ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
「ごめんアクセル……俺が部屋に勝手に入ったりしたから……」
「謝るのは僕だよ……尻ひん剥いた上に銃を突きつけたりなんかしたから……」
サミット開催が目前に迫ったIS学園。 昨晩ちょっとした事件が起きた現場である学生寮の用務員室において、一夏とアクセルはすっかり気落ちした様子で、互いにお互いの非を詫びていた。
……騒ぎを立て続けに起こした罰として、怖い織斑先生から後ろ手に両腕を縛られ、膝に石を乗せられて正座をさせられながら。 彼らはこの部屋に捨て置かれていた。
「ううっ……相変わらずあの人は厳しいな……」
「やっぱりやめておけばよかったぞ……」
鍵を開けて一緒に部屋へ入った箒とマドカも、勿論同罪に問われた。 左から順に一夏、アクセル、箒、マドカの順で座らされる光景は、さながら介錯人が背後で刀を振りかぶっている処刑場を思わせた。
そんな4人だけしかいない部屋の扉を開け、一人の老人とタイトなスーツに身を包んだ女性が入ってくる。
「全く何をやっとるんじゃアクセル……」
「お前達……これ以上悩みの種を増やしてくれるな……」
ため息混じりに言葉を発するは、罰を与えた張本人であるケイン博士と織斑千冬の2人であった。
「いいか。 お前さんはイレギュラーハンター代表として、ここに警備の仕事へ派遣されとるんじゃぞ? いくら日頃エックスらに揉まれとるとは言え、仮にあの2人が何かしたとして、それがお前のここでの働きぶりと何の関係があるんじゃ」
「正直、外の職場のやり方に口を出したくはない。 が、私としても流石にこの体たらくは見逃せないんだ」
「……何もいう事はないよ」
苦言を呈するケイン博士と千冬に対し、エックス達の振る舞いで心を乱されたと主張していたアクセルも、今回ばかりは自らの行いに思う所があった。 自己嫌悪から言い分に反論せず、うなだれたまま素直に言葉を受け止めていた。
「千冬姉! 今回の件はその、アクセルの部屋に無断で入った俺達が悪いんだ! だから――――」
「今は織斑先生だ。 部屋に入った件はともかく、錯乱していたのはアクセル自身の問題だ。 今日行われるサミットでこのような真似をしない為にも、気を引き締めてもらわなければ困る! 分かるな?」
一夏は言葉に詰まった。 アクセルはあくまで、ケイン博士ら要人ら、ひいてはこの学園の安全を守るために派遣されてきた。 自分自身がトラブルの種になるような真似は、絶対に避けなければならないのだ。
「……仕事は仕事じゃからな。 サミットが始まれば、アクセルには拘束を解いて警備の仕事に戻ってもらう。 が、その前にじっくりと今回の行いを省みてもらわねば――――うん?」
ケイン博士の話を遮るように、彼の懐からメロディーが鳴り響いた。 壮大なオーケストラで奏でられるこの音楽は『ゴッドファーザー 愛のテーマ』……ケイン博士の携帯電話だ。
マナーモードを入れ忘れていた事を軽く詫びながら、話の途中に電話を取った。
「もしもし、儂がケインじゃが……どちら様かのお?」
どうやら、身に覚えのない相手から電話がかかってきたようだ。
「……何? 関西国際空港の保安検査の職員が……? エックスとゼロじゃと?」
「!?」
ケイン博士の口から発せられた仲間2人の名前に、アクセルがはっとした表情で首を上げた。 千冬や一夏達も一様にケイン博士へ視線を送った。
しばし沈黙するケイン博士だが、少し目を泳がせた後に電話をスピーカー本に切り替える。
「で、うちとこのエックスとゼロが一体どうしたというのかな?」
<ええ……新種の狂犬病にかかった兎をテロリストがつけ狙っていると言うので、貴方の命で東京に運ぶようにと職員に話をつけ、検査場を通過させたというのです>
「ほう? 狂犬病の兎とな?」
眉を顰めるケイン博士。
<そして検査を通した職員ですが、ISを着た女に彼ら2人の検査を強引にパスさせるよう脅された挙句に、暴行を受けて控室で倒れていました。 今しがた目覚めたばかりで、ようやく事態を把握する事が出来ました……つかぬ事をお伺いしますが、心当たりはありますか?>
