ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて   作:Easatoshi

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 今日から連載再開です! 復帰を記念して今週は月曜日と合わせて3話投稿します!


チャプター2:ミナミの蟹
第7話


 

 朝焼けに照らされ、目覚めの時を告げる小鳥の囀りに包まれたIS学園の校庭。 定められた起床時間よりもなお早いこの時刻に、30人近い生徒達が一斉に走っていた。

 彼女達の担任に当たる織斑千冬の懲罰によって、先日の夜間に命じられた校庭10周ランニングに息を切らせている所であった。

 

「はぁっはぁっ……あ、朝のランニングがなんで堪えるんだろなぁ」

「それはなっ……手足に1個数キロのリストやアンクルをつけているからだ」

「背中に重りを背負っている事も、忘れては! いけませんわ……!!」

「なんでっ、こんな事になっちゃったのよぉ」

「それはねっ、織斑先生に設備の無断使用してるのっ、見られたからだと思うな!」

「迂闊だぞっ、教官を怒らせるとどうなるかはっ、わかってただろう!」

「ラウラも、一緒になって……騒いでたっ!」

 

 額から汗を流して駆ける生徒達。 その中で前から一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪の順番に並んで走っている姿があった。

 早朝とは言えまだ暑い夏場の空気においてジャージ姿は熱が籠る。 その上皆して両手両足、そして背中に一つあたり数キロはする重しを背負わされていた。

 

「アイリスとマドカは上手い事逃げたわねっ!」

「そもそもあの2人はっ、昨日あの場にいなかったからね!」

「ジブリルさんにっ、止められてたからなっ!」

「私語は慎め! まだ5周残っているんだぞ!」

 

 昨日のアリーナの場にいなかったクラスメイトらしき人物の存在をぼやき、そんなたるんだ生徒達に喝を入れる織斑先生の監視付きで。

 心臓を鷲掴みにされるような大声に一夏達は驚き慄いて、慌てて落ちかけていたランニングのペースを引き上げた。

 一日経っても依然として不機嫌な千冬は、自身の不在に緩んだ生徒達に呆れながら鼻息をつく。

 

「全くたるんでるな……それと」

 

 皆が物理的な重さと千冬からの精神的なプレッシャーと言う二重苦に疲れ果てる中、たった一人ペースを落とさずに走り続けるレプリロイドの姿があった。

 人間とのフィジカル面の違いを『考慮』し、宛がわれた特別重いバラストからか、グラウンドの土にめり込むような重厚感のある足音を響かせつつ、それでいてどこか楽し気にマイペースに走る彼。

 

「アクセルとか言ったな。 ふむ、曲がりなりにも一級品のイレギュラーハンターと言う訳か」

 

 IS学園謹製のジャージではない、いつもの黒いアーマーにオレンジの跳ねた後ろ髪を揺らすアクセルを見て千冬は呟いた。

 広く生徒達の足音が響くグラウンドにおいて彼女の声はかき消されそうなものだが、気づいたのかアクセルは呑気に千冬の方を見て手を振った。

 

「へへんっ! 僕も大したもんでしょ織斑センセ! これでも僕特A級ハンターなんだ!」

「それがどうした馬鹿者! いいから集中して走れ!」

「ごめんなさーい!」

 

 お調子者らしく悪びれる様子も無く、アクセルは千冬の注意に堪えた様子も無くさっさと正面を向いて走り去った。

 

「フン、そういう所だけは子供と言う訳か」

「精が出るようじゃのう織斑先生や」

 

 不意に背後から年寄りの声がした。 音も気配も無く表れた来訪者につい身構え振り返るも、そこにいたのはにこやかに笑うケイン博士の姿だった。

 

「――――貴方でしたかケイン博士」

 

 一瞬強張った千冬であったが、見知った人物である事を確認すると安堵の一息をつく。

 

「ほっほっほっ。 うちとこのアクセルはどうしておるかな?」

「ああ……それはその、あちらですな」

 

