ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
<まず……我々の力及ばず、大変な騒動に発展してしまった事を、この場を借りてお詫び申し上げます>
エックス達一同は深々と頭を下げ、それから着席した。 少しの間をおいて、エックス達の次の言葉を待つように、彼らの姿を焚き付けていたカメラのフラッシュが落ち着きを見せる。 それを待っていたように、エックスは軽く咳払いをして本題に入った。
<……あのミナミの蟹銀行強盗事件と、サミットが予定されていたここIS学園への飛行機墜落。 悲惨な出来事が2日間に渡り立て続けに起きた事実は、日本のみならず世界中に大きな衝撃を与えました>
記者団とカメラを通して視聴者達の視線が降り注ぐ中、丁寧で毅然とした対応で会見に臨むエックス達。 あのやる事なす事行き当たりばったりな行動を見ていた束にとって、感心すると同時に一抹どころで無い不安を抱えながら、テレビ越しに彼らの動向を眺めていた。
<事件の終わりからこの3日間。 我々は日本国内の警察と極力しながら、事件現場の銀行や、破壊されたIS学園の校舎を夜しか寝ずに徹底調査し、遂に裏で事件の手引きをしていた黒幕と実行犯を、極秘裏に逮捕する事に成功しました>
記者団からどよめきの声が上がり、エックス達は勢いを取り戻したストロボの集中砲火を浴びる。 束は内心困惑していた。 黒幕も実行犯も何も、確かに『亡国機業』が介入したりもしたが、強盗云々はキンコーソーダーに対して自分達が勢いで便乗した結果だ。
「よく見といて」
アクセルが小声で囁いた。 束は息を呑みながら、エックスの次の言葉を待った。
<事件を起こすに当たって暗躍したのは『亡国機業』なる組織に所属した2人のエージェント。 そして、そんな恐ろしい『亡国機業』を陰で操っていた一人の男……>
エックスは少しの間を置き、周囲のフラッシュが完全に治まるのを待ってから、意を決したように発言した!
<ぶっふぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!>
束は吹き出した! この一室内においても、画面の向こう側でも大きなどよめきが起きていた。 一体何を言い出すんだ!? 束は大いに困惑する。
<……彼らの手口を説明するにあたり、動機についても説明しなければなりません>
混乱を鎮める為、エックスは咳払いをしながら、一転して落ち着き払った声で淡々と事件の背景を語り出した。
<奴らの目的はISの生みの親にして研究の第一人者『篠ノ之 束』女史の誘拐を企てた事でした。 収監されていたアブハチトラズ刑務所内から、予てより繋がりのあった『亡国機業』の手合いとコンタクトをとり、脱獄の後に日本へ高飛びしました>
エックスの言葉は続く。
<身の危険を感じた篠ノ之博士はIS学園に助けを求め、その際に学園に居合わせたケイン博士を通して、我々が彼女をこの学園まで護送する運びとなりました。 ところが連中は、彼女が既にお尋ね者として追われていた事に目をつけ、我々の姿に変装した上で強盗事件を起こし汚名を着せ、任務を妨害してきたのです>
無論そんな事実は無い、のだが……エックスは持参した資料の中から、記録メディアを取り出し映写機の中に挿入する。 すると背後の壁に立体映像が投影され、犯人の下の顔と変装後の顔が表示され、報道陣を混乱へと導いた。
シグマとその部下であるダブルがエックスとゼロに、そして『亡国機業』のオータムとスコールが、よりにもよって束とキンコーソーダーに化けていたというのだ! 明らかな大嘘に束は唖然としながら、エックスは構わずに話を続けた。
<我々は追跡の目をかいくぐりながら、東京行きのDB893便に乗り込むも束の間、既に犯人達は飛行機内に先回りし、ハイジャックを引き起こしたのです。 ISを着たエージェントは撃退し、その後IS学園側からもかの織斑一夏少年が救援に駆けつけたのですが……機内にて偽者に不意打ちされ、入れ替わられてしまいました>
突拍子のない説明に報道陣は大混乱だ。 当事者の束も唖然とした様子を隠せず、優れた頭脳を持ってしても情報の整理が追いつかない有様であった。 幸いにして仲間達はテレビの方に夢中ではあったが。
<校舎と旅客機は大破し、サミットも中止になってしまった事は、我々の力が及ばなかった結果であります。 しかし、一夏少年やIS学園側で警備の任についていた仲間のおかげで、死者が出る事態は避けられ、先んじて犯人の内2人を拘束する事ができました……これがその時の映像です>
