ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
「あーあ、折角パニクったフリまでして場を盛り上げてやったってのに、こんな土壇場で機体を暴走させちゃうなんて。 私もまだまだって所かな☆」
「……束君?」
破壊活動を繰り広げる大型モニターの映像を背景に、職員達に振り返った束はうって変わり、おとぼけた様子で自らの頭を小突いて見せた。
目の前で繰り広げられる惨事と裏腹に、いたずらっ子の様な仕草を振舞う彼女の姿はどこか狂気的に見えたであろう。 JAXA所長をはじめとする大勢の人々に困惑の色が滲み出る。
「まーだ分かんないかなあ? こんな事もいちいち説明しなきゃなんないから、頭の悪い凡人共は困るんだよ♪」
片足を軸にくるりと一回転、おどけて回ってみせる束。 それでいて冷酷に見下すような物言いに対しても、束から醸し出される異様な雰囲気に飲まれ、職員達は一言も言葉を発するが出来ずにいた。
固唾を呑んで次の言葉を待っていると、変わらずどうという事は無い口ぶりで束は語った。
衝撃の告白に、一同どよめきが走った。 その時丁度、モニター内の白騎士が最後の一隻に特攻し、自機諸共船を沈めた瞬間であった。
「凄かったでしょ? 本当はいっその事全世界のミサイルも発射してやりたかったんだけど、流石に物理的にアクセスする方法が無くって妥協しちゃったんだ♪ でも、これでISの性能の凄さが皆には伝わったでしょ?」
「な、何を言っているんだ……ISの性能の凄さとは、まさか!!」
「うんうん♪ 流石に所長さんは気づいてるみたいだね♪ ミサイルを発射したのも、ISをけしかけて撃墜させたのも、全部束さんがISを世界に知らしめる為に仕掛けたマッチポンプなのだ!」
所長の表情が凍り付いた。
「……それは、本気で言ってるのか?」
「同じ事言わせないでよ♪ ぶっちゃけまあ、ミサイルが仮に日本列島に命中した所で知ったことじゃないよ! どうせ日本に住んでる連中なんか、私があるべき人類の未来なんか説いたって聞く耳持たないアホッタレの無能揃いなんだし! 何だったら、アンタ達も私のISの恐ろしさでも味わってみる? ちょっと海に沈んだ程度ならすぐ呼び戻せるよ♪」
職員たちが一斉にたじろき、所長は青ざめて身を震わせる。
彼なりに束を信じて任せてきたであろう気持ちを、一歩間違えればただ事で済まないミサイル発射と言う形で、平然と最悪の裏切りで踏みにじる。 それどころか自分にたてつくようなら、あの船もろとも沈んだはずのISをこちらにけしかけてやると伝えると、絶望の色に染め上げられた所長は膝から床に崩れ落ちた。
周りの職員に介抱され、その他職員は束に対して怯えの感情の籠った目つきで見ていた。
対して束はすっかり得意げになっていた。 自らの発明にケチをつけられたくないという一心から、半ばヤケクソじみた開き直りにより、ありもしないマッチポンプをでっちあげてみたものの、先程のミサイルや巡視船を沈めた白騎士の働きもあって、まんまと相手を信じこませる事が出来たようだ。
そう、彼女はこれら一連の行いが全て、ISのお披露目の為だと嘘をつく事を選んだのだ。
半ばというよりは明確にヤケクソじみた行いであるものの、自分でも信じられないような畜生の鏡のようなセリフが流れるように出てくる事は、束自身をしても驚きであった。
まあ自分を認めてこなかった日本の学者連中が、一度痛い目を見ればいいと思っていたのは紛れもない本音であり、ここぞとばかりに恨み節をぶつけているのには違いはない。
このままもっと話を大げさに振舞い、基地の爆破をほのめかしたり、ISを使って世の中を好きに引っ掻き回せるとでも思わせておけば、相手はおのずと自分にひれ伏すだろうと彼女は思っていた。
それこそが多感な中学生にありがちな、乱暴に言えば誇大妄想だと彼女は気づかなかった。 どうせ子供だから仮に嘘がばれても、悪戯で済まされるだろうと言う甘い考えもあった。
ISにケチがつく事を恐れるあまり、土壇場で偽悪的すぎるハッタリをかます事が、今後の彼女の命運を分ける切欠となろうとは。
「束君。 私は非常に残念だ」
今まで黙って話を聞いていた大統領が口を開いた。
