ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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チャプター1:旅は道連れ
第1話


 今日も日々の業務に忙殺され、市民への対応やらで職員の往来するハンターベースにおける唯一の例外、休憩室。

 

<――だから予定を開けられないの。 ごめんなさい、ゼロ――ブツンッ>

「お、おいアイリス!」

 

 壁側に設置された自販機の隣にてご存知我らがイレギュラーハンターゼロが、たった今一方的に通信を打ち切られてしまった。

 左腕の上に浮かぶように投影された映像は砂嵐に呑まれ、ゼロはしかめっ面でため息をついた。

 

「……参ったな。 折角の休暇だったんだがな」

 

 3日後の日付を始めとする2週間、公僕で滅多に休みの取れない彼にとって珍しい長期休暇を取る事ができた。 その上偶々懸賞に出していた日本が大阪への7泊8日のペア旅行が当選したので、これ幸いとばかりに『アイリス』なる小指を立てるコレに対し誘いをかけた。

 しかし彼女からの返事はNO。 何でもゼロと旅行に行ける期間中は間の悪い事に同じく日本にて別件で仕事があるらしく、そちらに時間を取られて身動きが取れないと言われ、残念がられてはいたがお断りされてしまったのだ。

 折角当たった旅行チケットだが、誘う相手がいないのではどうしようもない。

 

「しょうがない、野郎と二人で行っても仕方ない。 俺一人で行くか――――」

「どうしたんだゼロ? そのチケットは?」

 

 余った旅券の使い道を考え俯いていた所、覚えのある青年の声と青い足元が視界に映る。 ゼロが首を上げてみると、正面に立っていたのは相方のエックスであった。

 彼の視線は、自身の持っていたチケットに注がれていた。

 

「あ、大阪行きの旅客チケットじゃないか! 誰かと旅行にでも行くのか?」

「ん? いや一人だ。 折角のペアチケットだったんだがアイリスの奴用事があるってよ。 仕方ないから一人で行こうかどうか悩んでたとこだったんだ」

 

 少しため息をつきながら話すゼロに対し、エックスは少し考えたような仕草の後、満面の笑みでこう切り出した。

 

「へえ……なあゼロ。 行く相手がいないなら俺を連れて行ってくれないか?」

「――――うん?」

 

 エックスからの申し出にゼロは疑問符を浮かべた。 彼女との都合がつかなかった仕方のない事だったとは言え、この時ゼロは既に一人で旅行に行く頭になっていた為である。

 アイリスと2人で行く予定だったと言う事はつまり、人差し指と中指の間に親指を突き出す状況もあり得た訳であるが、それが不可能ならせめて一人で()()()()()を愉しんだり、明言を憚られるブツをこれまたアレな手段で持ち込もうなど思っていた。 無論日本産は奥ゆかしい修正ありな代物だが、ゼロにとってはそれもまた一興。

 

「いやぁまあ。 俺も大阪に行くなんて今度発売する『ロックマンXアニバーサリーコレクション』のXチャレンジの新規収録でも無かったからな! 久しぶりにジャパニーズヤクザセプクスーサイドが見れるのなら悪くはないと思って。 俺とゼロの2人なら気兼ねもしなくて済むだろ? 是非連れて行ってくれ!」

 

 しかしエックスが一緒なら話は別だ。 彼は生真面目で春爛漫な旅行には難色を示すだろうし、何よりお土産について追及されれば彼が今しれっと口にしたような穏やかでない事態を招きかねない。

 別段エックス個人に恨みがある訳ではないが、今回の旅行については丁重にお断りしなければと、ゼロは内心焦りながら思う。

 だがそうは問屋が卸さない。

 

「おうエックス、ゼロ。 2人共休憩かい? お疲れさん!」

 

 2人の元に、一人の男が声をかけてきた。 2人して振り向くと目に映るは緑のアーマーに赤い眼鏡。 愛嬌のある団子鼻の彼はダグラスであった。 彼もまたゼロに向き合うなり、ゼロが手元に持っていたチケットに目をやった。

