ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
赤いイレギュラーのせいで天災パイオツ共々恥を晒す羽目になり、半狂乱の後に激怒するエックスの叱責を横目に泣き寝入りを決め込んだ束。 ようやく訪れた心地よい眠りの中で彼女は夢を見ていた。
「(めんどくさいなぁ……)」
至極退屈そうにしながら、少し離れた場所で話し合うスーツ姿の初老の男性2人を見つめながら、待ちぼうけを食らっていた束。
束はこの場面に見覚えがあった。 それは10年前……丁度中学生だった時のものだ。 夢の中の彼女は、年頃の女の子に比べれば発育は良い方であるが、やはり身の丈も低く華奢であった。
当時の束は名目上JAXAの職員だった。 さる科学者同士の会合の場において、後に
しかし唯一関心を持ったJAXAの所長……彼女の目の前で話し合う白髪の老人に見出され、彼の推挙を受けてISを作るにあたって必要な資金や設備、資材の揃ったJAXAに所属する流れとなった。
とは言え彼女は周りの職員を内心馬鹿して関心を寄せず、唯一発明の肝となるパワーソースを製造できる強みがあるにも関わらず周囲から孤立し、完全にチームの中で浮いた存在となっていた。
見かねた所長が束に外の世界を見て人の繋がりの大切さを知ってもらおうと、自身の出席する会合も含め色々な場所に引っ張り出す事になった。
そして今所長に連れられ、力の籠った演説と整った髪型が自慢な時のアメリカ大統領『ナドルド・ラトンプ』と面会、どういう訳か某所にあるミサイル格納基地に案内を受けていた所である。
辺りでは制服に身を包んだ職員達が行き来を繰り返したり、制御コンソールの前でせわしなくキーボードを叩いては、ミサイルサイロの映像をモニタリングしている。
大統領はアメリカにおいて最新鋭のロケット技術が使用されていると豪語しているが、彼女にとっては数世代は遅れた代物にしか見えず、はっきり言えば全く興味を引く物でなかった。
とは言え、ここに引っ張り出した所長に対しては、自身のISを見出した張本人である為に少なからず恩義はあるので、メンツを潰さぬ様最低限の愛想笑いだけは浮かべて外面を取り繕っていた。
これでも彼女としてはかなり譲歩しているつもりで、一学生に過ぎなかった頃は平然と他人を無視する事も当たり前であった。 友人の千冬に性格を矯正され、ようやく多少はマシになったのだが。
「……と、言う訳だ! だからこのミサイル基地は、外部からのサイバー攻撃に対する安全性は完璧なんだ! なにせ物理的に隔離されてれば、ハッキングも糞もないからな!」
「は、はあ……しかし良かったのですか大統領? JAXAみたいなロケット技術を扱う職員である我々に、そんなミサイル基地を見学させてしまって」
「フフン! むしろ真似をできるものならやってみろと言う訳さ! それに君は口が堅い男だ、むやみに秘密を喋る訳ではない事ぐらいわかるよ!」
「恐縮です大統領」
「(あ ほ く さ)」
真似どころかもっといい物作れるよ。 束は心底呆れ返りながら、大統領と所長の会話を流し聞きしていた。
すると大統領は、付き添いの警備員から彼が持っているトランクを預かり、所長の目の前で鞄を開いて見せた。
「もし基地以外の場所から、ここに格納されてる弾頭を発射できる方法といえば……このボタンを押す以外には無理と言う訳だな!」
「!! そ、それは……!!」
大統領は黄と黒の縞模様で縁取られた赤いボタンを中から取り出し、堂々と見せつけた。 所長は目を剥き、束も内心驚きを感じていた。
これは……所謂
「おっと、押させないよ! 人に触らせでもしたら黙示録まっしぐらだ! HAHAHAHAHA!」
「は、早く仕舞って下さい! 万が一スイッチが入ったら――――」
「心配ないよ! 扱いは心得てる! 何せ私はこのスイッチをよく懐に入れて、日夜を共にしているくらいだからな!」
「(危ねぇことすんなよッ!!)」
ジョークなのか本気なのか、しかし人前で危険なスイッチを取り出すと言う、リスク管理も糞も無い行為に束は遠目ながら冷や汗を流していた。
外部からは確かに物理的に回線が切られていて、ネット回線でのやり取りはできないが、しかし他ならぬ大統領がミサイルのスイッチをそんな雑に扱っていては、いつ弾頭がうっかりはっしゃ! されるか分かったものでない。