「君がまさか、自らの功名心の為に犠牲を厭わない性格だとは思わなかった……君を信じてきたJAXAの所長には悪いが、私はしかるべき対応を取らなければならない」
大統領は右手を掲げて指を鳴らす。 すると開かれっぱなしの管制室の入口から、武装したレプリロイドの警備員が6人ほどやってきた。
「子供のいたずらにしては度が過ぎているな――――彼女はミサイルを発射しようとしたテロリストだ!」
「え?」
銃を構えてにじり寄る警備員たちに束は面食らった。 大統領とてスイッチを置き忘れた落ち度だが、まさか警備員をけしかけて子供相手に武器を突き付けるとは、この時の彼女は思ってもいなかった。
「やだなぁ。 こんなちょっとしたジョークでマジになるなんて大人気ないんじゃない?」
「戯れでミサイルを発射されては困るんだよ。 うっかりミスではなく故意に撃ったとなれば、私とて擁護のしようがないな」
余裕ぶるも上ずった声で頬を引きつらせる束に対し、大統領はいかにも悪そうに不敵に笑った。
「私にも管理が甘かった落ち度はある。 が、まさか発明のお披露目の為に、この私から核のスイッチを盗み出そうとは不埒極まりない。 彼女の脅しに……我々はテロリストには屈しない。 たとえ子供相手でも容赦はない」
「ぶっ!! ちょ、ちょっと待てオッサン! 盗むも何もアンタがスイッチを置き忘れていくからじゃない!!」
どさくさ紛れに自分の落ち度を押し付けてくる大統領に対し、束は焦り声で反論する。
「スイッチを忘れた? 私がそのような大事な物を無くすとでも言いたいのかね?」
「嘘つけ!! 自分ではっきりそう言ったじゃない!!」
「どこにそんな証拠があるのかね。 第一そうだとしても、君がスイッチを押したのは事実だろう?」
「んがッ!!」
無論、束が苦し紛れにつき始めた嘘だとはその場に一緒にいた大統領は知っている。 知った上で大統領は彼女の嘘を後押ししているのだ。
彼女は失念していた。 例え根拠のない嘘だったとしても、土壇場で余計な事を口走れば言質を取られてしまうと言う事を。
発射されたミサイルを慌てて撃墜するまでは良かったのだが、自慢のISにケチがつく事ばかりを恐れ、悪の天災科学者を気取る事が自分の身に何をもたらすのか、信じられない話だが彼女は全く理解していなかった。
やってもない事をやったというだけでも罪に問われかねない。 言うまでもなく当たり前の話なのだが、束があまりに対人に疎く、やっかみと叱責を区別する術を持たなかったのは不運と言う他無い。
して、トースターの誤爆を包み隠すついでに、あわよくば相手をビビらせてやるつもりが、予想外の反撃を食らい束は泡を食った。
「ほ、ほんの軽いジョークじゃない……どうしてここまでされなきゃいけないのさ! 私は天才束さんだよ!?」
「同じ事を言わせないで貰いたい。 戯れでミサイルを発射するなとな……逮捕されて当然の事をしているのだよ? 例え天才科学者であっても!」
「だから!! ジョークなのはミサイルを故意に発射した部分だって――――」
「下手な言い逃れは止めたまえ!! 吐いた唾を飲み込めると思ったら大間違いだ!!」
束は周囲を見る。 大統領の堂々とした態度に対して弱気になってしまったからか、職員達が怯えから一気に彼女への激しい敵意を孕んだ鋭い視線をぶつけていた。 それどころか彼女を逃がすまいと周囲を取り囲んでいる。
彼女に突き刺さる怨嗟の視線は、かつて平然と無視してきた学生時代の生徒や、教師達の妬みの籠った目つきとは訳が違う。 明確に恨まれるだけの理由が篭った、文字通り人を射殺すような視線。 正に針のむしろに立たされた気分だった。
こうなると最早、言葉を翻して正直にうっかりミスを認める事も出来ない。 完全に自業自得である。 こんな事なら、つまらない見栄なんて張らなきゃよかったと痛感するが、時既に遅し――――
篠ノ之束……大統領命令により14歳にして、アメリカのミサイル基地にて拘束される。 後にこの事件は『白騎士事件』として大々的に報道される事になった。
「はうあッ!!」
悪夢にうなされた束が飛び起きたのは、既に深夜を回ってからの事だった。 自分の身体を見ると華奢な中学生の物ではなく、胸や腰のふくらみもある大人の身体に戻っており、夢の世界から帰ってきたのだと実感した。