エックスが次に映し出したのは映像だ。 それは学園長がクラブロスに宛てた、学園の新聞部に所属する女生徒がこっそり撮っていた、エックス達がアクセルと一夏にタコ殴りにされる映像であった。
「ああ! やっぱりそうだったんだ! アイツら俺達の思った通り偽者だったんだな!」
「間違って無かった訳か!」
やはりというか思い込みの激しい一夏達だが、隣のアクセルにこっそりと目をやると、彼は頬を引きつらせながら画面を注視していた。
無理もない。 彼にしてみれば分かっていて本当のエックス達に鉄拳制裁したこの場面を、開き直って一夏達の勘違いに便乗し、居もしない偽者の存在をでっち上げる口実にしてしまったのだから。 改めて彼らの神経の図太さに、束は良くも悪くも圧倒されていた。
「ふむ、ロックマンが犯罪に手を染める筈がないと思っていたが……それよりも束、まさかお前にも偽者がいたとは! その上飛行機の墜落を防ごうとしていたなんて……!!」
「ふえ!? え、ああ……」
千冬と箒がこちらを振り向き、言い淀む束に対して頭を下げた。
「疑って悪かった。 強盗事件も飛行機の墜落もお前の指金だと思っていたんだ……許して欲しい」
「私もその、ごめんなさい。 あなたをずっと疑っていました」
「え、ええ……?」
訳も分からず混乱する束。 何から何まで自分の行いが招いたことなのだが、エックスの会見を真に受けてこうも頭を下げられると、困惑を禁じ得ない者があった。
すると隣のアクセルが彼女の肩を叩き、こちらにアイコンタクトを送ってきた。
もう、そういう事にしとけ! アクセルの合図にそのような意図を感じ取った束は少し考えた後、笑ってごまかすことにした。
「今まで生きる為に悪いことだってしてきたし、自分を護る為にこんな騒動に発展しちゃった訳だから、仕方がない話だよ。 気にしないで」
「……そう言って貰えると助かるよ」
千冬と箒は頭を上げ、安堵したように顔を緩ませた。 向こうの思い込みとは言え騙しているようで、今の自分にとってはバツが悪い事この上ない。
嘘で己を包み隠すことが、かくも重い行いだったと束は痛感した。 これを最後に、2度と嘘をつかずに生きていくと誓おう。 何度も自分に言い聞かせるように、頭の中で繰り返しながら束は愛想笑いを浮かべていた。
そして、エックスが一通り事件の概要を説明した所で、記者の一人が手を上げた。 質問のようで、エックスがそれを受けると記者は切り出した。
要約すると「背丈も違うシグマとその部下のダブルが、エックスとゼロに化け続けることなど出来るのだろうか?」と。 それは確かにその通りだ。
どう見ても背丈が異なることに加え、コピーチップを持つ新世代型でもない彼が、エックス達の姿形を真似出来るというのは、いささか無理のある解釈に思えた。
まあ、レプリロイドだからそっくりなボディに、電子頭脳を移植すると手も無くもないし、部下のダブルに至っては間の抜けた小太りに変身できることは、束もエックス達の過去のデータを通して知っている。 無難にそうとでも答えるのかと思っていた束だが、しかしエックスはそれ以上の回答を用意していた。
<可能です。 其れ処か可憐な女性に化けて演じきることすら出来ます>
大きく出たな。 報道陣はそう言わんばかりにざわついた。
<実際に私はその手によって、危うく騙されかけさえしました……その時の映像をお見せします。 どうぞ>
するとエックスは映像に手をかざし、ちょうどゼロが一夏に
<この映像は、自分がかつてさる理由から行くべき道を見失い、自問自答していた時の場面ですが……問題はここからです>
エックスの説明を横に映像を見ていると、麦わら帽子にワンピース姿の、髪の長い可憐な少女が姿を現し、平和の為に手を汚してきたエックスは、平穏な理想郷を実現しても、そこに住む事は許されないだの何とか言ってきた……そして突如彼女の背中に羽が生え、生まれたままの姿を見せつけた。
<私はあなたのそばにいつまでもいるわ……>
一同困惑。 ちょっぴりエッチで美しいワンシーンに、映像を見た誰もがエックスの意図を計りかねていた。
「え、何この映像……束さん訳が分かんないよ――――」
「何だよそれ……! まさかこの場面を
束も首を傾げる中、隣に居たアクセルは頭を抱えていた。 よく見れば画面の向こうに居る4人も、エックスを除きなるだけ平常心を装っているものの、口元から時折小刻みに息を吹き出し、必至で笑いを堪えているような顔つきが見て取れた。 アクセルといい、彼らはこの動画の正体を知っているようだが……次の瞬間!
