ロックマンZAX3 亡国機業より愛をこめて 作:Easatoshi
早速騒ぎを起こしそうになるも、何食わぬ顔で銀行の中に入ったエックス達一行。
「いらっしゃいませ。 当銀行にお越しいただきありがとうございます」
微笑みを浮かべた銀行員らしき中年女性の会釈がエックス達を出迎える。 エックス達もそれに応じて軽く頭を下げ、ATMへと向かった。
「あのおばさん全然動じてないね。 店先であんな事あったばっかりなのに」
「ガラス張りで中から丸見えだったろうにな」
「プロフェッショナルの鏡だ」
話をしながらATMに並ぶ列から適当に選び、最後尾につく3人。
店舗の外でアダルトグッズを出した件を咎められず、エックス達は至極拍子抜けであったが、別に彼らの行いを見逃した訳ではなかった。
「……あの人達うちに来て一体何をやらかす気かしら?」
「いきなり店先でアダルトグッズ取り出して騒ぎ起こしかけたからなぁ」
「注意して頂戴。 いざと言う時には他のお客様にご迷惑になる前に動くのよ」
「参ったなぁ……今日会長が視察しに来る日なんだぞ?」
「後ろの女の人が一番まともそうだけど……でも変な恰好ね。 あんなドレスにウサギの耳にハンチング帽ですもの
先程の銀行員をはじめ皆が平然を装っているだけで、実際はかなりエックス達3人に注意を寄せていた。
本人達にしてみればもめ事を起こすのは本意ではなかったとはいえ、トラブルメーカーと判断された以上マークされるのは当然であった。
そんなことは露知らずATMの列に並ぶエックス達。 1人2人と用事を済ましては横にずれて順番を譲り、遂にエックス達の番が回ってきた。
早速エックス達はカバンの中から財布を取り出そうと手を入れるが――――
――――3人に周囲からの視線が一斉に降り注ぐ。
「(なんか、やりにくいな)」
「(やっぱりマークされてるんだよ! さっきからチラチラ見られてるよ私達!)」
「(冗談じゃねぇ! さっさと現金引き出しておさらばしようぜ!)」
こちらを注視するのは銀行員だけではなく、先程から店内にいた客の目線も含まれていた。
エックス達には思い当たる節が……むしろあり過ぎて大変居心地が悪かった。 正しく針の
尤も騒ぎを起こしかけた事を鑑みれば、むしろ出禁を言い渡されなかっただけ温情がある方かもしれない。
迂闊な真似をする前に用事を済ませてさっさと出ていくのが、お互いにとっても良い事だとエックスは思った。
今度は間違えずに財布を取り出し、同時に固唾を呑んで見守っていた周囲の人々が胸を撫で下ろす。
そんな周りの様子がいちいち気になって仕方が無いが、何とか意識から切り離すとハンターベースの仲間達から預かった、旅費を経費で落とす名目で渡されたカードを挿入する。
端末のタッチパネル上のガイダンスに従い、預金残高を確認する。
総額、日本円にしてたったの334円だった。 これには3人揃って大口を開け目玉をひん剥いた。
「……10万は残ってるって言ってたのに、話が違うよ……!?」
「ド、ドル表記と間違ってねぇか? それでも足りねぇが」
「いや、ちゃんと円って書いてある……でも何故だ!? 俺達決められた金額できちんとやりくりして――――」
身に覚えの無いまさかの金欠に内心パニックを起こしかけているが、エックスが言いかけた辺りで唐突に何かに気付いた。
「――――まさか」
そして大慌てで再度旅行鞄を漁り始めた。 3人の様子が豹変した事に、辺りはまたも剣呑とした雰囲気に包まれる。
エックスが鞄を探って取り出したのは、鞄の底に乱雑に詰まった皺だらけの紙束だった。
真っ白な下地に日持ちしないインクの印字で書かれた、日本円の数々。 品目を見るにゼロの買った『お土産』のレシートのようだった。
「……ゼロ、いくら使ったんだ」
「いや、俺が一々値段なんて考える訳がねぇ……ぜ……」
記載されている価格には、500円から5000円程度の商品が何個も書かれており、総額にして平気で1万円を超えていた。
たった1枚分でも割と馬鹿にならない量と金額だが、それが複数枚分存在するのだ。 当然そのような買い物を無頓着に行っていれば残高などあっという間に尽きるだろう。
「そ、そんな大量の……おもちゃ、どうしてエックスも気づかなかったの?」
「色々あるんだよ。 この鞄にはね、まあ見た目以上に荷物をしまっておけるように、ISで培われた量子化技術が転用されてるんだって……さてゼロ」
束からの質問を一部建前で取り繕うエックスの顔は、ゼロが乱雑にカバンの中に放り込んだレシートのように皺が寄っていた。 彼の背中から立ち上る怒気に周囲が身構える。