額の脂汗を拭い、暗がりの中で指針に緑の夜光塗料が塗られた時計を見ると、時刻は2時ジャストをさしていた。 動悸が高まり、嫌な汗に包まれた最悪の寝覚めだ。
夢を通して思い出した『白騎士事件』を束は苦々しく思っていた。 ミサイル基地での拘束から当局に身柄を引き渡された後、米大統領は大統領の声明によって公に晒された。
束がJAXAの職員だった事もあって見事に国際問題に発展し、アメリカは日本に対しこれらの件を外交カードとして、ISの取り扱いに関する『アラスカ条約』を締結させた。 表向きは軍事利用を禁じるなどの平和的な条約だがお題目のみであり、ISの開発で培った技術関連の無償譲渡に、教育機関設立の負担、今後生産されるコアの所有権は全てアメリカが独占するなど、極めて不平等な条約だった。
その間束と言えば司法取引により、アメリカ国内の研究施設に移送された後、ほぼ軟禁に近い状態で初期ロットとして約2000個近いISコアの製造を命じられた。 最初はISが普及する為と言う事で泣く泣く我慢していたが、自由奔放を望む彼女が行動を監視下に置かれるのは耐え難い事であった。
そんな束が467個目のコアの製造を終えた時、ある大事件のどさくさに紛れて脱走を図ったのは、至って自然な事であった。 歴史上初となるイレギュラー『シグマ』の引き起こした、大規模なレプリロイドの反乱である。
混乱の最中、束は逃げ出すついでに初期生産分のコアの大半を、アメリカ政府の手垢がつく前に諸外国へ流出させ、ライセンス料で一儲けしようとした彼らの目論見をくじくと共に、騒乱によって生じるレプリロイドへの信頼の悪化を見越して、ISの普及と技術の発展を促そうとした。
しかし彼女の狙いは外れた。 何と騒乱発生から間もなくして、イレギュラーハンターであるエックスがさっさと事件を解決してしまったのだ。 ロックマンの後継者たる彼が身内の不始末を片付けた事で、世間のレプリロイドに対する関心は余計に高まる事となった。
それでも束はめげずに、頃合いを見てはISの優位性を伝える為、先の『白騎士事件』の話を盛ってネットの海に放流し関心を集めようとした。 成果は芳しくなく、それどころか事件そのものが束の手を離れて段々と大げさに膨れ上がるばかりであった。
曰くミサイルは全世界の物をハッキングして計2341発同時発射された。 白騎士をほかくにやって来た戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、仕舞には監視衛星8基を撃墜した。 等と、どう考えても与太話以外の何者でもないが、実際にデマを流して情報弱者を釣ろうとする連中のおもちゃにされただけであった。
今日に至るまで、束は事ある毎に事件を起こして関心を得ようとするも、毎年恒例のお祭りの如くシグマが世界規模の反乱を起こしては、それをエックスが解決するという図式に振り回され続ける事となる。 彼女がレプリロイド嫌いになる最たる理由であった。
ISは最先端技術の一翼を担う存在でありながら、知る人ぞ知るマニアックな存在となる運命を余儀なくされた。
「……何で昔の夢なんか見るんだよ。 忌々しい」
束は深くため息をつく。 こんな事になるならつまらない嘘などつかなければよかった……とはならない。 親が子を守るように、自分の作品を何があっても守り抜くのは当然の事であると考えていたからだ。
結果については受け止めなければならないとは思えど、イレギュラーにこっぴどくやられても、まだレプリロイドに固執しようとする愚かな連中に迎合するつもりなど1㎜も無い。
思い通りにならないこの世界を変え、遍く篠ノ之束の天賦の才と英知の結晶を知らしめる為なら、例え嘘に嘘を重ね『天災』と呼ばれてでも道化を演じきってみせる。
束は黄金色の髪を散らして隣で眠るゼロを流し見て鼻息をつくと、再びベッドに横たわり明日に備えて寝直す事にした。
「(見てろよレプリロイド! いつか束さんを徹底的に邪魔した事後悔させてやるんだから!)」
束はゼロの横顔を憎々し気に眺めながら、眠りの中へと落ちていった――――
――――と見せかけて、束はシーツから滑り出て思いっきり転げ落ちると、立ち上がり際にベッドを怒りのまま思いっきり引っ繰り返した!!
流れる様にちょっかいを出す男、復活のハンター『ゼロ』!