ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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第4話

 深夜のIS学園がアリーナにおいて、1発の銃声が響き渡った。

 昼間には訓練生同士の対戦が行われていたこの場所、今は30人近い女子生徒が見守る中、1人の男子生徒ともう1人、黒いアーマーに身を包むレプリロイドが、その10数m先に横並びに浮かび上がる円形の的と向かい合っていた。

 このアリーナにはパイロットの訓練を想定して、通常時は射撃訓練用のホログラム式のターゲットを展開する事が出来るが、今回は板切れなどの適当な廃材に円を書いただけの、古めかしい的を6つ横並びに置いていた。

 

 銃声の出所は大きく足を開いた腰の右側に両手を当てているレプリロイド……アクセルだった。 彼の手にはリボルバー『スパイラルマグナム』が握られ、加熱した銃身の先端から硝煙に似た煙が立ち上る。

 しばし姿勢を保っていた彼だが、軽くため息をつくとスパイラルマグナムのシリンダーを開き、全部で6つの空薬莢を排夾する。

 

「……ん? 今ので6発か?」

 

 射撃の瞬間を見ていた女子生徒達の内の1人、黒く2つに枝分かれしたポニーテールを結んだ少女『篠ノ之 箒(しののの ほうき)』が、アクセルの足元に転がる薬莢の数を見て口を開いた。

 

「おかしいな? その割には()()()()()()()()()しか開いてないぞ?」

 

 アクセルの隣で訓練を見ていた男子生徒『織斑 一夏(おりむら いちか)』も首を傾げていた。 彼らの声に合わせて他の女子生徒達にもざわめきが走る。

 

「ええ? 1発しか当たってないって事?」

「全然命中してないじゃない? 本当に早撃ちに自信あるの?」

「あれ? でもおかしいよね? そもそも1発分しか銃声聞こえてないのに?」

 

 足元に転がる薬莢の数と銃声の数が合わない。 そして命中したのは左から3番目の的1枚、少しブレがあるが中心を撃ち抜いてはいるが、左右にある他の的は全くの無傷。

 アクセルの射撃の腕前と実際に目の前で起きた事に対し次々に疑問の声が上がるが、それらを制止したのは女生徒達の内数名であった。

 

「そう言う事ね? やるわねアンタ、叩き上げのイレギュラーハンターだけの事はあるわ」

 

 最初に声を上げたのはツインテールの中国系の少女『凰 鈴音(ファン リンイン)』だった。

 

「ああ、そういう話ですのね?」

「成程。 ()()()()()()()()()()()って言うのも納得かも」

 

 続いて高貴そうな雰囲気を漂わせる金髪ロールの『セシリア オルコット』と、長いブロンドヘアーを一本結びにしたボーイッシュな『シャルロット デュノア』が納得したような笑みを浮かべていた。

 

「フン、まさかここに来て『ファニングショット』を見る事になるとはな」

「え? じゃあ本当に今のって()()()()()の?」

 

 腕を組んで満足げに呟くは、少女達の中でも同い年ながらひと際幼げな印象を与える、銀髪に片目を眼帯で抑えた軍隊上がりの男勝りな『ラウラ ボーデヴィッヒ』。

 その言葉に驚いたように声を上げるは、水色の髪に眼鏡をかけた、昼間アクセルを出迎えた生徒会長の妹『更識 簪(さらしき かんざし)』であった。

 

「……なんだラウラ、そのファニングショットというのは?」

「まあ早い話が、アクセルは確かに6発きっちりと銃を撃った。 それも()()()()()()()()()()()させてな」

 

 箒からの問いかけに答えたラウラの言葉に、その場にいた殆どの人間が感嘆の声を上げる。

 コルト社がSAA(シングル・アクション・アーミー)に代表される6連装のリボルバーを、目にも止まらぬ速度で全ての弾丸を撃ち尽くす早撃ちの極意。

 熟達したガンマンならそれらを1秒足らずで行う事が可能で、トリガーを引いたまま左手でハンマーをコッキングする手を扇ぐような動作(ファニング)が名前の由来と言われている。

 

「フィクションでは1発の銃声に聞こえる様に描かれるようだが、まさか本当にお目にかかるとは思わなかったぞ。 流石は私の嫁が見出しただけの事はあるな」

「……でも、何発か集弾率(グルーピング)に乱れがあるようでしたわね、アクセルさん?」

「あら、やっぱり見逃しちゃくれないか」

 

 ラウラの称賛からのセシリアの指摘に、アクセルは頭を掻いて苦笑いする。 アクセルは自分が弾丸を叩き込んだ的の方へと足を進め、それらを引き抜いて女生徒達の方に向ける。

