ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
背後に蜘蛛を思わせるような、何本もの金属の触脚が生えたISを装着して宙に浮かび、呆気にとられた顔でこちらを見下ろすは、機内のスピーカーを通してこちらを呼び出してきた『亡国機業』のテロリスト。 自分達3人を見るなり口に出た言葉は、揃って全身痣や流血だらけになったその姿に驚き呆れる言葉だった。
スコールと名乗るテロリストに不意打ちを受けた後、鞄から飛び出して逆上していた束に襲われ、抵抗している内にヒートアップした3人は、保護する者とされる者の関係などそっちのけで、互いをケチョンケチョンのメタクソになるまで派手に殴り合った。 敵に感謝などするつもりもないが、目の前で浮かぶこの女の呼びかけが、試合終了のゴングの代わりになった事実は否めなかった。
「ペッ……ヘンッ! この束さんにとっちゃいいハンデだよ!」
鼻血を飲み込んだり口内を切ったりして、溜まった血液を舌で転がしつつ機体の上に吐き捨てるは、片目に痣を作った上に着け耳が折れたり服がボロボロになったりした束である。
「わざわざ俺達に喧嘩を売ってくるとは……『亡国機業』ってのは随分余裕ぶってやがるな」
「束だけが目的じゃないって言うのか!! 大勢の罪もない一般人まで巻き込むなんて許せないぞ!」
同じくスト2の負けた時の顔のような満身創痍の姿ながら、しかし足取りや呂律はしっかりとしているゼロとエックス。
すると、テロリスト……オータムはこちらを見下しながら言い放った。
「ああそうさ、博士を攫うだけじゃ足りねえ。 私の名は『オータム』……『亡国企業』の実働部隊の一人さ。 イレギュラーハンターのエックスとゼロ、アンタらを狩れば私と組織の名に箔がつくってもんでな」
「……世界を裏から牛耳ってた組織にしては、たかが公僕2人の為にハイジャックまで起こしやがって大層なもんだな」
皮肉で返すゼロに対し、オータムは両手を開いてわざとらしく困ったようにリアクションを取る。
「残念だがお前らレプリロイドが散々暴れてくれやがったせいで、うちとこの組織は今や火の車なんだよ。 ISにしたってそうだ。 こっちは世界のパワーバランスを左右するとかでやっとこさ仕入れたってのに、結局てめえらがロボット風情が居座ってるおかげで全然強みにならなくってな。 ……特にイレギュラーハンターのお前達さえいなけりゃなぁ」
「俺達は目の上のタンコブと言う訳か。 だから丸腰でも俺達を倒せば、ISとそのパイロットはレプリロイドよりも優秀だと証明できる……」
「ついでにそいつを抱え込んでる『亡国機業』の組織力の高さもアピールできるって訳だ」
「ハン、御名答だ」
オータムは鼻息をつく。 ひと呼吸間を開け、憎々しげに見上げる束と目線を合わせるオータム。
「篠ノ之博士よぅ。 アンタもこいつらレプリロイドは嫌いなんだろ? 自慢の発明をどっかのイレギュラーとそこの2人のドンパチで有象無象にされちまって。 こいつら2人に守り任せて何するかは知らないけどよ、ぶっちゃけレプリロイドべったりの表社会の連中より、私達についてきた方がよっぽどいい思いできるんじゃねぇか? この際こいつら潰してISの方が優れてるって証明しようぜ?」
「ッ!! ふざけるな!! こんな乱暴な手段で束を攫おうとしてるくせに、何を今更!! 彼女はこれから、しかるべき機関の保護下で真っ当な科学者としてやり直すんだ!」
「束。 こいつの言う事に耳なんか貸す必要はねぇぞ」
2番手に甘んじるISの立ち位置を引き合いに出し、束を懐柔しにかかるオータム。 当の束本人の本音は露知らず、甘言に乗るなとエックスゼロは束を諫めるが、当の束は目を閉じて少しばかり考えた後、こう言った。
にこやかに、あっけらかんと言い放つ束にエックスとゼロは噴出した。
「いやね? 当たり前じゃん! アンタの言う通りISの普及妨げられるし、実際会ってみた2人も赤いのはセクハラするし青いのは一々乱暴だし、お前は本当に協力する気があるのか? って気分だよ!」
「……えらい言われようだな」
「当たり前だよなあ!」
歯に衣着せぬ物言いにゲンナリするゼロ達へ、最後の一言は語気を強めて言う束。 オータムは高笑いした。
「だったら話は早えな! こんなアホタレさっさと斬り捨てて、私のところの組織に来い――――「は? 勘違いも甚だしいね☆」
レプリロイド嫌い……利害の一致を振りかざすオータムに対し、共感と見せかけた束の返事はNOだった。 束は腰に両手を当てて言い放った。
「嫌いなの物が一緒だからって、あっさり協力なんかするわけないじゃん! 時代に取り残された黴臭い連中なんか誰がついて行くっての? それとも何?
