寒い冬の寒さが続くある日の夜。
屋上の一件以降、僕は南理事長に出された課題を黙々をこなす日々を送っていた。
最近、園田海未からはメールがよく届くようになった。内容は他愛もない事で「体調の方はいかがでしょうか?」「ご飯、作りに行きましょうか?」「分からないことがあったら聞いてくださいね」などいくら一人はしないと言ってもやや過保護な面が垣間見えますがそれ程に彼女が僕を気にかけてくれているのは感謝しか以外の何物でもありません。
μ'sのみんなからもメールが来るようになり
最初は余所余所しかった文章も徐々に砕けていきました。にこ先輩に至っては序盤から鋭い文章でした。
そんな事を思い出しながら、課題を進めているとインターホンが鳴る。
「誰だ?」
腰を上げて玄関を覗き穴から訪問者を確認する。
僕は訪問者を確かめると、ドアを開ける。
「夜分遅くに失礼します‥‥‥」
そこにはマフラーを首に巻き防寒着に着込んで、両手で手提げ袋も持った海未が立っていた。
「どうしたんですか?」
「あの‥‥‥理事長に様子を見てきてほしいと言われたので‥‥そのついでにお夕飯がまだでしたら‥‥ご用意させて頂こうと思いまして‥‥‥」
彼女は頬を仄かに染めながら手提げ袋を上に上げる。
「そうでしたか、ありがとうございます。課題を進めていたので夕飯もまだでして‥‥寒いでしょう。どうぞ狭い部屋ですが」
「では‥‥お邪魔します」
僕は彼女を部屋に招き入れてドアを閉めると、防寒着とマフラーを受け取りハンガーにかける。
海未を台所まで連れて行くと彼女はエプロンを取り出して、体に結んだ。
「すぐに取り掛かりますね」
「何かお手伝い致しましょうか?」
「いえいえ! お気になさらず!」
「そうですか‥‥何かあったら言ってください」
彼女は頷いて下準備に取り掛かっていた。
「課題の続きでもするか‥‥‥」
台所と茶の間で背中合わせの二人の間に沈黙が流れる。台所から聞こえる蛇口から出る水の音、包丁で食材を切る音、それだけが彼女の言動を知る手立てだった。
「あの‥‥最近は‥‥どうでしたか?」
沈黙を破るように彼女は僕に小さな声で話しかける。
「そうですね‥‥‥やはり課題と読書ばかりしていましたね‥‥‥」
「そう言えば教室といい練習の休憩中といい読書ばかりしていましたね。一体どのような
本がお好きなんですか?」
「僕は父の影響で昔の純文学を主に読んでいて、「人間失格」「斜陽」「走れメロス」「蜘蛛の糸」「こゝろ」なんかが好きですね。現在の本には疎くて‥‥」
「私も読書が好きなんですが父の書物が古い物が多いせいか私も最近の物にはやや疎いんです‥‥」
そんな話をしているとガスが止まり、皿に料理を盛り付ける音が聞こえる。どうやら出来上がったようだ。
「お待たせ致しました」
彼女がお盆の上に料理を乗せて僕の手前の席に着いた。
皿に綺麗に乗せられた炒飯と餃子が出てきた。
あの数分の間でよく餃子が出来たものだ‥‥
「いただきます」
胸の前で手を合わせて箸を手に取り、炒飯から味わう。
米の粘り気もしっかりと取られていて中華料理店さながらの味わいに情けないことに無我夢中に箸を進める。
「どうでしょうか?」
彼女が胸にお盆を抱きながら不安そうな表情で聞いて来る。
「とても美味しいです。流石は園田家次期当主ですね」
「そっ、そんな!買い被りすぎですよ!」
彼女は片手をお盆を持ちながらで空いた片手で腕を振り、照れ隠しをする。
彼女の手料理を味わっていると彼女が口を開いた。
「そう言えば悠人はこの期間にどこにも出かけ予定はないんですか?」
「いえ一応 故郷に帰ろうと思いまして‥‥‥」
「故郷ですか!‥‥‥あっ‥‥‥」
彼女は僕の生い立ちを思い出したのか恐縮したかのように縮こまってしまった。
「すみません‥‥出過ぎた事を‥‥」
瞳が潤んでいて今にも泣き出しそうな表情だった。
「いえ! 別にそんな事はありません!僕は‥‥‥両親に報告したいだけなんです‥‥新しい生き方を見つけたと‥‥そして、両親を安心させたいんです‥‥」
僕は彼女を慰めながら、自分の胸の内を明かすと先ほどまで顔を伏せていた彼女が顔を上げる。
「悠人‥‥‥」
彼女は僕の名前を呟くと、軽く息を吸い込んで重く閉ざした口を解き放つように開いた。
「私も‥‥連れて行ってください」
「えっ?」
「村雨と向き合わないと‥‥‥私は前に進めない気がするんです‥‥‥」
「私があの土地に移住することになったのは私達の先祖が原因なんです。貴女が気に病む必要なんて--」
「それでもです! 貴方の目の前で起こった悲劇‥‥園田のかつての行い‥‥これは運命なんです。いつか知らないといけなかった‥‥きっと定められていたんです。私は園田家次期当主としてこの真実と‥‥向き合う必要があります。そして‥‥私自身が前に進むためにも‥‥」
先ほどの泣き出しそうな子供のような目から一転、彼女は強い決心を滲ませた目をしていた。
「‥‥来週の日曜日ですよ‥‥‥」
「はい!」
彼女に伝えると、先ほどのこわばった表情から穏やから笑顔になり返答する。
僕は前に進もうとしているように彼女も自身の一族の歴史を知って前に進もうとしている。
そんな事を思いながらまだ少し暖かい彼女の手料理に箸を伸ばすのであった。
閲覧ありがとうございます!!!!
次回は海未ちゃんが悠人の生まれ育った地であり悲劇の地でもある場所に踏み込みます。
いつもどおり 誤字脱字その他ご指摘、感想ありましたらご連絡ください!!!!
では!