ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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第32話

 馬鹿2人に引導を渡すべく歩いて行くアクセルを、束は気の抜けた顔をして見送っていたが、今のアクセルにとっての関心事は、仲間2人へのけじめをつけることだ。 一夏も束に対しては関心は向けておらず、2人の特にゼロの方へ憎悪を募らせているように見えた。 どうやらゼロが余計な事をやらかしたのは確定のようだ。

 

「待ってくれアクセル!! 俺達は本物だ!!」

「大体偽者とか何の話だ!? 束の護衛を引き受けただけでえらい言われようだな!」

そんな事はどうでもいいんだよ! そこの博士とか助けに行った一夏がこんなボロボロなってたりとか!! 返答次第によっちゃただじゃ済まないよ!!」

 

 アクセルは詰め寄った。 彼らが本物だろうが偽者だろうが、余計な行いによってこのような事態を引き起こした事実に変わりはない。 それを分かった上でアクセルは2人を問い詰める。

 

 ……すると2人は、目を閉じて深呼吸の後にアクセルの問いに答えた。

 

「……いいかアクセル、落ち着いてよく聞け」

 

最初に口を開いたのはゼロの方だった。

 

「一夏とか言う奴は来てもいないし危害も加えていない……何故ならここにいるのはワンサマーっていう七面鳥の一種だからだ!

「はぁ!?」

 

突如、訳の分からない言い訳を始めるゼロに、アクセルは間抜けな声を上げた。

 

「いいかアクセル。 飛行機のエンジンというのは、凍ったターキーブレストをぶつけるターキーシュートという機械で実験を行うんだ。 バードストライク対策にな」

「それが何だよ!」

 

 苦しいことを言うかと思いきや蘊蓄を語り始めたゼロに、アクセルは投げやりな返事をする。

 

「この鳥はなんと、タービンに吸い込まれる寸前で引っかかった状態のまま、生きてたのを空飛んでる最中に見つけたんだ。 実験の時に生きた鳥を混ぜてエンジンに飛ばしちまったって。整備の連中が言ってたのを慌てた機長の無線で聞いちまってな。 だがそれも、空中飛んでる間に持たなくなって吸い込まれちまって、あえなくエンジンをお釈迦にしちまった……まさかそれでも生きてるとは、随分タフな鳥だがな!」

「そんなクソ同然の言い訳信じるとでも思ってんのか!?」

「殺ス」

 

 状況説明が詳しすぎて、どう考えても嘘な言い訳をアクセルは一蹴する。 第一機長は気絶してたし、最終点検もオールクリアだったのはケイン博士のとった電話で知っている。 見え透いた嘘にアクセルが神経を逆撫でされる中、一夏は譫言のように殺意を仄めかしている。 何かがきっかけでゼロに飛びかかりそうな勢いだ。

 しかし既に語るに落ちていると言う事に、意地でも向き合わないゼロの言い訳は続く。

 

「アクセル。 考えてもみろ! こんな全身から羽が生えた人間がいるか? ISだってこんなごちゃごちゃの装飾はねぇぞ。 こりゃ間違いなく鳥だ!

「殺ス」

「全身タービンブレードの生えた鳥もいないよ!! どう見ても一夏だろ! いい加減にしろ!!」

「違う。 ワンサマーって言う七面鳥だ。 さっきからずっと『殺す』って鳴いてるだろ! 世の中には生まれたときから『ぶっ殺す』って鳴くハトだっているんだ! 似た鳴き声出す鳥だっていてもおかしくねぇだろ!!」

「おかしいのはアンタの頭だ!! 僕だって『殺す』ぐらい言うよ!! アンタを血祭りに上げる為にな!!」

「殺ス」

 

ゼロは人の怒らせ方についてもプロのようだ。 徹底して非を顧みずすっとぼける姿は堂々と、それでいて逆上は避けられない状況にアクセルと一夏を追い込んでいく。

そんな中で、焼け石の如く憤怒の熱気を立ち上らせるアクセル達に、エックスが空気を読まず燃料を投下しようとしていた。

 

「とにかく、束は無事に連れてこられた……これでサミットは無事に開催できるね!

