至高の方々、魔導国入り   作:エンピII

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 至高の方々、蒼の薔薇と出会う 其のニ

「……馬鹿な……あれは、……魔神?……魔導国は、魔神の群れだとでも言うのか……?」

 

 入場してきたモンスターの群れを、少し離れた所から見ていたイビルアイがそう呻く。高価な布地をふんだんに使ったドレスに身を包んだ小さな体が、ラキュースの目から見ても解かるほどに震えていた。

 ダンスに誘われることを厭うたために、飲みもしないのに受け取っていたグラスを落としてしまわなかった事は、奇跡に近いだろうと思う。

 

「魔神?それ程の相手という事なの、イビルアイ?」

 

 ラキュースの問いかけに、イビルアイは仮面を外した顔を伏せながら答えた。

 

「……難度二百といったところだ。ヤルダバオトよりは弱いだろうが、それでもメイド悪魔より確実に強い」

 

「……どれを指してるの?あの蜘蛛の姿をしたモンスターの事かしら?」

 

 微かに震える声で尋ねるラキュースに、イビルアイは意地悪く笑う。だがその笑みには悲壮感が色濃く映し出されていた。

 

「わかっていて聞いているんだろう?……あそこに居る全部だ。あれら全てが、……難度二百の化け物共だ」

 

 イビルアイの答えを聞き、ラキュースの世界は足元から崩れ去った。そんなイメージを抱いてしまうほどに、絶望を味わったのだ。

 帝国主催の舞踏会に蒼の薔薇が参加しているのは、他でもない帝国皇帝からの依頼だった。依頼内容は『魔導国至高の四十一人を見て欲しい』ただそれだけ。それだけの依頼に、帝国から王国に所属している冒険者に依頼を出したという事を踏まえても、破格の報酬を提示された。

 勿論ラキュースたちは報酬に釣られ、この舞踏会に参加している訳ではない。続く依頼内容に『人の未来の為』と続いていたからだ。

 

 帝国最強と王国にも名の知れる闘技場の王、武王。

 その最強を一蹴したとされる魔導国至高の四十一人。

 

 帝国からの情報を得たラキュースたちは、その至高の四十一人こそが、ヤルダバオトの正体、すなわち一員なのではないかと推測した。ヤルダバオトや、それに匹敵する強者ならば、武王を降したとしても不思議ではない。

 

「……このモンスターの群れが、至高の四十一人……」

 

 ラキュースの口から、絶望の呻きとも取れる言葉が漏れた。

 難度二百の群れ。至高の名に、偽りは無いという事か。

 

「なるほどな。化け物登場ってことかよ。……だがな、あいつらが至高の四十一人っていうのは、早合点かもしれないぜ?」

 

 ラキュースたちと同じく、ドレスに身を包んだガガーランがモンスターの群れを眺めながら言う。顔にはいつもの猛獣の様な笑みが浮かんでいるが、声までは隠しようがない。微かに、付き合いの長いラキュースなら分かる程度にだが、声が震えている。

 

「どういうこと、ガガーラン?」

 

「見ろよ」

 

 ガガーランがモンスターの群れに向け顎でしゃくりながら示す。

 難度二百のモンスターの群れが、最初に現れた美しいメイド達を守る様に、取り囲み始めたのだ。

 

「……至高の四十一人ってのは、魔導国の支配者なんだろう?そいつらがなんでメイドを守る?あれじゃあ、あのメイド達の護衛。いいとこ従者だ」

 

 まさかという思いが、ラキュースを更なる絶望の元にと誘う。

 

「……数も合わない。そもそもあの中には武王を倒したという粘体の姿は、無い。……アンデッドの魔導王の姿もな」

 

 イビルアイがガガーランに続く。

 

「……ああ。どうやら、本命はあちらのようだぜ」

 

 ガガーランの言葉と共に、舞踏会会場に更なるどよめきが起こる。ラキュースはそのどよめきに階段に振り返った。

 瞬間、ぶわっと汗が吹き出す。

 これ以上何も起きないで欲しいというラキュースの願いを嘲笑うかのように、白いドレスの、ラキュースですら息を呑むような美しい女の手を引いたアンデッドが姿を見せる。

 そのアンデッドの後に、ピンク色をした謎の肉棒とも言えばいいのか、ラキュースが見たことも無い粘体。

 翼亜人(プテローポス)とは違う、仮面を付けたバードマン。目も眩む金色の粉の様な粒子が、鎧から散っては消えていく。一目で恐ろしいほどの魔法効果が備わった装備だと知れた。

