ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
第23話
翌朝、グランリゾート『syamu_hotel』が3Fにあるレストラン『
あれから結局ロクに寝付けなかった束は不機嫌な表情で、朝食にしては重い当店自慢のグランメニュー『カツカレー炒飯』をヤケ食いしていた。
スプーンに掬った炒飯とカレールーを、ほぼ噛まずに飲み込む勢いで半分以上を平らげる皿の隣には、既に5枚の空き皿が積み重なっていた。
「た、束……気持ちはわかるけど落ち着いて食べなよ。 体に悪いぞ?」
引き気味の声で宥めるは、正面に座るエックスだ。 束は口の中のカレーを飲み込み、透明なグラスに入っている水を一気飲みし、食道の詰まりを胃の中に流し込む。
グラスを強く置き、束は未だ収まらぬ怒りのままに捲し立てた。
「これで食わずにいられないよ! ただでさえストレス溜まりまくってイライラしてんのに!」
「全く……俺が隣で寝てたぐらいでギャアギャアと――――」
「他人事みたいに言うなよイレギュラー」
束が睨むは額を押さえるエックスの隣に腕を組んで座る、タダでさえ長い黄金色の髪が呪いの市松人形さながらに、2倍にも3倍にも伸び切った後頭部を支えるゼロの姿があった。 至極重そうに、首を後ろに傾けたりしていた。
目が覚めたら束に詫びを入れると言っていたにも拘らず、舌の根も乾かぬ内にセクハラをしに行ったゼロが、ベッドごとひっくり返される音を聞いて飛び起きたエックスに、彼が脅し文句がてらに口にした『髪を結んでベランダから吊るす』を文字通り実行したのが昨日の深夜。
吹きっ晒しの夜風に体を揺られる内にどんどん髪が伸び、今や絨毯敷きの床を引きずる程に伸びてしまっていた。 そのせいで起床の際、エックスの部屋の下層にあたる宿泊客に自殺者が出たと騒がれたり、伸びた髪を引きずって歩いた為に絨毯敷きの床の埃を巻き込んで、部屋からここに来るまでにいたずらに埃を巻き上げたり等、完全に迷惑な客と化していた。
当然のように、ゼロの隣を通りがかる客は、圧倒されたようなまなざしで地面に垂れるゼロの髪を見ては、そそくさと露骨に避けていた。
「と、とにかく……会議自体は確か今日の正午から行われるんだろ? これ食べたら早く関空に向かわなきゃな」
「そーだね! 全く、もうこんなトラブルはこれっきりにして欲しいよ――――おかわり!」
「まだ食うのか……」
エックスはため息をついた。
結局食事が終わったのは、そこから更に追加で5皿ほど食べきってからの事であった。 幸いこのホテルは、宿泊客向けのサービスで関空行きの連絡橋を行き来する無料のシャトルバスが出ており、エックス達はそれを利用する事にした。
食事も終わってチェックアウトを済ませ、いざ出発の際にホテルマン達から「またのぉぉぉぉうッ!!」と威勢のいい挨拶をされた。 シャトルバスに乗り込む際、今更ながらだが束に大きなサングラスをかけさせ、右側席の窓側に座らせて出発。
連絡橋越しの見事な景色を流し見ながら、遂にエックスは関西国際空港へとたどり着いた。
「無事って言っていいのか分からないが……とにかく到着だな」
伊丹と並ぶ大阪の玄関口と知られるここ関空では、トランクケースを持った観光客、ビジネスマン、あるいはエックス達同様外国人が行き来する、人種のるつぼと言った様相を呈していた。
エックス達が目指すのは東京……出来れば羽田空港行きがベストであったが、午前中の便における東京行は成田空港行きしか存在しなかった。
エックスとゼロの持っている2枚の航空チケットは、ここ関空から直接アメリカに飛んでいくチケットであったので、先述の成田行きの便に経由地と言う形で空き座席をあてがってもらう必要があった。
3人はロビーを歩き、指定の航空会社が運営する国内線の窓口を探す。 場所はすぐ見つかり、幸い人数はそれほど並んでいなかった為に、エックスはゼロに束を任せてチケットの件を交渉しに行った。
「……待ってる間に変な事しないよね?」
「するかよ」
隣にいるゼロを怪訝なまなざしで見る束。 立て続けにちょっかいを出された事が響いているのだろう。 2人の間には微妙な距離感が生じていた。
ちなみにバカみたいに伸びてた彼の髪の毛は、シャトルバスに乗り込む直前にきちんと適切な長さに切り揃えておいた。
して、交渉を終えたエックスがチケットを握りしめて戻って来た。 が、その表情は浮かないものであった。
「残念なお知らせがある」
エックスはため息交じりに告げた。
「滑り込みの形でチケット分の便の振り替えは出来た。 だけど束の分である3枚目だけはどうしても確保できなかった」
「ぶっ!!」
束は口からおもっきり噴き出した。 エックスの両肩をつかみ、激しく前後にゆする束。
「2人分だけ代えた所で私が乗れないんじゃ意味ないよ!! どうしてくれんのコレ!?」
「俺に言われても困る!」
「しかも出発はもう30分前だ! これを逃したらとても正午までにIS学園に間に合わねぇぞ!?」
ゼロも一緒になってエックスに詰め寄るが、飛行機の空席状況だけは流石のエックス達もどうにもならなかった。
しかし時間は刻一刻と迫っており、ゼロの言う通りこの飛行機に乗り込まなければ、乗り換えの時間の関係で絶対にサミット開始までにIS学園に間に合わない。
