大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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31話となります。それではどうぞ!


31話

「31話」

 茜色の空が徐々に影を含んでいる頃、僕は海未と当主、そして真鍋洋一と名乗る謎のフリーライターの四人で机を囲んで座っていた。

「それで話したいこととは何かね‥‥‥」

 当主が眉間に皺を寄せながら尋ねる。その横に座っていた海未も警戒を含んだ趣で彼の顔を見ていた。

「園田さんと逢崎さんが知人同士と耳にしまして、それについてお伺いしたいのと、もう一つは‥‥‥これを聞いた後で話させていだだきます」

 真鍋さんは少しの間、沈吟した後に彼は懐から何かを取り出して机に置いた。

 よく見ると彼とぶつかった時に落とした録音機である。海未と当主が顔をしかめていると彼が録音機の再生ボタンを押すと、僕と海未、真姫の声がする。

「これはまさか‥‥‥」

「ラブライブ決勝戦の際に逢崎宗次郎、逢崎蓮の待機室での録音記録です」

 再生ボタンを押すと、擦り切れるような機械音の後に男女の会話が聞こえる。僕達の会話だ。

 

「私達の会話ですか‥‥‥」

 海未は少し驚いた顔をした後、すぐに音声に聞き耳を立てる。

 

「ここからです」

 僕達が部屋から出て、扉が閉まる音が聞こえて数秒後の事だったーー

 

「ふう‥‥‥全く、またスクールアイドルが問題を起こしたらしい‥‥‥この大会は人気でその分、金回りが良いから出資者になったものをこれでは私の仕事が増えるばかりだ‥‥‥」

 

「日に日に有名になってますからね。彼女達が問題を起こすとマスコミ達が我先に集まってきますからね‥‥‥」

 聞こえてきたのは逢崎宗次郎と逢崎蓮の会話だが、明らかに逢崎宗次郎の口調が僕達の前とは明らかに違っていた。真横で聞いていた海未も彼の変化に驚いていた様子で、当主も項垂れていた。

 

「あと‥‥‥さっき来た『村雨』と言ったか‥‥‥どこかで聞いたことがあるような‥‥‥まあいい」

 僕は海未と顔を合わせて、再度、音声に耳を立てた。妙な緊張感が僕らの周囲を覆っていた。

 

「私は舞台で応援演説をせねばならん。お前は先に帰っていろ」

 

「はい」

 

 足跡が聞こえて徐々に遠ざかって行き、その後に扉の開閉音がした後、鍵を閉める音が聞こえた。無音と時より外から小さく聞こえるアイドル達の音楽や来場客の騒ぎ声が耳に入る。そこからしばらくして鍵を開ける音がして足音が録音機の方に向かってきて、音が切れた。

 

「ーーというのが僕が彼らが来る前に事前に仕掛けた録音機での記録です」

 そう言い、彼は机に置いてある録音機を手に取り、懐に入れる。僕と海未、海未の父は黙ったままだった。二人も僕と同じできっと何を言っていいのかわからないのであろう。

 

「それと当主殿にお伺いしたいことというのが、どうやって逢崎宗次郎と面識を持ったかということです」

 当主は背筋を軽く伸ばして、彼の目を見る。

 

「あれは確か四年前か‥‥‥あの『箱庭』という施設の設立記念会に招かれた時に知り合ったぐらいだな。そして数日前に連絡がきてあってね。私は野暮用があって代わりに海未を向かわせたということだ」

 

「なるほど‥‥‥では村雨さん。彼らの口から名前が出ていましたが、見覚えはありますか?」

 

「すみません。覚えがありませんね‥‥‥」

 

「そうですか‥‥‥ならあれは偶然か‥‥‥」

 真鍋さんは何やら最後に聞き取れないほどに小言を呟いて顎に親指と人差し指を添えて、沈吟し始める。僕は胸に引っかかっていた疑問を彼に問いかけた。

「『逢崎』家は一体なんなんですか? 録音機の内容からして裏で良からぬことをしているのは確かですが‥‥‥」

 

 すると、彼は聞いた時は少し驚いたような表情をしたが、その直後に険しい表情を浮かべて、口を開いた。

「表向きは青少年達の教育や非行少年少女達の更生支援などに貢献してきた家柄。『箱庭』なんてその典型的な例です」

 彼は視線を斜め下に流して、軽く胸を膨らませてゆっくり息を吐き出した。

 

