ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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第34話

 IS学園への旅客機の墜落のニュースが流れ、作戦の成功を喜ぶも束の間、その割には一向に自分の元へ戻ってこないオータムを心配すること数時間、スコールのスマートフォンに届いた彼女からの一通のメール。

 

『トラブル発生! 至急合流を求む!』

 

 予期せぬ連絡を前にスコールは慌てて、メールに添付されていた位置情報を頼りに東京のさる港近くの空き地へとやってきた。 周囲はうち捨てられた廃材の山ばかりで、人通りもなく利用価値の少なそうな見通しの悪い場所だ。 

 彼女からの電話とはいえ、指定された地点が地点なだけに、一応罠を疑って警戒はしている。 何せ今自分の手元にあるのはISコアのみ、肝心の機体は篠ノ之博士に分解されてしまった。 すなわち完全な丸腰なのだから。

 

「……本当に彼女からのメールかしら――――ッ!!

 

 正面に見える廃材の山。 その後ろから何者かが姿を現した。 スコールは身構えるが、物陰から現れたのは――――

 

「う、うう……済まねぇスコール……ドジっちまった……!!」

「オータム!?」

 

 全身煤こけて長いオレンジヘアーを大胆にアフロへとイメージチェンジをしたオータムの姿だった。 揃えて前に突き出した両腕の先にタオルを被せられ、そしてその後ろには……コートに身を包んだ刑事らしき中年の男と警察官の姿が。

 

「エックス達に撃墜されちまった……飛行機は落とせたんだけど、海の上落っこちて気を失っちまって、気がついたらいきなり警察がやってきて……!!」

「暴れるな!」

 

 身をよじるオータムの声色は弱々しい。 相当弱っているというのもあるのだろう、肩を掴む警察官への抵抗にも男勝りな力強さが感じられない。

 なら、このメールは……!? スコールがまさかと思ったのも束の間、彼女の周りを囲う廃材の山々の物陰から、次々と銃器と戦闘服で身を包んだ警察の隊員が飛び出してきた!

 

「動くな!!」

 

 それはスコールの動きを封じるように周囲を塞ぎ、銃を突きつけて降参するよう求めてきた! スコールは混乱する。 IS学園への飛行機落としは成功した。 なのに何故、オータムがあんな姿で警察に捕まった? ISはどうしたというのだ? 少なくとも、彼女はそんじょそこらのISパイロットには引けを取らない強さの筈だ。

 だがどれだけ考えた所で、今自分達が置かれている状況がピンチなのは違いない。 スコールは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

 

「仲間のピンチにわざわざ駆けつけるとは、中々殊勝な心構えやなぁ」

 

 そして取り囲んできた隊員達の間をかき分けるように、聞き覚えのあるコッテコテの関西弁がスコールの耳に入る。

 スコールは恐る恐る声の聞こえた方向を振り返り、そして言葉を失った。

 

「毎 度」

 

 銃を構える隊員の間から堂々と出てきたのは、右肩周りを失い、レプリロイド用の包帯を肩から胴にかけて巻いた、恐るべき債権人バブリー・クラブロスであった。 部下と思わし、き黒服にサングラス姿の屈強そうな男数人を引き連れて。

 何故彼がここに!? オータムを通しての依頼の後、一切の連絡を切ったかと思えばレプリロイドの救急搬送センターに運ばれたと聞いていたが。

 

「お前の仲間が警察に捕まったって聞いてのぉ……いても立ってもいられへんくて、右肩周りの修理を済ませる前に、慌てて東京までやってきたんやで!」

「……?」

 

 スコールは怪訝な眼差しをクラブロスに送った。 何故この男が警察と一緒にいる? それもこんな人っ子一人いない辺鄙な場所で?

 疑問に首をかしげたい気持ちでいると、中年刑事とクラブロスが顔を見合わせて、お互いに無言で頷いた。 すると、刑事が右腕を挙げた。

 

「よし、これで2人揃ったな。 後は任せて俺達は撤収だ!」

「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」

 

 警察達は突如として、武器を下ろし撤収の準備を始めた。 拘束していたオータムをご丁寧に引き渡し、乗ってきたであろう警察用のバンにさっさと乗り込んでいく。

 自分達とクラブロスらを置いたまま、役目を終えたと言わんばかりに去って行く彼らを、オータムとスコールは呆気にとられたように見送っていた。

 

「さて、お前ら2人共ご苦労やったな……働いた分のお礼はさせて貰うで」

 

 彼女らを引き戻すように声をかけるクラブロス。 まさか、オータムも含めて自分達の身元を引き受けたとでも言うのか? だとしたら、彼に対しては大きな恩を売られたという事になる。

 

「……一応、礼は言っておくわ」

 

 素っ気ないがスコールの一応の謝辞に、クラブロスは笑った。

 

 

 

「礼? 何を言うとんねんオノレら」

 

 クラブロスは無事な方の左手で指を鳴らすと、黒服の男がスコール立ちに駆け寄った!