 

「おろ? 何だそのチケットは?」

「あ、ああこれは――」

「7泊8日の大阪行きのペア旅行のチケットさ。 アイリスを誘おうとしたけど都合がつかなかったらしくってな。 折角だから俺も休暇を取って一緒に連れて行ってくれって頼んでるんだ」

 

 言い淀むゼロを待たずしてエックスが事のあらましを説明した。 頼んでもいないのに全てを語るエックスにゼロは閉口する。 余計な事を言うなと言わんばかりに。

 するとダグラスはにこやかに、ゼロにとっては一番言って欲しくない事を口にした。

 

「行ってきなよ! 2人が休暇にいってもこっちが頑張るさ! たまには羽を伸ばして来たらどうだ?」

 

 いつもハンター業務を頑張る2人を労う言葉をかけるダグラス。 エックスは嬉しそうに、ゼロは引きつった笑いを浮かべていた。

 正直内心冷や汗だった。 この流れでは確実にゼロはエックスの同行を許さざるを得ない。

 既にエックスと2人で旅行に行くムードが生まれつつある中で、それでもゼロは後押しをするダグラスを止めるべく奮起する。

 

「ダグラスちょっと待て。 別に無理に使わなくとも俺が1人で――――」

「あら貴方達、お疲れ様ね」

「ダグラスさんもお疲れ様!」

「お、エイリアにパレット! ゼロとエックス今度7泊8日で大阪旅行だってよ!」

 

 が、話の途中でやってきたばかりの2人の女性オペレーター、エイリアとパレットに有無を言わさずに既に行く前提で話を広めるダグラス。

 

「! あらそう! いいじゃない、大阪旅行なんて久しぶりだわ!」

「いつも現場組は忙しいですからね! 一杯遊んでリラックスして下さい! いざとなったら現場は私やレイヤーも頑張りますから!」

 

 エイリアは一瞬間を開けて発言し、続いてパレットもエックスとゼロが共に旅行するのを勧める始末。

 この時ゼロは心底後悔した。 うかつにチケットを持ったまま休憩室に来た事もだが、何よりレイヤーの存在を失念していた事を――――だが、どの道パレットの口ぶりでは彼女も誘えなかったであろう。

 して、すっかりなし崩し的にゼロとエックスが一緒に出掛ける話になってしまった訳だが、最早こうなってはエックスを突っぱねる口実は無い。

 

「大丈夫だって安心しろよ! 何だったら向こうでの食費のアレコレ経費で落ちるようにしてやるって――――なあエイリア?」

「……まあそうね、ちょっとぐらいは融通効かせてあげるわ」

 

 ダグラスの提案にエイリアが少しだけ困ったような表情をするが、それもゼロ達への労いと言う事で水に流す事にした。

 オペレーターである彼女だが、何を隠そう能力の優秀さから経理にも1枚噛んでいる。 エックス絡みの案件なら通るだろうと、首を縦に振るエイリアにゼロは渋々ながら了承した。

 

「……仕方ねぇな。 そこまで言うなら思いっきり遊び倒してやるか」

 

 強引な同行の後押しは腑に落ちないものの、流石に交遊費の全てを融通するという提案にはゼロも折れた。 隣のエックスは満足げに、パレットははしゃぎ、エイリアとダグラスは互いにアイコンタクトを送っていた。

 

「よし、そうと決まれば早速準備だ! 休暇の申請をしてくるよ」

 

 エックスは踵を返し、浮かれた足取りで責任者たるシグナスへ休暇の申請を出しに廊下へ向かった。 ゼロも折角なので旅行を満喫しようと、旅の準備をするべく休憩室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エックスとゼロの去った後の休憩室には、各々が好きに休み時間を過ごす隊員達と、エックス達を見送ったエイリアにパレット、そしてダグラス達が一息をついていた。

 

