ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
「いいか? イレギュラーハンター2人がやってきたら何があっても通せ」
「……それで妻と娘には手を出さないんだな?」
「それはてめぇの働き次第だな」
関西国際空港の保安検査場。 金属探知機のゲートとX線検査装置の中を人と荷物が次々と潜り抜ける中、昨日の内に空港に先回りして女性職員に扮した『亡国機業』のオータムはそこにいた。
別の場所で空港の入口を見張っていたスコールから、3人が空港の建物内に入っていったのを確認したとの連絡を受けたのがつい先程。
エックスとゼロ、そして篠ノ之博士を逃げ場のない航空機内に確実に誘導すべく、潜伏できるよう手引きさせた中年職員を連れ、彼の背中に部分展開したISの手を突き付けて脅しながら、エックス達がゲートを潜り抜けるのを待ちわびていた。
中年職員だが彼は協力的だ。 中々に家族思いなのだろう……彼が着替えていた控室のロッカーの中にあった、家族写真を片手に武器をちらつかせて恫喝すれば、自分の置かれた立場を直ぐ理解した。
「(ヘッ! つまらねぇ男だが、物分かりの良さだけは買ってもいいぜ……お?)」
温和な笑みを浮かべる外っ面ながら、心中にてガサツな言葉遣いをするオータムだが、そんな彼女の目前に2人のレプリロイドが歩いてきた。
保安検査場の通過締め切り時間ギリギリにやって来た、青と赤のアーマーに身を包む彼らは、お目当てのイレギュラーハンターであるエックスとゼロの姿だった。
「来たぜ……妙な真似しやがったらただじゃおかねえぞ」
「わ、わかった」
中年職員に釘をさすと、オータムは手慣れたもので直ぐに営業スマイルを浮かべながら、やって来たエックス達を出迎えつつ検査装置脇のモニターに目配りする。
エックス達はにこやかに愛想笑いしながら、肩に下げていた旅行鞄を検査装置のベルトコンベアの上に置いた。 見た感じ中身は目一杯に張っている以外は、合成繊維でできたただの旅行鞄のように見える。
……重量はギリギリのラインだが、きちんと機内に持ち込める基準は満たしているようだった。 2人はレプリロイド用の探知機のゲートを潜り抜けながら、鞄が気になるのかしきりにコンベアに目線を送る。 そして肝心の中身だが、真っ白で少し見えづらいが不審物は見当たらない。
後は探知機を潜った鞄を、脅している中年職員に検査させるだけ――――そう思った辺りで違和感に気付いた。
「(……あんの天災兎の科学者はどこいった?)」
やって来たのは2人。 スコールは確かに3人と言っていた。 彼女はISの感覚を司るハイパーセンサーの、それも内蔵されている高度な顔認識システムを使ってチェックを入れている。 見落としはない筈だ。
仮に篠ノ之博士がこちらに気付かれない方法で顔を隠していたとしても、エックスとゼロに身辺警護を任せてある以上は、彼ら2人から距離を置いていると言う事は考えにくい――――では一体どこへ?
オータムがゲートを通過したエックス達を、手荷物検査に取り掛かろうとする職員とを一緒の視界に入れた瞬間だった。
「ちょっと待てよ! ひょっとして鞄を開けるのか!?」
突如として、鞄のチャックに手を掛けた職員をゼロが制止したのだ。 隣にいたエックスも、焦ったように目を見開いて固まっていた。
「え? 手荷物検査ですから、鞄の中身をチェックする義務があります。 何か問題でも――――」
「問題大ありだぜ! だってそれは……その、アレだ……ごにょごにょ」
「ゼロ!」
鞄のチェックを渋りつつも言葉に詰まるゼロに対し、エックスが肩を揺らして出かかったであろう言葉を促した。 そんな彼ら2人に訝し気な視線を送る職員。
あの鞄の中に、口に出す事を憚られるような何かが入っているのだろうか? オータムもまた、不審な彼らのリアクションを注視した……その時である!
旅行鞄が突如、くぐもった声を上げながらコンベアの上をのたうち回ったのだ!
これにはオータムと中年職員も度肝を抜かれた! コンベアの機械を軋ませるほどに、跳ねる勢いで鞄の端が持ち上がる!