再生された動画の中のエックスがバスターを突きつけ、少女の誘いをはね除けるシーンが。 そして少女は……!!
<くくくっ、さすが伝説の名を背負った男よ>
<!! 貴様か……貴様が裏についていたのか>
少女の姿がぼやけ、その中から現れた存在にエックスが鋭い目つきを送り――――
ハゲで厳ついケツアゴイレギュラー『シグマ』に目掛け、バスターを発射した所で映像は終了した。
エックスに促されるままに、映像を見ていた全員が衝撃に身を震わせた。
<……当時は若く甘い囁きに危うく騙されそうでした。 たった一度の過ちで二度と同じ間違いはしません……と言った所ですが、お分かり戴けましたか? これがシグマの変装能力の高さです>
見せられた映像の迫真極まるシーンに、会場内の喧騒は留まることを知らない。 番組越しに様子を見ていた束達も、開いた口が塞がらない思いであった。 あまりに衝撃的な場面故に目に焼き付いてしまい、シグマが変装もこなせたというこの上ない説得力を生み出していた。
「公式コミカライズにもなった1シーンだよねコレ……」
ファンから御大と尊敬を集める某氏が描いた、ロックマンX3のコミック版……おもむろに取り出して持っているアクセルの呟きは、束の耳にも入っていない。
して、名場面の論点をすり替えて衝撃映像に見せかけ、疑問を一蹴したエックス。 その後も捕まえた犯人達の処遇について、シグマ達は既にアメリカへ強制送還され、アブハチトラズ刑務所内に収監されたと説明。 これもご丁寧に、取り押さえられながら刑務所内に送られていく映像付きで。
オータムとスコールについては、学園長が説明してくれた。 逮捕はしたものの、罪を憎んで人を憎まずの精神から司法当局と話し合い、さる民間企業へ社会奉仕に出して労働の歓びと知ると共に更生していってもらう方針を打ち出した。 穏便な態度と行いにマスメディアも感心していたが、束にはどこかそれが、底知れぬ恐ろしさのようなものを薄々感じ取っていた。
そして最後に束の処遇……千冬が軽く触れた通り、彼女の身柄はIS学園で預かる事となり、これまでの行いについても不問とする代わりに、今後は世の為人の為と気持ちを新たに、一顧問として生徒達とともに歩む人生を送って欲しいと締めくくり。 会見は無事終了する流れとなった。
テレビの電源が落ち、束は一気に疲れが吹き出したかのようにため息をついた。 隣の×字傷の少年レプリロイドの言う通りであった。 彼らの図太さを今更疑っていた訳ではないが、度を超した嘘八百を前にとても敵わないと実感する束。
こんな彼らと一緒に働いているのだから、そりゃあ彼も闇の深そうな笑顔の一つや二つ浮かべられるという物だ。 とてもついて行けないし、ついて行く気も無い……自分が人間の範疇である事を実感するが、それでいてどこか安堵したのも事実であった。
「なんだか、どっと疲れたよ……」
「ゆっくり休めよ。 今後はお前には、新たな人生を頑張って生きて貰わなければならないからな」
「……そうだね」
これで自分は、名実ともにIS学園に身を置く事が確定したわけだが、学園長の言い回しに含蓄があるようにも感じた為、その辺に不安を感じていた。
しかし明確に行き場について語られた訳で無いオータムとスコールと違い、自分はこの学園で技術顧問として、そして親しい人間が周りについていてくれているのだ。 それだけでも大分救いはあるだろう。
「そうだ、私がこの学園で働く事になるんだったら……勿論クーちゃんも一緒にいていいよね?」
「……うむ。 長年助手として一緒に居たようだからな。 人事についてはある程度融通を利かせてくれるだろう」
「……束様!! それと皆様、ありがとうございます!」
嬉しさがこみ上げているのだろう、クロエは小さく笑みを浮かべながら深々とお辞儀をした。 色々とあったものの、何だかんだで大団円を迎えられそうな自分は、随分と運が良かったのだと内心束は感謝していた。
しかしここで束は、己の処遇についてある不安を思い出す事になった。 それはエックス達を旅に同行させる為についた嘘、新型アーマーの開発……はともかく、ゼロと交わした約束の事で身を震わせた。
「……どうしました姉さん?」
「ふえ!? いや……何でも無いんだよ、ちょっと思い出しちゃっただけ」
急に不安げになった自身の様子を箒に見られ、不意に尋ねられた事に驚いて軽く身を跳ねた。
