ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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第17話

 

「むががっ……は、離しなさいよぉ――――」

「うっせぇ!」

 

 エックス達が立ち去った後の廃ビル群、乗り捨てられた黒塗りの高級車を見つけ周囲を飛び回っていた、先程とは別の隊員にである警察所属のIS。

 そのパイロットを殺さぬように当て身を行い昏倒させるは、蜘蛛を模した多脚をもつIS『アラクネ』を身にまとう『亡国機業』が実働部隊『オータム』であった。

 

 クラブロスからの依頼を受ける事になった彼女は、前金代わりの借金帳消しの他、銀行を襲った犯人1人の始末につき特別報酬、生け捕りにしてクラブロスに引き渡せば更にボーナスを出すという条件に心躍らせ、警察に先んじて彼らを捕まえようとしていた。

 しかし犯人の特徴を聞き出した際、最初の1人がガスマスクに安全帽を被った土方のようなレプリロイドである事は教えてくれたものの、それ以外の3人については突如連絡が途絶えてしまい、聞きそびれてしまった。

 なのでここに来る道中でニュース番組を逐一確認しながら、丁度屋根がナパーム弾で吹き飛ばされたシーンにて、内一人が土方のレプリロイドだと言う情報が正しかった事を確認したが、残り3人が奇抜な歌舞伎っぽい恰好で姿をごまかしていた為、何者かを把握する事は出来なかった。

 

 して今現在、オータムは先にやってきた警察を昏倒させて適当な路地裏に押し込み、再びビル群から浮き上がっては低空飛行を行っていた。 お目当ては、3人の特徴を知っているであろう土方のレプリロイド。

 

「土方のレプリロイドか……そういやあ数日前にそんな間抜けを見たような気がするぜ」

 

 銀行強盗を起こしたと言うレプリロイド。 オータムは話から篠ノ之博士の存在を知るきっかけを作る事になった、つい最近に鞄を横取りしてやった例のイレギュラーを思い出していた。

 同型ののレプリロイドがイレギュラーになる可能性はそう少なくはないが、自分が金を工面して貰っている銀行を狙い撃ちしてくるとは、それがどうも偶然に思えずにいた。

 もしかしたら、自分達がそこから金を借りていると知って、報復としてちょっかいを出してきたのかもしれない。

 

「まあその銀行の会長様がまさか、当の私達の裏の顔を知ってけしかけてくるなんて思わないだろうな。 藪をつついたら蛇が出るって事を教えてやるぜ――――ん?

 

 オータムはビル群の空いた区画に目をやった辺りで、瓦礫の山の上に佇む奇妙なオブジェを発見した。 視覚センサーの倍率を上げて、捉えた映像を空中に投影する。

 

「……なんだこれ

 

 映し出されたオブジェの詳細に、オータムは目を丸くした。

 使い古しで凹んだ調理器具さながらにボッコボコに歪められて首を垂れ、瓦礫の丘の上に角材でできた十字架に磔にされる土方の姿だった。

 やはりと言うべきか、その男は篠ノ之博士の鞄を持っていた例のイレギュラーだった。 仲間割れでも起こして処刑されたのだろうか? どうしてこのような場所で晒し物になっているのかは全く背景が見えないが、しかしオータムにとってつまらないイレギュラーの身の上など至極どうでもよかった。

 

 オータムは十字架の前に降り立つと、瓦礫に突き刺さる十字架の根元を蹴り、角材をへし折って転倒させる。

 

「グホッ!」

 

 倒れた拍子に、土方のレプリロイド……キンコーソーダーの口から肺の中を絞り出したような声が洩れる。

 どうやらくたばって機能停止してしまった訳ではなさそうだ。 転倒の衝撃で意識が戻ったのであろう、キンコーソーダーは震え声で悪態をついた。

 

「あ、あの野郎……よくも、俺を嵌めやがった――――」

「よう。 気分はどうだクソ土方」

 

 倒れるキンコーソーダーをまたぐように、銃を突き付け蔑むように見下すオータム。 

 

「て、てめぇはあの時の――――何でここに居やがる!」

「てめぇが襲った銀行の会長からのご指名だよ! てめぇら銀行強盗を取っ捕まえろってな!!」

「んな!?」

 

 キンコーソーダーは驚愕しているようだった。 大手の金融業だからこそ荒事を想定して、よからぬ組織と黒い繋がりを持っている事もあるのは彼でも知っているであろう。

 しかし単純所持さえも厳格に制限されるISを、犯罪目的で調達できるような(元)巨大組織と繋がっていて、しかもキンコーソーダー自身と因縁のある相手をけしかけてくるのは想定外だった筈だ。

 尤もそれについては、オータムも自身の身の上を把握されていたなど思いもよらず、その上でこの男を捕まえる様に依頼されたのは全くの偶然であったが。

 

「随分派手に暴れてくれやがって! 私達への嫌がらせのつもりだったんだろうが……まさか因縁の相手が出張って来るとは思わなかったろなあ?」

 

