ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
「ちーちゃん聞こえる!? 『例のアレ』のテスト中でしょ!? そのまま太平洋に向かってッ!!」
<ど、どうした束!? 電話かけるなりいきなり――――>
「いいからッ!! 早くしないと取り返しのつかない事になるよッ!!」
駆け足で来た道を戻りながら、電話越しに日本にいる千冬に大声で捲し立て、一方的に電話を打ち切った。
開けっ放しの扉に飛び込んだ先の管制室は、それはもう閑静な住宅地で突如猛獣に出くわしたような大混乱であった。 既にミサイルは発射態勢に移っており、サイロから点火して飛び立つまで既に秒読みが終わる段階に入っていた。
目標は先に管制室に向かった職員達が叫んでいたように、部屋の天井からぶら下がるように取り付けられたモニターに、しっかりと日本列島が映し出されていた。
着弾点は東京のど真ん中、命中すれば日本国の政府機能は完全にストップすること間違いなしだ。
そして今、必死で発射命令を中断しようとする職員の懸命の努力も空しく、無情にもミサイルは点火されサイロを飛び出していった。
「大変だ!! ミサイルが発射された!! 繰り返す!! ミサイルが発射されたぁッ!!」
「うっがあああああああああああああああああああああああッ!!!!」
見た目可憐な女の子に似つかわしくない雄たけびを上げながら、ミサイル管制用のコンピューターに目掛けて束は突進した。
「き、君はJAXAの所長といた――――」
「そこどいてっ!!!!」
基地の職員が部外者に対して声を上げるのを無視しながら、束は椅子に座っていた職員の一人を跳ねのけ、こけそうになった職員が端末にしがみつこうとするのを横目に、代わりに自分が端末を素早く操作し始めた。
「な、何をするんだね――――」
「ミサイルの自爆コードは!?」
抗議の声を上げる職員に、束は構わず発射されたミサイルの自爆を試みる。
「こうなったら起爆する前にミサイルを自爆させるしかないでしょ!? 早く答えてッ!!」
「――――き、自爆コードは『TN-1919-OK』だ――――「うりゃああああああああああああああああッ!!!!」
束は悲鳴に近い叫び声をあげながら、発射されていったミサイルに対し片っ端から自爆コードを入力する。
タイピングの速度たるや、文字通り目にもとまらぬ鬼気迫る指さばき! 自爆命令を受けたミサイルはロケットエンジンを自壊させ、起爆用の信管を全停止しながら墜落していった。
その間にも束は間髪入れずに次々とコードを打ち込み、弾頭はいずれも太平洋に墜落し海の藻屑となっていった。
「すごい! 120基あった基地のミサイルの大半を落としてるぞ!」
驚嘆する職員達。 ものの1分で発射されたミサイルの3/4は自爆させたが、それでも何発かは『撃ち漏らし』が発生した。
基地に配備されていたミサイルは極めて高性能で、弾頭の飛来する速度は既存の物と比べて圧倒的に早く、既に着弾までの距離が残りわずかに迫っていた。
自身の限界を超えた入力に体の全神経が焼き切れそうになる中、束は端末を素早く操作し、衛星のカメラを駆使して千冬のいるあたりの座標をモニターに表示した!
映し出された画面に、全職員がさらなる驚きの声を上げる。
「レプリロイド――――いや違う!! 何だあのパワードスーツ!? あんな速度で飛ぶなんて!?」
そこには秘蔵の発明品、開発コード『白騎士』なる名を与えられたパワードスーツを身に纏った千冬の姿があった。
彼女の目前には、束が撃ち漏らしたミサイルが猛烈な速度で向かってきていた。 束はマイクのスイッチを入れ、モニタ越しに向こう側の状況を見ながら千冬に指示を飛ばす。
「ちーちゃん聞こえる!? 今どの辺!?」
<勝浦の研究施設を飛び立って直ぐだ! 現在本土より――――何だあれは!?>
千冬の驚きの声に出迎えられるように、スクリーン上に映る太平洋の向こうから現れるは、今正に束が必死に着弾を食い止めようと躍起になって墜落させている厄介者。 映像と基地内のデータで見るに2~30基は生き残った、迫り来る核弾頭だった。
「核弾頭だよッ!! 手違いでアメリカのミサイル基地から発射されちゃったんだよッ!!」
<はあああああああああああッ!?>
「今必死こいて自爆コード入力してるけどとても追いつかない!! 悪いけどその機体で
<無茶言うなッ!! いくらなんでも速度差があり過ぎるッ!!>
「承知の上だよッ!! 一発でも当たったら誤射じゃ済まされなくなるんだよッ!! いいからやってッ!!」
抗議する千冬に無理からでもやれと強要する束。 あの機体……テスト段階で検証不十分な白騎士で、飛来する核弾頭を撃墜するのははっきり言って無茶だが、そんな事は承知の上だ。
だからこそこうして両手を忙しなく動かしながら、友人にも聞かせた事も無い罵声混じりで指示を飛ばしているのだ。 何時になく必死な今の自身の状態は、この先一生あるかどうかも分からない。 次々と墜ちながらも迫り来るミサイルの姿もあってそれを察してくれたのだろう。 千冬は無線越しに舌打ちをしながら、唯一試作機に実装していた装備である大剣を展開する。
<クッ……ああ分かったッ!! 全部撃ち落とせばいいんだなッ!? ――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!>
雄叫びと共に、迫るミサイルに真っ向から飛び掛かった。 瞬時に機体の持ちうる最高の速度を叩きだし、剣を振りかぶって空気の壁をうち破る
そして通常肉眼では到底捉えられないであろう速度で対抗する、一番先頭に迫るミサイルに果敢に斬りかかる! ――――両断!
