ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
エックスの手に収まる、ダグラスが用意してくれたもしもの時の手段……エックスはこの武器チップに見覚えがあった。
「このチップは……そうだ!!」
先行きの見えない状況下において、エックスはこのチップに光明を見出した。 ここにいないダグラスに感謝しながら、正に起死回生の一手だと強く確信する。
エックスは次の動きを決めかねているゼロと束の肩を叩く。
「2人共……話がある」
ゼロと束は会話を止め、エックスへと向き直す。
「……ゼロ、
そして2人の身を寄せ、手身近に段取りを伝える。 すると示された道筋に2人の表情も晴れやかになる。
「! あああるぜ、成程な……それなら奴に近づけるかもしれない!」
「なんなら駄目押しに束さんをアイツ目掛けてぶん投げてよ! ゼロの腕力と私の脚力なら更に加速できるよ! ついでに狙いのズレも補正できるし!」
エックスの『提案』をゼロが了承し、その上に束も協力を申し出る。 彼女の提案については、身を守らなければならない対象故にエックスは渋い顔をしかけるが、その考えはお見通しと言わんばかりに束は言葉を続けた。
「だったら2人が責任もってキャッチしてよ! 言っておくけど今出し惜しみなんかしたら逆転のチャンスはないよ!? それに……」
「「それに?」」
エックスとゼロはオウム返しをして、束の次の言葉を待った。
「アイツは私の大事な作品でいい気になってる奴だからね……生みの親として、キッチリけじめつけてやんなきゃ気が済まないんだよ!!」
自分の手で倒したい。 その理由を口にする束の表情に、一切の嘘は混じっていないようだった。 作り手として自分が一生懸命産み出した物を、悪用されるのは我慢ならないと言う事だろう。
恐らく彼女の性格だ。 こちらが止めた所で譲るような事は全くないだろう。
「……分かった。 全力でフォローする」
「しょうがねぇな」
エックスも決意し、ゼロも不敵に笑みを浮かべた。 3人は揃ってオータムへ振り向くと、奴もまた悠長に入れ替えていた、マガジンの装填作業を完了させていた。
機体後方へ流されたエックス達を、前方の空中へと立ち塞がるオータム。
「おや? 作戦会議は終わりかい? こっちは待ちくたびれたぜ」
「律儀に待ってくれて感謝するぜ……おかげさんでこっちもお前を倒す準備が出来た」
ゼロの返答にオータムは小馬鹿にするような笑いを浮かべる。
「は? 私を倒すだぁ? 打つ手もねぇってのに、追い詰められ過ぎて狂っちまったか?」
「いーや? アンタが暢気に構えてくれたおかげで方法は見つかったよ……高みの見物決め込んだ事精々後悔するんだね!」
煽られたら煽り返す。 相手の挑発的な物言いに動じない束は、話しながらゼロから鞄を受け取った。
余裕を取り戻した3人の顔色が気に入らなかったからなのか、するとオータムの表情からは笑みが消え、最後の一手を決めにかかろうとする。
「ああそうかい……だったら方法とやらを私にも見せてもらおうかぁ? 見せられるもんならな!」
腕と背中の触脚、彼女の今実体化させている全ての銃器をこちらに向けた――――来る! 3人は強く確信した。
「打合せ通りだ! 行くぞ!!」
「オッケー!」
「任せておけ!!」
エックスの掛け声に相槌をうつ束とゼロ……3人で最初に動いたのはエックスだった!
「くたばれ!!」
オータムがライフルのトリガーを引こうとする。 が、それよりも早くエックスは、オータム目掛けてダッシュジャンプしながら、持っていた特殊武器チップを左腕のスロットにセット!
標準のエックスバスターは持ってきていないと言ったが、それは回路を内蔵したチップを外して置いてきたと言う話であり、ハードウェアそのものは実装されたままである――――エックスの体の色が黄色を基調とした物に変化し、チップをセットした左腕も本来の機能を取り戻し、バスターに変形した!!
エックスはオータム目掛け、ダグラスのとっておき――――『ライトニングウェブ』を発射!
「なにぃッ!?」
エックスを丸腰と思い込んでいたであろうオータムは虚を突かれた! バスターから放たれた核を中心に光学エネルギーで形成された蜘蛛の糸が広がり、銃器を構えたままのオータムに迫る!
