至高の方々、魔導国入り   作:エンピII

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 至高の方々、PvP!

 弐式炎雷が二本の小太刀を手に、ぶくぶく茶釜に襲い掛かる。両の手で軌跡を巧妙に変化させる斬撃を、ぶくぶく茶釜もまた両の手で構えた盾で弾いていく。斬撃の合間を縫って放った弐式炎雷の回し蹴りを右手の盾で受けて、ぶくぶく茶釜が叫んだ。

 

「攻撃が軽い!影!」

 

「応!」

 

 叫びに武人武御雷が、ぶくぶく茶釜の背後から答える。建御雷の大太刀から弐式炎雷の影目掛け一直線に、斬撃が地面を抉りながら飛ぶ。すぐさま弐式炎雷の体から影だけが切り離され斬撃を躱した。今の弐式炎雷は分身だ。本体は影に隠れて不意打ちを狙っていたが、攻撃の重さからぶくぶく茶釜に分身だと見破られてしまっていた。

 弐式炎雷の本体が影から出てくるまでに一瞬の時間が掛かる。その時間を稼ぐために、アインズは即座に魔法を発動させる。

 

「<重力渦(グラビティメイルシュトローム)>!」

 

 二人に向けて、アインズは漆黒の球体を投じた。だが、すぐさま超重力の螺旋球を遮る様に巨大な石壁が大地から盛り上がる。

 やまいこの<石壁(ウォール・オブ・ストーン)>。

 球体が石壁に激突し崩れていく。だがそれと共に重力球も消え失せた。そして崩れた石壁から建御雷が躍り出てくる。狙いはアインズだ。

 

「チィ!<骸骨(ウォール・オブ)―がぁ!」

 

 先程やまいこが<石壁(ウォール・オブ・ストーン)>を用いて防いだように、アインズも骨の壁で建御雷の接近を防ごうとする。しかし詠唱が完了するより早く、茶釜から投げつけられた盾の一撃がアインズに直撃する。詠唱を妨害するスキルの一つ、<シールドスワイプ>。それによって詠唱を妨害され、魔法が発動出来なかった。

 

「まず一人!」

 

 大上段から振り下ろされた建御雷の一撃が、無防備なアインズを袈裟懸けに切り裂く。

 切り裂かれた瞬間、アインズの視界が切り替わった。

 建御雷の一撃に切り裂かれたのは弐式炎雷の分身。弐式炎雷の分身とアインズの位置を一瞬で切り替えられた。盾役が使う位置交換のスキル、その忍者版のスキルによって救われた。

 

「そう簡単に、やらせるかよ!」

 

「はっ!俺の狙いは最初からお前だよ!」

 

 建御雷が狙いを弐式炎雷に絞る。

 再び大上段からの一撃を弐式炎雷に向け振り下ろす。弐式炎雷はその攻撃を、天照と月読を交差させ防いだ。

 神話(ゴッズ)アイテム同士がぶつかり合う激しい衝撃に、大地が揺れる。

 

「……お、おいぃ!こ、これっ!殺気が籠ってないか!?」

 

「舞踏会の礼だ!安心しろぉ、お前の蘇生費用は俺が受け持ってやる!」

 

 鍔迫り合う二人のやり取りが聞こえた。弐式炎雷を断ち斬らんと、力で勝る建御雷がそのまま押し込もうとしている。

 

「じょ、冗談じゃねぇ!誰がプレイヤー蘇生実験の被験者第一号になるか!そ、それにさ、建やん!俺らのチームメイトを一人忘れているだろう!?」

 

 弐式は力比べを放棄し、建御雷の刀を上手く逸らす。そして合図をするように自らの影を足で二度叩いた。

 言葉と同時に弐式の足元が盛り上がる。弐式のスキルによって影に潜んでいたヘロヘロが、弐式と建御雷に割って入るように現れた。

 

「ばぁ」

 

「うげ!ヘロヘロさんだと!?」

 

 おどける様なヘロヘロに、建御雷が追撃を躊躇う。

 当然だ。ヘロヘロのPvPでの恐ろしさはアインズ・ウール・ゴウン全員が周知している。彼の酸性はあらゆる耐性を超え、時間さえかければ神話級アイテムすら溶かし尽くす。

 もちろん今回のPvPでは相手の武装を狙う事は禁じ手だ。だが、自らヘロヘロに攻撃をした場合はその限りではない。

 いくらヘロヘロでもたったの一撃を受けただけで神話級装備に致命的なダメージは与えられないが、それでも装備に愛着があればあるほど躊躇ってしまう。そしてその躊躇いを、アインズは見逃さない。

 

「<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)>!」

 

 無防備な建御雷に三発同時に巻き起こる空間切断が襲い掛かる。だが、ぶくぶく茶釜が両手で構えた盾で建御雷を庇うように前に出た。

 

「<ウォールズ・オブ・ジェリコ>」

 

 ぶくぶく茶釜の全体防御技によって、一発の空間切断が防がれる。

 

「<イージス>……おりぁ!!」

 

 そして残り二発も妙に可愛らしい声と共に、彼女の盾によって強引に弾かれた。

 

(嘘だろう!?)

