ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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第6話

 束(の胸)を称賛し態度を急変させたゼロはエックスと口論になった。

 

「何言ってるんだああああああああああッ!!!! 色仕掛けにあっさり引っかかってどうするんだぁッ!!!!」

「この女はすんばらしいおっぱいの持ち主だッ!! 信じるにはそれで十分だッ!!」

「胸は関係ないだろッ!」

「ある! それはおっぱいは沢山の夢や希望を詰めこんだ唯一無二の真実だからだ!! たとえこいつの話が嘘でも、圧倒的おっぱいの存在の前には与太話も本物になるぜッ!!」

「訳の分からん事を言うなぁッ!!」

 

 協力を渋る相手に色仕掛けから入ってみたが、思った以上に効果を発揮して内心束は面食らっていた。

 ゼロがエロに対し愚直なまでに忠実なのを、先のやり取りで理解した上での行いではあるが、あまりにもあっさりと意見を翻す彼に束はドン引きするしかない。

 しかし相方であるエックスは開き直るゼロに対し大変ご立腹で、下手をしたらゼロを叩きのめしかねない程に怒り狂っては、既に悪びれる様子もないゼロの胸倉を掴み、片方の空いた手で指を鳴らしていた。

 今にも殴り掛からんとする……と言うよりは首をへし折りそうなエックスに対し、束は横から割って入るように次の一手を打つ。

 

「エックスも協力してくれるのなら、ISの技術を使った新型アーマー作ってあげてもいいよ!」

「それを聞きたかった」

 

 何と一瞬で前言を撤回した。 ゼロを掴んでいた手の中には、代わりと言っては何だが束の両手が収まる事になった。 態度をあっさり翻し、束の両手を上下に振るエックスも同類だと言わんばかりに、ゼロは生暖かい視線を送っていた。

 

「俺達イレギュラーハンターが、必ず君を無事にIS学園まで連れて行く」

「大船に乗ったつもりでいてくれて構わない。 俺達を信じろ!」

「ア、ハイ」

 

 呆気にとられた束の空返事に、エックスは両手を離すと今度は、放した手をゼロと共に掲げ大喜びでハイタッチした。 あっさりと協力を取り付けられた事に対して束は少し面喰ったが――――

 

「(驚く程単純だね……正直束さんドン引きだよ)」

 

 思いがけない形ではあったが、しかし戦力としては間違いなく頼れる協力者が手に入った束は、エックスに捕まれた両手を服で拭き取りながらほくそ笑んでいた。

 自身に対する不信から『騙された』振りをしているのではないかとも逆に疑ったりしたが、既に報酬について盛り上がっている彼らの様子を見て、その危険性はないだろうと踏んだ。

 

「(しっかしちょっとエサ吊り下げるだけで、()()()()()も疑わなくなるなんてとんだ無能だね♪)」

 

 そう、長々と身の上話を語っていた彼女であったが、自身の立場を決定づけた『白騎士事件』の影に、そして今に至るまで『亡国機業』なる組織の暗躍に苦しめられていると言う、彼女自身の言葉は全くのデタラメであった。 もちろん数日後にIS学園にて開催されるサミットに、非公式に参加する話もである。

 

 なぜエックスとゼロを騙してまで、自身の護衛に雇おうとしたその理由は。 千冬と大いに喧嘩して、逃げた先で鞄を盗まれ途方に暮れていたのは本当であった。 しかしお尋ね者の身として警察に助けを求める事も出来ず、そうするつもりもさらさらなかった。

 

 彼女は深刻と言えるほどに対人経験値が低く、自分の興味を惹かれない人物を冷たくあしらったり突き放すなど日常茶飯事。 場合によっては徹底無視さえ辞さないと言う。

 エックスやゼロに対しても、今こうして縋るような態度をとっているのも、全ては彼らの同情を買って利用する為。 何せさっさと向こうにさえ到着すれば、数少ない心を許している相手である自分の助手に、予てから彼女が拠点としている移動式ラボ『吾輩は猫である(名前はまだ無い)』でさっさと高飛びしてしまうからだ。

 

 束が敢えて『亡国機業』の名を出したのは、警察にも権力が及んでいるとして協力させず、秘密裏に東京を目指す為であったからだ。 護衛の目的も含め真実を話す気も無く、ましてや約束事を守るつもりもさらさらない。

 