こちらに問いかける空港職員の声色に疑念が入り混じっている。 どうやら彼の言い分だと、博士が危険な代物を機内へと持ち込ませるために、エックス達やISの女をけしかけたと疑っているようだ。
一緒にいたアクセルはケイン博士がそのような打ち合わせをしているなど知らないし、博士自身も何の事かさっぱり分からないといった様子で首をかしげている。
そんな中で、アクセルは一言呟いた。
「エックス達の狂言じゃないの? つい昨日お昼のニュース騒がせたし、口じゃ言えないようなの運ぼうとしてケイン博士の名前使ったのかも――――」
「アクセル、仲間の事疑うのはやめろって!」
アクセルの物言いを一夏が制した。 しかしアクセルの発言を受けて、何かに気づいた箒が言葉を口にする。
「……じゃあ、兎がどうこうって言うのは、まさか私の姉じゃないでしょうね?」
「箒?」
箒は言葉を続けた。
「昨日のニュース番組で映っていたのは間違いなく私の姉だ。 そしてその隣にはアクセルの言うエックスとゼロも……そこに来て今日の検査場の話だ。 なんとなく、繋がりがあるんじゃないかと思ってな」
「それじゃあ強盗事件を起こしたのは事実になるじゃないか! 束さんを隠して高飛びでもしようとでも!? そんな馬鹿な!」
「私だってアクセルの仲間が強盗に手を染めるとは思わない! しかし今まで世間を騒がせてきた姉さんなら……あるいは、例の2人はなりすましかもしれない」
「……なりすまし、か。 確かにそれなら辻褄は合うかもしれん。 だがレプリロイド嫌いのあいつが、わざわざロックマンに似たロボットを用意するとも思えない……一体誰なんだ?」
「それは……分かりません」
状況から推理を立てる箒に、彼女の意見を肯定する千冬。 姉とは折り合いが悪いと言う事もあって、エックスとゼロはともかく実姉に対しては中々に辛辣な憶測を立てる。
そんな様子をアクセルは内心、例の2人も間違いなく本物だと確信しているだけあって、当たらずとも遠からずではないかと言う判断を下していた。
それだけにどういう経緯で、箒の姉なる人物と接触したのかは謎であるが――――そう考えていた時に事件は起きた。
電話越しに、大きく何かが開く音が聞こえた。
<大変だ!! DB893便の左側エンジンが出火した!! 機長とも連絡がつかない!!>
<え!?>
空港側で何やら大事件が起きたようだ。 突然の出来事にこちら側も剣呑とした空気に包まれる。
<DB893便……つい50分前に飛び立った成田行きの飛行機じゃないか!>
「!! ちょっとまて、成田行きの飛行機じゃと!?」
<ええ、先程申し上げたエックスさんとゼロさんの乗り込んだ飛行機です!>
<くそっ! どう言う事なんだ!! 出発前の最終点検は全部パスしてたんだぞ! 爆発なんてあり得ない!>
ただ事でない事態に混乱する空港の職員に、ふと千冬が言葉を漏らした。
「……テロリストだ。 職員を脅していたISを着た女とやらなら、空中で接近してエンジンを壊す何かを仕掛ける事が出来る筈だ!」
「自分で検査場をパスさせておいて……何故?」
「
疑問を呈する一夏だが、それをマドカが代わりに答えた。
「……姉さんみたいな人物が、こそこそ隠れて空港内を移動するとも思えない。 あのイレギュラーハンター2人と言うのも怪しいぞ!」
そして箒の言葉がとどめとなった。 何かに気付いたように身を震わせる一夏。
「何にしたって、飛行機にトラブルが起きてるのは確かだ!! こうしちゃいられない!!」
いてもたってもいられなくなったか、一夏は膝の上の石を押しのけるように立ち上がり、その場でISを展開する。 後ろ手に縛っていたロープは当然引きちぎられ、目前でのIS展開にアクセル一同も驚きに身を仰け反らせ、倒れた拍子に石を床に転がしてしまった。
「千冬姉! 部屋は後で俺が直しておくから!!」
「待て一夏! 先走るな!!」
「千冬姉だってまだ仲直りしてないんだろ! この際だから、行ってこの事件の真相を確かめてくる!!」