 金髪の女の胸に抱かれた小さな粘体。帝国から持たされた情報からによれば、ガガーランが自分一人では絶対に勝てないと断言する武王を一蹴したのが、あの粘体のはずだとラキュースは息を呑む。

 タキシードに身を包んだ、口元から二本の牙が突き出た大男の様な亜人、らしき者。

 黒衣の忍者装束の男、らしき者。

 帽子を被った、だがその帽子の下から覗く顔は決して人間ではない醜悪な巨人、らしき者。

 

 どれもがラキュースの知識に無い、異形の集団だった。

 

(……あれが、至高の四十一人……)

 

 ラキュースは理解する。五十を超える難度二百のモンスターの群れですら、このパートナーを伴った異形の集団の前では、霞んでしまうと。

 あれらこそアインズ・ウール・ゴウン魔導国の支配者、至高の四十一人なのだと。

 あの異形の集団は、一人一人がヤルダバオトに匹敵するのではという絶望の問いかけを籠めて、ラキュースはイビルアイに視線を向けた。

 

 そこには小さな少女が居た。

 ラキュースが見たことが無い、怯えた少女。

 両腕で自分を強く抱き締めながら、あのイビルアイがカタカタと震えていた。

 

「怖い……怖いよ、ももんさま……。あれは……魔神なんかじゃ、ない……」

 

「イビルアイ……」

 

 ラキュースの言葉に、イビルアイはほんの少しだけ冷静さを、いつもの姿を取り戻せたようだ。顔を伏せながら、告げてくる。

 

「……ティアとティナを呼び戻せ。……逃げるぞ。……いいか、これ以上あれらに視線を向けるな。少しでも注意を引けば、……私たちは終わる」

 

 ラキュースは頷き、隠形を駆使し潜んでいる二人に、教わった手話で合図を出す。こちらから二人の位置は把握できないが、二人はこちらの動きを注視しているはずだ。

 だが、二人は姿を見せない。焦りから、ラキュースは背後を振り返る。しかしそこにティアとティナ、二人の忍者の姿は無い。

 

「……まだか。逃げるなら今しかないぞ。……あれは、ぷれいやー?六大神、いや、八欲王の再来とでも言うのか?もうこれはおとぎ話の、いや、神話の類だ」

 

 魔導王が、依頼者である帝国皇帝と挨拶らしきものをしている。確かに逃げるなら今しかないだろう。だが、二人は未だに姿を見せない。ラキュースが幾度と無く、手話による合図をだしているにも関わらず。

 そしてさらに絶望的な声が、ラキュースの耳に届く。

 

「……悪いな、イビルアイ。目が、あっちまった」

 

 そうガガーランが言い、その彼女の眼はまっすぐに、タキシードに身を包んだ二本の牙が生えた大男に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

(……あれは女?女って言っていいのかよ?)

 

 舞踏会会場に入場した武人建御雷は、フロアの片隅で異彩を放つ者の視線に気付く。そこには筋肉の塊が薄布を纏い、こちらをまっすぐに見つめていた。

 思わず気圧されそうになる。それほどの圧だ。

 

(……大した筋肉をしてやがる。筋肉量(バルク)は当然俺が上だが……。ちっ、だがそれは俺が建御雷だからだ……)

 

 ユグドラシルプレイヤー、武人建御雷だからこその筋肉。キャラメイクで手を加え、手に入れた筋肉だ。恐らく自身で鍛え上げ筋肉を育てた彼女、と言っていいのだろうか確信は未だに無い、とは違う。

 思わず視線を落とし現実世界での自身の腕を、いくら鍛えてもあまり肉の付かなかった腕を幻視する。今こちらに視線を向ける彼女とは比べものにならない、あの細い腕を。

 

(……だがな)

 

 しかし悲壮感に支配されたのは一瞬だ。

 建御雷はこの世界で生きていく決意をしている。

 すなわち武人建御雷こそが、今の自分なのである。その自分が敗北感を味わうなど、慕ってくれているNPC達に悪い。

 ライトブルーの外骨格に覆われた自身が創造したNPCの顔が過り、建御雷は全身をパンプ・アップさせた。血液が筋に送られて充血した筋肉が膨れ上がり、タキシードを押し上げる。