エックスとゼロも、2人掛かりで慌てて鞄を抑え込んだ。 それと同時に素早く周囲を見渡すオータム。 幸いエックス達が最後にゲートをくぐった客であった為、他の客には見られていない。
しかし他のゲートで締め切りの段取りに入っていた職員達は、検査装置周りで起きた異変に気付いて視線を向けてきたが、そこはオータムのとっさの機転で「何でもない」と両手をかざしてジェスチャーを送り、彼らがやって来るのを制止した。
彼らが何をしたのかは知らないが、今他の職員に横やりを入れられるのはまずい。 だが自分の目で異変を見てしまった以上は、彼らに問いかけねば却って不審に思われてしまうだろう。
鞄の中身を尋ねながらも、彼らの言い分を信じるフリをして見送ろう。 そう決意したオータムは中年職員を押しのけ、鞄を押さえる彼らハンター2人組に問いかけた。
「……お客様? 機内への不審物の持ち込みは禁じられておりますが……」
「あ、ああ……これはだな――――「ゴホンッ!」
歯切れの悪いゼロが言い淀んでいると、見かねたエックスが咳払いをして会話を引き継いだ。 エックスは左腕をなぞると、オータム達の目前にホログラムが投影される。 映し出された内容はイレギュラーハンターの身分証明証だった。
「我々はイレギュラーハンターのエックスとゼロです。 Drケインからの特命で、テロリスト達の放った追っ手の目を盗みながら、鞄の中の生体サンプルを秘密裏に輸送している最中なのです」
彼からの度肝を抜く発言に、職員とオータムは息を呑んだ。 特にオータムはテロリストと言う単語に……しかし表情に出さないように、冷静に努めて応対する。
「生体サンプル……と言いますと?」
こちらからの問いかけにエックスはしばし視線を泳がせ、こう答えた。
「新種の狂犬病ウィルスに感染した兎です」
唖然とする職員を前に、再び暴れ出した鞄をゼロが無理矢理抑え込む。 エックスはその様子を流し見ながら、毅然とした態度で言葉を続けた。
「病原菌に汚染された検体を客室に持ち込むリスクは承知しています。 しかしテロリストはいつどこで襲ってくるか分かりません。 なるべく自分の目の届く範囲で監視したいのです!」
「い、いくら何でも病原体は困ります! パンデミックの危険性が――――」
「どうかご理解ください! 発症したら最後、美的感覚が狂って年甲斐もなくファンシーな服装に身を包んだり、核兵器を海に撃ち込み愉悦に浸るロケットマンと化してしまう危険性があるのです!! 関東の研究機関に持ち込んで、一刻も早い治療法の確立が望まれています!!」
「モガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
再び鞄が篭った叫び声を上げて大きく揺れる。 上から被さっていたゼロの身体が持ち上がりそうな勢いだったが、そこはレプリロイドと言う事もあり力づくで動きを押さえつける。 だが、職員が先程チャックを開けかけていた事もあり、わずかに開いた部分から『中身』が飛び出した。
その瞬間を、オータムの双眸ははっきりと捉えていた――――鞄の中から
「う、兎……か?」
「ッ!! おっと!」
思わず呟いたオータムの声に、鞄の中から中身がはみ出していたのに気づいたゼロが、すかさず鞄の中に押し戻し開きかけのチャックを完全に閉じた。
「アブねぇ所だった! 下手なレプリロイド顔負けなイキのいい奴なんだよ!」
「は、はあ……」
焦ったように冷や汗をかきながら、しっかりと愛想笑いは浮かべて鞄を押さえつけるゼロに、オータムは圧倒されたように気の抜けた相槌を打ちながら――――ふと考えた。
施設に入った時は3人いたにも関わらず、ゲートを潜った時から2人が警護している筈の篠ノ之博士は、未だ姿を見せる気配がない。 そして今見えた機械っぽい兎の耳に紫の頭髪、鞄の中から聞こえてくる叫び声は……よく聞けば女性の声に聞こえなくもない。
もしや――――常識外れな発想だが、オータムは気付いてしまった。
「(――――ウッソだろお前!?)」
「今は暴れてくれるな! 向こうについたら出してやるからな!」