 空いた風穴は確かに一つだったが、良く見れば左に5㎜と右上に7㎜に穴の縁がブレていた。

 

「6発中2発ブレちゃった。 僕もこの技は練習中だったからね」

「ごめんあそばせ。 粗を探すようで申し訳ありませんが、狙撃手としては見逃せませんでしたもの」

「分かってるよ。 精進するさ」

 

 少し得意げに笑うセシリアに、アクセルも大して気にしない様子でガンスピンを決めながら銃をホルスターにしまう。

 セシリアもISパイロットであり、主な得物を狙撃用ライフルとして国家の代表候補生に選ばれた実力者。 命中率について目ざといのは当然の話だ。

 

「まあそう言ってやるなよ。 ぶっちゃけあれだけの早撃ちで、まともに当てられるだけでも凄いんだからな。 なあアクセル」

「褒めたって何もでないよ一夏?」

 

 そんなアクセルに一夏が肩に手を置いてフォローを入れる。 彼とは昼間行われた試合の後に労いの言葉を掛けて以来、直ぐに俺お前の仲として打ち解け、一緒にいた周りの少女達ともその時に知り合った。

 ここでは同年代の男友達とコミュニケーションをとる機会が少ないのだろう、ハンター業務のあれこれについて根掘り葉掘り聞かれ、アクセルもまた知らない学生生活について情報の交換をしたりしたが、中々に彼も大変な生活を送っているようだった。

 

「凄いなぁ。 映画の中だけだと思ってた技やるんだもん」

「アクセル君ってかっこいいよね。 顔もイケメンだし」

「織斑君とはまた違うタイプよね! 私後でアタックしてみようかな?」

「人とレプリロイドの禁断の恋って奴!?」

「それならむしろ織斑君とアクセル君のカップリングが――――」

 

 女生徒達の間で黄色い声が上がる。 なにやら恋愛談議に花を咲かせているようだが、アクセルには丸聞こえで少し気恥ずかしい気持ちであり、一部穏やかでない話に身震いもした。

 

「……男にケツ狙われるのだけは勘弁だよ」

「どうしたアクセル?」

 

 聞こえた話の内容に一夏を流し見して、尻を抑えながら苦々しく呟くアクセルに、当の一夏は首を傾げた。

 

「何でもない。 それより一夏って大変だね。 こうも女子にキャーキャー言われるのって割と気恥ずかしかったりしない? 言い訳なのは分かってるけど、さっき銃がブレたのも割と視線が気になって、ね」

「そうか? 俺達ってそんなにモテてたっけ? そりゃ、最初の頃は俺も色々言われてたけど物珍しさからだったもんなぁ……まあ、皆良い子ばっかりだから悪気があった訳じゃないけどな――――」

「……割とニブいんだね」

 

 どうやらたった一人の男子生徒は、男子禁制な女の世界でもなぜ自分が市民権を得られているのか、そこの所はあまり理解していないようだ。

 

「アンタ割とクラスの女の子から好かれてるよ? 女心ぐらいは分かるぐらいになっとかなきゃ、この先生きのこれないよ?」

「こんがり焼かれちまうってか? ()()()だけに!

 

 そして致命的にジョークが寒い。 これには自分達の話を聞いていたであろう箒達も呆れたような視線を向けてきた。

 女心に鈍い一夏も冷めた視線には敏感なのか、一点に集中して降り注ぐ視線に引きつったような笑いを浮かべた。

 

「一夏……また寒いジョーク言ってる」

「アンタねぇ、もうちょっと気の利いた事言えない訳?」

「あ、あら……やっぱりつまんなかった――――」

()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?」

 

 見るに見かねたアクセルが助け舟を出した。 一夏はアクセルの意味を理解しかねるが、ラウラを除く女性陣は一斉に顔を赤らめた。

 

「な、何を言ってるのだ! 一夏はそんなはしたない真似はしないぞ!」

「女の子の前でそんな下品なジョークはやめなさいよ!」

「あれれ? きのこだけで何で下品って分かるのさ?」

 

 アクセルの指摘に口を噤む女性陣。 無論アクセルは含みを持たせた上で一夏の寒いジョークに火をつけてやっただけだが、ここまで派手に燃え広がるとは中々に、彼女達は頭の中でそういう進んだ関係を一夏に求めているのが丸分かりだった。

 ……一夏もちょっとぐらい『早撃ち』の練習したってバチは当たらないだろう。 未だ首を傾げる女心に疎い一夏を、アクセルは呆れたような生暖かい視線を送っていた。

 