 魔法の装備であるユグドラシルのタキシードは、その怒張にも破れることなく、服の下からでも建御雷の筋肉を、はっきりと表現してくれた。

 

(……俺は負ける訳にはいかねぇんだよ。あいつらの為にもな)

 

 

 

 

 

 

 ガガーランの瞳に、驚愕が生まれる。

 視線を合わせた至高の四十一人の一人が、はっきりと全身に力を籠め、戦闘態勢に入ったからだ。凄まじいまでの圧が、他の誰でもない、ガガーラン一人に対し向けられている。

 

「……光栄じゃねぇか。味見してくれるって訳かい?」 

 

「……ガガーラン?どうしたの?」

 

 ラキュースの問いかけを、彼女に向き直ることはせず、手を向け答える。

 

「あちらさんからのせっかくの誘いだ。乗らなきゃ失礼だろう?……場合によっては、俺には構うな。置いて逃げろ」

 

 あの至高の四十一人は、ガガーランに目を付けた。

 必然かもしれない。単純な力量は兎も角、人間の戦士としてこの会場内で最も優れているのはガガーランだ。あの男はそれを理解し、自分に興味をもったのだろう。

 ガガーランは全身に力を籠め、軽く半身を落とし、構える。

 当然無手だが、手に刺突戦鎚(ウォーピック)を持つ、いつもの自分の姿をイメージする。

 聞いたことが有った。

 英雄の領域に踏み入った一部の人間は、武器を構えただけで、己を、技を、幻とし相手に放つことが出来ると。キアテと呼ばれる技術らしい。

 あの至高の四十一人は、そのキアテの攻防を、この舞踏会会場内でガガーランと行うつもりなのだ。

 

(……俺は人間なんだがな。英雄の領域に足を踏み込むことのできない、ただの人間だよ)

 

 想いとは裏腹に、ガガーランは笑っていた。

 あの化け物が、英雄と呼ばれる者を超える、正真正銘の化け物が、自分を戦士として試そうとしてくれている。

 興奮が恐れを超え、ガガーランは獰猛な笑みをより一層強くしていた。

 

 

 

 

 

 

(……応えやがった!)

 

 建御雷のパンプ・アップにあの男女は、性別に確信が持てないためにこう思うことにした、身体を僅かに落とし、武器を構える様なポーズで応えてきた。男女の全身の筋肉がパンプ・アップし、建御雷に魅せようとする意志が、確かに伝わってくる。

 

(……良いぜ。俺も魅せてやる)

 

 武器を構えたようなポージングなのは、恐らく実際に命を懸けた戦いが行われているこの世界ゆえにだろう。非常に理にかなったものだ。確実に、この世界にもボディビルの苗は芽吹いている。そうで無ければ、パンプ・アップした建御雷に、男女もパンプ・アップで応える事などしないだろう。

 建御雷はゆっくりと両腕を曲げ、上腕二頭筋を全面から見せていく。この世界で出会った最初の好敵手に、ユグドラシルで育った自慢の筋肉を魅せ付けるために。

 

(これがフロントダブルバイセップスだ!)

 

 

 

 

 

 

(……打ってこいって訳か。いいぜ、遠慮なしだ)

 

 至高の四十一人は両腕を折り曲げ、その屈強な肉体を晒す。先手を譲られたのだろう。その事を理解できたガガーランは、息を小さく吸い、そのまま一撃を放った。

 勿論実際に武器を振るったわけではない、気を当てているだけだ。だがガガーランの目には見えていた。己の放った気が、刺突戦鎚を振り上げ、至高の四十一人に叩きつけているのを。

 全力で振り下ろした刺突戦鎚が肉体に弾かれた。ガガーランは弾かれた刺突戦鎚を筋力で無理やり押さえつけ、再び渾身の力を籠めて振り下ろす。

 だが結果は変わらない。至高の四十一人の肉体に弾かれ、痛手どころか、傷一つ付けられていなかった。

 

(……なら、こいつは、どうだぁ!)