 

 完璧なタイミングで放たれた強化済みの第十位階魔法を、それも魔法的防御をほぼ完全無効する空間切断をどうやってか物理的に弾かれ、アインズが動揺する。

 

「サンキュー!茶釜さん!」

 

「どういた!スイッチ!」

 

 ぶくぶく茶釜の指示に従い、建御雷がアインズを、やまいこがヘロヘロに狙いを変える。ぶくぶく茶釜は距離を取ろうとした弐式炎雷に詰め寄り、盾で押し込もうとする。

 

「だあ!茶釜さん、硬すぎだろう!?」

 

「てへぺろ」

 

「可愛くねえ!俺の制限と比べて茶釜さんの制限軽過ぎじゃない!?」

 

 可愛らしい声で笑うぶくぶく茶釜に、弐式が両手に構えた小太刀で連続で斬りつける。しかし茶釜はそれらを全て盾で捌きながら、逆に盾で押し返していた。<シールドアタック><シールドスタン><メガインパクト>を連続して弐式に叩き込んでいる。

 

「ぎゃん!」

 

 声に一瞬注意を向ければ、やまいこのメイン武器女教師怒りの鉄拳の強力なノックバック効果によって、ヘロヘロが弾き飛ばされていた。だがヘロヘロも弾かれながら、一気に身体を肥大化させている。眼窩に輝きが灯ると同時に、その触腕をやまいこに向かって伸ばす。

 

「くっ!」

 

 粘体の体に巻き付かれたやまいこが、振り払おうともがく。筋力では外せないと察したやまいこが魔法の詠唱を行う。

 

「させません!私は今回武具を狙えない制限付きですので、全力でHPを削らさせてもらいますよ!」

 

 そういってヘロヘロはやまいこの全身を取り込もうとする。

 詠唱を邪魔され、やまいこはヘロヘロから逃れられない。こうなると我慢比べだ。ヘロヘロの酸性が勝つか、やまいこの事前に唱えている継続回復魔法の回復量が勝つかだ。

 

 現在トブの大森林で行われているPvPは、いくつかのルールを、制限が付けられている。

 ヘロヘロならば、相手の武具へのダイレクトヒットの禁止。アインズならばいくつかの魔法、そしてThe goal of all life is deathの使用禁止。やまいこは回復魔法の使用回数の制限といった具合にだ。

 全員が何らかの制限を受けた上での、三対三の全力戦闘。

 チーム分けも魔法詠唱者のアインズとやまいこは、最初からチームが分かれるようにされていた。

 勝利条件は相手のHPを一定の割合まで削ること。これも各々のロールに応じて割合が違う。

 それを審判するのがチーム分けからあぶれたギルドのメンバー、今回はペロロンチーノだ。その彼が<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>の効果のあるアイテムを使用しながら、上空から監視している。

 

「考え事か、モモンガさん?流石にこっちでの戦闘慣れしているな」

 

 相対する建御雷の言葉に、アインズが笑う。

 

「まさか、皆さん相手に、そんな余裕はありませんよ。ただ少し、いえ、とても楽しいので、嬉しかっただけです」

 

「そうか。なら―行くぜ!」

 

 アインズも戦士としての訓練をこの世界に来てから行っている。斬撃を潜り込み、相手に肉薄するような訓練も何十回とコキュートスとしているが、流石に建御雷相手にできるとは思わない。だから<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>を唱え離れる。そして距離を取ってから攻撃魔法を詠唱した。彼と接近戦をするつもりはない。

 

「<魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)>!」

 

 空間の切断を前に建御雷は大太刀を一度収め、腰だめに構える。そして居合抜きのように放たれた斬撃が、強化した空間切断の魔法を打ち消した。

 

「さっきみたいに不意を突くならともかく、俺にその手の魔法は悪手だぜ、モモンガさん」

 

「なるほど、たっちさん対策は万全ですか!」

 

 <現断(リアリティ・スラッシュ)>はワールドチャンピオンの最終スキル<次元断切(ワールドブレイク)>の劣化魔法だ。当然ワールドチャンピオンのクラスを持っていない建御雷はそのスキルを使えない。だが彼はたっち・みーを倒すことを目標としていた。十分に対策をしているのだろう。

 

(ああ。本当に楽しい)

 

 自分の攻撃が、ことごとく防がれる。相手からの攻撃を、仲間が何も言わずに防いでくれる。簡単な合図でこちらの意図を読み、最適な動きをしてくれる。

 本当に楽しかった。これほど楽しい戦闘は、一体いつ以来だろうとアインズは思う。

 魔法を放ち、防がれ、相手からのスキルを魔法で受け、また魔法で攻撃する。

 あまりの楽しさに、隠しようのない笑みが浮かんでしまう。それは仲間達も一緒だろう。自分が持てる力を、スキルを試すように戦っている。

 