「……火を噴くきのこ? 何だそれは、カエンダケの話か?」

「ラウラ!!」

 

 純朴なのか達観しているのか、まあ前者だろうが見た目と裏腹に軍事に精通している割には、そういった部分にだけは見た目通り無垢なコメントを残すラウラ。 それを背後から両手を回し込んで口を押え制止するは顔面を真っ赤にしたシャルロットであった。

 話を拾ったアクセル本人は明後日の方向を向き、口笛を吹いて我関せずを装った。

 

「(我ながらしょーもなくて下品だけど、ゼロの下ネタには感謝だね)」

 

 ここにはいない赤い仲間に感謝の念を送りながら。

 して、中々に遅い時間に施設を利用させて貰った訳だが、アクセルは現在時刻を確認する。

 そもそもが消灯時間が定められている学生寮において、アクセルがその門限前に夜風に当たろうと散歩していた所、夜間のアリーナの利用期限を前に射撃訓練を終えて撤収を始めようとしていた一夏達に遭遇。

 せがまれる形で射撃の腕を披露した訳だが、的の用意や今のやり取りで割と時間を食ったのでないかと心配していたが――――

 

「やっばぁ!」

 

 ――――悪い予感は的中した。 アクセルが目の当たりにしたのは門限の時間を優に20分近く過ぎていた。

 

「もう20分も門限過ぎてんじゃないの! 早いとこ片付けよう!」

「え、マジか!? ……うわ! 本当だ!

「早く寮に戻らなきゃ怒られちゃう!」

 

 アクセルと生徒達は慌ててその場の後片付けを行い始める。 厳格な校則が定められているIS学園においても、特に規則に厳しい先生が寮長を兼任していると聞いていたアクセルは焦りの声を上げる。 しかし。

 

「あ、でも千冬さん今大阪に行っててしばらく帰ってこないんでしょ? 慌てる必要なくない?」

 

 鈴が『千冬』なる人物が現在大阪にいると口にした途端、大慌てで撤収を始めた女生徒達の動きが止まる。

 

「……そういえばそうだったっけな。 ああ良かった、ここに千冬姉がいたらまた罰として校庭10周ぐらいさせられたかもな」

「それは勘弁願いたいよね……でも、早いとこ片付けた方がいいのは確かだよ。 どっちにしろ織斑先生に連絡行ったら怒られるし、ぱぱっとやっちゃお?」

 

 シャルロットの言葉にここにいる生徒達全員が身震いすると、てきぱきとグラウンドを整地し用意した機材や道具を片付けていく。

 どうやら彼女達が恐れを込めて口にした「千冬さん」「織斑先生」が噂に聞く怖い先生の事と見て間違いないようだが、一夏と同じ名字で彼自身も「千冬姉」と口にしたのがアクセルには気になった。

 

「……その織斑先生って言うのは一夏の姉弟?」

「ああ、俺達の担任で名実共に最強のISパイロット。 名前は『織斑 千冬(おりむら ちふゆ)』って言うんだ。 俺の自慢の姉なんだけど……有無を言わせぬ迫力あって」

「そうそう、結構怖いのよねぇ。 礼儀には厳しいし出席簿のチョップは痛いし懲罰の校庭ランニングさせられたり」

「迂闊に怒らせると、大変」

「私がドイツ軍の訓練生だった時の教官でもあったが、まあ鬼教官だったな」

 

 質問に答える一夏に便乗する形で、周りの少女達も次々に千冬の人物像を語る。 皆共通して怒らせると怖いと言う認識のようだ。

 

「それはまあ、随分とおっかない人なんだね……でもまあ、僕も叩き上げのイレギュラーハンターだし、実力では負けてないって自信はあるよ?」

「いやあ、千冬姉は実力だけじゃないよ。 何度も言うけど睨まれたら本当に身動き一つ取れなくなるんだって!」

「フフン、ヤバいのとは僕も何度かやり合ってるからどうだろうね――――」

 

「では試してみるか?」

 

 余裕ぶるアクセルの背後に、突如凛とした女性の声と気配を感じ取った。 それはほんの僅かに怒気を伴い、日常の空気の中にいたアクセルを戦士の顔に引き戻すには十分だった。

 気配も無く唐突に表れたその存在は背後から脳天目掛け、何かをアクセルの脳天に振り下ろす! 殺気を瞬時に感じ取ったアクセルは避けるのではなく両手を頭の上に掲げ、降りかかる敵意を両の手で受け止めた!

 

――――真剣白羽取り!