「しめしめ……上手くいったぞ」

「もう、余り無茶な提案はしないでねダグラス?」

 

 腰に手を当て苦笑いするエイリア。 苦言を呈する彼女にダグラスも少しは悪びれたように頭を掻く。

 

「ハハッ、悪かったよエイリア。 ゼロが渋ってるのは丸分かりだったからな。 ああでも言わなきゃ後押しできなかったろうよ」

「……まあ、ハンターベースのお騒がせ組にお休みしてもらう為なら、むしろ安いぐらいかもしれないわね。 特に今は」

 

 少々強引であったが、有無を言わせない為にエックスも連れて行くようゼロに促したのは正解だった。 エックス達は数え切れないほどの功績と同じくらい功罪も重ねている。

 ここいらで一つ他所に出かけてもらった方が、ある意味でエイリア達の胃を休める事も出来るので、ゼロとエックスのみならず自分達にも恩恵をもたらしてくれるであろう。

 ただそんな彼らがいるからこそ凶暴なイレギュラーへの抑止力となっている側面もあるので、無論彼らが不在をいい事に調子づかない様エックス達の休暇は悟られぬよう、ハンターベース内だけの話としておく算段であった。

 そう、エイリアの口にするように()()()()()()

 

「――――あれ? そう言えば日本って確か」

 

 パレットはエックス達の旅行の行き先に対し、何かを思い出しかけていた。 そんな彼女の呟きにエイリアが答える。

 

「心配いらないわパレット。 ()の今の派遣先は東京なんだから、お互いにかち合う可能性はそうそうないわ」

「そうだぜ。 何せアイツはあの『IS学園』にいるんだからな。 ……正直羨ましいぜ」

「ダグラス、貴方若い女学生達に興味があるのかしら?」

 

 ここにいない誰かを羨むダグラスに、エイリアが意地悪な笑みを浮かべる。 明かな冗談ではあるが、ダグラスは軽く噴き出し慌てて否定する。

 

「技術屋としてだっての! アイツが派遣されたのだって、IS関連企業のサミットが近日中に行われるからだろ?」

「ふふ、冗談よ」

「でもダグラスさんの言う通り、私もちょっと行ってみたかったです。 最先端技術のISには触れてみたいですよぅ」

 

 技術畑のパレットもまた、指をくわえて日本に派遣された()を羨んだ。 今頃は任務とはいえ、随分と楽しい思いをしているのだろうと思うと、俄然自分も連れて行ってほしかったと言う気持ちが湧いてきた。 

 

「いいなぁ。 私も日本に連れて行ってほしかったよぅ、ずるいよアクセル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽の眩い青空の下で舞い、空中でぶつかり合う二機のIS。 一定の距離を置いて弾幕を放つオレンジの機体と、臆さずに果敢に突進し光の刃を振りかざす白い機体。 

 周囲には不可視のバリアで覆われ流れ弾に備えられた観客席があり、ほぼ全ての席が人で埋まり大きな歓声を上げていた。 一部スーツに身を包んだ軍や民間企業の重役もいるが、大半はこの学校の生徒と思わしき制服を着る女学生が黄色い声援を上げていた。

 

 ISに関する世界で唯一の教育機関にして、各国の取り決めにより治外法権の認められる高等学校『IS学園』のアリーナ。

 普段はISパイロットの養成の一環で、訓練生同士の戦闘訓練を含む実技が行われる事が多いが、場合によっては今みたいに外部から客を招いてトーナメントが行われる事がある。

 今日はこのIS学園にて、近日中に関連企業や各国軍部によるサミットが開催される段取りになっており、訪れたVIPを歓待する試合の……丁度決勝戦が行われているのだ。

 

「ほほぅ、最近の若いのは中々にやりおるのう!」

「噂には聞いてたけど、重力を無視して飛び回れるってのも大したもんだよ」

 