 千冬はグラウンド内を軽く見渡し、既に反対側に回り込んでいるアクセルを見つけ指さした。 一夏達の隣に並んで余裕綽々に話しながら走っており、やはりそこに緊張感は見当たらない。

 

「大した子ですよ。 一応懲罰と言う体なのに全く堪えていない。 ハンターたるもの精神も強靭でなくてはならないと言う事ですかな?」

 

 千冬は額を抑えながらつい皮肉交じりにため息をつく。 彼女も中々に聞き分けの無いアクセルには手を焼いているようであった。

 飄々としてつかみどころがないのは彼女自身の『さる知人』を思い出すが、対してケイン博士はさも愉快そうに笑った。

 

「あんな風にはっちゃけとるアクセルを見るのも久しぶりじゃのう! これも日頃うちのエース2人に揉まれて胃を痛めとるからの!」

「……それって例の青いのと赤いのとか言う仲間の話ですか?」

「そう言う事じゃな。 何せ青いのと赤いのは色々と一癖あってな。 おまけにここは同年代ばかりで解放されとるんじゃ――――しかしたるみ過ぎとるのはいただけんのう

 

 ケイン博士の声色が変わる。 千冬はその様子から、彼が身にまとう空気さえも一変したと瞬時に察知した。

 

「昨日怒られた事がまるで身に沁みとらん。 いくら若いと言うても一線で戦うプロじゃ、ここらで一発ヤキを入れてやらねばな」

 

 おもむろに着ていたコートのボタンを外し胸元を掴み上げ、一気に脱ぎ捨てるケイン博士!

 赤色に縁どられた紺のコートが風に舞い、朝の空気にさらされる白いランニングシャツ姿のケイン博士の体は、年老いて小柄ではあるものの肌は瑞々しく、薄らに鍛え抜かれた筋肉が浮かび上がる引き締まった体躯。

 年を重ねても衰えぬ覇気……いや、むしろ年の功とも言うべき圧倒的威圧感に、千冬は思わず生唾を呑み込んだ。

 ケイン博士は片膝と両手を地面につけて身を屈め、短距離走者(スプリンター)さながらにクラウチングスタートの姿勢を取る。

 

「織斑先生……これがワシら流のやり方じゃあ――――ぬぅん!!

 

 そして間髪入れずに駆け出すその勢いは電光石火!

 地面を抉る駆け足と舞い上がった土埃に、思わず顔を腕で隠して仰け反った千冬が文字通りの意味で瞬く間に、ケイン博士は余裕ぶって気楽に走るアクセルを射程圏内に捕らえた!

 ただ事でない足音に気が付いたらしいアクセルは、泡を食ったような表情で全速力で駆けだした!

 

「くぉらあああああああッ!!!! いい加減にせんかアクセルゥゥゥゥゥゥッ!!!! 真面目に走らんかああああああああああッ!!!!」

「うわあああああああああああ!!!! ごっごめんなさああぁぁぁぁぁぁいッ!!!!」

「なんだぁ!? 妖怪かアレ!?」

「一夏まずいぞ!! 奴はアクセルを狙っている!!」

 

 巻き起こした風圧で、周りを吹き飛ばさん勢いで追いかけ合うケイン博士とアクセル。

 実際に風の勢いで仰け反った一夏達は、かつてない走力でアクセルを追いかけるケイン博士を物の怪と呼び、青褪めた顔面を引きつらせていた。

 逃げるアクセルも、その様子を思わず足を止め呆気にとられた様子で見ている一夏達も、一様に目を光らせて疾走するケイン博士に恐れの感情を抱いていた。

 

「――――誰が足を止めていいと言った! お前達も追いかけられたいか!?

