ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
警察の追走を逃れたエックス達一行。 耐久の限界を迎えた黒塗りの高級車を乗り捨て、ビル群の隙間を縫うように路地裏を走り回った後、放棄された雑居ビルの中に逃げ込んだ。
4人は身を隠せそうな場所に着くなり、辺りに人の気配を感じない事を確認し、ようやく手を膝について乱れた息を整えた。
「い、一時はどうなるかと思ったぜ……」
「無事に逃げ切れた……だがあいつらも俺達を諦めたりはしねぇ筈だ」
「ああ。 ここもじきに見つかるかもしれない」
「……でも一息ぐらいつくのはいいよね。 ああ疲れた」
束は床が埃に塗れているのも気にせず、足を放り出して座り込み後ろ手をつく。
ゼロは額を拭い、落ち着いたキンコーソーダーに問いかけた。
「しかしまあアレだ。 アンタ路地裏の事知り尽くしているって言うか、随分逃げ慣れているな……」
「……ん? ああ、まあな。
知ってる。 得意げなキンコーソーダーに対し、ゼロと話を聞いていたエックスは同じ感想を抱いた。
そう言えば何故キンコーソーダーが日本にいるのか、どうして鞄を束からとったのか……そして誰に横取りされたのか。 まだその辺の情報を手に入れていないエックスは、もっと探りを入れて話を聞いてみる事にした。
「……常習犯と言う訳か。 だが俺達はお前の事は日本では聞いた事も無い。 ましてや脱獄なんてやったら大事になる筈だ。 一体どうやったんだ?」
「俺はつい最近まではアメリカで一暴れしてたのさ。 だがまあ、おっかねえイレギュラーハンターに取っ捕まって、アブハチトラズ刑務所に入れられてたのさ」
「世界規模の巨大刑務所だぞ……大したもんだ。 よくそんな所から出られたものだな」
感心するような素振りをするゼロに、キンコーソーダーは得意げであった。
「元々刑務所には俺の息がかかった看守もいたんだが……つい最近になって収監されたイレギュラー界隈の
「……刑務所内の連中は気が付いてねぇってか?」
「ああそうだ、俺の身代わりを立ててくれたおかげで、刑務所の連中は俺の息がかかってる看守以外は皆気がついちゃいねぇよ。 馬鹿な連中だぜ!」
キンコーソーダーは刑務所の職員を小馬鹿にしながらも、脱獄の手引きをしてくれた
話を聞いていたエックスとゼロだが、本人には気づかれぬようにはしているが、彼の話に訝し気に眉を潜めていた。 ふとゼロがエックスに耳打ちをする。
「……アブハチトラズにイレギュラーの大物? しかも看守騙せるような変装できる部下がいるだと?」
「何だか聞き覚えあるな……まさか
「かもしれねぇ、一応確認してみるか」
エックスとゼロには思い当たる節があった。 それは先のとあるミッションを終えた直後、ゼロが秘密裏に邪悪な企てを行おうとしていた、さる大物のイレギュラーを捕まえた事があった。
そいつはゼロの実力行使で倒され、後でやってきたエックスによって拘束された。 そしてアブハチトラズ刑務所に収監された後にようやく修理を受け、今は大人しく刑に服していると聞いていた。
「で、その大物って言うのは誰の事なんだ?」
キンコーソーダーの言う人物がエックス達の思い当たる大物なのか、確認の為にエックスは尋ねてみた。 キンコーソーダーは誇らしげに答えた。
「勿論、我らがイレギュラーの期待の星……『シグマ』の旦那に決まってるぜ!」
その名を聞いた途端、エックス達は一瞬固まった。
「ヘッヘッヘッ! ビビッたか? なんたってあの人は過去にエックス達と何度も戦った御仁だからな! 自分が返り咲くための下地を作ってくれとかで、先に俺だけを逃がしてくれたんだが……俺もそんな人に目をかけてもらえるとは光栄だぜ!」
自身と因縁の深い、何度も大戦を引き起こしたイレギュラーの第一人者。 シグマの名に畏怖したと思ったキンコーソーダーは自慢げに語った。
「「(またあいつか!!)」」
無論エックスとゼロが震えたのは怒りからくるものであるが、カツラまで取れて2人の正体モロバレなのに、一向に気づかないキンコーソーダーに知る由はない。