機体と同じ丈を持つ剣のリーチよりも遥かに大柄なミサイルを、ナイフで切り込みを入れられるバターの様に端から端までスライスされ、すれ違った頃には真っ二つに切り裂かれ、ワンテンポ遅れて空中で爆発する。
千冬は成果を我が目で確かめる間も無く、コンマ1秒にも満たない速度で次のミサイルに斬りかかる! これもまた同じ――――次々と核弾頭を斬り伏せ、起爆する事無く養生にミサイルを叩き落とす
他の職員が感嘆する間にも、束と千冬は人並み外れた戦果を挙げていく。 一発でも当たれば即終了、失敗は許されない未曽有の危機を当人らの必死の努力によって、恐るべき暴力は残り2基と相成った。
そして、互いに最後となる束のコード入力と千冬の剣の一振りが、それぞれのミサイルに叩きこまれ――――日本のみならず、世界に降りかからんとした災厄は払われた。
「な、何とかなった……危なかった……マジヤバかった」
<はは……機体が熱い……。 全身から煙を吹いてしまっているよ>
「束さんもだよぉ……」
職員同士の歓声と抱擁に満ちた祝勝ムードの管制室において、束は端末に突っ伏して首を横を向きながら、モニタに映る千冬こと白騎士は宙ぶらりんに項垂れながら、共に体の至る所から文字通り煙を吹いていた。 いろんな意味で
「やってくれたな束君! それとテストパイロットの――――誰かは分からないが……それよりもだ、まさか日本があんな隠し玉を持ってたとは驚きだ!」
「篠ノ之束……ここにいる彼女の発明です。 名付けて『
「確かに! 重力を無視してあれだけ飛び回れるとは、素晴らしい性能だ! 中のパイロットも含めてな!」
いつの間にやら管制室に戻ってきた大統領とJAXA所長。 2人はモニターに映る白騎士を見て満足そうに頷いた。
束としてはこのままひと眠りつきたい所であったが、耳についた大統領の声に苛立ち紛れに呟かずにはいられなかった。
「よくぬけぬけと褒めちぎれたもんだね……私はまだ
<……ところでだ束>
ふと千冬が尋ねてきた。
<よくアメリカのミサイルが日本に目掛けて飛んでくるなんて知る事が出来たな? 誰からの情報だ?>
彼女からの問いかけに束は心臓を鷲掴みにされる思いをした。 命中を防ごうと躍起になっていて頭から飛んでいたが、そもそもミサイルが発射されたのは、元を正せば大統領のスイッチの管理が杜撰だったからだが、結局自分がトースターに八つ当たりしたはずみだった事実に変わりはない。
単純に核兵器を斬り伏せたくだりだけならまだしも、事件の全貌なんて迂闊に口走れば自身と白騎士の経歴に汚点を残しかねない。 どうやって言いくるめたものか束は苦慮していた……そんな時であった。
白騎士の背景に映る陸地の方から何隻もの中型船がこちらに向かっていた。
「あれは海上保安庁の巡視船だな。 どうやら今になってようやく動き始めたらしいな」
所長が画面に映る船を見て言った。 日本に飛んできたミサイルが次々と洋上に墜ちたのを調査しに来たのだろうが、予告なしのいきなりの発射に対しては中々に早い対応だ。
そうなるとミサイルを撃墜したこの白騎士も、勿論補足されているかもしれない。 現物を直にみられる前に早く撤収するよう、千冬に求めようとした辺りで異変は起きた。
関節から煙を噴いていた白騎士だが、背後から爆竹を破裂させたような小さな爆発が起きた!
