大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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22話

 

「寒いな」

真冬の寒さが未だに健在な1月序盤の朝,僕は制服を着て,白い息を吐きながら通学路を歩く。

 

今日は学校の始業式で、周りには同じ制服を着た生徒達が友人達と談笑,イヤホンで音楽を聴きながら登校している。

 

 

 

 

 

河川敷での一件の後、僕と園田海未は救急車で病院に再び運ばれて病院に着いた際に看護婦からこっ酷く叱られた。

 

個々の部屋に戻されてからそれ以降、顔を合わすこともなく2日後に園田海未が退院する事になり、病院を去った。

 

その日の夕方、窓の外を眺めていると部屋のドアをノックする音が聞こえる。返事を返すと園田海未の父が立っていた。

 

僕がベットに上半身を預けながら一礼した後、彼も一礼してゆっくりとこちらに近づいてきて口を開いた。

 

「村雨悠人君‥‥今回の件は不問にすることにした‥‥」

 

「何故ですか? 僕は貴方の娘を殺そうとしたんですよ」

 

「それは承知の上だ。だが現当主でありながら園田の歴史を知らなかった私にも責任がある」

 

「‥‥‥そう‥‥‥ですか」

 

「まだ不服か? それなら我が家に伝わるーー」

 

「当主殿‥‥もう面会時間は終わりですよ」

 

僕は当主に笑みを浮かべて答えると、時計を確認した後、申し訳なさそうな顔をして立ち上がる。

 

別に当主が嫌いというわけではない‥‥‥宗家との因縁など心のどこにも存在していないのだから‥‥‥問題は僕だ。

 

本来なら警察に突き出せば、裁かれる対象であったはずなのに結局,僕は園田にお世話になってしまった。

嫌悪感とはまた別の感情が僕の心を包み込んでいた。

 

次の日、僕は退院して元の‥‥いや変わってしまったであろう日常に身を投じる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。退院して家に戻ったその日、家に南理事長から電話がかかってきて明日の朝に理事長室に来るように言われた。

恐らく僕の処遇についてだろう‥‥まぁ大体予想はつく。

 

僕は腹を括った上で今こうして学び舎に足を運んでいる。数ヶ月だったがそれなりに楽しい学校生活だった。

 

 

理事長室前に着いて扉をノックをすると、向こうから返事が聞こえて扉を開ける。

 

理事長は椅子に座り両手の指を重ねて,いつもの穏やかな表情とは一変して険しい表情を浮かべていた。

 

扉をゆっくりと締めて彼女の前で止まる。

 

「まずは退院おめでとう。村雨悠人君」

 

「ありがとうございます」

 

「貴方がここに呼ばれている理由は分かるわよね‥‥‥‥」

 

彼女の問いに無言で頷くと、彼女は軽く息を吸い込んで、口を開いた。

 

「村雨悠人、貴方を‥‥‥2週間の停学処分にします」

 

 

「‥‥‥えっ?」

 

「この2週間、自分の行いを深く反省してーー」

 

「待ってください! なぜ、退学じゃないないんですか? 僕のした事を理解しているはずでは? 僕がどういう人間かすらも‥‥‥」

 

彼女の声を遮り、疑問をぶつける。

 

「貴方の事は生い立ちも行いも聞いたわ。その上での判断です。今の貴方には考える時間が必要。そして私達、教育者の存在も」

 

僕は彼女の言っている事を理解出来ず、動揺を隠しきれないでいる。

 

「排除すべきです。あの時の僕は園田海未を殺めた後、きっと貴女の娘も手にかけていた。そんな輩を残すなんてーー」

 

僕が湧き上がって来る自分の本音を打ち明けていき、言い切ろうとした時に理事長が椅子から立ち上がり、勢いで椅子を床に倒れる。

 

「いい加減にしなさい!!!! 貴方は幾つだと思っているの! 過ぎた事をいつまでも掘り返して何になるの! 貴方は許されるチャンスを与えられたのよ! 人の気持ちから逃げないで!」

 

いつもの穏やかな表情から想像もつかない程の剣幕で僕に詰め寄り、思わずたじろぐ。

 

「貴方はこの学校を去り、私達の前から消える事で全て治ると思っているのかも知れないけど一度、乱れた物はそう簡単に治らない‥‥‥貴方は復讐の代償として色んなものを壊した。 取り戻す方法は一つ‥‥‥今を生きて償って貴方自身が変わることよ。そうよね‥‥‥園田さん」

 

理事長がそう言うと、ゆっくりと扉が開いて彼女と目が合う。

 

「何故、ここに彼女が‥‥」

 

「私がここに呼んだのよ」

 

理事長が先ほどの剣幕とは打って変わり元の穏やかな顔で携帯を片手に持っている。

 

「さっきの会話‥‥聞いてたんですね‥‥‥」

 

 

「‥‥‥はい。悠人‥‥‥今を生きましょう」

彼女は僕の片手を握り、上目遣いで僕の顔を覗き込むようにそう言う。

 

「すぐに変われないですよ。僕は」

 

「大丈夫、ゆっくりでいいんです。それに私が側にいます。言ったはずですよ。一人にしないって‥‥‥ちょっと恥ずかしかったんですから」

 

そう言うと、園田海未は頬を膨らませる。するとなぜか少し可笑しくて自然と笑みが溢れる。

 

「なっ、何がおかしいんですか! もうっ! 私は貴方のためをーー」

園田海未は両手を横に振りながら、穂乃果に説教するような口調で僕に話しかける。その途中も僕は口元を隠しながらに笑う。

 

「それで! ちゃんと! 変わって!くれるんですよね! 」

からかい過ぎたのか少し、涙目になった海未に再び問いかけられる。

 

答え?‥‥‥決まってます。

 

「‥‥‥はい‥‥‥海未」

 

僕は彼女に微笑むと彼女もその綺麗な目で僕に笑いかける。

 

この瞬間、僕はやっと心から笑えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、停学中の課題はきっちりやってもらうわよ」

 

 

 

「‥‥‥はい」

 

 




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