「っふう……ようやくこの厄介な色が落ちそうだよ……」
ふと地面に座り込んでいた束が呟いた。 キンコーソーダーは横を向いたままだがエックスとゼロは振り返ると、束はどこからともなく取り出していた、ピンクのタオルケットらしき生地を右手に持ち、強く顔を拭いていたようだった。
左手に持った手鏡でしきりに自らの顔色を確認するも、 エックス達から見て後ろを向く彼女の顔は伺えない。 しかし持っているタオルケットに明らかに白の着色料、白髪に染め上げられていた髪が元の紫色に戻っているのを見るに、彼女の言う通り無事に色が落ちたようだ。 時間の経過で皮脂等でようやく剥がれるぐらいに色が浮いてきたのだろう。
束はこちらを振り向かず、ゆっくりと立ち上がる。
「ま、アンタの身の上話はこれでわかったよ。 ……で、うちの手合いがアンタにちょっかい出した件だけど、蒸し返して悪いけどどんな奴だったの?」
着ている和服の肩に手をかけ、おもむろに脱ぎ始めながらキンコーソーダーに問いかけた。
「……オレンジ色のロングヘア―の、クソ生意気なIS乗りのアバズレさ」
キンコーソーダーは吐き捨てるように答えた。
「奴は蜘蛛みてぇに足の沢山生えたISに乗ってやがった! 俺がドレス姿でうさ耳つけた変な女から奪った獲物横取りしやがったんだよ!!」
「へえ……自分で獲物取れないからって蜘蛛の癖にハイエナ染みた事やってるんだ……あっきれた」
俯きながら悔しさに震えるキンコーソーダー。 束は和服をその辺に脱ぎ捨て、元のドレス姿に戻る。 未だ背を向ける彼女の顔は伺えない。
「まあ、そいつは多分私の顔見知りかもしれないから、今度会ったらきっちりシメておくよ……鞄も取り返さなきゃだしね」
「……お、おう?」
奪われた獲物など、とっくに中身など抜き取られているだろうに。 キンコーソーダーは束の意図を読みかねて空返事した。
「情報提供ありがとう。 もう十分だよ……さて」
束はタオルと左手に持っていた手鏡をしまい込み、空いた右手を横に突き出しては親指を立て――――
「――――は?」
突然の宣告にキンコーソーダーが反応する間もなく、エックスとゼロの2名が素早く彼の両側に回り込み、腕をひっ掴んでつるし上げた。
「な、なんだお前ら!? 何しやがる!?」
暴れるキンコーソーダーだが、無理やり立たせた上に両手両足を引っかけられ、暴れて抵抗することもままならない。
そのまま2人は、キンコーソーダーを束の背中が見えるように強引に向きを変える。
「ん?」
興奮するキンコーソーダーだったが、束の後姿を見た途端動きを止める。 彼女の全身……未だに白が染まったままだが辛うじて青の部分が見えるドレスに、こちらは色が落ちて赤紫に戻った長い髪。 そして駆動音を立てて小刻みに動く兎の耳。
「……お、お前は――――」
「ねえ、アンタの言う変な女ってさ」
何かを言いかけたキンコーソーダーの言葉を遮る束の声は、どこか怒気を孕んでいた。 しばしの間を置いて彼女が振り返ると、そこには笑顔ながら目は笑っておらず、こめかみに怒りじわを浮かべたお世辞にも朗らかとは言えない束の表情が見えた。
片手に作った握り拳をもう片方の手の平で受け、指を鳴らしながらキンコーソーダーににじり寄る束。 ここに来てキンコーソーダーはようやく気付いたようだ。
「あ、あの時俺が鞄かっぱらった酔いどれ女!?」
自分が今まで鞄を盗んだ女と行動を共にしていた事を。 両脇を抱える男2人の存在と、腕を鳴らしながら怒気を湛えて近寄る束が、これから自身に何をしようとしているのか――――
「アンタのせいで随分な目に遭わされたよ……よくもこの篠ノ之束の鞄盗んだな!? 絶対に許さないッ!!」
彼が運命を悟っただろうその瞬間には、束の右拳がキンコーソーダーの顔面に突き刺さる!
人間というには破格の膂力によって繰り出されるその一撃は、いかなレプリロイドとも言えども大きく首を後ろにのけ反らせる。
「ぐっはッ!!」
「このクソ土方!! 私の怒りを思い知れえええええええええええええええッ!!!!」
間髪入れず束はキンコーソーダーの全身と言う全身に、パンチやキックをこれでもかと言う程に叩きこんでいく!