エックスとゼロは頭を捻った。 どうすれば束を無事に飛行機に乗せてやる事ができるか。
「鞄の中とかにそれっぽい秘密兵器とかないの? キセル乗車できるみたいな!」
「流石にそんなのは積んでないなあ――――」
束からの問いかけに、エックスはふと何かを閃いた。 鞄の中……鞄の中……。
「おいエックス! あったぞ方法が!」
ゼロも同様に方法を思いついたらしく、両手を強く叩いて見せた。
「ゼロ、俺もひょっとしたら同じ方法を思いついたかもしれない」
「なら話は早いな」
2人は顔を向き合わせてはにかむと、一緒に束の方に首を向ける。 笑みを浮かべる2人に束は首を傾げた。 2人して何を思いついたというのか、そう言いたげに。
エックスはおもむろに束に向けて鞄を突き出し、ゼロと共に異口同音に告げた。
そのあまりに突拍子のない提案に、束は柄にもなくクソ丁寧な受け答えをしてしまった。
この鞄の中には既に筆舌に尽くしがたい色々な物が入っている。 その上鞄のサイズ自体も、成人女性の束が縮こまったとしても大きさと言う面でそもそもが足りていない。
「あのね2人共。 あんまふざけてるといい加減束さんもキレたくなっちゃうんだよ。 まだその辺の乗客から航空券ギった方が現実味あるって話だよ?」
「君にそんな不正な行いをさせる訳にはいかないよ。 イレギュラーハンターとして!」
「既に強盗に加担してるんですがそれは」
「潜入捜査だからセーフ!」
束の受け答えなどガン無視で、そのままエックスは鞄を肩に下げて彼女の両手を、ゼロは反対に逆手で両足を掴み、体を浮かせる。
「ちょ、ちょっと何すんの!?」
「エックス。 あそこに多目的トイレあるぜ」
「じゃあそこで詰め込むか」
「ファッ!?」
2人して束を担ぎながら、淡々と旅行鞄に詰め込む段取りをする様子に束は驚愕する。 彼らは本気だ。
「バカ!! 離せ――――モガッ!?」
抗議の声を上げようとした束の顔に、どこからともなく取り出したビニール袋を被せ、足並み揃えて一直線に多目的トイレに向かう。
周囲の客もただ事でない様子にエックス達を注視するが、見られる事は勿論想定済みで、走りながら怪訝な眼差しを向ける人々に声を上げながら走った。
「そこをどいてくれ! こいつちょっと吐きそうなんだ!」
「気分が悪いみたいなんだ! 昨日飲みすぎて二日酔いを起こしてる!」
「モガガーーッ!!(誰が二日酔いだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)」
視線を向ける人をどかしながら、多目的トイレの前にたどり着くと、扉を開けたゼロが彼女の足を離すなり、すかさずエックスが抵抗する彼女を強引にトイレの中に連れ込んだ。
中に入るなりエックスが扉を閉め、内側から鍵をかける音を聞くとそこにゼロがもたれかかり、中に誰も入ってこれないように見張る事にした。
遠巻きながら、ゼロ達に道を譲った人々がしきりにこちらを窺ってくる。 その時であった!
<ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!>
多目的トイレの中から、束の金切り声が上がった。
<やめてエックス!! そんなとこ入らない!! んほおおおおおおおおおおおおおおお!!!!>
<男は度胸! 何でもやってみるものさ!!>
<あひぃ!! わ、私は女だ!! んぎぃ!! を”~~~~~~!!!!>
室内で大きく騒ぎたてる様子が、横開きの扉の揺れを通して伝わってくるようだ。 ゼロは扉の揺れが肩こりに聞くとでも言わんばかりに、もたれかかったまま素知らぬ顔をする。
「やれやれ。 もう少し大人しく吐けんものかな」
どう聞いても酔い覚ましに吐き戻しているような声ではないが、固唾を呑んでこちらを見る野次馬を軽くにらみながら、あくまですっとぼけて見せる。
<ンギモッヂイイィィィィィィィィィィィッ!!!!>
そして、最後に一際大きく絶叫すると、扉の揺れは収まった。 やるべき事が終わったと悟ったゼロはもたれかかった扉から離れると、直後に中から鞄を持ったエックスが満足げに出てきた。
「少し気分が悪いみたいだから、後で追いかけるって」
「そうか仕方ない。 じゃあ俺達二人で先に出るか」
2人してしょうがないような困った笑いを浮かべた。 そんなエックスの持つ鞄はパンパンで小刻みに震え、僅かに開かれたチャックからは
生唾を飲み込む周りの人々の視線に気づいたエックスは、彼らに対してにこやかに問いかけた。
「――――何か?」
ほんのわずかに影のかかったエックスの笑顔は、人々の目線を逸らさせるのには十分であった。
「……さ、本格的に人を呼ばれる前に早く行くか」
「だな。 俺達は言わば束を密航させるんだからな」
聞かれないように小声で耳打ちすると、時間も差し迫っている事からエックス達は足早に国内線の保安検査場に向かった。
エックス達が立ち去った後、成り行きを見ていた野次馬の内の一人の男が、気分が悪いからと一人残っていると言っていた多目的トイレの扉の前に立った。
……正直、答えなんて分かりきった話だが、それでも彼は確認せずにはいられなかった。 鍵は掛かっていない。 ゆっくりと扉を開けて中を確認すると、素早く扉を閉じた。
他の客が彼に様子を問いかけると、彼は首を横に振ってこう答えた。