「ヘロヘロさん!いつまでもやまいこさんを苛めてないで、例の作戦行くぞ!」

 

「ええー、本当にやるんですか?」

 

 弐式炎雷の呼び掛けに答え、ヘロヘロがやまいこを締め付ける拘束を解き、元の小さな状態に戻って彼の元に駆け寄る。

 本気であれを試すのかと、アインズは建御雷の相手をしながら横目で見やる。

 

「見ろ!ユグドラシルでは出来なかった荒技!……名付けて、ヘロヘロの盾だ!」

 

 弐式炎雷が小さくなったヘロヘロの首根っこを右手で掴み、盾を構える様に掲げて見せた。ユグドラシルでは当然だが、仲間を装備するなんて真似は出来なかった。どうせなら色々試そうと、PvP前に弐式炎雷が提案していたのだ。

 そして弐式炎雷が考えたのが、アイギスの盾ならぬヘロヘロの盾。強力な酸性を誇るヘロヘロを盾とし、全ての攻撃を防ごうとしているのだ。

 

「攻撃出来るもんなら攻撃してみろ!ヘロヘロさんがどんな装備も溶かし尽くすぞ!」

 

「いや、攻撃を受けて武具にダメージを与えるのは、私にもしっかりダメージは入るんですけどね」

 

 右手にヘロヘロを、左手に月読を構えた弐式炎雷が、ぶくぶく茶釜とやまいこに向けて駆け出す。

 

「……やまちゃん」

 

「うん」

 

 拘束から解放されたやまいこが迎え撃つようにヘロヘロを殴りつけ、再び強力なノックバックで弾き飛ばす。

 

「ぎゃん!」

 

「ぐぉ!?」

 

 当然ヘロヘロを装備した弐式炎雷ごとだ。

 

「ふ、踏ん張っても全く耐えられねえ。すげえな、女教師怒りの鉄拳」

 

「ダメージは有りませんが攻撃を受けた瞬間弾き飛ばされるから、酸性も殆んど通りません。私にとっては本当に厄介です」

 

「だな。ん?……痛い……って、なんじゃこりゃぁ!?」

 

 弾き飛ばされ地面を転がる弐式炎雷が自分の右手を見て驚愕するように叫んだ。

 

「おい、ヘロヘロさん!俺の右指が溶けてるんだけどぉ!」

 

「そらこの状態でも、酸性カットをしていない私を持ち上げてたらそうなりますよ」

 

「痛い!指全部溶けてるし!や、やまいこさーん!」

 

 痛みにのたうち回る弐式炎雷が、助けを求める様にやまいこの名を叫ぶ。

 

「う、うん。<大治癒(ヒール)>」

 

 見かねたのか、やまいこが魔法を使用し、弐式炎雷の傷を癒す。

 

「ありがとう、やまいこさん。……よし、やまいこさんの回復魔法使用回数を削るという俺達の作戦は成功だぞ、ヘロヘロさん」

 

 指が再生した弐式炎雷が再び天照と月読を構え、ぶくぶく茶釜とやまいこに対峙する。

 

「回復まで貰っておいて、そのまま戦闘再開するんですね。まあ、いいですけど」

 

 そう言って、再び激しい戦闘が再開される。

 本当の敵との戦いであれを試さなくて良かったと、アインズは苦笑いをした。そしてアインズもまた、楽しみの続きを、建御雷との戦闘をより激しいものとする。

 

 だがしばらくして、アインズの楽しみを邪魔をするかのように、<伝言(メッセージ)>の伸ばされた線が繋がった。思わずアインズは苛立しげに表情を歪める。今アインズ達がPvPを行っている事はナザリックのもの達にも当然伝えてある。邪魔をするものは居ない筈だ。

 

『―アインズ様』

 

「シズか。今忙しい。後に―――いや、すまない。続けてくれ」

 

 繋がった相手がシズだと知って、思わず切ろうとした<伝言(メッセージ)>に意識を集中する。突然戦闘を中断したアインズを建御雷が訝し気に首を傾げながら、大太刀を肩に担ぐ。その様子に、仲間達も次々と戦闘を中断し、アインズのもとに集まって来ている。

 

「どったの、モモちゃん?」

 

 問いかけるぶくぶく茶釜に、アインズは言葉が出ない。無いはずの動悸が激しい。自分が興奮していることがよく分かる。

 霊廟を監視するシズには一つの命令を伝えてある。あることが起きたのならば、アインズがどのような状況であれ、何を行っていても、必ず、最優先で連絡するようにと。

 

 シズからの<伝言(メッセージ)>。それは即ち―

 

『ウルベルト・アレイン・オードル様が、ナザリックにご帰還されました』

 

 ―仲間の帰還だ。


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