「結局無駄使いしたね……エイリアからも変な事に使いすぎないようにってあれ程釘刺されてたのにね?」
「! 馬鹿言え! 清く正しいドスケベにとってあのアダルトグッズはむしろ必需品だぜ! むしろ事前に荷物から省いたエックスにも問題あるだろ!」
「いらないもの省くのは当たり前だよなぁ……? ゼロにはエロを自重する気は全くないって言うのか……!?」
「ふざけるな! エロは俺の人生だ!!」
悪びれる気ゼロ! 自らの主張を曲げないばかりか、スケベを肯定しないエックスに非難を寄せるゼロの態度はエックスの怒りを余計に煽る。
この時の束と言えば、内心パニックに陥っていた。
エックス達をよく知る者からすれば実に彼ららしい、しかし束にしてみれば想定外のイレギュラーを立て続けに引き起こされ、早くも彼女の組んだ高飛びまでのチャートは崩壊寸前であった。
何故こうなった!? 束は冷や汗を流しながら、曲がりなりにも一流のハンターが引き起こしたとは思えない、予測不能な事態を前に自問自答するしかない。
精々身の回りを守ってもらうだけで、やるべき内容と言えばお金を下ろして関空で東京行きのチケットを追加で買う。 ただそれだけの筈だったのに。
これならいっそその辺の通行人からスリでもして、当面の資金を確保すればよかったのではないか……否、それをしくじったが故に、昨晩までのようにイレギュラーの連中に目をつけられたりもしたのだ。
……とにかく今は再び勃発しそうになっている彼らのもめ事を仲裁しなければ! 既に周りの銀行員はいざという時に備えて臨戦態勢をとっている。
「ね、ねえ! ケンカはまずいと思うな! お金がないんだったらキャッシングっていう手段もあるんじゃない!?」
「これ、借り入れ機能を一切省いたタイプのデビットカードなんだよ。 現地の通貨は下せてもキャッシングは一切出来ない……!!」
「他のキャッシュカードやクレジットカードはッ!?」
「ゼロの無駄使い対策に全部ハンターベースに預けてるよ!」
あっさり撃沈した。 提案も何も予備のカードすら持ち合わせていなかったようだ。
怒りをこらえきれず、エックスは今にもゼロに飛び掛かりそうな一触即発の状態だ。 むしろ既に秒読みがかかっているのかもしれない。
せめて東京に行く為の交通費だけでも確保できていれば、もめ事を回避できていたかもしれないのに。
正攻法が駄目なら、どうにかして別の方法を考え出さねばならない。 とにかく先立つ物さえ手に入れれば後の事などどうにでもなる。
束は知恵を振り絞りながら突破口は無いかと周囲を見渡した。
「(――――? あのカメラ……)」
ふと目に留まったのはこちらのATMを映す防犯カメラだった。 よく見れば配線が緩みかかっており、電源が落ちてまともに機能していないようだった。
そして次にATMの機械に目をやりながら、彼女は閃いた。
「(見られる心配がないんだったら、このATM程度なら簡単に内部をいじくれるね)」
この瞬間、束は自他共に認める
簡単な話だ。 少々非合法な手段ではあるが、機械から少し
と、なれば……むしろエックスとゼロには、このまま睨み合いかいっそ騒でもを起こしてもらった方が都合がいい。 何より保護と言う建前で守ってもらっている以上、なるだけ彼らに見られずにも済むに越したことはない。
「あのっ! お客様困ります! 他のお客様のご迷惑に――――」
「ああご心配なく、ご迷惑になる前にすぐ終わらせますので」
「そうだな。 続きは表に出て白黒はっきりつけるとするか」
聞く耳を持たず。 エックスとゼロは怒気を漂わせながら、ゆっくりと店の外へと足を進めていった。 銀行員はおろか、すぐ後ろを並んでいる他のATMの利用待ち客も、全ての人達がエックスとゼロに気を取られているようだった。
「(今だ!)」
束にしてみれば好都合。 すかさずデビットカードが刺さったままのATM端末の足元にある、メンテナンス用の蓋を閉じきっている鍵を針金で素早く解錠。
蓋を開けから剥き出しになった配線と基盤の構造を瞬時に判別すると、液晶画面を覗き込みながら内部の配線に手を伸ばす。
回線を
「(頼むからこっち見ないでよ……!! よしっ!! いい子だねっ!)」
周囲を窺いながらではあるが、確かに手応えを感じた束。 画面に0と1がまばらに浮かんではいるが、ATM端末は確かにありもしない現金を下ろす処理に入っている。
「(よし、もう少しだけ……あとちょっと!)」