 

「ワイのお礼って言うのは()()()()のほうやで」

「「えっ?」」

 

 クラブロスの言葉の意味を図りかねていると、駆け寄ってきた男達に背後から拘束される! 突如として身動きを封じられそうになり、もがくオータムとスコール。

 

「な、なんだよてめぇら! 離しやがれ!」

「クラブロス会長!? これは一体何の冗談よ!」

 

 声を荒げる2人に対し、クラブロスは冷酷な笑みで答えた。

 

「お前らワイの依頼した内容覚えとるか? ワイは確か()()()()()()()()()()()()って言うたな」

「ええそうよ! 一人は捕まえて貴方に引き渡したし、残り3人は……篠ノ之博士とイレギュラーハンターのエックスとゼロよ! あいつらは飛行機ごとIS学園に叩き落として――――」

 

 その瞬間、クラブロスは血走った目を見開きながら怒鳴り声を上げた!

 

「誰がテロ起こせって言うたぁッ!!!!」

 

 クラブロスが腹の底からの叫びは、空き地の地盤をも揺るがす、それこそ廃材の山が僅かに崩れるほどの地響きを引き起こした! 思わずスコールとオータムは身じろぎした。

 

「強盗だけ始末すれば良かったんじゃあ!! せやのに飛行機ハイジャックして落とした先がIS学園やと!? お前あそこで今日サミットやる言うの知っててやったんかぁ!? オノレらが余計なことしくさったせいで、雇ったワイとばっちり受けてもうたやんけ!」

「や、やり方は一任するって言ったのそっちだろ!! 第一あの飛行機事故なら全員おっ死んだだろうし、依頼は達成したんだ! 死人に口なしなんだから別にいいだろうがよぉ!」

 

 反論するオータムだが、クラブロスは冷めた目つきでため息をつく。

 

「なら、エックスら全員がくたばったこと……確認したんやろな?

!! そ、それは……

 

 クラブロスが切り出すと、オータムは言葉を失った。

 するとクラブロスは鼻息をつき、どこからともなく取り出したタブレットを、タッチパネルを数回なぞった後に画面をこちらに向けてきた。

 

「こんな動画が送りつけられて来たわ! 学園の新聞部の生徒がこっそり撮影してた墜落直後の映像や!」

 

 映し出された映像を見て、オータムとスコールは驚愕する。

 

<アンタなんかニセハンターのクソブルマで十分だぁッ!! クソブルマクソブルマクソブルマッ!!>

<この野郎!! よくもエンジンの中に放り込んでくれたなッ!?>

<<あばばばばばばばばばばば……>>

 

 それは、崩れ落ちた学園らしき建物の中で、黒い少年のレプリロイドと織斑一夏にたこ殴りにされる、エックスとゼロの姿だった!

 飛行機の墜落という未曾有の災害に巻き込まれながら、しっかりと生きていたのだ! ……何故殴られまくっているのかは分からないが。

 

「ば、馬鹿な……生きてた!?

「こいつらだけやないぞ!? 篠ノ之束も、この事故に巻き込まれた()()生還しとるがな!!」

「「ファーーーーーーッ!?」」

「せやからお前が海に落ちた後、警察が網張ってすぐ逮捕されとるんや!! この一件についてはエックスらも証言しとるやろうしな! もっと言うなら、この動画を送りつけてきた()()()()はワイらの関係も全てお見通しやったんや!!」

 

 これにはオータムとスコールも驚かされた。 大多数の死者が出た内の生存者ならまだしも、全員生還という事実はにわかに信じがたいものがあった。 

 流石にショックを受けるスコールだが、クラブロスは気を取り直して言葉を続けた。

 

「この失態は見逃せんなぁ。 取り逃がしただけならまだしも、こないな事態を引き起こしてワイの顔に泥を塗ってくれた訳やが……キッチリ体で返して貰おうかのぉ!!