「(無一文じゃなくって顔が警察に割れてなきゃ、わざわざこんなオムニ社のポンコツみたいな連中に護ってもらう必要もないんだけど、まあ贅沢は言ってられないね)」

 

 せめてちょっとした端末の持ち合わせでもあれば、彼らに頼らずさっさと助手と連絡を取り合い、こちらに来てもらうと言う手段もあったが。

 或いはでっち上げた傍受の危険性と言う嘘を悟られぬよう、彼らも持っているであろう端末をこっそり拝借する事も考えてはみるが、何にせよ今は彼らを頼る以外に方法はない。

 

「……さて、今日はもう遅い。 ホテルで一夜過ごしてから、また明日の事考えよう」

「そうだな。 こいつの正体気づかれずに東京まで行く段取りも考えねぇとな。 今日はもう寝るか」

「俺達の部屋の隣は空室だったな。 男2人と同じ部屋は嫌がるだろうし、使えないか聞いてみよう」

「だな」

 

 エックスとゼロは居酒屋のすぐ隣のビジネスホテル『INN MUR』へと足を進めた。 こちらの胸中など気づきもせず、わざわざ自分の為に部屋をとってくれるらしい。

 

「(ま、精々ボロゾーキンのように使い倒させてもらうからね! ……それにしてもまともにベッドで寝るなんて何年ぶりかなぁ?)」

 

 感謝など1㎜もない自分本位な考えの下、既に彼女は今日寝られるベッドはどれほど快適なのか、その事にしか関心が無い有様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ガラス張りの自動ドアが開かれた先の『INN MUR』であったが、ビジネスホテルと言う括りにしては中々に設備が整っている。

 玄関の間取りは中々に広く、大理石のタイルの床には赤い絨毯がロビーに向かって真っすぐ伸びており、宿泊客を待ちわびる様に夜遅い時間に受付でにこやかに立つホテルマン達の姿。

 時間帯故に人は座っていないが、臙脂(えんじ)色のソファーと木目の艶やかな茶色のテーブルの作りは重厚で、しっかりとした佇まいを感じさせる。

 幾分小型ではあるが天井で煌くシャンデリアの存在は、否応なしに来た者に豪華とまではいかなくとも小奇麗な印象を与えてくれた。

 

 エックスは早速空室について受付に話を切り出すと、二つ返事であっさりOKを貰った。 別段トラブルも無く鍵を貰いこちらに戻ってくるエックス。

 

「随分あっさりと借りれたもんだな」

「向こうも商売だしね。 何にせよ部屋がまだ空いていてよかった。 ただ今回部屋を借りたせいで、もう持ってる現金が明日の束の分の朝食で無くなりそうだ」

「そうか。 まあ、どっかで金を下ろす事もまた明日考えるか……行こうぜ」

 

 エックス達の後に続くように、束は一緒にエレベーターに乗り込み8階を目指した。

 正直言って親しくもない相手と同じ密室に入るのは、たとえ僅かな時間でも束にとっては気分の良いものではない。 しかし外面は取り繕わねばならず、あくまでにこやかな表情を心掛けた。

 そんな息の詰まるような瞬間は、8階に到着した事を告げるチャイムの音でかき消され、ロビーと同じ赤い絨毯の引かれた開かれた空間が姿を現した。

 目の前にはショーウィンドウ越しに釉薬の青い色のついた壺が目に入り、右側にはガラス越しに夜景が、左側には自室へとつながる廊下が続いていた。

 目指す部屋は突き当りにあるので、道なりに廊下を進むとあっさりと目的の部屋の前にたどり着いた。

 

「俺達の部屋が『810号室』で、束の部屋が『811号室』……まあ、言った通りすぐ隣だ」

「扉自体も隣接してるから、何かあっても直ぐに駆け付けられるな」

 

 部屋割りは奥の方にあるのが810号室で手前が811号室、部屋の構造が左右対称になっているのだろう。 エックスが言う様に扉は隣同士になっている。

 エックスから鍵を預かり、早速部屋の扉を開ける。

 

「それじゃあ束、今日はもう疲れたろう? ゆっくり疲れを癒してくれ」

「ありがとねエックス。 ……まともな部屋で寝るなんて久しぶりだよ」

「じゃあな。 また明日だ」

 

 エックスと別れ、束とゼロは真っ暗な811号室へと入っていった。 早速束はエックスから預かった部屋のカギについている、クリアブルーの長いスティックを壁際のホルダーへを挿入する。