「うん? 何だ言ってみろ。 不安があるなら今の内に正直に話してしまえ」
「そうですよ束さん。 今後は俺達がついてるんですから、遠慮せずに言ってください」
千冬と一夏からも促される。 どうやら黙ったままにしておく事はできそうに無い。 束は観念し、エックス達の事を話す事とした。
「いやね……最初は任務の為とはいえ、こんな身の上の束さんをエックス達は疑ってた訳だから、2人を信じさせる為にちょっと嘘ついたり、何でも言う事聞くって言っちゃったんだよ」
周囲の注目を集めながらも、束は言葉を続けた。
「特にその何でも言う事聞くって部分だけど……エックスには新型アーマーを作るって、これはまあ良いんだけど……ゼロの方がね」
「……うん?」
アクセルが、疑問の声を上げた。
「つい味方になって欲しくて、
全てを言い終わる瞬間だった。 これまで聞きに徹していたアイリスが彼らの間を割って入り、束の両肩をつかんだのだ。
「ヒェッ」
「今、何て言ったの?」
周りが驚く間もなく、鬼気迫る表情で詰め寄るアイリスに束は圧倒された。
「貴女、ゼロに何かされたりとかしなかった?」
「う……あ……」
「た、束様……?」
明らかに剣呑な雰囲気を醸し出すアイリスに束は驚きを隠せず、クロエは師の詰め寄られる姿に思わず身構えた。 アイリスが突如詰め寄った理由だが、何故はアクセルが代わりに語ってくれた。
「……そう言えば、アイリスってゼロの恋人なんだっけね」
アクセルの発言に、束は心臓が飛び出るような思いをした。
恋人? あんな旅の道中で隙あらばセクハラしてきた赤いイレギュラーに、いっちょまえに彼女がいる? 居るのに自分にこうも無駄に堂々とちょっかいを出しまくっていた? 束はショックの余り言葉が出なかった。
「一体どうした!? 束は立ち直ったばかりなんだぞ!」
豹変したアイリスの様子に、千冬が引き剥がしにかかるのをアクセルが制した。
「ごめんね織斑センセ、それと皆。 ちょっとアイリスとハカセの2人だけにして部屋を出よっか」
「何を言うんですか!? 束様が迫られて――――」
束を心配するクロエの抗議を無視して、部屋にいる全員を外へと追い出しにかかるアクセル。
「アイリスと2人だけの方が、ハカセも話しやすいだろうしね」
アクセルは言葉に詰まる束と目を合わせると、アイコンタクトを送って皆を強引に部屋から追い出しながら、自身もまた出て行って扉を締め切った。
これでアイリスと2人きり。 アクセルはこちらを気遣ったゆえの行動であると言っていたが、つまり彼はゼロが自身にちょっかいを掛けただろうと、うすうす気づいているのだろう。
「大丈夫。 別に私は貴女に怒っている訳じゃないの……ただ私の恋人、ゼロは腕の立つ人なんだけど
そして、ゼロの恋人なんかやってる目の前のアイリスは、彼のそんな部分をもっとよく理解しているのだろう。 自身が身体の件の云々を口にした途端、何かを察したようにこちらに問い詰めてきたのだから。
「色々とエッチな目に遭ったでしょ? ……勇気を振り絞って、全てを正直に話して頂戴」
アイリスの笑顔の裏側には、確かに好色の彼に対する怒りの感情が見て取れた。 しかし今の束にとって、初見では様子の変わり様に驚きはしたものの、それは恐ろしい物ではなく、むしろ頼もしいとさえ感じる様になった。 彼らを知り尽くしているし、人払いはアクセルが済ませてくれた。
束は嘘をつくまいと立てた誓いを、勿論守り抜くつもりであった。 だからこそ彼女は正直に話そうと決意した。 今まで散々引っ掻き回された事、特にあの赤いののセクハラに対しては腹に据えかねていた。
望み通り、洗いざらいぶちまけてやる。
「うん、まずは最初に泊まったビジネスホテルからなんだけど……」
そう思った束は、人生最後となる
次回、最終話は明日の同時刻に投稿されます! 是非、最後までお付き合いください!
劇中通して畜生度が高かった人物は?
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エックス
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ゼロ
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ケイン博士
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轡木学園長