 

 千冬もまた目先の異常事態に放心していたが、硬直する一夏達に気付くなり彼らを叱咤する。

 彼女の不穏な言葉に怯えた彼らは、慌てて担任の指導に従いランニングを再開した。 自分もアクセルと同じ目には遭いたくないと言わんばかりに。

 物々しい雰囲気の中、呆れ交じりに呟く千冬。

 

「馬鹿者め……しかしあのやんちゃ坊主に畏れを抱かせるとは、私もあの御仁から学ぶべき所はあるのかもしれないな」

 

 ともすれば自動車レースでもおっ始めたかの如く、猛烈な速度で駆けまわりながら絶叫するアクセルと、そんな彼が必死で開けた距離を嘲るようにいとも簡単に詰めながら、獰猛な獣のような笑い声をあげるケイン博士。

 離れた所で彼らを見つめる千冬は今確かに、後者に対してある種の畏敬の念を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前9時半、所変わって大阪。 昨夜のちょっとしたハプニングに驚きはしたが、無事に寝醒めの良い朝を迎えた束は、気怠そうで目元に隈を作った旅行鞄を持ったエックスと、ストⅡのケンのやられ顔宜しくケッチョンケチョンにされたゼロと食堂で集合。

 束は薄々察しながらもつい尋ねてみた所、エックス曰く懲りずに何度も束にちょっかいを出しに行こうとしたゼロと、一夜を丸々格闘に費やした結果見事に寝不足になったらしい。

 女として不安を覚えるカミングアウトに食事が喉を通らなくなりそうであったが、気を取り直して今日の段取りを簡潔に話し合い、手数料も考慮してこのホテルに最も近い『ミナミの蟹銀行』へ当面の旅費を現金化しに行く事とした。 

 

 さて、本来の予定より1日早くホテルをチェックアウトし、道頓堀から心斎橋筋商店街を通って10分程度にある『ミナミの蟹銀行』の前へとやって来た3人。

 彼らを出迎えたのは一見すると銀行とは思えない、店舗の入り口のすぐ上に堂々と飾られた、赤々と艶めく甲羅の立派な巨大な蟹のオブジェだった。

 

「私達道頓堀で迷ってないよね?」

 

 束は首を傾げながら、道頓堀の中でもひと際存在感を放つ、蟹の美味しい店の外観を思い出していた。 今にも鳴っている筈のないCMソングが聞こえてきそうであったが、しかし隣のエックスは束を現実に引き戻すかの如く首を横に振る。

 蟹のオブジェのすぐ下にはしっかりと金色に『ミナミの蟹銀行』の文字の彫刻がなされており、ガラス張りの入り口や自動ドア越しには受付やATMに並ぶ人々の姿が、確かにここは大阪有数のメガバンクである事を教えてくれていた。

 とにかく最初の目的地にはついたのだ。 第一の目標を果たすべく我先に束が足を踏み入れようとするが、それはエックスに制止された。

 

「束。 銀行内で顔を見せるのは流石にまずい、ぜめて何か被っていった方がいい」

 

 エックスは右手に下げていた鞄のチャックを開け、適当な物を見繕い取り出した手の中にあるのは――――

 

「ほら、これなんか――――「ヒェッ!!」

 

 何の気なしにエックスが鞄から出した()()を見た途端、束は青褪め慄きながら身を引いた。

 

「どうした束? ただのハンチング帽じゃないか」

「エックスにはそ、()()が帽子に見えんの……!?」

「えっ?」

 

 適当な被り物を取り出したつもりでいるエックスは、束の引き様に訳が分からずにいる。

 手元に収まる()()が一体何なのか。 勢いで鞄から出してはみたが、よく触ってみればそれは棒状で嫌に弾力がある形をしているようだった。

 エックス自身は土産物で買ったハンチング帽を出したつもりでいたようだが、自分の目で確かめた瞬間声を失った。

 

 見る側によってはピンク色にも見えなくもない薄紫のボディカラー。 角の取れたそれでいて抑揚のある形状は、過去に経験したさる事件においてキーワードとなった『(おとこ)の証』をモチーフとした物。