「――――あ?」
オータムが僅かに眉をひそめた。 初めて出会った夜の日にも『亡国機業』との因縁を訴えていたが、やはり一悶着があったらしいとエックスは思った。
「大体さあ、人の作った発明品に乗っかった程度で得意げになってるチンピラ風情なんか、この天才束さんにとっては取るに足らない存在なんだよね♪ なのに御大層に「ついてこい」だなんて、身の程を弁えろって話なんだよ☆」
これでもかと煽る束の言葉が癇に障ったのだろうか、こちらを嘲笑していたオータムが一転して歯ぎしりをする。
「……どうやら答えは出たようだな」
「束を陥れようとした組織なんかに、身を置く訳なんかないだろう!」
ゼロとエックスも、束を追い詰めようとしていた組織に、彼女自身が懐柔される訳がないと言った。
「――――好き勝手言いやがって……なめてんのかぁ!?」
それが見るからに気の短そうなオータムを怒らせたのは言うまでもない。 右腕を横に伸ばすと、その手の中に小さな物体を実体化させる。 黒いスティックの頂点に赤いボタンがついたそれを、オータムは何の迷いもなく親指を押し込んだ!
あれは……まさか! エックスとゼロが口を開く前に、オータムが眉間に皺寄せながらも口元を釣り上げる。
「生き残った右側のエンジンにも爆弾を仕掛けておいた。 ただしこいつは直ぐには爆発しねぇ、時限式の爆弾なんだよ」
「何だって!?」
ハンター二人が驚愕する中、オータムは続けた。
「ついでにいい事教えてやるよ。 お前らは確認する前に機体の外に出てきたが、パイロットは相方に気絶させてもらったぜ。 そのついでにオートパイロットの経路も変えさせてもらった……行先はIS学園だよ!」
「「「!!」」」
IS学園の名前を聞いた途端、束もまた驚きを隠せないようだった。
「分かるなこの意味が……爆弾を解除できなかったら、
恐ろしい事をさらりと告げるオータム。 IS学園は正午にはサミットが開催されるスケジュールになっている……そして自分達の最終目的地である学校だ!
もしそんな場所に墜落した場合には、世界中に計り知れない衝撃を与える事になるだろう。
「……この野郎」
束が憎々し気な表情でオータムを睨みつけるが、自分の立場が優位になった事からか居心地がよさそうに振る舞うオータム。
「誰の大事な人があそこにいるか分かってて言ってんの?」
「ん~? お前の友人とその弟と……あとは可愛い実の妹がいるんだっけな? さぞかし愉快な事じゃねぇか!」
「!! 身内がいたのか……!」
そして、その学園には彼女の友人である織斑千冬が一教師として教鞭を振るい、その弟が生徒として籍を置いている。 その上まさか束に妹がいて、同じ学園にいたとは。
肩を震わせる束の様子からは、他人への関心が希薄な彼女をして、さぞかし大切にしている存在である事が伺えた。
「墜落なんてさせてみろ……ただじゃおかない!!」
「ヘッ……やれるもんならやってみな! 私を倒せるならな!!」
激高する束に対し、オータムは対IS用のアサルトライフルを展開! ――――それを生身の束に銃口を向ける。
「これでも食らいやがれ!!」
そして発砲! マズルフラッシュと共に常人ではとらえきれぬ速度で、徹甲弾のシャワーが束に降り注ぐ!