鞄を数回軽く平手で叩くゼロを見ながら、オータムは内心冷や汗をかいていた。 自分の考えが当たっているのならとんでもない事であるが、しかし彼らを飛行機内に無事に誘導しなければ何もかもが始まらないのである。
「いくら事情があっても、こんな密封もロクにされてない様なの通す訳にはいきません! せめてDrケインに確認を取らせて――――」
エックス達の要求を突っぱねる職員の背中を、オータムがすかさずISを部分展開した爪先を彼の背中に突き付ける。 余計な事をするな! と言わんばかりにオータムは鋭い爪で背中をなぞり、言葉を失った職員はさぞかし恐ろしさを感じているであろう、生唾を飲み込んだ。
「……事情は理解しました。 こちらで確認を済ませておきますので、どうぞお進み下さい」
展開した腕周りは職員の身体に隠れて彼らからは見えない。 しかし急に会話を打ち切った彼にエックス達は一瞬目を丸くしたが、束の間を置いて額で汗を拭うような仕草と共に一息つき、今度はゼロに鞄を担がせ検査場を離れる。
去り際にエックスは彼らに振り返って敬礼し一言。
2人揃って何食わぬ顔で去って行った。 後に残されたのはオータムと職員のみ、成田行きの便の保安検査は締め切られ、他の職員達は次の便の準備に備えて人員を交代しはじめる。 その際にオータムもどさくさに紛れて職員の背中をつつき、彼を連れてスタッフの控室へと向かった。
扉を開けさせ、電灯がつけっぱなしの室内に誰も居ないのを確認すると、2人して中へ入り扉を締め切った。
「こっちを向け」
オータムの要求に職員が恐る恐る従って振り返ると、その瞬間にオータムはISを展開した腕のままでみぞおちに一発!
「ごほっ――――」
死ぬような一撃は加えていないが、痣の一つは出来たであろう衝撃に職員は昏倒する。 床に倒れ込みしばし痙攣していたが、やがて気を失ったのか指先一つ微動だにしなくなった。
オータムは舌打ちをして悪態をつく。
「勝手な真似してんじゃねぇ。 何があっても通せって言ったろ」
ちょっとしたアクシデント……とは言っても、ほぼ向こうの落ち度ではあるが、余計な手間を掛けさせられた苛立ち紛れに職員を殴ったオータムは帽子を脱ぎ捨て、中で団子状に丸めていた燈色の髪を解き放つ。
それにしても、あんな方法で篠ノ之博士を周囲の目から隠すとは……確かに篠ノ之博士は世間一般ではお尋ね者なのだから、ホテルの送迎バスから降りてきた際に身に着けていたらしい、サングラス1つの変装では心許なくはあるが……まさか
手荷物など絶対に中身を確認される訳だが、まさか自分達に言ったようなDrケインとやらの特命で誤魔化す算段だったのだろうか? 検査場の職員に扮する自分が強引にパスさせなければ、とてもあんな苦しい状況を切り抜けられたとは思えない。
「……とんでもねぇ野郎だ」
色々な意味で手ごわさを感じたオータムが吐き捨てるように呟く。 すると、ISの
スコールだ。 彼女は入口でエックス達の動向をチェックした後、現在はCAに化けて彼らの乗り込む飛行機に先回りしていた。
<こちらスコール。 例のイレギュラーハンター達が機内に入ったわ……篠ノ之博士は?>
彼女も、篠ノ之博士の姿が見当たらない事に疑問を呈しているようだった。 自分の目で3人いると確認したのだから尚更だろう……オータムはため息をついて答えた。
「篠ノ之博士ならあいつらの鞄の中にいるよ」
<――――は?>
スコールはオータムの言っている意味を理解しかねているようだった。
<……貴女が何を言ってるか分からないわ?>
「文字通りの意味だよ。 とにかくそろそろ出発だろ? 私もISで後を追うから、時が来るまで待機しといてくれ……OVER」
<ちょ、ちょっとオータム――――>
一方的に回線を打ち切り、ため息をつくオータム。 自分だっておかしな事を言っている自覚はあるが、この目で本当に篠ノ之博士を鞄の中に詰め込んでいた現場を目撃したのだから、見たままに伝える以外に他はない。
恐らくスコールは、自分の言ったことの意味を理解した瞬間度肝を抜かれるだろうが、できる限り現状を伝えたのだから文句を言われる筋合いはない。 後はせいぜい、しかるべきタイミングで騒ぎを起こしてくれるのを祈ろう。
オータムは自分の相方が上手くやってくれることを信じ、気絶させた職員を置いて次なるステップに向かった。