しかしオータムとてそう甘くはなかった。 攻撃が命中するその瞬間に、更に旅客機前方へ逃げる様に攻撃を回避。 光の蜘蛛の巣は空中に空しく広がるだけであった。
「――――驚かせやがって! アラクネが蜘蛛の糸に絡めとられるなんざ笑い話にも――――」
「今だ!」
だがエックス達にとって、避けられたのは別に問題ではなかった。 エックスの合図と共に、今度はゼロが仕掛けた。 旅行鞄を持つ束を背後から抱きかかえて。
オータムが次に動くより先にゼロは、エックスの上に跳躍して彼の背中を踏み台にする。 そして次は、なんと展開された『ライトニングウェブ』目掛け再び跳躍! ゼロは斜め上に向いて展開された蜘蛛の糸へ、風の抵抗を利用して前方へ回り込みながら飛び乗った! 蜘蛛の糸が二人分の体重に沈み込む
これこそがエックスの狙いであった。 何も『ライトニングウェブ』は敵を絡めとって攻撃するだけでない。 その頑丈な構造は足場として利用する事も可能であり、オータムが攻撃を回避するのを十分に想定していたエックス達にとって、真の狙いは正に後者の方だった。
そして『ライトニングウェブ』の沈み込みの反動を生かし、ゼロは先述の
掛け声と共に通常のジャンプと異なる、恐るべき速度と飛距離でオータムに飛び掛かった。
「あぶねっ!!」
裏をかかれた。 そう思ったかオータムはもう一介更に距離を置いて回避行動をとった。
ゼロのスキル『氷狼牙』は元々は跳躍の勢いで天井に張り付き、氷の刃を飛ばして攻撃する技である。 前動作であるハイジャンプの部分を利用した形であるが、勢いがある分細かな姿勢制御ができず、途中で向きを変えられない。
このままではオータムに接触できず、明後日の方向に飛んでしまう……そう思われたが、それも計算の内である。 束を抱きかかえたまま飛んだ理由、それは打ち合わせの時に彼女が口にした提案にあった。
「行け束!!」
「おっし!!」
ゼロは素早く彼女の靴底に手を回し、それを避けに入ったオータムの方向目掛けて押し出す様に一気に振り上げた! そんなゼロの手の平を束は膝のバネを生かして一気に蹴り、更なる加速を果たした!!
「――――はっ?」
裏の裏をかくような3人の連係プレー。 エックスの『ライトニングウェブ』でゼロの『氷狼牙』の速度を一層向上させて一気に跳躍し、避けられた角度の調整を束の跳躍に委ねて補正する。 その速度はISが『
「よ、避け切れ――――」
「捕まえた!!」
顔を引きつらせるオータムの懐に飛び込むや否や、勢いを生かし素早く腕を首筋に引っかけて背後に回り込む。 もがいて引き剥がしにかかる手間も与えず。 束は直前にエックスから教わった手順で、旅行鞄に備えられていた手錠を引っ張り出し、ISを解除しても外せない露出した二の腕に固定した。
そしてすかさず『最後の手段』……自爆装置を起動する。 突如鞄から鳴り響く警告音と、猶予にして10秒程度しかない赤く不気味に光るタイマーが鞄の中から飛び出し、オータムにこれでもかと衝撃を与えた。
「お、おま……一体何しやがった――――」
「ねえねえ。 いきなりだけど束さん、
大きく口を開けて唖然とするオータムに対し、束は目元に影がかかったような残忍な笑みを浮かべ、容赦なく緊急脱出装置のスイッチを入れる。
「ちょっ!! 嘘だろ!? やめ――――」
「あはは☆ た~ま~や~!」
ISの背中から飛び離れる束。 その瞬間オータムは猛烈な速度で、旅客機から明後日の方向へ飛び離れて行った!