そう、
「当たるか!!」
しかしそこは自他共に認める『天災』! 弾丸程度なら肉眼で見切れる。 そう言わんばかりに弾が迫る前にはそれ以上のスピードで飛び退いていた。
「危ない!!」
代わりに束が離れた弾丸の着弾点に、エックスが入れ替わりでダッシュで飛び込んできた!! 仲間2人が叫ぼうとするのも
「うおおおおおおおおッ!!」
ダグラス特製の防弾素材の旅行鞄で。 先日も警察のISからナパーム弾を防いだように、今また鋼鉄製の弾頭を設計通り受け止め、潰れた弾丸がはじけ飛んでいる。 しかし装甲をぶち破るその威力は相殺しきれず、守るべき素材で防いだエックスをしても、彼の身体を後方へ吹き飛ばすには十分だった。
「バカ!! 避けたのにわざわざ庇いに来る奴がどこにいるの!?」
「何言ってるんだ! 飛行機に穴が空いたらどうするんだ!」
束の物言いにエックスは反論する。 勿論機体に命中すればそこから穴が開いてしまう。 中にいる乗客に被害が及ぶどころか、逃げていったスコールとやらがやろうとしたように、与圧されている機内との気圧差で、一気に空中分解しかねないからだ。
オータムは高笑いしながらエックスに問いかけてきた。
「ハハハッ! 飛行機を守るために身を差し出すとは殊勝なこったな!」
「余計なお世話だ! それに何故束を狙った!! 必要としているんじゃなかったのか!?」
「この程度あの兎なら避けるのは知ってんだ、軽い挨拶だろうがよ。 それとも……てめえから相手にしてやろうか? 何だかその鞄ムカつくしよぉ!」
すると今度はエックスに標的を変えた。 背中の脚の全てにもアサルトライフルを展開し、それらを全て一斉にエックス唯一人に目掛け発射!
「ぐうううううううううううううッ!!」
「ほらほら! 一発でも防ぎ漏らしたら飛行機が空中分解しちまうぜぇ!?」
一層増した密度の弾幕の全てを、鞄を器用に動かしては辛うじて全てを受け止める。 両足を開いて踏ん張るも、毎分800発の弾幕が幾重にも折り重ねられては、エックスとて足を引きずる痕跡を機体に残しながら防戦一杯が関の山であった。
「この野郎!! 好き勝手やりやがって!!」
トリガーハッピーと化したオータムに対しゼロが飛び掛かる。
「おっといけねぇ!」
しかしレプリロイドの膂力を持っても、自在に空中を舞えるISの機動力は、ゼロの飛び掛かりをあっさりと躱してしまう。
そして空中に飛び上がったゼロは、当然速度に乗る航空機の慣性から外れ、空気抵抗をもろに受けるダブルパンチに機体後方の垂直尾翼に一気に流される!
「ぬおぉ!?」
なんたる迂闊! 咄嗟に尾翼に捕まって事なきを得たが、一歩間違えればそのまま空中に投げ出されていただろう。
「ハッ、空飛んでる奴ともやり合って来た割にゃあたいした事ねぇな!!」
「チッ! 言ってくれやがるぜ!!」
オータムの煽りに舌打ちするゼロ。 空中戦、それは正にISの能力が発揮される最たる戦場。 重力を、そして風圧さえ無視して飛べるという、飛行型レプリロイドにもない能力はエックスとゼロを翻弄する。
「しっかしぶちまけた弾丸全部鞄で防ぎやがって、まともにやり合えば確かに厄介だぜ……ムカつくぐらいにな。 だがいつまでもつかなぁ?」
エックスへと向き直すオータムは、エックスの持つ鞄を見て怪しい笑みを浮かべた。
過剰な労力と機能を組み込んで作りこまれた旅行鞄は、この場においてエックスの身を守るのに大きく貢献していた。 しかしオータムの執拗な攻撃を受け続けたその表面は、徹甲弾によって表面が削ぎ落ち始めていた。
相手の所有する弾数が如何程かは分からないが、もし同じだけの武器弾薬を突っ込まれでもしたら確実に持たない事は分かっていた。 エックスは内心焦っていた。
「ほうら!! 次はてめぇの番だゼロ!!」
丸腰で反撃の術がないのを良い事に、オータムは次にこちらに戻ってくるゼロに標的を向けた。 勿論彼も丸腰だが、万一の接近戦に持ち込まれぬようオータムは距離を置きながら、避けたら機体に命中しかねない射角に移動して武器を放つ。
「ゼロッ!! これだ!!」
エックスは素早く鞄を投げる! 風の抵抗と加速も乗った鞄をゼロはキャッチ。
「防げるもんなら防いでみな!!」