 レプリロイドであるエックスにこそついていないものの、一方で何故かゼロには当然のようにある。 エックスは放心しながらその在処である、白いパーツに覆われたゼロの腰元に視線を移した。

 

「エックス、使うなとは言わんが……俺の『大人のおもちゃ』は、所構わず取り出すような安っぽいものじゃないぜ」

「「お前が入れたんかいッ!!」」

 

 早い話がゼロのアダルトグッズだった。

 口に出すのを憚られるいかがわしい代物を、公衆の面前に晒されようとも堂々としたゼロの佇まいに、エックスと束は異口同音にゼロに噛みついた。

 

「フッ、今度は比喩じゃなくてそのままの意味だからな」

「見たら分かるわそんなもん!! って言うかゼロ! いつの間にこんなの入れてたんだ!? 俺出発前に確認した時にはアダルトグッズの類は省いたよな!?」

「お前が持っていくなって言ったから現地で買ったに決まってるだろ! 言っておくがそれ一個だけじゃないからな!」

「まだあんのかッ!?」

「……そこまでして手に入れてナニするつもりだったんですかねぇ?」

 

 天下の往来でみっともない内容で言い争うエックスとゼロ。 束は意地でもアダルトグッズを傍らに置こうとするゼロに、引きつった笑みを浮かべながらそこはかとなく恐怖していた。

 ゼロの選別した『大人のおもちゃ』を振り回して主張するエックス達を眺めながら……束は大変な事に気付いた。

 

「ってエックス!! 早くそれどっかやってよ!! 周りが見てるよッ!!」

 

 慌てる束の注意につられ、エックスとゼロが辺りを見渡すと、明らかに彼ら三人を中心に引き気味に様子を見ていた通行人に囲まれていた。

 白い目線が痛い程に突き刺さり、さしものエックスとゼロもこれには気まずそうな雰囲気になる。 特にエックスは公衆の面前で『大人のおもちゃ』を握りしめており、言い訳のつかない状況な訳だが。

 エックスは数回目線を泳がせたのち、誤魔化す様に軽く咳払いをして観衆に一言釈明する。

 

「これはその、いかがわしいおもちゃなんかじゃなく……そう、イレギュラーハンターが携行する武器です!

「――――は?

「そこな赤いイレギュラーの自前のバスターの、予備です! だからこれは公然猥褻なんかじゃないです!! お気になさらずに!!」

 

 それは目を見開いて凄むエックスの、どう考えても無理のある言い訳だった。

 あまりに苦しい言いくるめに束は絶句しかなかった。 今しがたアダルトグッズと言い争っていたにも関わらず、流れる様に嘘をつく彼らに色々と言いたかったが、しかしどうした事だろうか。

 民衆は腑に落ちない表情のまま、彼らから目線を逸らして往来へと戻っていった。

 大阪の人間は理解があったのか、それともこれ以上関わりたくはなかったのだろうか、いずれにせよ危機は脱したらしい。 エックスは額を拭った。

 

「ふう、危なかった」

「何で当たり前のようにイレギュラー呼ばわりされてるんだよ」

「間違ってはいないと思うけどね」

 

 当然のようにイレギュラー呼ばわりされたゼロは不満の声を上げるが、別段否定する気はない束。

 とにかく今の内にエックスの手に握られたままのそれを処分するよう束は求めたが、エックスは捨てずに鞄の中に戻した。

 無論早く処分して欲しいと願う彼女は疑問符を浮かべるが、これを堂々とこの場で処分する勇気は流石にないと言わんばかりの、エックスの渋るような目つきの前に何も言う事は出来なかった。

 

 

 エックス達は気を改めて取り出したハンチング帽を束に被せ、先程の醜態を忘れるよう努めながら銀行の入口へと足を進めた。 ガラス製の自動扉が左右に開かれ、店内の涼し気な空気がエックス達を出迎えた。

 




 次は夜の12:17に2話目を投稿します! お楽しみに!
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