「へっ?」
突然の出来事に間抜けな声を上げた束を切っ掛けに、お祝いムードにあった職員達が一斉に沈黙、皆してモニターに目を奪われた瞬間――――
<お、おいどうした――――うわっ!? 何だこれは!!>
白騎士が撤収するどころか、今正にヘリが飛び立とうとしている調査船の一隻目掛けて突進していったのだ!
束が驚く間もなく、白騎士は大剣を振りかぶりヘリコプター諸共船を攻撃! 乗組員にこそ直撃しなかったが、船とヘリは爆発炎上し乗員全てが海に放り出されてしまった。 白騎士は彼らに構わず次なる標的に襲い掛かる!
「ちょっとちーちゃんッ!! 何してんのッ!?」
<こっちが知りたいぞッ!! 機体が暴走して全く言う事を聞かないッ!! ――――バカやめろ!! よせえええええええええええッ!!!!>
束一同、騒然となる。 白騎士は煙を上げながら、ただミサイルの破片を回収しに来た罪なき船を両断する。 必死でパイロットの千冬が抵抗するも、時折空中で動きを制止する程度で完全に白騎士の動きを止めるには至らない。 正に焼け石に水だった。
次々と無慈悲に船を沈めていくその光景に、否応なしに先程ミサイルを次々と斬り伏せていった姿と重ねて見てしまった。 人類を高みに導く
「……折角助かった同胞を斬り捨ててるぞ? 日本人はクレイジーだ」
「束君! これは一体どういう事なんだ!?」
驚き呆れる大統領の呟きの後に、背後から所長が束の両肩を掴んで捲し立てる。 振り返った先にある彼の目は見開かれ、荒ぶる声色からは焦りの色が滲み出ていた。
彼は束の性格については危うさを感じていたものの、その英知や極めて高い技術力、そして技術屋としての志そのものについては全面の信頼を寄せていた。 だからこそ彼は保護者として後ろ盾にはなってくれてながら、IS開発の権限については彼女自身に一任していた。
そんな彼に対し、極度の人間嫌いなりに抱いていた恩義を裏切りかけている。 束は目の前で繰り広げられる、自慢の発明品が織りなす大量破壊に混乱していたが、その原因はあっさりと思い当たった。
熱暴走――――なんて事はない、機械にありがちな初歩的なトラブルである。
そもそもがこのIS、実働テストを始めたばかりで設計面の洗練などされていない。 むしろ周りからは苦言を呈されてもガン無視を決め込みつつ、これでもかと言わんばかりにやれ装甲や耐弾性能の強化など、排熱なんて2の次で各種機能を突っ込みまくった記憶がある。
無論故障のリスクは高まるが、そう言った面を含めてデータ取りをするつもりだった為、彼女は問題視などしていなかった。 そんな物を今回の様に、非常時にいきなりぶっつけ本番で限界を超えた稼働状況に置かれれば、何らかの不具合が発生するのは当然であった。
言わば良かれと思った事が全て裏目に出た訳だが……気付いてしまった瞬間、束の中で何かのネジが飛んだ。
「ふっふふっ……」
目も当てられない惨状に立て続けに巻き込まれた可笑しさからか、束の腹の底から変な笑いが込み上げてくる。
「ふはは……あははははは……!!!!」
額に手を当て、余りの可笑しさに笑い出す束の異様さに気付いた所長が、慌てて彼女から手を放す。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。 束はかつて思い描いていた。 自分の能力はおろかISの理念さえ認めなかった連中に対し、圧倒的性能とかつてない汎用性。 何より、遍く星々の煌く宇宙を自在に飛び回れるこの白騎士を引っ提げ、堂々と見返してやりたいと言う野望に近い夢を抱いていた。
それをたかがトースター一つの為に大惨事になりかけた上に、自慢の発明品の暴走と言うやらかしをしてしまえば、最早このISを華々しくデビューさせるなんて事実上不可能であった。
出来れば核のボタンを置きっぱなしにした大統領を責めてやりたいが、このまま全てが明らかになれば、白騎士はオムニ社のポンコツ並みとか、自分にもトースターで核を誤射した女のレッテルを張られてしまう。
襲い掛かるミサイルを全て斬り伏せ、周りの船舶をも沈めた事実を認めながら、トースターに意図した設計ミスからの大暴走と言う汚点を包み隠す方法――――実は、束はそのやり方について一つの結論にたどり着いていた。
これを行ったが最後、最早自分は2度と後戻りはできないだろう。 しかし束にとって、自分のキャリアにケチがつく事だけはどうしても許容できなかった。
故に彼女は決断した――――例え天才の2つ名が『天災』に変わろうとも。