な主張を振りかざすパイロット。 別の無線からの男の声に対しても悪態をつくと、そこで無線は再び機能を取り戻したのか音声を拾えなくなった。

 女性のみが乗れると言うISには、()()()()()()も寄ってくるとまことしやかに囁かれていたが、まさか本当に正規のパイロットに選ばれてしまっているとは。

 人選の甘さと言う警察のあるまじき醜態を晒したが、それはさておいて撃たれた側の高級車。 煙に包まれて見えづらかったものの、それが晴れるや否や驚きの光景が映し出された。

 

 何とルーフ周りを吹き飛ばされはしたものの、車は至って快調に飛ばし続けていた。 後部座席の2人が慌てて鞄らしき物の中を掻き出し、燃えている何かを投げ捨てて懸命に消火活動はしていたが。

 

「――――え?

 

 露になった車内を目の当たりにした途端、アクセルは目を見開いた。

 まず最初に目に入ったのは鞄の中身をまき散らす後部座席だったが、変な和服と長い白髪に加え、歌舞伎メイクに兎の耳と言う異様ないで立ちの何者かと、そしてもう一人……アクセルにとっては見覚えのあるイレギュラーの姿があった。

 

キンコーソーダーッ!? 何でアイツ大阪にいるの!?」

 

 エックスにクール便で送られ、アブハチトラズ刑務所内に逆戻りした筈のキンコーソーダーの姿があった。 彼は脱走を企てた件で刑期が伸びてしまった筈だが、それがどうして日本にいるのか。

 呆然とニュースを眺めていると、席を立ったであろう一夏がいつの間にか隣に立っていた。 周りにいた女の子達も、一様に席を立ってニュースの行方を固唾を呑んで見ていた。

 

「ア、アクセル……知ってるのか?」

「どうしたも何も、僕がエックス達と一緒に捕まえたイレギュラーだよ! まだ出所すらしてないのに!?」

「落ち着けって! そんなバカな話がある筈――――」

<ああ! 運転手の顔が見えてきました!>

 

 混乱しているアクセルと宥めつかせようとしている一夏達を前に、剥き出しの車内にカメラがクローズアップした時、更に衝撃の瞬間をカメラマンは捉えた!  

 

<ええっと……歌舞伎役者……ですか? 後ろにいるうさ耳歌舞伎と同じような恰好ですね>

 

 運転席側に青い和服を着た、ちょんまげを結ったかつらをかぶった男。 助手席には女形と思わしき揚巻のかつらに、麻呂を思わせるもどことなくセンスのずれたアホそうなメイクを施した赤い服の男。

 そして助手席のすぐ後ろで、ようやく鞄から燃えている何かを掻き出し終えたらしい、先述の白髪うさ耳歌舞伎が肩で息をしていた。 3人揃って身元が割れない様に奇抜な恰好に変装しているのだろうと推測できたが、それにしてもこのセンスはないだろう。

 

「あ……ああ……!!」

 

 そんな中で声を上げたのは箒だった。 一夏が振り返ると、箒はおぼつかぬ指先をニュース画面に向けていた。

 

「そ、そんな……まさか……!!」

「箒!?」

 

 箒の目は虚ろだった。 まるで画面で起きている現実を受け止めきれないでいる様に震え声だった。 ただ事でない様子に一夏が彼女の肩に手を回して落ち着かせてやろうとするが、完全に手遅れだった。

 

「姉さあああああああああああああああああんッ!!!!」

「えっ!?」

 

 箒は姉と言う言葉を叫び、発狂した。 彼女の言葉に呆気にとられそうになる一夏であったが、頭に両手をのせて錯乱する箒を慌てて取り押さえた。

 

「何してるんだあの人はあああああああああッ!!!!」

「落ち着け箒!! まさかアレが『束さん』だって言うのか!?」

「篠ノ之家の恥晒しいいいいいいいいいいいいッ!!!!」

「箒!! 篠ノ之博士って決まった訳じゃないよ!」

「暴れるな箒!! 3人に勝てる訳無いだろ!! 落ち着け!!」

 

 シャルロットとラウラも加勢して3人がかりで箒を取り押さえる。 しかし力は女性のものと思えぬほどに強く、それどころか今にもISを展開しそうになる程に暴れまわっていた。

 一方でアクセルは動けなかった。 一夏の口にした『束さん』というのが前々から話していた箒の姉なのだろうか、そう思いながら何故かニュースから目を離せない、ハンターらしからぬ呆気にとられた様子で錯乱する箒をアクセルは流し見ていた。

 

「この騒ぎは一体何だ!」

 

 パニックになる食堂を見かねたのか、開かれた入口の自動扉から千冬が飛び込んで彼女達に怒声を浴びせた。 その姿を見た箒は3人をあっさりと跳ね除けると、やって来た千冬の胸元に半狂乱で飛び込んだ。

 

「な、何だ篠ノ之! 放さんか馬鹿者――――」

「千冬さん!! 千冬さん!! 姉さんが! ねぇさんがあああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 公私を分けるよう学校では先生と呼ぶよう徹底していた千冬だが、胸元を掴んで揺らしてくる箒の様子につい誘われるがままにニュース画面を見た。

 

「なっ……!!」

 

 逃走犯と化した強盗のテロップと共に映し出される犯人達の絵面。 千冬はその後部座席のうさ耳歌舞伎に目を見開いた!