そして部屋のガラス窓を、枠どころか壁の一部ごと破壊して部屋から飛び出し、DB893便の飛んでいるであろう方面目掛けて一直線にすっ飛んでいった。
「一夏……」
空の彼方へ消えていった一夏を壊れた壁越しに、当然のようにロープを外していた箒が眺めた。
「……話を聞かない奴だ」
「馬鹿者め……無事に帰って来るんだぞ」
同じく拘束を解いたマドカが頭を抱え、千冬は弾丸の様にすっ飛んでいった弟を心配していた。
「……事態は混乱しておる、この件についての話はまた後でするとしよう」
<え!? ケ、ケイン博士!?>
「言いたい事は色々あるじゃろうが、たった今IS学園から助っ人が向かった。 それが儂等の答えと言ってもええ。 平和を願う者としてテロリストは断固として許せん、それだけは確かじゃ」
<わ、分かりました……>
向こうからの返事を受けて、ケイン博士は通話を打ち切った。 アクセルもまた後ろ手に結ばれた拘束を外し、ケイン博士の隣に立ち話を聞いていた。
「……で、
未だ空を眺める箒と千冬にマドカには聞こえないよう、小声で博士に耳打ちするアクセル。 ケイン博士もまた、ため息をついて返した。
「勿論じゃ。 初動が早いに越した事はないからの。 織斑先生が強盗事件で尋ねてきた時には、もう部下を動かしておいたわい」
「一緒にいたあのファンシーな女の人や、キンコーソーダーはどういう繋がりなの?」
「ファンシーな若い女子はISの研究開発の一人者である篠ノ之博士じゃ。 どうも2日前の深夜にエックスらに保護され、何やらこのサミットに参加する予定だったと……奴らの泊ったホテル近くの居酒屋の主人が話しておったそうじゃ。 無論そんな事実はないがの」
「だよね。 僕もそんな人が参加するなんて聞いた事ないよ……騙されてんじゃないの?」
ここにいない2人組にアクセルは呆れ返る。 自分かケイン博士に確認すれば一発だったろうにと……まあそれをさせないように、篠ノ之博士とやらがエックス達を言いくるめた可能性もあるが。
「そしてもう一人のキンコーソーダーは……残念ながら行方を眩ませとるし、関係性が見えん。 まあこれについては時間の問題じゃろ」
「アイツが刑期も終えてないのに出てきてたのも謎だよね……それはそうと篠ノ之博士って、保護を求めてるのにどうして強盗なんて厄介な真似したんだろ?」
ケイン博士は鼻頭を小さく掻いて質問に答えた。
「なんでも立ち寄った銀行で、当面の金がないとATM前で騒いだ上に、篠ノ之博士とやらが機械をお釈迦にしおったらしい……まあ、その時はイレギュラーハンターとして、女子の行いを咎めてはおったそうじゃがの」
「……その篠ノ之博士って人ってかなり怪しいよね。 箒の姉らしいけど……話だけ聞くに中々の曲者っぽいし、サミットの件からしても口車に乗せられたんじゃないの? それこそ
「ありえん話ではないな。 いずれにせよ詰めが甘いわい……面倒を増やしおって。 やるならもっとうまくやらんか!」
「怒るとこってそこなんだ……」
アクセルは乾いた笑い声をあげた。 と、言うよりはそれ以外にする事がなかった。
ケイン博士はその立場上、いろんな人物や組織に顔が利く。 事件の対処に動いているであろう警察関係者をはじめ、色んな所から情報を仕入れているのだろう。
ぱっと聞いて行動を起こす動機が見えづらいが、彼らをよく知るアクセルとケイン博士にしてみれば、彼らが突飛な行動を起こす可能性がある事を考慮できるので、2人にはこの時点で事件の裏側が見えたような気がした。
アクセルは一夏の飛び去った空を見つめ続ける3人を、生暖かい目で見つめ思った。
あくまでエックスとゼロの2人を世間一般で知られるイメージで考える彼女らにとって、強盗事件や篠ノ之博士の一件を偽者の仕業と確信するのは致し方ない事であった。
それだけに、生のエックス達を見たらどう思うだろうかと。 思っている以上に破天荒で無茶をする、ぶっ飛んだ性格だと知ったらショックを受けるだろうかと。