 燈色の混じった電球色に照らされた部屋の中、ブルーのかかったカーペットが敷き詰められた床の上を、テーブルランプを挟むように設置された真っ白なツインベッド。 鏡の備え付けられたテーブルと椅子などが置かれている。

 オーソドックスな部屋割りだが壁紙の剥がれも無ければ埃一つ落ちていない、決して広いとは言えない部屋だが、寝泊まりだけならむしろ上等な設備が供えられたホテルの一室と言っても良い。

 部屋に入った瞬間に回り始めた空調も、夏の蒸し暑い空気を涼し気で快適な空気に入れ替えてくれた。

 

「っはああああっ! 疲れたもおおおおおおおお!!」

 

 束は靴を脱ぎ捨てベッドに飛び込んだ。 成人女性の体重を優しくかつ、弾力を持って受け止めたマットレス。 柔らかでさらつく心地よいベッドシーツに悶え、ベッドの骨格は軋む様子もない。 

 

「フッ、随分とお疲れのご様子だな」

「全くだよ! どっかの誰かに鞄盗られるわチンピラに追いかけ回されるわ……鞄さえ無くさなきゃ大変な目に逢わずに済んだのに、この天才束さんらしくもないとんだ失態だよ!」

 

 部屋の入口のすぐ側で壁にもたれ掛かるゼロに対し、束はベッドにうずくまったまま愚痴を吐いた。 数日間酷い状況に置かれてきた中で、寝床の感触から逃れてまで顔を向き合うだけの気力は彼女にはなく、ゼロの表情までは窺えない。

 

「鞄さえあれば、か……で、鞄取った奴の顔とかは覚えてるのか?」

「うん。 工事帽被ったがっしりとしたアーマーの人型のレプリロイドだったよ。 目っていうか顔はガスマスクみたいな造形で、コートか何か着てた」

 

 束はちょっとした自慢だった、可愛いピンクの鞄をひったくった憎たらしいイレギュラーの姿を覚えていた。 犯罪者一人一人の身の上など一々知る由もないが、自分にちょっかいを出して引っ掻き回した男の顔だけは忘れられず、街灯に照らされた記憶の中の姿をはっきりとゼロに伝えた。

 するとゼロはしばし沈黙すると、少しの間を開けてから小さく呟いた。

 

「……まさかな」

 

 意味ありげに呟いた一言を、束は聞き逃さなかった。 兎耳を高々と伸ばしながら勢いよく身を起こし振り返った。 考え込むように口元を抑えるゼロと目があう。

 

「そいつはひょっとしたら顔見知りかもしれんが、俺の考えは多分正しくない」

「どうして?」

 

 束は何時になく真剣な眼差しでゼロを見据えるが、ゼロは首を横に振って答えた。

 

「何故ならそいつはこの間、エックスに氷漬けにされてアブハチトラズ刑務所に収監されたんだよ。 で、今も服役中って訳だ」

「……なんだぁ」

 

 束は落胆した。 アブハチトラズと言えばアルカトラズ刑務所を前身とした、アメリカ屈指の規模の連邦刑務所だ。 しかもゼロの口ぶりからすれば自分達が捕まえた犯人らしいので、そんな彼がもし仮に脱獄していたとしても、直ぐに彼らの耳に入っていてもおかしくはないだろう。

 

「あー……何だか変な汗かいちゃった……そう言えば私全然風呂に入ってないんだよねぇ」

「シャワーぐらい浴びたらどうだ? そんなナリしといて汗臭かったら世話ねぇぜ?」

むっ! 女の子に汗臭いとか言うな! ――でも実際汚いしね。 ゼロの言う通り入っといたほうがいいかも

 

 デリカシーに欠ける物言いに口を尖らせるも、しかしこの暑い環境下で汗をかく事も多かった。 自身では自分の体の匂いは感じ取れなくとも、体が少しべとつくのは事実だったので、ここは彼の言葉に従っておこうと束は思った。 

 早速熱いシャワーで汗を流そうとベッドを降りると、部屋の中心でてきぱきとドレスのボタンに指をかけ―――― 

 

「――――ん?

