25話
海未との約束から1週間が経ち、日曜日を迎えた。
僕は黒いチェスターコートに身を包んで約束の時間の1時間前に家を出て、駅の前で立っていた。
天気は快晴だが不意に吹いてくる冬の風に度々身を震わせる。すると自分の名前を呼ぶ声が聞こえて目を向ける。
見覚えのある長い黒髪の女性が手を振りながらこちらに歩いてきた。
「おはようございます。悠人」
「おはようございます。海未‥‥随分早くきました」
「殿方を待たせるわけにはいかないので‥‥」
彼女は僕にそう言って首を少し横に傾けて笑みを向ける。
「さぁ、いきましょうか」
「ええ‥‥‥」
僕達は新幹線の4人席に向かい合わせで座り、森の木々のようにそびえ立つビルが徐々に少なくなっていくのを景眺めていた。
海未の方に視線を向けると彼女も目を大きく見開いて窓の外に釘付けになっていた。
すると彼女は僕の視線に気付いたのかこちらを見ると頬を赤く染めて視線を下に向ける。
「新幹線からの眺めは初めてですか?」
「いえ、幼い頃に両親に連れられた際に乗った以来で、こうして窓から眺めているとその時の事を思い出すんです」
そう話す彼女はいつもの凛とした雰囲気を纏いつつ子供のように無邪気な表情をしていた。
新幹線は僕の故郷に近づいていき窓の外は鉄やコンクリートの塊の人工物から鬱蒼と生い茂る木々や山が目立つようになっていた。
そして、昼下がりに目的地の駅に着いて僕達は新幹線を下りた。
しばらく間、座席に座り続けて少し体が固まったので指を結んで腕を伸ばす。
海未も目を閉じて、鼻からめいいっぱい空気を吸って吐いていた。
「空気が美味しいですね」
「僕の家の近くはもっと美味しいですよ。さぁ行きましょう」
僕達は改札を降りて実家に向かって足を進めていた。その道中、海未は木々や山々に魅了されたのか目を輝かせて辺りの見回していた。
屋敷へと続く山の中の石段を川のせせらぎや鳥の鳴き声を聞きながら進んでいると、石段の先から見覚えのある木造建築の門が目に入る。
石段を登りきり数ヶ月ぶりに帰ってきた屋敷を目に入れる。
海未は驚きと少し緊張したような表情で屋敷の外観を見ていた。
「ここが悠人‥‥村雨の方々が暮らしていた屋敷‥‥‥」
「さぁこちらへ‥‥」
海未に門をくぐらせて屋敷をより近くで見せる。 山奥の中に屋敷があることに驚いたのか辺りをここに向かう道中、同様に見回すように見ていた。
人の手入れがないのであちらこちらに木のツルが絡まったり蜘蛛の糸が付いていたりなどしていて、彼女を連れて屋敷の裏に歩いて行き、両親の墓の前で足を止める。
「ここが悠人のご両親のお墓‥‥」
僕はバックから供え物を取り出して両親の墓の前に置いて、線香に火をつけて添える。
「お父様‥‥お母様‥‥お久しぶりです‥‥
とは言っても去年の11月以来ですが‥‥‥僕はお二人の死をきっかけに自分の家の秘密を知り、園田 宗家の人間達を恨みました。
お二人の敵討ちの為に必死に稽古に励んで、宗家の人間に刃を向けました。
ですが負けてしまい目標であり生きがいであった宗家への復讐は呆気なく終わってしまった。一度お二人の元に行こうとしました。だけど僕をこの世界に繫ぎ止める存在‥‥‥彼女とその友人達のおかげで今こうしてこの場にいます」
僕は後ろで立っていた海未の方に両親に紹介するように手を伸ばして伝える。
「今の生活は世の中とは殆ど隔離してきたような生活を送って来た僕にとっては不安感も大きい反面、刺激的で何より楽しいものです。
すぐに同じ足並みで歩めるとは思っていません‥‥僕と彼女達の歩んだ時間は違うから‥‥だけど少しずつ歩んで行こうと思います‥‥‥お父様、お母様‥‥産んでくれてありがとうございます」
僕は目を閉じて、静かに頭を下げる。
すると後ろから足音が聞こえて横を通り過ぎる。
頭をあげると園田海未が両親の墓の前で供え物を置いて、正座をしている。
彼女は真っ直ぐな目で両親の墓に見て開口してつらつらと言葉を発した。
「初めまして、悠人のお父様、お母様‥‥私は園田家 当主の娘 園田海未と申します。
今回は現当主である我が父の代理として私がお伺い致しました。我が家が村雨に強いてきた行いをご子息の口から知った時、非常に心が痛みました。許されべき事ではない。信じたくなかった。彼の刀を交えた時に大きな悲しみが伝わってきました。怒り、絶望、虚無などの負の感情が‥‥ですがそれらを生み出したのも私‥‥私達の責任‥‥ですからお父様、お母様、ご子息が先ほどおっしゃったように彼が遅れた時間を私も共に歩むことを約束します。それが園田家 次期当主である私の責任です。どうか見守っていてください」
海未はそういって、深々と頭を下げて僕もそれに続いて墓石に頭を下げた。
両親の墓参りと掃除を終えて、不意に空を見るとやや茜色に染まっていた。
石段を降りていると後ろから続いて降りていた海未が僕に声をかける。
「この後、どこか向かうところでもあるんですか?」
「はい、最後に行っておきたい所がありまして‥‥」
そう言うと海未は行き先の検討が付かないのか視線を上に向けて眉間にしわを寄せる。
「付いて来たら分かりますよ」
僕は彼女に向かって口元を横に引くとしぶしぶ納得したような表情を見せる。
石段を降り終わって、歩道を歩き続けると外観の古い白い建物が見えて来た。
しばらく歩いて建物の前に着いて、柵の向こうに見える砂浜やジャングルジムなどを見て、かつての自分を思い出す。
「ここは?」
「僕が両親を失った後に、育った場所です。久しぶりにここの施設長と会いたかったんです」
インターホンを鳴らすと、インターホン越しから職員の声が聞こえてくる。
「すみません。私、以前この児童施設に入所していた村雨悠人と言うものですが、施設長はいらっしゃいますか?」
「施設長ですか? 少々お待ちください」
そう言って職員がインターホンが切って僕達は3分くらい待っていると向こうから小柄な白髪の老人がこちらに向かって歩いて来た。
老人は僕達の近くまで来て柵越しから僕の顔をしばらく凝視して、僕の事に気がつくと目を大きく見開いた。
「久しぶりだね‥‥‥悠人君‥‥」
「お久しぶりです。施設長‥‥」
二人の間に沈黙と遠慮の混じった空気が覆っているのを海未はひっそりと感じていた。
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