「会場の学園がこんなんでサミットなんか開けるかッ!! 頭沸いてんのか!?」

 

勿論、そのような発言を受けたアクセルが、今度はエックスに矛先を向けるのは当然であった。 彼としては強引でも、話を収める方向に持って行こうとしているのだろうが……当然学園そのものが壊滅的な打撃を受けた大惨事の後では、それも空しい努力に過ぎないが。

  

「アクセル。 過去の戦争で日本の学校が軒並み焼かれてしまった時、たくましい日本の国民は敗戦にめげず、青空の下で生徒達に授業を行っていた……人はそれを青空教室という」

 

 しかしそこはやはりというか、ゼロ同様に諦めの悪いエックスが、話を言いくるめようとするがあまり、遂にアクセルの逆鱗に触れてしまう。 最早アクセルは、言葉さえ発せずに身を震わせていた。 それは束の恐怖による物からとは真反対の……怒髪天と表現するべき激情――――

 

「空を飛ぶISを扱う学園において、満天の青空の下で開催されるサミットは、この国の歴史を鑑みても最高のシチュエーションだと思うよ!?」

 

――――次の瞬間、アクセルの全身全霊の怒りをこめた右ストレートが、エックスの顔面に刺さった!!

 

「いい加減にしろこのクソブルマアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「ぽぴゃあああああああああああああああッ!!!!」

  

……アクセルがこの学校で知り合った生徒の一人、セシリア・オルコットがかつて言い放った一夏へ悪口に『文化的にも後進的』との言葉を残したことがある。 エックスのそれは、軒並み街を焼いて更地にした側の国のレプリロイドとして、それをナチュラルに上回る最高の煽り文句であった。

 

 

アクセルは殴りつけた勢いでエックスに飛びかかり、馬乗りになって積もりに積もった鬱憤を爆発させていた!

 

「それを国辱って言うんだよッ!!!! ふざけんなよそこら中で迷惑かけまくりやがってッ!!」

「だ、誰がブルマって――――あべしっ!!

「アンタなんかニセハンターのクソブルマで十分だぁッ!! クソブルマクソブルマクソブルマッ!!」

「あばばばばばばばばばばばばばばッ!!」

 

エックスの逆上のスイッチとなる『ブルマ』なる禁句。 普段は言わないよう心がけるアクセルも、今となっては恐れをも上回る激情から、何度も執拗に叫びながらエックスを殴りつける。

 

「あはっ……あははははは……」

 

 馬乗りになってエックスを殴打する、修羅と化したアクセルを遠巻きに見ていた、千冬に預けられた束は彼らを指さして乾いた笑いを浮かべていた。 彼女もまたエックス達に対しいざという時には猛然と反発していた口であるが、すっかり心の折れた今となっては笑いものにするぐらいが関の山であった。

 

「おいやめろアクセル!! 一体何やって――――」

「てめぇはこっちだあああああああああああッ!!!!」

  

エックスに気をとられた一瞬の隙を突き、ゼロの股間に一夏の渾身のローリングソバットが突き刺さった!

 

「ぺさあああああああああああああああッ!!!!」

 

 体をくの字に曲げ、舌を蛙のように長く伸ばしながら白目を剥いて卒倒するゼロ。 この期を逃さない一夏は畳み掛けるように、ゼロの背中に馬乗りになって両の手をゼロの下顎と首筋の間に回す!

 

「この野郎!! よくもエンジンの中に放り込んでくれたなッ!?」

「い、いい加減な事言うな!! あれは……お前が勝手に飛び込んだんだろうが!! 束のパイオツガン見してやがった癖に!!」

「束さんの胸元破ったのはアンタだろ!! あんな土壇場でいきなりやられたらビックリするわ!! やっぱりアンタ偽者のゼロだろ!! 始末してやる!!」

「ンアーッ!! やめろぉ!! 何しやがんでぃ!!」

 

 あくまで目の前の赤いハンターを偽者と決めつけて疑わない一夏は両腕に力を込め、ゼロの首を上半身ごと上に引っ張り上げ、見事なまでの機矢滅留・苦落血(キャメルクラッチ)を決めてみせる。 無理から体を反らされているゼロは正しく発音することもできず、地面を両手で叩いて抵抗するも、一夏の込められた力がよほど強烈なのか、逃げることもままならない。

 

「これで、終わりだあああああああああああああああッ!!!!」

 

 そして、一夏の機矢滅留・苦落血(キャメルクラッチ)は、無残にもゼロの上半身をへし折り、ロックマンXシリーズにおいてはお馴染みともとれる光景が、束達の前に繰り広げられた!