 

 脱ぎかけた辺りで異変に気が付いた。 それははっきりとした具体的なものではなかったが、全身に纏わりつくような奇妙な違和感だった。

 

「どうした束? 早く脱いだらどうだ?」

 

 束は声に反応するように、違和感のする方へとゆっくりと振り返った。 そこには変わらずゼロが壁にもたれ掛かって立っていた。

 服を脱ごうとする動作を止め、ぎこちない動きで向き合った束に怪訝な眼差しを送るゼロの姿。 彼女にとっては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当たり前のように部屋を分かれたゼロを見送ってしまい、そのあまりに自然体なリアクションから異変の察知が遅れたエックスが、慌てて自室の扉から飛び出したと同時だった!

 

「い"や"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!!」

「ぶじゃああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 束とゼロの悲鳴がシンクロし、811号室の扉を内側からぶち破って吹き飛んだゼロ! 蝶番のもげたドアと共に正面の壁にめり込む、正に決定的な瞬間がエックスを出迎えたのだ!

 

「お、遅かった……」

 

 壁に突っ伏しながら、ドアをずり落ちるゼロの姿にエックスは脱力する。

 

「何で当たり前のように一緒の部屋に入ってんのッ!? わざわざ別で部屋取った意味ないだろッ!!」

 

 部屋の中から遅れて束が飛び出してきた。 目を吊り上げて糸切り歯を強調するように歯ぎしりするその表情は、さながら日本にある般若のようにも思えた。

 対するゼロは一瞬意識が飛んでいたようにも思えたが、直ぐに身を起こして束の方を振り返ると、不敵に笑う整った顔立ちを崩してやまぬ、滝の様な大量の鼻血を流して余裕綽々の態度をとっていた。

 

「フッ、ちょっとした軽いジョークだ。 それに約束の件だってある、そうだろ?」

「前払いなんて一言も言ってないんですけどッ!?」

 

 わざわざ女性の身を気遣って部屋を一つ借りたのに、どうして当然のように一緒の部屋に入ったのだろう。 理由はまあ聞くまでもないが、目を離した瞬間のゼロのやらかしにエックスは額を押さえた。

 

「それにしてもこんな夜中に騒がしいな。 周りの客が起きてきたらどうする?」

「騒がしくしてんのはお前だろ!! ちょっとは悪びれたら――――」

 

 怒りの余りドスの効いた口調で叫ぶ束の言葉を遮るように、エックスがゼロと束の間に割って入った。 この場にふさわしくない程に、不自然と穏やかにはにかみながらゼロと向き合った。

 

「そうだねゼロ。 こんな夜中に騒いだら周りのお客さんに迷惑だね」

 

 優しげに語り掛けるエックス。 彼がどんな種類の笑顔だったのかは、割って入られた時の一瞬では判別がつかなかった。

 しかしその答えはすぐに理解できた。 ゼロがにこやかながら青ざめた額から、冷や汗と思わしき大量の汗を流しているのを見れば。

 

「寝付けなくて辛いんだろ? 俺が眠らせてあげるよ」

 

 

ゴキリッ!☆

 

 

「ろぜっ」

 

 何をしたのかは青い背中越しでははっきりとは見えない。 しかし何かを横にひねるようなエックスの腕の動きと、直後に聞こえてきたゼロの間抜けな声、そして何かが折れる乾いたような音の三拍子が全てを物語っていた。

 束は思った。 ああ、これはチンピラ達に対峙した時にも見たなと。

 エックスはゼロの全体を体で覆い隠すような位置取りのまま、彼の体を掴んだまま引きずって部屋に戻ろうとする。

 

 扉を開けて敷居に彼の体を跨がせようとした時、一瞬だけゼロと目が合ってしまった。

 束は声も上げられなかった。 成すがままのゼロはにこやかに笑ったまま青褪めて白目を剥いており、何よりも首がはっきりと90度以上真横に傾いていたのだから。

 唖然とする束を察したのかは知らないが、ゼロを部屋に運び込んで扉を閉じる前にエックスが身を乗り出し束に一言。

 

「おやすみ」

 

 それっきり扉を閉じてしまった。

 彼の言葉が誰に対して語りかけたものだったのか、普通に考えれば自分なのかもしれないが、安らかに眠るゼロの顔を見た束には、含蓄のある言い回しにしか聞こえなかった。

 騒ぎを聞きつけた他の宿泊客が次々と部屋の扉を開け、束の部屋の前の壁にめり込んだ扉を見て騒がしくなる中でも、彼女は考えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 ――――ひょっとして自分は、取り返しのつかない人選ミスをしてしまったのではないかと。

 

 

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