 歓声を上げる観客のごった返しとは無縁な、VIPに宛がわれたガラス張りの展望席においても、派手に行われるIS同士の試合に皆が皆色めきだっていた。

 

「アクセルよ、お前さんもあの中で試合してきたらどうじゃ?」

「遠慮しとくよケイン博士。 あんなの相手にしたらちょっと厄介だよ」

 

 そこには黒いアーマーに身を包む少年レプリロイド、我らが第3のヒーロー『アクセル』と、サミットの重要な参加者にしてレプリロイドの生みの親として知られる、青いコートを着込んで杖を突っ立てる頭の眩しいご老公『Drケイン』の姿があった。

 縦横無尽に空を飛び回るISを、2人は不敵な表情のままその動きを目で追っていた。

 

「パイロット次第じゃ、うちのとこの特A級ハンターに匹敵するって言うけど、確かにあんな動きで襲われたら困った事になるよ」

「ふむ、怖気づいたかのうアクセル? いつもは自信満々のお前さんが厄介と言うとはな」

「まさか、厄介ってだけの話だよ。 ……負けるなんて僕は一言も言ってないよ」

 

 ケイン博士と互いに横目で相手と目線を合わせながら、いくら相手が強かろうが自分なら負けない。 右手で得物のアクセルバレットをガンスピンしながら、そう言わんばかりの大胆なセリフを吐くアクセル。

 

「あら、派遣されてきたイレギュラーハンターさんは随分と自信がおありね?」

 

 ふとアクセルの背後から若い女の子の声が聞こえてきた。 整然とした、それでいて気配を殺すような足取りで。

 突然の来訪者にアクセルとケイン博士は特に警戒した様子も無く、ゆっくりと振り返った先に立っていたのは……水色の髪に赤い瞳、年の頃はアクセルと変わらぬ10代半ばか。 白を基調とするIS学園の制服でも隠し切れぬ整ったボディライン、そして『ご歓迎』と書かれた扇子で口元を隠した少女が立っていた。

 

「お噂はかねがね伺っておりますわケイン博士。 それとイレギュラーハンターの――――」

「アクセル」

「おお、お主は確か生徒会長の更識……」

「楯無です、以後お見知りおきを」

 

 IS学園の生徒会長『更識 楯無(さらしき たてなし)』と名乗った少女は扇子を閉じ、笑みを浮かべた口元を露にして会釈する。

 高貴な雰囲気を漂わせる中々の美少女だ、特に色恋沙汰にがっつく性格でもないアクセルも「ヒュウッ」と口笛を吹いた。 

 

「驚いたね。 ここで応援してる周りの子もそうだけど、中々どうして可愛い子ばっかりで目のやり場に困るよ……アンタも含めてね」

 

 アクセルは正面を向き直し軽口を叩く。 その様子にケイン博士はアクセルを窘める様に軽く咳払いをした。

 

「やめんかアクセル。 初対面の相手に軽口を叩くでない」

 

 顔を赤らめるケイン博士にアクセルは悪びれた様子も無く、そんな2人を微笑ましく見つめる楯無。

 

「随分とお世辞がお上手ですこと……でも」

 

 しかしそれでいて、彼女もまた不敵な笑みを浮かべてアクセルの言い分に対し一言申し上げる。

 

「私達ISパイロットを甘く見てもらっては困りますわ。 こう見えて私は腕に自信がありますのよ?」

「僕も同じさ。 空飛んでる奴とは何度かやり合った事あってね」

「ふふっ、叩き上げと言う事? その割には中々どうして、私を平気で背中に立たせるような真似をするのかしら?」

 

 ほほ笑む楯無だが、その目つきは笑っていない。 むしろ獲物を射殺すような鋭い視線をアクセルの背中に送る。

 言ってみればこの状況ならお前を仕留めるのは容易いと、暗に仄めかすような物言いに聞こえなくも無いが、アクセルは意にも介さず飄々とした態度を崩さなかった。

 