しかもここにあるミサイルはいずれもICBM……一度飛び出したら地球を数分で半周する速度で飛来する。 そんなものが万が一全弾発射された日には、いくら
高い国防意識の影に隠れた意外なガバガバさに、見たくもないものを見てしまった気分に陥る束だった。
「お、束君だったかね? 少し疲れているようだね」
「! ま、まあ……」
あんたのせいだと言いたいがぐっと堪え、とりあえずは軽く相槌を打った。
「奥に休憩室がある。 案内しよう……行こうか所長」
「ええ。 来なさい束君、お言葉に甘えるとしよう」
「はぁーい……」
まあ、長旅もあって色々と疲れていたのは事実だ。 所長や大統領の言う通り、ここは休ませて貰おうと考えた束は力無く返事しながらも、大統領と所長の後に続いて廊下を歩いて行った。
ついた先で扉を開けると、簡素だが小奇麗に清掃された小部屋があった。 壁際にはロッカーに冷蔵庫と液晶テレビ、部屋の中心にはトースターの置かれた机とパイプ椅子が用意されていた。
「さ、ここでゆっくり休んでいきなさい。 小腹が空いたのなら、そこにある冷蔵庫の中身とトースターでも好きに使ってくれるといい。 但しもう少ししたらランチだからね、食べ過ぎには注意だ」
束を席につかせながら、テーブルに手をつきあちこちを指差し説明する大統領。
「大統領のおっしゃる通り、君はここで休んでてくれ」
「それじゃあ失礼するとしよう。 私はまだ彼と積もる話があるのでね。 また後で!」
大統領と所長は束を残し、談笑しながら休憩室を去っていった。 去り際に扉を閉め、彼らが立ち去ってようやく一人きりになった時、束は一息ついて机に突っ伏した。
「あー! つまんない!! だるっ!!」
一部刺激的な展開もあったが退屈な話を延々と聞かされ、ようやく解放された所で息抜き出来た束。 何度も言うが彼女にとっては退屈この上ない。
所長は良かれと思って自分を外の界隈へ連れ出してくれたが、はっきり言えばお節介であった。 同じ研究員でさえ自分の頭脳について行ける人材はそうそう居ないと言うのに、ましてや科学者でもない人間と付き合いを持った所で興味など持てるはずもない。
自分の親でさえ冷めた目で見て、数少ない興味を引く相手と言えば友人の織斑千冬やその弟の一夏、そして実妹の箒ぐらいである。 半ば強引に引っ張り出された形であるが、こんな事なら無理に突っぱねてでも、まだ研究施設に籠って一人で
「
発明品の研究開発において、束はちーちゃんこと千冬に秘密厳守の下で動作テストの協力を申し出ている。 予定通りなら今頃は、なるだけ目立たない範囲ではあるが日本の空を舞っている頃だろう。
人がレプリロイドと対等の力を持ち、自由に宇宙を飛んで回れる彼女の夢を詰め込んだ発明品を身に着けて。
米国の滞在期間はあと3日、それまで退屈な時を過ごさなければならないと思うと憂鬱だった。
「はぁ……お腹もすいたな……何か口にしていいって言ってたし、ここは頂戴させてもらお」
束は立ち上がって冷蔵庫を漁る。 中には色々入っていたが、この後昼食の予定もあるとなると余り食べ過ぎるのも良くない。
なので中から適当に食パンを取り出し、机の上のトースターを使ってパンでも焼こうと思った。 トースターのコンセントを刺し、食パンを挿入していざ焼きに入りかけたが――――
「あれ? おっかしーな?」
タイマーを捻っても手応えを感じない。 中のゼンマイが音を立てる様子もなく、電気が通じているとも思えなかった。 一旦パンを抜き出すと、トースターを振ってみた。
「どっかイカレてるのかな、全然熱が入らない!」
いつもの彼女なら、ここでさっさと機械を分解して直してしまうだろう。 しかし退屈さを拗らせて腹も減り、不機嫌極まりない今の束には修理という発想に行きつかなかった。
生で食パンを食べればいい話だが、意固地にもなってしまっている。 コンセントが刺さっているにも拘らず、さっさと動けと言わんばかりに乱暴にトースターを縦に振った。
「さっさと動けこのポンコツ!!」
不調が直る筈もなく、苛立ちからつい乱暴にトースターを机の上に叩きつけてしまう――――その時だった!