「僕の兄は『箱庭』の元入所者でした。兄は入所するまで学校で他生徒に暴行、外ではカツアゲ、喧嘩などを行なっていて一度、警察署に連行された時に母が『箱庭』への入所を勧められたそうです。半信半疑だった母も兄の素行不良には手が負えない状態だったので『箱庭』に入所者させることに決めました。二週間後、兄は以前の素行不良ではなく、他者に思いやりをもてる優しい人間になっていました。性格も以前とは違い温厚になり、私もそんな兄と過ごす日々が楽しくて仕方ありませんでした‥‥‥」

 彼は途中で苦虫を噛んだような表情を浮かべた後、力が抜けたような顔になった。おそらくここまで話すのにも苦痛を感じているのだろう‥‥‥

 

「‥‥‥ですが時々兄が人の離れた所で独り言を呟いたり、頭を打ちつけたり奇行を行い始めて『箱庭』を出て三週間後、兄は精神を病み、自殺をしました。母は激怒して『箱庭』に問い合わせましたが、『更生処置を行っただけ』と軽い返答で電話を切られたそうです」

 すると海未は沈吟した後、目を大きく見開いて何かに気づいたような表情を浮かべる。

「そんな、横暴な事をした『逢崎』の行いがなぜ、世間に露見していないのは何故ですか?」

 

「僕はフリーライターとして活動しだして『箱庭』について調査を始めました。やはり同じような訴えをしている人が何人もいたみたいなんです。しかし兄の件と同じで、『更生処置を行っただけ』との返答で内容を聞いても企業秘密の一点張りで話しにならなかったとか。そして僕のように『逢崎』に迫ったフリーライターや記者が行方不明になっていると仲間から聞きました。そしてこの録音機の内容で僕の予想は確信に変わりました」

 

 

「『逢崎会』は裏で自分達の邪魔をする人間を消している‥‥‥」

 海未が確信と自信を含んだ言葉ではっきりと呟く。当主は依然として無口のままだが、表情には憤りを露わにしていた。

 

「そして今回を事件をきっかけにスクールアイドルへの世の中の目も少なからず、変化してしまいました」

 彼は懐に手を入れてスマートフォンを取り出して、突きつけるようにニュースサイトの場面を僕たちに見せる。

 

 そこに書いてあったのは他県のスクールアイドル達が起こした問題などが書かれていた。スクールアイドルグループが他生徒を対するいじめやもしくはその逆で、廃校に貢献したアイドルのメンバーの一人をクラスメイトが複数人で殴る蹴るなど暴行を加えたという記事であった。そしてその下の感想欄にスクールアイドルに対する失望の声や侮蔑の言葉が並べられる。しかし中には『逢崎会』批判する意見やスクールアイドルを肯定する意見を述べられていた。

 

「‥‥‥」

 海未が目を震わせながら、両手の手のひらで口元を隠すように塞いで目の前の現実を瞬き一つせず見ている。

すると記事を見ていてある疑問が脳をよぎった。

「『逢崎』がスクールアイドルを支援していたのは多大な利益が得られるからで、この記事のようなスクールアイドル達の問題を露見しようとした人を裏で消していた‥‥‥なら何故、逢崎蓮はスクールアイドル達を捕らえるような暴挙に出たのでしょう‥‥

‥それになぜ警察は動かないんですか?」

 

「『逢崎』は教育だけでなくこの国の中でも絶大な権力を持っている財閥の一つです。そして教育問題に関しては第一線で担当、活動して彼らというのは暗黙の了解で、彼らが教育のためなんて言ったら物事が成立するのが現状なんです。それに現状『逢崎』を押さえつける証拠もありません。警察は手を出せない状態なんです。そして逢崎蓮、先代とは全く別の行いをする彼の目的は未だ不明です。録音機の会話からして父と共謀している雰囲気でしたのでスクールアイドルを『箱庭』に連れて行く理由はないはず‥‥‥」

 

「この録音機を警察に提出すればよろしいのでは?」

 当主が口を開くと、真鍋が険しい顔になる。

 

「僕自身証拠が不十分だと思うのと、もし警察の中にも『逢崎』が関わっている可能性があります」

 

「何を根拠にそのようなことを?」

 海未が問いかけると彼は少し逡巡した後、口を開いた。

「『逢崎』について調べていくうちに僕はある事件にぶつかりました。彼らは事業団体で暴力団組織を雇って辺境の田舎を襲撃する事件が起こしました」

 僕はその時、何故か冷や汗が縦に線を描くように背中から垂れていくのを感じた。

 