 

 クラブロスの言葉に、オータムとスコールは震え上がった。 女の身で返せという事はつまり――――そこまで考えた所でクラブロスは顔を横に振る。

 

「言っといたるけどワイは(ゼニ)にしか興味あらへんし、女衒(ぜげん)師でもあれへんで! お前らがワイにキンコ―ソーダーとか言うアホタレ押しつけたんやったら、何させられるかぐらい分かるやろ!?」

 

 クラブロスがスコール達を押さえつけている黒服に無言で頷くと、黒服もそれに答え、彼女達をクラブロスが乗ってきたであろう黒いセダン車へと連行し始めた! なすがままにされるスコール達だが、キンコ―ソーダーと同じ目に遭うというワードに内心戦慄していた。

 

網走はええでぇ? 今の時期やったら蟹がまだまだ捕れるからな! モリモリ稼いで、キッチリ損失を補填するまで働いて貰うからなぁ!!」

 

 車内の後部座席に押し込まれ、扉を閉め切られてしまう。 黒服もさっさと運転席に座り、車のエンジンをかける。

 

「じょ、冗談じゃねぇぞ!? 私は嫌だ!!」

 

 我に返り、中から窓や前座席と後部座席の仕切りを叩いて、必死で外に出ようとするオータム。 彼女が恐れるのも無理はない。 違法漁船と言えば難破に某国の巡視船に拿捕された等の、今後を左右する深刻なリスクに塗れている。 そして何より、散々ちょっかいを出したあげくに無慈悲に送り込んだキンコ―ソーダーがいる。 彼は間違いなくこちらを恨んでいる。 ISありなら恐るるに足りない相手だが、そんな彼女らに対しクラブロスが外から残忍な笑みを浮かべて言い放った

 

「ま、せいぜい先に送ったキンコ―ソーダーと仲良くやるんやなあ!! ――――行け!!!!

「かしこまりました」

 

 運転を買って出た黒服が、窓越しでまくし立てるクラブロスに一礼すると、遂に見送るクラブロスを置いて発進してしまった。 自分はこれから数時間かけて網走へと送られ、お先真っ暗な違法漁船生活を強いられるのだろう。 嘆くオータムに対し、スコールは不気味なまでに落ち着き……と言うよりは絶望したのだろう。 反抗する気力が一気に削がれてしまった気分だった。

 今はただ、何も考えたくなかった……考えたくなかったのだが、ある疑問が頭の中でよぎって仕方がない。

 

 オータムのスピード逮捕に加え、自分達の関係を全て調べ尽くし、あまつさえ動画まで送りつけてきた()()()()とは、一体何者なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったか……」

 

 クラブロスが車を見送ると、彼の携帯電話に着信音が。 液晶に映る相手の名前に舌打ちしながら、慣れない左手での辿々しい操作で通話ボタンを押した。

 

<もしもし私です。 彼女達は無事貴方が身柄を預かりましたかな?>

 

 電話の先から聞こえるは、初老の男性のものと思わしき声であった。 クラブロスは眉をしかめながら、何とか冷静に努めながら電話に応対する。

 

 「……確かに。 たった今アイツら乗せた車が網走に向けて走り出しましたわ」

<結構。 素晴らしい働きです>

 

 褒められても嬉しくも何ともない! クラブロスは内心毒づいた。 電話の相手……それはこの一件の全てを知り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだから。 丁寧かつ柔らかな物腰で、それでいて有無を言わさぬ迫力を持つ彼が、クラブロスにとってはたまらなく嫌で、そして恐ろしかった。

 

 そんな彼から送りつけられた動画だが、実は以下のようなメールも添付されていた。

 

「クラブロス君。 君がエックス君達に刺客を差し向けた事は知っている。 今回の発端としてエックス君らが粗相をしてしまったことで、借金にあえぐ『亡国機業』をけしかけ、重大な飛行機テロを招いてしまった。 その結果、人的な被害は勿論、サミットの中止からくる甚大な経済的損失の一因となってしまったことを。

 しかし、罪を憎んで人を憎まずという格言がある。 率直に言うなら、我々は今回の飛行機テロについて彼女達を許そうと思う。 その代わりと言っては何だが、エックス君達の過ちも許して欲しいのだ。 そして『亡国機業』の彼女達については、今後を君に託したいと思う。 君の運営する蟹漁船で働いて貰うのはどうだろう。 彼女達は社会に自分達の居場所がない辛さから、犯罪に手を染めてしまった。 しかし手に職を持ち、真面目に働くことが叶うのなら、きっと彼女達は多大な貢献をしてくれるやもしれないし、更生の手助けになるとも思うのだ。 どうか願わくば、私の願う明るい社会の為に、彼女達も含めて存分に働いて欲しい……返事を待とう

 