「うわあああああああああああああああああああああああああッ!! 冗談じゃ――――!!」
飛んでいく瞬間、ISすら引っ張っていく鞄の勢いに抵抗を試みていたが、ISの出力を上回る鞄の強烈な加速を前にしては無駄な努力だった。 彼女の断末魔の叫びは、瞬く間に離れていく過程でエックス達の耳には届かなくなった。
そして束が何事もなく機体に着地し、抵抗もままならずに鞄に引っ張られていったオータムが小さな点の大きさになった瞬間――――
爆風が衝撃波となって大きく機体を揺らしたが、幸いにも機体をこれ以上破損させるほどの威力にはならなかったようだ。 エックス達もバランスを崩しそうになったが、直接エンジンを壊されたほどの揺れではない。
空の向こうで粉々になったであろうオータムを見て、束は一言呟いた。
「へっ、汚ねぇ花火だ」
この上ない痛烈な台詞を吐き、黄泉路を見送る束であった。
「ふう……とりあえず一難は去ったみてぇだな……あばよ相棒」
この一週間連れ添った旅行のお供を、ゼロとエックスもまた見送った。 しかし、オータムは倒したものの、彼等には依然として大きな問題が残っている。
「さて、後は急いで爆弾を解除しないとな!」
「そうだな。 束は壊された操縦席周りの応急修理をしてくれ! 手動操作に切り替えれば、なんとか安全な場所で不時着はできる筈だ!」
ゼロに頼まれる束だったが、彼女は爆弾解除に買って出た2人に不安を覚えた。
「エンジンのどこについてるか分かるの? 下手したらエックス達がエンジンに吸い込まれて、オシャカにしちゃうかもしれないよ!? ……私がやった方がいいんじゃない?」
「心配はいらない! こういう時こそレプリロイドの出番じゃないか!」
「俺達だってプロだ。 大船に乗ったつもりで任せておけ」
束の不安も跳ね避ける様に、頼もしい台詞を言ってのけるエックスとゼロ。 色々とお騒がせなコンビであるが、少なくとも今だけは頼れるかも……今の言動からそう感じたのか、束も少し考えた後に軽くため息をついた。
「わかった。 そこまで言うなら2人に任せる……機内に備え付けの工具あるかもしれないし、ちょっと取ってくるよ!」
束は背を向けて左側面を器用に滑り降り、外側のコンソールから乗降口のロックを外して機内へ戻っていった。
「……さてと、次は爆弾の取り外しか」
「エンジンだけを壊せばいい代物だから、爆発の範囲はそう広くない筈……解除できないなら、最悪安全な空中で爆破処理しよう――――!?」
束が戻るのを待ちながら、ゼロとエックスは次の段取りを話し合っていたその時、ふと爆弾の仕掛けられた側である右の空から、何かが近づいてくるのを感じた。
気配に気づいた2人は一斉にそちらを振り向き、その何かを凝視した。
「「――――あれは!?」」
2人が何かの正体を認識した時には、それは瞬く間にエックス達の元へ距離を詰めた!
「束さんを返せニセハンターめ!!」
現れたのは、白いISを身にまとった若い少年だった! 少年は何やら怒りを覚えた表情でこちらを見下ろした。
「――――新手か!?」
「いや、待つんだゼロ! ……女性にしか装備できないISを操れる男性操縦者……まさか!」
エックスは白いISの彼に見覚えがあった。 それはつい近年ニュースなどでも取り沙汰された、唯一男性でありながらISのパイロットとしての適性を持った少年……かの著名なパイロットである『織斑千冬』の実弟。
「君は『織斑一夏』かい!?」
少年……一夏は首を縦に振った。 肯定の様だ。
「……別に名乗る程の関係でもないけどな! さあ、束さんをどこに隠した! 旅客機のエンジンを壊したのも、アンタ等がISの女と共謀して手引きしたんだろう!?」
「――――はあ?」
「な、何を言ってるんだ君は!? 俺達は『亡国機業』とは関係ないぞ!?」
エックスの言葉に、一夏は訝し気にこちらを見た。
「あいつらが関わってたのか……だけど、そうだからってアンタ達が本物のイレギュラーハンターかどうかは怪しいぜ! 束さんに無理矢理銀行強盗させたり、鞄に詰め込んで拉致しようとして!!」
「本物!? おいちょっと待て! 一体何の話をしてる!?」
「とぼけんな!! アンタら2人はエックスとゼロの皮被った偽者だ! 2人が強盗なんて真似する訳無いだろ!!」
「「?」」
突如自分達を偽者とのたまう一夏に2人は首を傾げた。 一体何の話をしているのやら……銀行強盗の件にしても、3人ともきちんと変装して本人と分からないようにしていた筈――――
いきなり降って湧いて出た突拍子の無い話に、電子頭脳がこんがらがりそうな気分になるエックスとゼロ。
「エックス! ゼロ! あったよ工具!」
「でかした! ……って束、丁度いいとこに来た!」
「え!?」
丁度その時、工具箱をもって束が戻ってきた。 エックスは安堵し、一夏は急に鉢合わせになった束の姿に驚きを隠せなかった。