 

 

 

 

 

 

(……デカいな。いい筋肉だ。育ってやがる)

 

 建御雷のポージングに応え、男女もポーズを変えていく。ポージング自体は拙いが、それは歴史と、知識の差だろう。実際建御雷の目には男女の大胸筋が歩いて見えたし、あれほどに絞るには眠れない夜もあったろうと思う。

 だからこそその男女に、建御雷は自身の知識を伝える為、さらなる成長を促すために、新たなポージングを示すのだ。腹筋と脚に力を籠め、全面に見せていく。

 

(お次はアブドミナルアンドサイだ!)

 

 

 

 

 

 

(……これを受けきるか……。はっ、嫌になるじゃねえか……)

 

 ガガーランの放った、十五連続攻撃を、至高の四十一人は容易く受けきった。武技複数を同時に発動させ放つ、ガガーランの切り札。超級連続攻撃だ。それを避けるのでもなく、耐えるのでもなく、怒涛の連撃をそよ風を浴びたかのように、肉体のみで受けきられた。

 生物としての絶対的な差。いや、それ以上の何かだ。

 最初から分かりきっていたそれを、改めて見せつけられ、ガガーランは肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

(……どうした?筋肉がしぼみ始めたぞ?……お前の僧帽筋はそんなもんじゃないだろう?そこまで、仕上げてきたんだろう?)

 

 建御雷の筋肉量(バルク)に、男女が肩を落とすのが見えた。

 無理も無いだろう。建御雷は異形の体、そして現実世界で培われた知識が有るのだ。いわば二つのチートを有している。その建御雷相手に、あの男女はここまで食らいついたのだ。十分やった。ナイスバルクだ。

 

(……いたぶるのは趣味じゃない。止めをさすぜ。最後にお前に魅せるのが、……サイドチェストだ!)

 

 そして建御雷は最後のポージングを男女に披露する。ゆっくりと胸の厚みを横から見せていき、腕の太さ、背中、脚、肩の厚みを強調した。

 建御雷のポージングに、体を震わせた男女に、小さく呟く。ありったけの称賛を声に籠めて。

 

「……お前の筋肉、キレてたぜ」

 

 

 

 

 

 

(……斬られた……)

 

 ガガーランが思わず視線を落とし、胸の辺りを擦る。至高の四十一人から放たれた、奇妙な構えからの一撃に、自分はなすすべもなく、切り裂かれた。

 力の差を改めて思い知らされたガガーランは、ゆっくりと伏せた顔を上げ、再び至高の四十一人と視線を合わせる。そしてガガーランはそこで、驚くべきものを見た。

 至高の四十一人が笑っていたのだ。

 ガガーランを嘲笑う様な笑みでは無い。口元から生えた大きな二本の牙を見せ、ガガーランを讃える様に、武骨な笑みを浮かべていた。

 

(……褒めてくれるのかい?化け物のアンタが、人間の俺を?)

 

 ガガーランは全身から汗を吹き出し、薄いドレスがぴっちりと肌に張り付いていた。吐く息も荒い。一瞬、それもキアテの攻防だけで、アダマンタイト級冒険者のガガーランが、ここまで消耗させられたのだ。

 それに反して、視線を合わせた至高の四十一人には汗の一つも浮かんでいない。汗が流れないのは、そういう種族という理由があるかもしれないが、消耗はまったく見えない。

 それほどまでの力の差を見せつけ、それでも相手を侮るわけで無く、ガガーランを讃えてみせたのだ。この至高の四十一人の戦士は。

 

「……良い男じゃねぇか。ありゃ、良い男だぜ」

 

「ちょっと!どうしたの、ガガーラン!」

 

 横でラキュースが声を上げている。ガガーランはそれには答えずに、近くにいた給仕を呼びつけた。

 

「ボーイ!酒だ!強めのを頼むぜ!」

 

 ガガーランが酒を受け取るのと同時に、舞踏会の演奏が切り替わる。聞いたことの無い音楽だが、今から至高の四十一人のダンスが始まるのだろう。

 

「……説明しろ。一体何があった?」

 

 イビルアイの訝し気な顔に、ガガーランは野太い笑みを向け、口を開く。

 

「一戦交えたんだよ。キアテでだがな。ありゃ、正真正銘の化け物だ。アイツがその気になれば、瞬きする間にこの会場を更地にできるんじゃねぇか?」

 

「正気か!?」

 