「――――ぐおおおおおおおおおおおおおっ!!」
表皮がはげ始めた鞄で、何とか弾丸の雨霰を防ぐ! ゼロもまた現状打つ手がなく、守りに徹するしかなかった。
「くそっ!! 空を好きに飛べて武器もある……これじゃいずれやられてしまう!」
「既にやられっぱなしじゃない!! 何かあの鞄に他の機能はないの!?」
束からの言葉に、エックスは目線を泳がせて答えた。
「
「え、あるの――――」
エックスからの返事に束が目を丸くした時、攻撃を防ぎ続けていたゼロがついに勢いに押され、背中から機体の上に押し倒されてしまった。
「ぐはっ!!」
「「ゼロ!」」
同時に攻撃が止み、2人が倒れたゼロに駆け寄った。 オータムも弾切れなのか、ライフルのマガジンを余裕綽々に換装している。
「ざまあねぇぜ! 言っておくが武器弾薬はまだまだあるからな! ま、足掻いて死ぬまでの時間稼いだ所で、爆弾の方が爆発して墜落ENDって奴だがな!」
「無事か、ゼロ!」
「くそったれ……やりたい放題やりやがって!」
ゼロの抱える旅行鞄はエックスが防いだ分のダメージも蓄積し、擦り切れて防弾繊維が今にも破れてしまいそうであった。 ここまで傷んでしまっては、もう次の攻撃を受け止める事は叶わないだろう。
「ゼロ……こうなったら一か八か
「――――
エックスは小声でゼロに提案する。 抽象的な表現であるが、ゼロにはそれが何と言っているのか分かっているように見受けられた。
「何か言いかけてたみたいだけど、まだ攻撃できる機能でも残ってるの?」
束もまた、オータムに聞かれる事を警戒してか小声でエックス達に問いかけた。 するとエックスは鞄を束の目前に差し出して言った。
「……この中にはマイクロージーロン弾頭が入っている。 君も科学者なら聞いた事はあるだろう」
「んな!?」
束は驚愕した。 それは使う量によっては、地球の半分を容易く消し飛ばす程の威力を発揮する恐るべき危険物である。 かつてはシグマに操られ、悪の道へ堕ちかけたドップラー博士が使いかけた事もある曰く付きでもあった。 それが今、目の前にある。
「流石に地球半分が消し飛ぶほどの威力なんか出ないし、吹き飛ばすも無いけど……機体を丸々巻き込むほどの凄まじい大爆発は起こせる!」
「そんな事したら旅客機ごと巻き込んじゃうよ!」
「……ISを浮かせているのはお前が作ったPICとか言う奴だったな。 そいつを応用した緊急脱出装置と使用者を固定する為の手錠が組み込まれてるそうだ」
「! なら、爆弾を起動してその脱出装置とやらでアイツの腕にでもくっつけてやれば――――」
言いかけた所で、束はオータムの方を向いた。 この空の上で接近戦など望むべくもない距離から、のんびりと武器を装填して欠伸をしながら、高みの見物を決め込む憎ったらしいアイツ。 近づくと不利だと言うのは向こうとて承知しているだけに、一切の隙が無く常に届かない距離を置かれて接近すら望めない。 一体どうやって近づけと言うのだろうか……。
「……脱出装置単体で飛ばすとかは?」
「だめだ。 確実に手錠で固定しなければ、安全装置が働いて発射出来ない!」
「じゃあ束に爆弾固定して特攻かますか?」
「何しれっと犠牲にしようとしてるんだよ! アンタがいけよ!! 死に慣れてるだろ!」
「またダメージが かんぜんに かいふくするまで みをかくせってのか!」
無論本気ではないものの、つまらない言い合いをしてみた所で、こんな切羽詰まった状況への打開策など見つかるべくもない。 何か、何か他にないのか……エックスは鞄を見て考えた。 チャックも壊れて口が開きっぱなしになり、すっかり無残な姿となった旅行のお供。
旅路の中で買った土産物や、楽しい思い出も投げ捨てた痛々しい姿にため息も出ない……が、その中でエックスは、鞄の中の生地に何かパッチのような物を縫い付けてあるのを見つけた。
それは激しい攻撃で糸がほつれ、破れた隙間から皺寄ったメモ書きと何かの欠片が見えていた。
ゼロと束がああでもないこうでもないと言葉を交わし、それをオータムがつまらない足掻きを見る様に嘲笑しきってる中、エックスはこっそりとパッチを破くとメモ書きを開き、一緒に入っていた欠片を見た。
次回オータムと決着! ダグラスの用意した特殊武器とは!?