この間僅か10秒程度。 舌なめずりをしながら機械の蓋を戻す束。 不正な操作を感づかれることなく、作業も佳境に入ったその時であった。
虎の咆哮を彷彿とさせる、聞いた者は委縮せずにはいられない威圧感を伴った叫び声が、店舗の入り口から響いてきた。
鋭く重厚感のある声は建物を震わせ、エックス達の揉め事で騒がしくなっていた店内は途端に静まり返る。 作業を終わりかけていた束も一瞬肩を震わせた。
何事かと思って振り返ると、今にもおっぱじめそうな雰囲気を漂わせながら、店舗の入口の自動扉辺りまで歩いていたエックスとゼロ。
そんな彼らの間に割って入って立っている、彼らの背丈よりも少し低い一人の赤いカニ型レプリロイドの姿があった。
「このワイ……人呼んで『ミナミの蟹』こと『バブリー・クラブロス』の銀行で喧嘩は許さへんでぇッ!!」
「「ク、クラブロス!?」」
自らを『バブリー・クラブロス』と名乗るレプリロイドを前に、エックスとゼロは驚きを隠せずにいた。
啖呵を切ったクラブロスだが、エックス達を置いて数歩前に進み近くの中年女性に声をかける。
「この騒ぎ一体何や? 今日はワイが直々に視察に来るって言うとったやろうに!」
「きょ、恐縮です会長! 実はそちらのお客様がその……口座残高がない事を巡って、その……もめ事を」
「ハァ!? お前らそんなしょうもない事でワイの銀行で揉めたんか!」
クラブロスは眉間に皺を寄せながらエックス達に振り返る。 対するエックスとゼロは先程の怒りも忘れ、ただ困惑していた。
「いや、喧嘩になりそうだったのは悪かったよ! でもゼロが預金残高も考えずにアダルトグッズ買い漁ったのに、全く悪びれる気もないから!」
「俺にエロ取ったら何が残るんだよエックス! って言うか会長ってなんだよクラブロス!」
「ワイの事に決まっとるやろ! ここはワイが会長務める『クラブロス金融』グループの運営する銀行の総本店や!」
「「マジで!?」」
どうやら彼ら二人とクラブロスなるレプリロイドは顔見知りらしい。 その上で彼らの身の上を知って驚いているようだった。
しかしそんな事をしている場合はない。 グループのトップが視察しに来たとあっては余計にまずい。 さっさと現金を取り出してここからおさらばしなければ、そう思っていたのだが。
「(今は構ってる場合じゃないや! とっとと用事を済まさなきゃ――――ん!?)」
焦る彼女を余計に煽るように、モニターにはATMが現金詰まりのエラーを引き起こした表示が浮かび上がっていた。 ご丁寧に大きな液晶欠けと数字の羅列付きで。
これには束も「しまった!」と痛感する。 突然の来訪者に気を取られて機械に気を配る暇がなかった事に加え、先立つ物は多いに越した事はないと、ただでさえ不正な操作の上に
「(このポンコツ! 束さんのお手製だったらこんな事にはならないのに!)」
束は逆上しかけるのを何とかこらえ、再度素早く蓋を開けて端末を直接操作する。
「つーかお前らやな! 口座に
「フン! エックスの奴が店舗の前で俺のアダルトグッズ出しやがったもんだから、気まずくて窓口に行きづらくなっちまったんだぜ!」
「お前があんなの入れるからだろ!」
「中入る前にも騒いだんか! アホか!! ……ま、こないな事やらかす連中二人に貸す
「「んな!?」」
「ゼロの赤は赤字のアカや! おどれらみたいなこの程度も思いつかんアホタレに
「ンガくくっ……!!」
「俺ばっか狙い撃ちかよ!!」
「オドレが原因やから当然やろ! さ、青いのも邪魔するぐらいやったらほら! 帰った帰った!」
「くっ……」
「ああくそ! 言われっ放しは癪だが仕方ねぇ……おい! 引き上げるぞ!」
作業に集中していて話の内容は流し聞きだったが、ここに来て店舗から出るとゼロに告げられ束は大いに焦った。
「(えっ!? 今引き上げんのッ!?)」
中の機械を再度いじくってる真っ只中、言い訳できない最悪な状況で呼び出されてしまった。
タイミングの悪いゼロの呼びかけに、多くの人間が束の方を振り向いた。 彼女にできる事と言えば、とっさに蓋を閉じて振り返り素知らぬ顔をするぐらいしかなかった。
「そこで何やってんだ束? さっさとカード抜いて戻ってこい!」
「おぅふっ!!」
「ブッ! ゼ、ゼロ!」
おまけに名前呼びで。 わざわざ帽子で顔を見えづらくしたのにも関わらず、エックスと束は噴き出した。
「束やと――――ッ!?」
名前に反応したクラブロスもつられ、束の方を振り向いた途端目を見開いた。
「こら兎女ッ!! お前ATMに何やっとんじゃあッ!!」
篠ノ之束世紀末エンジニア説。 次は昼の12:17に3話目を投稿します!