「僕を殺る意思なんてない癖に、ビビってたってしょうがないでしょ?」

「――どうして言い切れるの?」

「本当に仕留める気だったら、ニンジャがわざわざ僕の前に姿を見せたりしないさ。 それに――――」

 

 アクセルもまた、楯無の視線に対し食えない態度で告げる。

 

 

 

「早撃ちには自信あるからね」

 

 

 

 彼が右手に握っていたアクセルバレットであるが、膝に肘をついて目前でガンスピンをして遊ばせていた筈だが、いつの間にやら影も形も見当たらなくなっていた。 一体どこへ行ってしまったのか――――

 

 

 ――――答えはアクセルの左脇の中であった。 アクセルは背後の一切を振り向かずして左脇へ銃身を潜らせ、得物の銃口を殺気を放つ楯無へと向けていた。  楯無本人もその存在に気付いた時一瞬目を見開くが、動揺を表にせず努めて冷静を装った。

 出合い頭に敵意を向けるただ事でない様子にケイン博士も二人をじっと見つめ、三者間に剣呑とした空気が流れる……が。

 

「……安心したわ」

 

 先程の空気とは一転し、楯無は今度こそ穏やかな笑みを浮かべ再び扇子を開き口元を隠す。 中の文字は何時の間にやら『合格』の二文字へと変わっていた。

 

「派遣されるだけあって伊達じゃないのね。 これなら安心して警備の仕事を任せられるわ」

「そりゃどうも」

 

 アクセルもまた張り詰めた空気を解す様に表情を崩し、突き出していた拳銃を数回指先で回してホルダーへしまい込んだ。

 そして椅子から立ち上がると、改めて楯無の方へと振り返る。 向き合ったアクセルに対し楯無は手を差し伸べると、アクセルもまた彼女の手を握った。

 

「ようこそIS学園へ。 素晴らしい働きを期待しているわ」

「こちらこそ。 肩書に恥じない仕事はさせてもらうよ?」

 

 がっちりと力強く、互いに信頼を寄せあうように握手するアクセルと楯無。 いきなり敵意を丸出しにした2人が、あっさり打ち解けるのを見ていたケイン博士は深くため息をついた。

 

「全く……いきなりおっぱじめそうになるかとビビったぞい。 なんちゅう挨拶の仕方じゃ」

「ごめんあそばせケイン博士。 彼のハンターとしての姿勢を試したかったものでして」

 

 いたずらっ娘のように悪びれた笑みを浮かべる楯無。 どうやら今のは彼女なりの試験でもあったようだ。 幸い周りは試合に夢中で3人の張り詰めた空気には全く気付いていなかったようだが……。

 そんな彼らをよそに展開されていたIS同士の決勝戦だが、周囲からは大きな歓声……と言うには少しがっかりしたような声が上がる。

 彼女とのやり取りに気をとられていたが、どうやら試合は何時の間にやら決着がついたらしい。 試合終了のブザーが同時に鳴り響く。

 アクセルは試合が行われていた空中と、背景に投影される勝敗の結果が書かれたウィンドウに目をやる。

 

「ありゃ、あの白いのいつの間にか負けてたね」

 

 ウィンドウ上には「勝者 シャルロット・デュノア」と書かれていた。 オレンジのISを駆る金髪の美少女であるが、健闘を称える周りの歓声に対し手を振って答えていた。

 勝敗を表すウィンドウの下には先程の試合のハイライトが映し出されており、特に大きく展開が動いた訳ではないが、的確なヒット&アウェイによるオレンジのISの射撃技術によって、着実に相手のダメージを蓄積させていった削り勝ちのようだった。

 

「一夏君ね。 いい線行ってたけど、まだまだ代表候補生には及ばなかったみたいね」

 

 代表候補生と言うのは各国で数少ないISパイロットの、特に国家代表に最も近いとされる人間の事を指す。 そして優勝者となったシャルロットなる少女もその一人と楯無は告げるが、成程可愛いだけの存在ではないと楯無の言った通り、可憐な少女の見た目と裏腹に熟達した技術を持っているようだ。