「事業団体は設立されてから1年も経っていない。その団体の目的はその土地を開拓して教育施設を作る事だった。そして銀行やらから融資を受け取った形跡もない。いったいどのような手段でそのような資金を得たのか調査を進めて、彼らの作ろうとした施設の設計図を入手した時、驚きました。現存する箱庭の構造と全く同じなんです。彼らの元へ取材に向かおうとした時、彼らは刑務所内で殺害されていました。死因は配給食の中に混入された毒による毒殺だったと‥‥‥おそらく警察の中に『逢崎』の使いがいて、口封じのために切り捨てたんでしょう」

 

「つまり‥‥‥『逢崎』が支援を‥‥‥」

 僕が呟くと、彼は無言で頷く。僕は意味のわからない衝動に駆られて、前のめりの体勢で彼の胸元をつかんだ。いや、本当は衝動の正体に気づいてはいたが信じたくないのだ。だが、目をそらすわけにもいかない。

 

「その襲撃された田舎というのはどこの土地なんですか!?」

 僕が怒号に近い問いかけに彼の表情には驚きと動揺が入り混じっていた。

 

「悠人、どうしたんですか! いきなり!」

 海未が立ち上がり、僕をたしなめるように肩に触れる。

 

「悠人君! 落ち着きたまえ!!」

当主が立ち上がり、落ち着くように説得する声が聞こえる。しかしそんな彼の言葉を無視するように真鍋さんの両肩をゆすり続ける。

 

「いいから早く!!!」

 僕が胸元を掴みながら問いかけると彼はスマートフォンを手に取り、右手で操作して僕の顔の前に持ってくる。その表示された画面を見て僕は目眩にも似た感覚に襲われた。

その土地は紛れもなく、間違いなく僕がかつて両親と暮らしていた場所なのだがら‥‥‥

 僕はスマートフォンを彼に渡すと脱力感が体を襲い、畳に尻餅をつく。

 

「ゆ、悠人?‥‥‥」

 海未が不安そうな趣で覗き込むように端正な顔をこちらに持ってくる。

 

「やはりそうだったんですね‥‥‥」

 真鍋さんの不意な一言で僕は彼の顔を見る。

 

「事件を調べていくうちに被害者の一家の名前も特定できました。村雨さん‥‥‥やはりあなたは」

 

「まさか‥‥‥悠人のご両親を襲撃したのって‥‥‥」

 海未が真鍋さんの方に目を向け、動揺を含んだ目で彼を見る。

 

「『逢崎』の差し金です」

 彼の口から放たれた紛れも無い真実が耳の中から鼓膜に触れて脳の中に染み渡り、過去の両親との日々が再び湧き出てくる。

両親の僕を呼ぶ声が脳内に木霊したあとに突如、断末魔に変わりそして無音になった。気の遠くなるような孤独感に再び苛まれ、どす黒いものが両親との日々を飲み込むように湧き出てくる。この感覚に覚えがある。幸福の抜け殻になった屋敷の一室で宗家への復讐を誓った時と同じ感覚だ。

どす黒いものに飲まれそうになった時、それの背後から日が昇るように光が出てきて、一筋がどす黒いものに切れ目を入れた。すると溶けていくようにどす黒いものが消えていく、僕は光に照らされていき、やがて包まれた。その光の中には微かな温もりを感じた。

 

「悠人!」

 気がつくと海未がか細い両腕で輪を作るようにして僕の体を抱きしめていた。彼女の体温と胸の鼓動が体をつたってくる。

 

「言ったはずです。一人にしないと‥‥‥」

 そうだ‥‥‥そうだった僕はもう一人じゃ無い‥‥‥なさなくてはなすべきことを

 

「海未、心配かけましたね。僕はもう大丈夫です。あなたがいてくれたから‥‥‥『あなた達』がいてくれるから」

 そう言い、海未の体を抱きしめ返す。僕を暗闇から救ってくれたのは彼女だ。彼女の体は妙に震えていた。当主の咳払いが聞こえて、瞬時に僕と海未は距離を置く。

 

「それでどこにあるんですか?」

 

「何がですか?」

 真鍋さんは悪戯な笑みを浮かべて聞き返す。僕の横で海未が微笑した。

 

「決まってますよ。『箱庭』の場所です」

 僕が笑みを浮かべると、真鍋さんは笑みを浮かべながらスマートフォンに再び、触れ始めた。

 




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