「うっぎゃああああああああああああ!!!! うぎゃっ! うぎゃっ! あががああああああああああッ!!!!」
打撃を受けた個所が次々とへこみ、エアガンの的にされたビール缶の如く全身が歪に歪む。
悲鳴を上げるキンコーソーダーだが、これだけの攻撃を受けても微動だにしない、未だ彼が正体を見抜けずにいる左右のエックスとゼロが、彼の手足を拘束している為に逃げる事も出来ない。
怒りのままに思いつく限りに打撃を加える束の猛攻に、いつしかキンコーソーダーの意識は刈り取られていった。
――――そして数分後。
「はぁ、はぁ、ああ少しスッキリした!!」
しこたま殴り続ける中で、完全に気を失ったキンコーソーダーの両手足をエックス達が解放するも、そこから更に押し倒して殴りまくった束。 マウントポジションを取ったまま、息を整えると共に爆発した怒りもようやく発散できたようだった。
「あ、あろぉぉぉぉぉぉ……」
地面に卒倒するキンコーソーダーは、束の殴打を前にボロゾーキンと化して気を失っていた。 へこんだ箇所が所々赤い斑点がついているが、よく見れば彼女の握り拳から同じ色の液体が滴り落ちている。
「っいったぁ! 皮膚ズル剥けでムチャクチャ痛い……」
「もう気は済んだか?」
素手で硬い元現場作業用レプリロイドの身体を殴り続けたからだ。 皮膚が剥け出血した拳の目も当てられない状態に、痛みを訴え涙目になった束に対し、彼女の気が済むまで様子を見ていたゼロが声をかけた。
「全く、技術屋が手をそんなにするまで殴りまくってりゃ世話無いぜ」
「……半分はアンタらのせいでもあるんですけど?」
呆れたようなゼロの言葉に、多少発散できたとは言えフラストレーションの根源は彼らにある。 そうだと言わんばかりに束は未だ不機嫌そうに吐き捨てた。
エックスとゼロは顔を見合わせ「こりゃだめだ」と言わんばかりに両手を広げてリアクションを取った。
「……さて、撒いたとはいえいずれここも府警の手が及ぶだろうな。 束の落とし前はつけて
「だが地上は警察が網を張っている。 どうする?」
「見つからないよう下水道を通って関空のある泉佐野まで行こうぜ。 あと束が塗料落とせたんだ。 俺達も色が落ちかけてるし、服は勿体無いがここで処分するぞ」
「そうだね」
エックスとゼロはここでようやく重たい服を脱ぎ捨て、ようやく体についた塗料を拭った。
塗料の食いつき自体はそこまで強くなかった為、皮脂がないとは言え十分に乾燥した白の塗膜は、今になってあっさりと剥がす事が出来た。 剥がした塗料は脱いだ服共々見つからない様に、その辺のゴミや瓦礫の山に混ぜ込むようにして隠滅した。
「束。 あんまりここでじっとしてもいられないから、そろそろ行こう?」
「これ以上変な騒ぎ起こさないでね?」
「それは俺達も同じ気持ちさ」
キンコーソーダーに乗っかる彼女を起こしてやりながら語り掛けるエックスに対し、ぶっきらぼうに返す束。
「……ま、その時は今度こそ裏切ってやるけどね」
最後の一言だけは、エックス達に聞こえないように小声で呟いた。 して、この場から立ち去る段取りが出来た時、気を失いながらもうめき声を上げるキンコーソーダーをゼロが流し見た。
「キンコーソーダーはどうする? ここに置き去りにするのか?」
「当たり前だよ! そんな奴助けてやる理由なんかないでしょ!?」
ゼロの問いかけに当然束は反対する。 置いていくか否かと言う点については、まあ彼女の
「うぐぐ……い、痛ぇ……」
「……まあ、ここまで殴ったまま放置して行くのは流石に可哀想だよ」
だが痛々しく全身を歪ませたキンコーソーダーに対しては少し思う所があったのか、エックスなりに仏心は見せていた。
「せめて添え木ぐらいは当てて、見つかりやすい所に安置しておこう」
エックスはその辺の廃材から、そこそこに大きな放置された角材とロープをおもむろに引き抜き、それをキンコーソーダーの所へ持って行ってやる。
「手伝ってくれ、ゼロ」
「――――ああ」
曲がったキンコーソーダーの身体に添え木を当て、無理に全身を動かせない様に処置をしていく。
その時の様子を束はひどく面白くないようにしかめっ面で見ていたが、処置が進むにつれ表情はむしろ解れていった。 十分にキンコーソーダーを手当てしたエックスは、ゼロと共に彼を担いで廃ビルの裏口から日の当たる外に出た。
そして日光に照らされる山積みのままの砂利山に、彼を安置してやった。
エックスとゼロ、そして束までもが処置されたキンコーソーダーを満足げに見ていた。
大人一人分はある高さの砂利山の頂上、彼の背後から背筋と腕を固定する角材は大きく、彼の全身を高々に持ち上げ地面に突き刺さる。 その様子は、ゴルゴダの丘にて十字架に磔にされたかつての救世主を思わせた。
尤も彼の犯した罪は、疑いようのないれっきとした犯罪行為であるのだが――――悪党に対する適切な処置を施したエックス達一行は、警察の手の及んでいない地下へのマンホールを求めその場を立ち去った。