 そしてもう一つ気になったのが楯無の言う『一夏君』、シャルロットと対決していた白いISを駆るパイロットである。 顔立ちの整った少年でアクセルとほぼ変わらぬ年齢の見た目をしており、彼もまたシャルロットに対し手を差し伸べ握手をしていた。

 

()()()()()()()()()()()()()の『織斑 一夏(おりむら いちか)』ねぇ」

「ええそう。 ISは今の所女性にしか使えない。 彼こそがある意味で、男性がISに乗れるかどうかの命運を握っているわね」

「ついこの間まで普通の学生になる筈だったって聞いたけど、女子高だから肩身も狭いんじゃないの?」

「……そうね。 サミット期間中の短い間だけど、もし良かったら彼とも仲良くしてあげて。 今でこそ打ち解けてきたみたいだけど、彼も色々気を遣っているのよ」

「そうさせてもらうよ」

 

 アクセルは優勝者のシャルロットと並んで手を振る一夏に暖かな視線を送る。

 そう、理由は不明だがISは今の所女性にしか操る事が出来ない。 故にパイロットを養成するこの学園は、観客席を埋め尽くす生徒達が裏付けるように紛れも無く女学校であり、教職員でさえも大多数が女性である。

 そんな中で適性があると言う理由だけで放り込まれた、白いISの彼が感じているだろう肩身の狭さを想像すると、楯無の願い通り後で声の一つでもかけてやろうかと言う気持ちにもなる。

 

「さてと、試合は終わったしのう。 他に見て回っていないこの学園の施設でも見て回ろうかのう」

「りょーかい」

「私がご案内させていただきますわ。 少しでも警備が多い方が安全かと」

「よろしく頼むぞい」

 

 試合の行方を見届けたVIP達の一部と共に、ケイン博士とアクセルに楯無も揃って展望席を後にする。

 赤い絨毯の敷き詰められた豪華絢爛な廊下を歩きながら、来客は満足げに試合の内容を話し合っていた。 そんな中でアクセルは仕事中ではあるものの、束の間の平穏を感じずにはいられなかった。

 

「(ああ……平和だぁ。 僕一人出張に出るのがこんなにも良いものだなんて)」

 

 アクセルは辞令が下った時の事を思い返していた。 1か月近くに及ぶケイン博士の日本が東京への出張に警備として駆り出され、そのまま博士が参加する段取りとなっているサミットの警護もやらされると聞いた時、当然ながらアクセルは難色を示した。

 IS学園は女子高生が学業に勤しむ全寮制の学校。 男の自分が駆り出されるのは心細くもあった。

 しかし同様にレプリフォース側にも助っ人として警備の任務で何人かが派遣されており、イレギュラーハンター側でアクセルだけが駆り出されたのは、精神年齢の近い唯一の男子高校生である『織斑 一夏』を気遣っての配慮からであった。

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「(クソアホイレギュラー2人がいなくて最高!)」

 

 

 今回の任務にはエックスとゼロはいない。 それをシグナスから告げられただけで、アクセルは不満げな態度を撤回して二つ返事で承諾したのだ。

 そして今、ただ何も起きていない現状に心から感謝している。 無論有事の際にはキッチリ仕事をさせてもらうが、しょっぱいトラブルメーカーがいないだけでアクセルのモチベーションは過去最高潮であった。

 サミット自体は数日後に控えている訳だが、それまでの間悠々とケイン博士の付き添いを全うさせてもらおう。

 アクセルは何時になく楽しくてたまらない仕事に心躍らせながら、これから過ごす日々に期待を寄せていた。

  




 はい、いつになく事件の影を匂わせながらも穏やかにスタートした本シーズンですが、この時点で不穏な空気に気付いた貴方は正しい。





そう、ア ク セ ル 不 在 と 言 う 恐 怖 を。
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