 

 攻撃は幸いキャッチできたが、両腕に走るその衝撃や戦闘型レプリロイドが繰り出す重い一撃と程度を同じくする!

 

「「「「「アクセルッ!?」」」」」

 

 突如(もたら)されたアクセルへの攻撃。 何かが弾ける音にその場にいた生徒達が一斉に、アクセル本人共々彼の背後にいつの間にか現れた襲撃者に目を向けた。

 

「ほう、言うだけあって大した反射速度だな」

「「「「お、織斑先生……!!」」」」

 

 背後にいたのは件の織斑先生なる人物だった。 艶やかで黒くボリュームのある長髪を一本に結んだ、スタイルの良い身体をタイトなスーツとスカートに身を包んだ文句のつけようのない美女。

 しかしその表情は険しく、一夏も言ったように有無を言わせぬ迫力を醸し出し、何より最強のISパイロットと謳われる彼女の身体能力を裏付けるかの如く、アクセル目掛けて片手で振り下ろしていたのは出席簿だった。

 

「こ、こんばんわ~……あ、アンタが織斑先生?」

「如何にも、叩き上げのイレギュラーハンターには一歩及ばん織斑 千冬だ」

 

 冷や汗をかいて引きつった笑みを浮かべるアクセルに対し、彼の軽口に皮肉を込めて返す千冬。 彼女もまた不敵に笑うが、その目つきは獲物を狙う猛禽類のような鋭い視線だった。

 

「ち、千冬姉!? 学校に戻ってくるのはサミットのある明後日の昼じゃ――――」

 

 驚愕に震える一夏が全てを言い終わる間もなく、アクセルが防いだ出席簿を瞬時に投擲し一夏の額にヒット! 猛烈な衝撃に一夏は仰け反り、出席簿の当たった額を抑えて地面にうずくまる。

 

「学校では織斑先生だ」

 

 怒気を孕んだその声が一層ドスを効かせたものになる。 目の前で見せた公私混同を許さぬ姿勢から、礼儀にも厳しいと言う面も本当らしい。

 して、しばらく帰ってこないと鈴が言ったにも拘らず目の前にいる千冬に、箒が恐る恐る理由を尋ねてみた。

 

「で、でもどうしてなんですか? 先生はうちの姉と一緒に大阪にいたのでは!?」

「……あのバカタレが、仲直りと抜かしてセッティングした酒の場で失礼な事をやらかしたものだからな、さっさと切り上げて戻ってきたのだ」

「――あの人はッ!!」

 

 明らかに不機嫌な千冬に、箒はここにいない自身の姉なる人物に対し苦虫を噛み潰したような表情をする。

 どうやら彼女の姉と千冬は知り合いだが仲違いを起こしていたらしく、それの修復を試みようとした場で粗相をして、一層険悪になった挙句に以後の予定をキャンセルして一人東京がこのIS学園に戻って来たらしい。

 して、溜まりに溜まった鬱憤をぶつけるが如く、千冬は校則を破った生徒達に鉄槌を下す!

 

「お前達! 私がいない間に随分たるんでるみたいだな! 門限はとっくに過ぎているんだぞ!?」

「織斑先生! 私達はアクセルさんを歓迎しようと、その――――」

「言い訳は許さん! 早く片付けて寮に戻れ! 罰として明日は校庭10周だ! 覚悟しておけ!」

 

 生徒達から悲鳴が上がるも、それらも千冬は一喝して黙らせアリーナの後片付けを行うよう教育的指導を行った。 大慌てで撤収作業を始める生徒達を横目に、アクセルは悪いと思いつつも千冬の目を盗んでこっそり抜け出そうと試み――――

 

「アクセル、お前もじゃぞ」

 

 ――――後ろから腕を掴まれて見事に失敗した。 油の切れたゼンマイのようにぎこちなく振り返ると、見覚えのある老人がそこにいた。

 

 

「ケイン博士……!!」

 

 ケイン博士が険しい顔をしてアクセルを睨んでいた。 千冬同様気配を悟られずに現れ、いよいよアクセルは蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなってしまった。

 千冬自身も逃げ出そうとしたアクセルの動きを察知していたのか、生徒達の方を向きながらではあるが、目線だけはしっかりアクセルの方を見ているようだった。

 

「お前の立場ならむしろこの子らを指導せねばならん立場であろうに、何をやっとった?」

「あ、いやその……ってか織斑先生と一緒にいたんだ」

「儂も寝る前の散歩をしとった所、どこからか銃声が聞こえてのう。 その直後に帰って来たばかりの織斑先生とばったり会って話してみたら、一緒にここに来る事になったのじゃが……まさか一緒になって校則を破っとるとはのう」

 

 ケイン博士はため息をつくと、一転して目を見開きアクセル(やんちゃ坊主)を一喝!