 ISで日の光を遮り、大きな影の中に埋もれる満身創痍のキンコーソーダーの姿は弱々しい。 両の手の拘束を外そうと身をよじるも、角材へしっかりと固定されたロープはレプリロイドと言えども、弱った体で引きちぎる事は叶わない。

 オータムはキンコーソーダーへの追い打ちに、潰してしまわない程度には手加減はするが、適度に苦しみは与えるつもりで彼の胴をISの足で踏みつける。

 

「おぐッ!!」

「ま、てめぇみてえなしょぼいイレギュラーに構ってる暇はねぇ……残りの3人はどこに逃げやがった?」

「――――あ、あいつらは俺を置いて逃げやがった……関空から高飛びしやがるつもりだ!!」

 

 束の間の沈黙の後に、以外と素直に答えたキンコーソーダー。 オータムは感心し軽く口笛を吹く。 銀行強盗を起こすきっかけになった相手なのだから、少しぐらいは抵抗するかと思っていたのだが。

 目覚めがてら嵌められたと言っていたように、何らかの形で仲違いをしたのだろう。 それも晒し者にする程のこっぴどい形で。

 

「で、逃げた残りの連中は、一体何もんだ? どんな面してやがった?」

「あ、あいつらは行きずりの関係だ。 身の上なんて知らねぇ……3人とも歌舞伎みてぇなワケ分からねぇ顔して……てめえらと同じ組織の連中だって言い張ってやがった……後は――――ぐおっ!!

そんな奴が仲間にいる訳ねぇだろ!! アホか! 早く答えろ! 私は気が短いんだよ!」

 

 歌舞伎の姿をしていた事などとっくに知っているし、自分達の組織にそのような変装をする輩などいない。 恐らく口から出まかせを言ったのだろうが――――胴を踏みつける足に力を込め、キンコーソーダーの身体から金属が軋む悲鳴のような音が上がる。 

 

「た、束――――」

 

 苦しむキンコーソーダーの口から、意外な名前が飛び出した。 思わず足に力を込めるのを止めるオータム。

 

「ひ、一人は女だ! 数日前に鞄をかっぱらった女――――自分の事を『篠ノ之束』って言ってやがった!!」

「何ぃ!?」

 

 その言葉にはオータムも驚愕した。 チンピラをけしかけて足取りを追っていた稀代の天災科学者、その名が今この場で出てくるとは。

 そう言えば、生中継の中で車の屋根を吹き飛ばされた際、キンコーソーダーの隣に映っていた歌舞伎の頭に、何やら兎のつけ耳らしき物が映っていたようにも見えた。

 篠ノ之博士は日頃から身に着けている機械の兎の耳をはじめ、奇抜なセンスの持ち主であることを知っているし、いざとなれば法を無視した行いを取る事も厭わない過激さを持っている。

 可能性としてはなくはないだろうが、だとしても何故彼女が犯人グループの一味になって強盗を働いたのか。 そもそも彼女には2人のイレギュラーハンターが接触している筈。 彼らが彼女を放置して、しかも強盗に加担させるような真似をするとは思えない。

 

「……口から出まかせ言ってるんじゃねぇだろうな?」

「こ、ここまでされて見間違いなんか……するかよ……!! あいつは……俺が鞄を取った事を根に持ってやがった……!!」

 

 だからダシに使われたと、そう言いたげなキンコーソーダー。

 

「じゃあ最後の質問だ……残りの二人は誰だぁ?」

「し、知らねえ……あいつらも変な服着て歌舞伎の真似してやがったが……2人とも男で青と赤の服着てたぐらいしか……いや」

 

 そこまで言いかけた所で、キンコーソーダーは何かを思い出したようだ。

 

「……レプリロイドだった。 ヘルメットの上からカツラ被ってたガバガバ変装だった……いやでもまて、あのヘルメットの形……どっかで見た事が――――」

 

 質問中に自問自答を始めた中で、正体を知らずじまいだった2人の男について、キンコーソーダーは気づく。

 

「ッ!! そうだ! あいつらイレギュラーハンターのエックスとゼロだ!!」

「はあッ!?」

 

 突拍子もない事を言い出すキンコーソーダーに、オータムは疑問の声を上げた。

 エックスとゼロ……確かに彼らは篠ノ之束と接触した事を知っている。 しかし曲がりなりにも正義の味方やってるレプリロイドが、自らの意思で銀行強盗に加担したりするだろうか?