同じタイミングで、所長と一緒に部屋を出て行った大統領が扉を開け、慌てて戻ってきたのだ!
「私とした事が! ミサイルの発射スイッチを忘れてきてしまった――――」
「「は?」」
突如、館内全域に緊急警報が発令された。 前触れの無い出来事に束と大統領は目を丸くする。
瞬時に慌ただしくなる職員達の様子が部屋の外から伝わってきて、束は只狼狽する事しかできない。
「一体何が起きたの――――」
「大変だ!! 急にミサイルが発射準備に入ったッ!!」
「えっ?」
「何も操作していないのに突然命令が出た!? しかも攻撃目標は日本だって!?」
「ファーーーーーッ!?」
次々と外から聞こえてくる職員達の慌てふためく声に、束は叫び声を上げた。
何故!? 職員にも状況を把握できていない中で突然発射準備に入ったミサイル、外部からのアクセスは物理的にも不可能な筈で、唯一方法があるとしたら大統領の持つ赤いスイッチ――――スイッチ?
……そう言えば大統領が入って来た時、彼は何と言っただろうか? 束はもう一度彼の言葉を思い出してみた。 発射スイッチを忘れてきたと言って、部屋を出て行って間も無くして引き返してきた。
ならばスイッチはこの部屋に置き忘れてしまったと考えるのが自然だが、それでは大統領は一体どこにスイッチを? 気になった束は部屋を軽く見渡してみたが、あの特徴的な色と形のスイッチを見つける事はできない、が。
何故なのか、自分が八つ当たり気味にテーブルに強く置いたあのトースターが目についた。
「……まさか」
嫌な予感がする。 束は恐る恐るテーブルに叩きつけたトースターを持ち上げた。
そしてお目当ての赤いボタンはあっさりと見つかった。 トースターのすぐ下から。
背筋が凍る感覚に頬を押さえ仰け反るように大声で悲鳴を上げる束。 大変な事になってしまった。
「ど、どういう事だ束君!! まさか君がスイッチを!?」
「なんでこんな所に核ミサイルのスイッチがあああああああああああ!? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでッ!?」
束は自覚してしまった。 衝動的に叩きつけたトースターで、自分が核ミサイルのスイッチを押してしまった事実に。
錯乱する束を大統領が制止する。 しかし中学にして既に、大人顔負けの体力を備えていた束のパニックを押さえる事は出来ない!
「落ち着きたまえ! 誰にでも失敗はある! まあちょっと大きなロケット花火が打ち上げられるだけだと思えば――――」
「アンタが軽はずみに赤いボタンなんか持ち歩くからだろうがぁッ!!!!」
「合衆国憲法修正第2条さ! いちアメリカ人の大統領ともなれば、自衛の武器もグレートなものさ! HAHAHAHAHA!」
「冗談はアンタの生え際だけにしとけッ!! 付き合いきれるかッ!!」
緊張感と言う言葉が1㎜も感じられない気楽な大統領の言葉は、束の神経を逆撫でするには十分だった。
大統領を引きはがすと憎々しげに中指を立て、部屋を飛び出していった。 部屋に残されたのは呆気にとられた大統領一人。
「全く、最近の女の子は随分パワフルになったもんだ」
困ったように笑いながら、参ったねと言わんばかりに両腕を広げる大統領の姿には一瞥もくれず。
※合衆国憲法修正第2条とは……身も蓋もない言い方をすれば、自衛の為に武器を所持する権利である。
今回の話を持って、今年の投稿を終えたいと思います! 皆さん良いお年を!