 イビルアイが喚いているが、ガガーランは構わずにグラスを傾け、酒を呷る。呷りながら、パートナーの女の手を取り、先ほどまでと違い優雅な踊りを魅せる至高の四十一人を見つめる。

 体が昂っている。火照ってしょうがなかった。あれほどの強者に認められた事に、幼子の様な興奮を覚えている。酒ではまるで火照りを鎮められなかった。ここが帝国で無ければ、その辺の給仕係をニ、三人見繕い、物陰にでもしけ込んでいただろう。

 逃げるタイミングを逸した事を焦っているのか、ラキュースとイビルアイは落ち着かない様子だ。その二人にガガーランは笑う。笑いながら声を掛けた。

 

「心配ねぇよ。アイツらはここで暴れる気なんて無いさ。暴れるつもりなら、最初から舞踏会なんて参加しないだろ?少しは落ち着いて、あいつらの踊りをみてやろうぜ?」

 

 戦うという行為は、時に肌を合わせる以上に相手を理解する事がある。今がまさにそれだ。気による攻防を経て、ガガーランはあの中の一人と通じ合う事が出来た。

 

「その通り。ガガーランも良い事を云うね」

 

「そう、今は踊りを見る時間。せっかく踊りを練習して来たのだから、ちゃんと見てあげないと可哀想だよ」

 

「ティナ、その事は口止めされてる。約束は守らないと、トップシークレット」

 

「そうだった」

 

 軽口を叩きながら現れたティナとティアに、ガガーランはグラスを掲げ出迎えた。二人は目立たないように、ガガーランの影に隠れる様に潜んでいるが、声は何処か明るい。

 

「良かった!無事だったのね、二人とも!」

 

 ラキュースの問いかけに二人は顔を見合わせたのが、背中越しに見えた。

 

「……無事とは言えないかな?二人揃ってしっかり捕まっていたし」

 

「……どういう事?」

 

「あそこで踊っている彼。忍者装束の彼に、正確には分身体にだけど、今まで捕まっていた。でも情報も貰えたよ?」

 

 軽く言うティナとティアに、ガガーランはくつくつと笑い、ラキュースとイビルアイは絶句した。

 

「……捕まっていただと?それでなぜ無事で―――いや、まて。あの忍者装束に捕まったと言っていたな。そいつのパートナーの女、あれはナーベか?なぜあいつが至高の四十一人と踊っているんだ!?」

 

 混乱したような声を上げ、頭を抱え始めたイビルアイに、考えてもしょうがないだろうとガガーランは思う。あれほどの連中が居る国だ。何を起こしても、何が起きても不思議ではない。

 

「ここでぐじぐじ悩んでても仕方ねえだろう。面と向かって聞けばいいんだよ」

 

「……話しの通じる相手だと言うの、ガガーラン?」

 

「通じる。それは私たちが実証済み。情報も得てきたって言ったよね?」

 

 ラキュースの問いかけに答えたのは、ティアだった。ラキュースは信じられないものを見たという顔をし、ガガーランは軽く口笛を吹いた。

 

「ヤルダバオトは至高の四十一人では無い。それは彼から聞いてきた」

 

「……信じられるの?」

 

「んー。少し動揺はしてたね。でも至高の四十一人の中に、ヤルダバオトの名前は無かったよ?」

 

「全員の名前を聞いてきたの!?」

 

「えっへん。今の私たちは至高の四十一人博士」

 

「名前を告げる彼に淀みは無かった。嘘の名前を交えてたら、すぐ解かる」

 

 そう告げる二人の言葉を信じられないとラキュースが呟く。それを見咎めたように、ティアが口を開く。

 

「ならリーダーも踊ってくればいい」

 

「え?」

 

「そりゃ名案だ。俺達の中で踊れるのはラキュースだけだしな」

 

「ちょ、ちょっと待って。踊るって?私が至高の四十一人と?」

 

「そうだよ?ここは舞踏会。踊らないと。それに誰が誘いやすいかも、彼からちゃんと聞いてある」

 

 そう言ってティアは、ガガーランの背中越しに一人の至高の四十一人を指さす。ガガーランが戦った相手よりも巨躯を誇る、帽子を被った相手を。

 

「至高の四十一人やまいこさん。……優しい人だって言ってたよ」


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