 裏社会のオータムをしても、流石にその行いについては良いか悪いかは別に、筋が通っているようには思えなかった。

 

「へ……へへ……そうか……()()()()だった訳か!! 確かになぁ……あいつ前に犯罪組織に潜入しようとした時、この俺に組織とのコンタクトを依頼してきたもんなあ……変装して潜り込むって段取りでな……」

 

 が、こちらが何も言わずとも、それについてキンコーソーダーは説明をしてくれた。 潜入捜査……鞄の足取りを追うためか! その事に気づかされたオータムは全て合点がいった。

 ……それにしては、あまりに過激な結果を招いたと思ったが、どうやらクラブロスからの依頼も相まって、彼ら2人とは対決を避けられないと確信した。

 

「……て、てめぇの事は嫌いだが……いい事を教えてやる……あ、あいつらは丸腰だ。 旅行だとかなんとか分かんねぇ事言ってやがったが……」

 

 キンコーソーダーは息も絶え絶えに言葉をつづけた。

 

「だが、あいつらが持ってたあの鞄……あれは何ていうか……訳が分からねぇ。 妙な機能を隠し持ってやがる……あれのおかげで強盗が派手になっちまったぜ……」

「……随分親切に教えてくれやがるじゃねえか」

「へっ……親切だぁ? 笑っちまうぜ」

 

 どういう風の吹き回しだと言わんばかりのオータムの皮肉を、キンコーソーダーは(わら)った。

 

「お前らあいつら3人を狙ってるんだろ……俺はな、教えた所でお前らじゃどうせ敵わねぇって分かってんだ。 あいつらは『本物』だ、俺達悪党が束になったってそうそう勝てはしねぇ! ……ま、せいぜい勝手に争って、返り討ちにでもなってくれや!」

 

 そう言ってキンコーソーダーは高笑いした。 しかしオータムは口元を釣り上げ、キンコーソーダーの顔面を軽く蹴った。

 

グフッ――――」

 

 軽く……とは言ったが、ISの出力なら十分気を失う程の威力を前に、キンコーソーダーは再び昏倒する。

 

「返り討ちだぁ? 丸腰って知って、むしろ勝てる見込みしか見えてこねぇぜ!」

 

 脅し文句に対しオータムの抱いた感想は、むしろ勝利への確信だった。 彼らが得物を持ち束を守っているのなら、こちらにISがあると言えども厄介な相手には違いはない。

 しかし丸腰であるのなら、物理を無視して空を飛ぶ自分に対する対抗策など持たないはずだ。 ましてや彼らは関空を目指しているとなれば、高飛びの為何らかの飛行機を利用するだろう。

 空は自分達の領分だ。 こちらからすれば、旅客機という逃げ場のない場所に自ら入り込んでいってくれるのだから、これで負けると言う事はありえないだろう。

 唯一持参しているという鞄がどうとか言っていたが、たかが鞄にISをどうにかする力があるとは思えない。 このイレギュラーはエックス達を恐れすぎているだけだ。

 

 弱虫の土方を見下していた時、ISのプライベートチャンネルに連絡が入った。

 

<オータム。 守備はどうかしら?>

 

 相方のスコールからだ。

 

「犯人の一人の土方を一人確保したぜ。 ……どうやら今回の強盗には篠ノ之束が絡んでいるらしい」

 

 キンコーソーダーから得た情報をスコールに話すと、彼女の息を呑むような声が聞こえてくる。 少なからず驚いている様子が無線機越しにも伝わった。

 

「おまけに残りの2人は例のイレギュラーハンターかもしれねぇってよ。 何でも盗まれた鞄のありかを吐かせようと、強盗に加担したフリしてたんだとさ。 んで今あいつらは関空を目指してる。 だからどっかのタイミングで飛行機に乗った時に仕掛けるつもりだ」

<……よくそんな情報が手に入ったわね>

「ちょっと脅しただけで洗いざらい吐きやがったんだ。 嵌められたのに気づいてボロボロに捨てられた腹いせにな。 私も仇だってのにな! 笑っちまうぜ!

<惨めね……で、ちゃんと殺さずにはしておいたわね?>

 

 オータムは倒れるキンコーソーダーを流し見た。

 

「生け捕りは追加報酬だったよな? 勿論だ」

<了解。 じゃあそのレプリロイドを今から回収しに行くわ。 丁度()()()も仕上がったから>

「早ぇな! もう出来たのか? ……でもまあ、仕様を考えたらある意味早く作れて当然か」

<ええ……篠ノ之博士に感謝ね。 貴方はそのまま泉佐野近辺に先回りして、OVER>

 

 通信はそこで終わった。 もうこの場所に用はない、瓦礫の山に置かれたままのキンコーソーダー(特別ボーナス)を放置して、オータムは再び宙に浮かぶ。

 

「馬鹿正直にしゃべってくれてありがとよ! せいぜいクラブロス大先生の所で汗水垂らして働くんだな!」

 

 労基なんざ糞喰らえだがな!

 しょっぱい小悪党が犯人グループの一味だったお陰で滑り出しは好調だ。 後の事はスコールに任せ、ちょっとした小遣い稼ぎに心躍らせながら、オータムは捨て台詞を残して軽快に飛び去って行った。

 

 

 

その後、警察が到着する頃にはキンコーソーダーの姿は無く、彼の逮捕のニュースが流れる事は無かった。




 これにて今シーズンにおいてキンコーソーダーは退場です。
 しかしイレギュラーとは言え身売りとは、毎回ロクな退場させてないですなあw
 さて次回は、泉南地区にたどり着いたエックス達ご一行が、現地で楽しい一泊をする話です! 来週をお楽しみに!

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