 

現場で働いとるお前が窘めんでどうするッ!! ……すまんが織斑先生や、止めもせず一緒に夜遊びしとったから、こやつもここの決まりに則って処罰してくれんかのう?」

「ヒエッ……」

「ケイン博士がおっしゃられるのなら是非もありませんね……さて、覚悟してもらうぞイレギュラーハンター?

 

 口元を吊り上げる織斑先生。 アクセルの刑が確定した瞬間だった。

 当然アクセルも千冬とケイン博士の監視の下機材の片付けに駆り出され、ため息をつきながら一夏達の作業を手伝う事になった。

 

「やっちゃったぁ……」

「ごめんアクセル。 俺らが誘ったせいだ」

「反対しなかった僕も同罪だよ」

 

 世の中甘くは無いと言う事を知っていたにも関わらず、良かれと思っていたにしろ一夏達を止めなかったのはアクセル自身の落ち度である。 申し訳なさそうにする一夏達を、アクセルは別段咎める気にはならなかった。

 それよりも罰は罰であるが、朝起きてランニングをさせられるだけで済むとは、校内で完結した出来事とは言え織斑千冬なる人物は、何やかんや言っても温情のある人物だとアクセルは思った。

 

……ま、校庭10周で済むならまだ優しい方さ

「ほう? 10周だけでは物足りんと言うか? なら望み通り――――」

「あっ! いや織斑先生を甘く見てる訳じゃないんだよ、ほら!」

 

 うっかりぼやいた言葉を当の本人に聞かれ、アクセルは慌てて言葉を訂正した。

 

「僕の仲間の赤と青の2人だったら、赤いのがお仕置きと見せかけてセクハラしたり! それ見たもう片方の青いのがそいつの首ヘシ折ったりとか! 明らかに理不尽じゃないって言いたいの!」

「――――?」

 

 彼女にとって、覚えの無い誰かを引き合いに出された千冬は疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってここは大阪。 ここにいない第3の仲間が噂した、本当にセクハラした赤いのとそいつの首を折った青いのであるが……。

 

「相変わらず容赦ねぇな……」

「 人 の 気 に し て い る 事 を 言 う か ら じ ゃ な い か 」

 

 青いの……エックスが最も気にしているワードを煽りに使ったチンピラレプリロイドを、今現在ヌカコーラの空き缶(350ml)とそう変わらない、手のひらに収まるサイズに真顔で()()している所であった。

 隣でそれを見て生唾を呑み込み呟いたのは赤いの……折れた首がかんぜんに かいふくしているゼロであった。

 

「あ、ああ……ああああ……」

 

 それをビルの壁にもたれ掛かって座り込んでいるのは、胸元をはだけたエプロンドレス姿で機械の兎耳を頭に被る奇怪な服装の、しかし顔もスタイルも文句なしの長髪の美女であった。

 彼女こそ今しがたエックス達が助けた女性であるが、不幸にもエックスを怒らせたチンピラ達の末路を目撃してしまった彼女はショックで震えていた。

 実際に始末されたのはエックスに啖呵を切ったレプリロイドだけであるが、他のチンピラ連中は皆(イレギュラー)と化したエックスに恐れをなし、一目散に逃げ出してしまった。

 

 エックスは丸めた残骸を放り投げ、後に残されたのは慌てたように逃げ出した足跡と、地面に打ち捨てられたレンズの割れたビデオカメラと、その隣に転がるは変わり果てた姿の持ち主。

 そして、逃げ遅れた哀れな被害女性の姿だった。 兎をモチーフにした姿はしていても、脱兎のごとく逃げ出す事は叶わなかったようだ。

 して、イレギュラーの後処理を終えたエックス達だが、2人して被害女性の方を振り向いた。 目線が合うと女性は一瞬肩を震わせる。

 

「大丈夫、悪いイレギュラーはもういないよ」

 

 エックスは手を差し伸べて悪人共は去ったと彼女を安心させるが、一番の恐怖の原因が自分である事には気づいていない。

 そんな中でゼロはもう一度だけ、下から上へと女性の全身をくまなく見ていた。

 

 

 ――――そしてある事に気づく。

 

「おいエックス。 この女、指名手配の篠ノ之 束(しののの たばね)じゃねぇのか?」

 

 




ケイン「セクハラする赤いのと首を折る青いの? 誰の事言っとるんじゃのう?(すっとぼけ)」

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