 動画と共に送られてきたこのメールを見たときは青ざめた。 穏便な口調から滲み出る不穏な文面。 自分がエックスを捕まえる為にけしかけた『亡国機業』との関係。 そして彼女らがとんでもないやらかしをしたという事。 ひた隠しにしている違法漁船の件まで引き合いにだしたその内容は、全てを知っていると言う脅しにしか感じられない一文であり、夢見心地でIS学園への旅客機墜落事件を扱うニュース番組を見ていたクラブロスにとって、冷や水をぶっかけられるような出来事だった。

 

 すぐにメールの差出人と連絡を取り、彼の指示する段取りに従ってスコールを誘い込み、2人して望み通り網走へと送ってやったわけだが……クラブロスは腑に落ちなかった。

 

「……更生させるんやったら、警察にやらせても十分やったんちゃいまっか?」

<彼女達には、自分達で働く事でお金を稼げる歓びを知って欲しい。 その上で、自分達の犯してしまった罪の精算をして貰いたい。 ただそれだけです>

「さいでっか……」

 

 クラブロスの返事は素っ気なかった。 電話の主は変わらず穏やかな物言いで接するが、自分以上の腹黒さが拭えない印象だった。

 警察を動かせるほどの権力者であることも勿論のこと、彼女達の『社会奉仕』先に自分の違法漁船を指定し、尚且つ被害に遭ったIS学園の建物や人々、中止になったサミットの損失を補う為の義援金を自分や彼女達に指定の口座に……それも()()()()()金額を振り込むよう求めてきた事。 早い話が、人道支援にかこつけて搾り取る口実にしか思えない。

 彼女達を押しつけたのも、曲がりなりにも優秀なISパイロットであることから、牢屋にぶち込むよりクラブロスの裏家業の手伝いでもさせて、さっさと上がりをハネた方が懐が潤う! ついでに更生と言う名目で送り出しただけに、経過観察と称してこちらの動向を堂々と監視できる考えが透けて見えた。 

 エックス達を捕らえ、イレギュラーハンターの弱みを握ろうとしたら、逆にこちらがしっかりと弱みを握られてしまったわけだ。

 

 憂鬱になりそうなクラブロスだが、電話の主は続けてこんな事を求めてきた。

<そうだクラブロス君。 最近私の息子が経営する人材派遣会社が事業拡大を目論んでてね。 増える人材の需要から外国人労働者を拡充したい方針なのですがね>

「……それが何か?」

<人材派遣のモデルケースとして、是非とも君に息子の会社の外国人労働者を受け入れて貰いたいのですよ>

 

 クラブロスは硬直した。 こちらは既にグループ傘下の企業の従業員数は軒並み間に合っている。 その上で受け皿を作れと求めて来ているようだが、こんな状況で要求される取引など、どうせ徒労の割には大した旨みのないお粗末な物だろう。 どう話を聞き流すか考えていると、しばしの沈黙の後に電話の主がため息まじりに告げた。

 

<この時代、色々と大変なのは分かりますが、よりよい未来の為是非ともお願いしたいのです。 ……それとも、このような電話上のやりとりだけで決め合うのもなんですから、ここは食事でもしながら話をしませんか? 今は青空の見える我が学園の校舎で、貴方の立派な漁船で獲れた新鮮な毛ガニでも食べながら――――

「じ、事業内容については後日検討しますさかい!! 今日はこの辺で!! 是非新会社の1つでもおっ立てて受け入れさせて貰いますわッ!!」

 

 クラブロスは慌てて話を遮った。 電話の主はその様子にご満悦のようであった。

 

<それはありがたい話です。 是非とも後日お話をさせて頂きましょうか……>

「はい! はい! お願いしまっせ!!」

<このご時世、お互いに旨みのある持ちつ持たれつの関係で行きましょう。 クラブロスさん……それでは失礼>

「は、はは! またのご贔屓を! 学園長殿!!

 

 会話と共に高鳴る動悸を押さえながら、クラブロスは電話を打ち切った。  最早限界だった。 あれ以上話をしていたら気が変になりそうだった。

 網走に送られるオータムとスコールがそうだったように、自分もまたこれから先、本物の蟹さながらに料理されて、他者に食い物にされる運命が待ち受けているのだ。 持ちつ持たれつなんて、自分が旨みを吸い上げられる口実でしかない。

 IS学園が学園長、『轡木十蔵』と表示されていた携帯電話を振りかぶり、クラブロスは――――

 

「――――ワイに旨みなんかあるかボケェッ!!!!」

 

――――奥に見ゆる東京湾目掛けて、力の限り投げ捨てた。

 

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