 

「あ、あのバカ……私との喧嘩に飽き足らず、アホ面晒して強盗まで――――」

 

 千冬も教師として冷静には努めてみたが、動揺を隠しきれず血の気の引いた表情でつい震え声で呟いてしまった。 どうやら彼女をして画面に映った犯人の一人を、自身の顔見知りの一人である篠ノ之束だと認めてしまったようだ。

 

「千冬姉ッ!!」

 

 弟としての一夏からの呼びかけに慌てて口を塞いだが、それは立派に箒の心に止めを刺した。

 

「いぎゃあああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 千冬の身体を揺さぶりながら発狂する箒。 最早収集がつかなくなってしまったこの状況に対し、千冬は最終手段として彼女の首筋に軽く手刀を当てた。

 当て身を食らい、気を失ってその場に倒れる箒を一夏は慌てて介抱する。

 

「箒! しっかりしろ! 箒ッ!!」

「やむを得なかった! 一夏、篠ノ之を保健室に連れて行け――――」

<あっ!! カツラが!! 運転席と助手席の男のカツラが外れましたぁ!!>

 

 混乱を極めつつある食堂をよそに、引き続き現場では何か動きがあったようだ。 気絶した箒を抱きかかえる一夏達だったが、ついニュース番組に気を取られた。

 見るとリポーターの言葉通り、前座席にいた2人のカツラがどこかに飛んでしまい、その下地が顕になった訳だが……どうやらヘルメットらしき物を被っていたようだ。

 

 メットの上からカツラと言うのも雑な変装にも程があるが、問題は露になったメットにあった。

 

「え……いや、まさか……ね……」

 

 言葉を発したのは、眼鏡をずらして何度も目元を腕でこする簪だった。 2人のヘルメットだが、青い服の方が長方形の赤、赤い服の方が三角の青のクリスタルが輝いており、特にメット自体の造形も赤の方はすこぶる特徴的で、癖っ毛が左右で2対上に跳ねたような鋭角的なデザインで、後部からは後ろの歌舞伎メイクの束同様白く染まった長い髪が風でたなびいていた。

 何よりヘルメット自体が白い塗料らしき何かが所々剥げ始めており、それぞれの服の色にあった青と赤の下地が露出し始めていた。 これはまるで、彼女の記憶の中にある例の……。

 

「あの人達ヒーローだよね……こんなアホ同然のなんちゃってジャパニーズな変装して、悪い事なんかしない――――」

「あの2人だからやるんだよ」

 

 箒の発狂から沈黙を守っていたアクセルが、俯いた状態から言葉を発した。

 

「ははっ……何があったか知らないけど、またあの2人騒動起こしてくれやがったね……!!」

 

 半笑いのアクセルが握りしめる両拳は震えていた。 ここにいる皆が状況を把握できずにいるが、アクセルだけは違った。

 それもその筈、アクセルは例の彼らの同僚で、表になっていない彼らのネジの外れた部分に散々引っ掻き回されてきたのだから。

 日本にいる間は彼らの顔を見ずに済む。 そう思えるだけで楽な仕事になると思っていたのに。 まさかキンコーソーダーの様なロクデナシと、箒の姉と言う人物と共に警察沙汰になっただと?

 こみ上げる怒気を漂わせ、自然と顔を引きつらせるアクセルに食堂にいた皆が慄いた。 あまり積極的に絡んでこなかったマドカはおろか、千冬でさえも。

 

 恐る恐る、見かねた鈴がアクセルを宥めようと声をかけた。

 

「ね、ねえアクセル……。 どうしちゃったのよ……何に怒ってるか知らないけど、あんまり思いつめちゃ――――」

「ダメ!!」

 

 鈴を簪が強引に引き離した。 そしてその判断は正しかった――――

 

「さっき2人はどんな人ってセシリアが聞いてたよね――――」

 

沸騰寸前だったアクセルの激情が鈴の言葉に弾けたッ!!

床へ叩きつけられ粉砕するは、校舎をも揺るがすアクセルの猛然一撃!!

鉄拳に込められた怒りの凄まじさたるや、千の(つわもの)をも畏怖させる!

 

 

 

 

こんな連中(クソアホイレギュラー)だよバァロォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

アクセルは床ドンで地面を粉砕(アースクラッシュ)した。

 

 




予 定 調 和



 さて、来週ですが本編は少しお休みして、かねてから投稿予定だった番外編を投下します!
 名付けて『ロックマンZAX GAIDEN』で短編集として新規投稿致しますので、よろしくお願いします!
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