あるいはそれをひっくるめて、一緒にいる篠ノ之博士の方が頭のネジが外れていて、思いのほかあっさりと軽く流せてしまうのか。
いずれにせよ言える事は、彼らが無事にトラブルの起きた飛行機から生還できるかどうかにかかっているが……それについてアクセルは――――
「(まあ、2人がその程度で死ぬとは思えないけど……
――――テロリスト側が仕掛けたであろう攻撃を余計に深刻にしないか、それだけを心配していた。
空中で気づかれずに仕掛けた爆弾を合図通り起爆し、機内で一仕事を終えたであろうスコールを出迎える為、飛行中の旅客機が左側面の搭乗口の前で並んで飛行していたオータム。
そんな彼女の前に、ロックの解除と共に強引に開け放たれた搭乗口から現れたのは、表情に焦りの色を滲ませたスコールだった。
段取り通りなら篠ノ之博士の入ったカバンを確保しているはずだが、現れた彼女は手ぶらのままで、なんとISも展開せずにこちらに向かって機内から飛び出したのだ。
「あぶねっ!!」
空中に投げ出される彼女を慌ててキャッチするオータム。 スコールの体を抱きかかえると、彼女は苦虫を噛み潰したような表情で告げた。
「まずったわ! 鞄から篠ノ之博士が飛び出してしまったわ! ISも彼女に引き剥がされてコアを回収するのに精いっぱいだったわ!」
「っ! なんだそりゃ! それであの天災兎はどうしたんだよ!」
オータムは尋ねた。
「私が隙をついて弱らせたエックスとゼロ相手に大暴れしてたわ。 よくも無理矢理鞄に押し込んでくれたなと……」
目頭を押さえながら言うスコールに、当然と言えば当然の結果だが、オータムは返事に困ったように押し黙ってしまった。
どう見てもまともには収まりきらない鞄のサイズだったが、やはり無理から詰め込んでいたのか。
「……アイツの体力がバカみたいなのは知ってるが、よく動けたよな」
「ええ、まさか鞄から腕を出してドライバー一本で強制解除されたのは計算外よ。 まあ、全身が出れた直後は流石に疲弊しきってたみたいだけど……大人のおもちゃまみれで出てきたときは流石に言葉を失ったわ」
「そんなんまで詰め込んでたのかよ……」
現場を見てしまったスコールの事を考えると、さぞかし見苦しい光景だったろうとオータムは思った。
しかしそれよりも、鞄に入ったままの篠ノ之博士の拉致に失敗した以上、プランB……もとい、元々予定していた段取りに切り替えねばならない。
オータムは改めてスコールに尋ねる。
「スコール。 パイロットの連中は黙らせたか?」
「! ええ、オートパイロットの
スコールからの返答に満足いったように、オータムは口元を吊り上げた。
「そうか、じゃあ
オータムはISのバススロットに格納されていた、生身用のパラシュートを実体化し、それをスコールへ手渡した。
「どうも。 万一に備えておいて助かったわ」
スコールは受け取ったそれを背負って安全ベルトを着ける。
「後は任せたわよ!」
「任せときな」
そしてオータムのISから離れ、パラシュートを背負ったCAが宙を舞う。 雲中に消える相方の空中遊泳を見届けた後、オータムは旅客機の機体へと向き直った。
博士の入った鞄の奪取に成功していれば、エックス達はそのままもう一基残った飛行機のエンジンを壊して、墜落する飛行機と運命を共にしてもらおうと思っていたが、流石にそう上手くはいかなかったようだ。
しかしそうでなくては張り合いはないとも、オータムは思っていた。 何故なら本来の予定では、エックス達はこの機体の上にでも引っ張り出して、そこで正面切って叩き潰す。 篠ノ之博士はその後で悠々と誘拐する目論見を立てていたのだから。
兎に角片方のエンジンは壊し、スコールの工作も済んだとなれば、もうやる事は一つ。 奴らを機内から引きずり出すのみだ。
オータムはISのマイクを遠隔操作で旅客機内のスピーカーに接続、中にいるイレギュラーハンター達を呼び出した。
「出てきな篠ノ之束! そしてイレギュラーハンター! 言う事を聞かなかったら、もう片方のエンジンもぶっ壊すぞ!!」
今週は建国記念日で連休なので2話投稿します! 次の話は明日の同時刻に!