 

「ゲエーーーーッ!! 赤いイレギュラーの胴体がロックマンXシリーズの真っ二つになるシーンみたいになってしまったーーーー!!!!」

 

 いやに説明口調で驚いてみせる束。 対するゼロは、上半身と下半身を引きちぎられた割には、どこか達観したような表情を見せていた。

 

「フッ、また泣き別れかよ……ガクッ

 

 煩悩の源だった下半身が立たれ、賢者のような佇まいを見せるゼロだったが、やはり自他共に認める下半身直結。 シリーズ恒例の泣き別れを喫したその直後に他界した。

 アクセルはマウントポジションを、一夏は機矢滅留・苦落血(キャメルクラッチ)を決め、十分過ぎるほど攻撃を加えているはずなのだが、しかし腹の虫が治まらないのか2人はエックスとゼロに執拗に追い打ちをかけていた。

 

「お、織斑先生……いいんですかアレ!? そろそろ止めなくても!

「う、うむ……いや、しかしな……」

   

頭を引っ掴んで地面に叩き付けたりするアクセルや、胴体をちぎった後もスリーパーホールドする一夏など、いくら偽者(と思い込んでいる)エックスやゼロ相手とは言え、際限なく苛烈さを増していく2人を見かねた箒は、千冬にどう対応すべきかを問うが、千冬自身は一夏はともかく、アクセルがイレギュラーを倒そうとするのは彼らの領分であると思っていた。 何より学校に恐ろしいテロ攻撃を加えた張本人である為、大変見苦しい光景ではあるが、しかし迂闊に彼らの行動を止めていいものか、判断に困っているのが本音であった。

 そして束は……この間一切口を挟まなかったのは言うまでもない。

 

「おやおや、この災害の直後で随分と元気な人達ですな」

「ははっ、お見苦しい所をお見せしますわい」

 

 その時、千冬達の入ってきた開けっぱなしの扉から、初老の男性と思わしき2人分の声がした。 千冬にとっては共に聞き覚えの声であり、振り返ったそこにはにこやかな轡木学園長と困ったような表情のケイン博士が立っていた。

 

「学園長……それとケイン博士」

「うひっ!!」 

  

 千冬が彼らの名をつぶやくと同時に、束は千冬に担がれた箒に抱きつき、怯え混じりに彼らを見た。

 

「姉さん! 少し! 離れてって――――」

「ごごごごごごめんなさいぃ!! まさかこんな事になるなんて思わなかったのぉ!!」

 

 引き剥がそうとする箒にしがみつきながら、現れたケイン博士達に対し謝罪の弁を述べる。 対してケイン博士は特に彼女について何も言わず、ただため息をついた。

 

「お前さんが篠ノ之束じゃな?」

 

 ケイン博士が呆れたような眼差しでその名を呼ぶと、束は叱られた子供のように身をすくめた。

 

「全く、つまらんことを考えおって……バカを侮るとロクな目に合わんと、これでわかったじゃろう!

「あう……」

 

 まるで全てをお見通しだ、と言わんばかりのケイン博士。 束も言い返す気力も無く、しょげる気持ちを表すように彼女のヘアバンドの耳も力なく垂れた。 そこに、隣の学園長が仲裁に入った。

 

「ケイン博士、彼女も()()()()()()()()でしょう……反省もしているようですし、とりあえずは――――」

 

 学園長は束では無く別の方へ視線を送る。 それは未だ攻撃の手を緩めないアクセルと一夏に対して。 ケイン博士は再びため息をつくと、上着を脱ぎ捨てて両肩を回し、首筋を左右に動かして凝りを解す。

 

「全く……人前でもめ事なぞ起こしおってからに……若いのは血気が盛んすぎて困る」

「お手伝いいたしましょうかなケイン博士? 私も偶には体を動かさんといけないと思いましてな」

 

 学園長も片手の指を動かし、乾いた音を鳴らしていた。 ケイン博士は微笑んで、学園長の好意に甘えることにした。

 

「では……お言葉に甘えましょうかのう」

 

 ケイン博士の了承の返事と共に、2人の老人が身に纏う空気が変わった。 はっきりと目に見えた訳では無いが、両者の背中から闘気のようなものが迸るような、千冬達は揃って錯覚を覚え背筋を震わせた。

 

 そしてコンマ1秒にも満たない次の瞬間には、彼ら2人の姿がその場から消え失せていた――――

 

「「後ろッ!?」」

 

 比較的まともではあるが、超人側の人間である千冬と束には彼らの動きを辛うじて捉えることができた。 反応しきれない箒をよそに振り返る。

 

「もうその辺にしとかんか!」

「うべっ!」

 

 視線の先には馬乗りのアクセルの背後から、彼の脳天にチョップをたたき込むケイン博士。

 

「落ち着きなさい一夏君」

はうぁっ! うっ――――」

 

