大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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26話

26話

 

 施設長に連れられて僕と海未は彼の部屋に招かれて、室内に入る。

 

 部屋の中は向かい合わせのソファーとその間に四角い形をしたガラスのテーブルと部屋の奥に理事長室にあるような大きな机と椅子が置いてある。

 その机の上には花瓶が置いてあり綺麗な紫色の花が添えられていた。

「まあ座ってくれ」

 

 施設長はソファーの方に手を差し伸ばしながら言い、僕たちはソファーに横に並んで腰を下ろす。

 

 横目で園田海未を見ると少し緊張した表情で中央の机に目を向けていた。

 

 施設長の方を見ると向かいのソファーの後ろに置いてある給湯ポットでお茶を入れて、湯飲みを3つ、お盆に乗せて持ってきて僕と海未の前に湯飲みを置いていく。

 

 湯飲みを置くと向かいのソファーに腰を下ろして軽く息を吐いた。

 

「‥‥‥元気だったかい?」

 沈黙を破るように施設長が僕に声を掛ける。

 

「ええ、都会での生活にも慣れて今は不自由なく生活出来ています」

 

「そうか、それでお隣の可愛いお嬢さんはどなたかね?」

 

 海未について僕に聞くと彼女はその場で立ち上がり口を開く。

「初めまして、園田海未と申します。悠人とは高校の同級生です」

 

 海未は丁寧に頭をさげると、施設長は彼女に微笑む。

「初めまして、園田さん。彼のことをしたの名で呼ぶという事は相当親しいみたいですね」

 

 そう言い彼は少し意地悪そうな表情を浮かべると、彼女は首を少し横に傾けてほんのりと頬を赤く染めて何も言わずに再び、座り込んだ。

 

「何故いきなりここに来たんだい? 来るのなら連絡してくれれば良かったのに」

 

「僕なりのサプライズというやつです」

 

「ふっ、君には似合わない言葉だな」

 

 彼は口元を緩ませて湯飲みを手にとってお茶をすする。

 

「しかし、憑き物が取れたのか以前より表情が良くなったね‥‥」

 

「この数カ月で色々ありましたから‥‥」

 

「その色々というの園田さんの関係しているのかな?」

 

 僕は彼の勘の鋭さに思わず背筋を伸ばして目を丸くしていると施設長は湯飲みをゆっくりとテーブルに置く。

 

「ご存知なんですか?」

周囲に緊張感が漂い、僕自身も鋭い目線を彼に向ける。

 

「ニュースや新聞などには公表されなくとも

関わっていた人間には情報が回ってくるものだよ。まぁ君のいる学園の理事長から連絡が聞いたんだがね。‥‥‥初めては耳を疑ったよ。そして気づいたよ。君が入所時から抱いていたものの正体に‥‥‥でも良かったよ。こうして君と腹を割って話し合える日を迎えることができて」

 

 施設長は口を開くと、先ほどまで黙っていた海未が口を開いた。

 

「腹を割ってとおっしゃっていましたが悠人は以前、この施設に入所していた時はどんな様子だったんですか?」

 

施設長は眉毛をハの字の様にして悲しそうな表情で僕の方を見る。

「以前の彼は施設の子達と遊んでいる時もどこか無理をしているように見えた。きっとご両親を失った悲しみを少しでも埋めようとしていたんだろうね。それでもやはり埋められなかったのか物陰で一人泣いていた所を何度か見かけたこともあった。‥‥」

 

「気づいていたんですね」

 僕が苦笑いを浮かべて彼に返答すると申し訳なさそうな表情をして口を開く。

 

「その時、手を差し伸べてあげてたらなと思ってね。心の中に抱えていたものにいち早く気づいてあげられたらなと思ったよ‥‥‥」

 

「施設長‥‥‥」

彼は机の方に目を向けて自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「貴方が悩む必要なんてないんですよ」

 

「しかしーー」

 彼が話そうと言葉をつらつらと並べていく途中で僕は封を閉じるように遮る。

 

「僕は今、彼女と友人たちに支えられて前に向かっているんです。貴方は身寄りのない僕をここまで育ててくれた。十分に感謝してます。その感情に嘘はありません。だからそんな自嘲して自分を卑下する様な事はやめてください」

 

「悠人君‥‥‥」

僕が彼にいただき続けていた感謝の念を伝えると大きなため息をついて両手を額に当てて天井を見上げる。

 

 

「私のとんだ思い違いだった様だね‥‥‥」

 

彼はか細い声で確かにそう言って天井からゆっくりと顔を下ろして、僕の方に穏やかな笑みを浮かべる。

僕と海未も互いに顔を合わせて微笑みあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設の門を出ると辺りはすっかりと暗くなっていて星が見え始めていた。

 

 

 

「ありがとうございました。それでは僕はこれでーー」

 

最後に別れを告げようとした時、施設長が僕に手招きをするので彼の元に近づく。

 

施設長が耳を貸すように示唆したので耳を傾けると、彼はゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 

 

 

新幹線の中で僕と海未は行きと同じ向かい合わせの席に座っていた。

車内は乗客が多かったのにも関わらず夜なのか妙な静けさに包まれていて、彼女は疲れたのか窓にもたれかかりながら心地好さそうに目を閉じて寝息をかいていた。

 

その姿を微笑ましく思いながら見ていると不意に施設長の言葉を思い出す。

 

 

 

「君の家を暴力団を使って襲撃した事業団体なんだが‥‥‥刑務所内で全員殺害されたらしい」

 

「えっ?」

 

「土産話になるかは分からないが一応伝えておこうと思ってね‥‥‥」

 

彼の口から伝えられた事実に多少驚きながらも頷いて返す。

 

 

 

(一生忘れることのない出来事だが今となっては過ぎてしまった事だ。彼らには報いが訪れたのだろう。しかし、なんだろう‥‥この胸騒ぎは‥‥‥)

 

 

手に入れた幸せを無くしてしまいそうな不安感を抑えて少しでも紛らわそうと眠っている海未の顔を僕は静かに見つめていた。




閲覧ありがとうございました!
次回から新章に入ります。皆さん何卒宜しくお願い致します。
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