 両手の人差し指をこめかみに添え、触れただけで一夏の動きを止めたかと思えば、しばしの硬直をおいて昏倒させる学園長の姿があった。

 

「え? え? い、今一体何を――――?」

 

 ワンテンポ遅れて、ようやく箒が2人の老人がアクセルと一夏を落ち着かせたことに気がついたようだ。

 

「ふう、ご協力感謝しますぞ学園長」

「いえいえ。 私としても学園の生徒に指導をしただけの事です……よっこいしょっと」

 

学園長が、気絶させた一夏の胴を立て折りに肩から担いだ。

 

「……それにしても、気を送り込んで一夏君を無傷で失神させるとは対した技量ですな」

「気を扱う技なら、()()()()()()()()()()()()()()

「ほう、力の夫に技の妻の轡木夫妻は健在と言ったところですかな! はっはっは!

 

 ――――しれっとこの人達、とんでもないことやってる。 様子をただ見ていた千冬達は戦慄していた。 まさに人外の域とも言うべき早業だったが、当の年寄り2人は何て事は無いというような様子でお互いに笑い合っていた。

 

「い、痛ったぁ……電子頭脳が一瞬揺れたぁ……もうちょっと手加減してよ博士ェ……」

 

アクセルが叩かれた頭を抱えて悶絶しながらケイン博士に抗議するが、対する博士は知った風で無い様子で返す。

 

「これで少しは落ち着いたじゃろアクセル。 ほれ、とっととエックスを担がんか! この2人には色々と話を聞く必要があるからな」

「え、えー……」 

 

 アクセルは露骨に嫌そうな顔をしながら、一夏と2人がかりでタコ殴りにしたエックス達を流し見る。

   

「「あばばばばばばばばばばば……」」

    

ケッチョンケッチョンで目を回しながら、辛うじて生きているイレギュラーハンター2人。 ここまでやって気を失うだけで済んでいる辺りは、曲がりなりにも伝説クラスのハンターなのだろう。 しこたま殴っておいて今更であるが、博士の言う通り話も聞きたいし、流石にこの状態でおいておくのは忍びなかった。

 

「はぁ……しょーがないなぁ」

「後で此奴の為のガムテープも用意するんじゃぞ」

「はいはい」

 

 アクセルは呆れながらにため息をつきながら、エックスの肩を担いだ。 ケイン博士もぶっちぎれたゼロの上半身と下半身を背負う。 そして千冬達の方を振り向いて軽く会釈だけして、彼らを担いだままいずこへと歩いて行った。

 

「は……あはは……う、上には上がいるって奴なんだね……あはははは……」

 

 子供の粗相を咎めて後片付けをする大人のような構図に、束は乾いた笑いを浮かべるしか無かった。 とても敵わない。 文字通りの人外の境地を垣間見た束は、自分の知っている世界がいかに狭かったかを痛いほどに実感していた。

 

「むう……何という恐るべき、そして懐の深さだ……私も精進しなければな!

「織斑先生!?」

 

 そして目を輝かせて感心する千冬に、箒が心配そうな声を上げた。 まるであんなの見習っちゃダメ! と言わんばかりに。

 

「ち、ちーちゃんは人間のままで……いて……

 

 明後日の方向を向きつつある友人を心配しながらも、立て続けに起きた色々な事態に精根尽き果てた束は、紙一重のところで保っていた意識をとうとう手放し、地面に倒れ込んだ。

 

 ね、姉さん!!」

 

 箒も、重い体ながら千冬から離れ、慌てて倒れた束を介抱する。 気を失って倒れた物と思われたが、よく見れば抱きかかえられた箒腕の中で束は寝息を立てていた。

 

「全くこの人は……」

 

 箒は困ったような、それでいてかすかな笑みを浮かべていた。 あれだけ嫌っておきながらもどこか心配するような彼女の様子は、確かに肉親としての絆があったようだ。

 

 かくして飛行機が墜落する大変な騒動の結果、学園で開催されるはずだったサミットは中止となり、催し事が横槍を入れられるのに定評があるIS学園の歴史に、新たな1ページが書き加えられることとなった。

 

 

 ……そしてエックス達が目を覚ました1時間後。 彼らに叩き落とされたケイン博士の雷が、ボロボロの校舎に轟き渡る事となる。

 

 

「ぶゎっかもおおおおおおおおおおおおおおんッ!!!!」

 

 




 約半年続きましたが、劇中の経過日数にしてたった2日分……束の人生を変えうる酷い旅もこれにて終幕です。
 さて次回以降は、お待ちかねの事後処理タイムです!
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