大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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34話

僕と海未はμ’s及び他のスクールアイドル救出の為、目的地に向かって、無機質な廊下を急ぎ足で歩く。下のフロアにμ'sの他に『A-RISE』『Mutant Girls』『Midnight Cats』『Yeast Heart』が捕まっており、真鍋さんの情報によると他のスクールアイドル達は、現在、輸送中のようだ。今のうちに彼女たちを解放して真鍋さんの施設内を撮影した写真を見せれば、警察も動いて他のスクールアイドルの救出と逢崎会及び逢崎蓮に対するの強制捜査に入るはず。

 

 廊下の角を右に曲がり、階段をまっすぐに進むと階段があった。下にまっすぐ伸びた階段が眼下に移る。真鍋さんの情報ではこの下にスクールアイドル達が捉えられている。警備員もいて、目を光らせているらしい。僕と海未は階段を駆け下りて、監視室で覚えた経路を進んで行く。降りると先ほどと変わらない、白くて無機質な廊下があった。数メートル先の右側に曲がり角があり、近くの天井には監視カメラが一台、取り付けられている。

 

 監視カメラに目を向けると、僕の懐にしまった携帯電話が震える。携帯を取り、耳に当てる。電話の相手は真鍋さんだった。

 

「村雨さん。目の前にある角を曲がって、廊下を進めば扉があります。その先に‥‥‥彼女達がいます」

 

「ではここで作戦を実行しましょうか‥‥‥」

 

「分かりました」

 真鍋さんが携帯の奥で、パソコンのタイピング音が聞こえる。海未の反対側で携帯に耳を近づけて、静かに聞いている。

 

「行うのですね」

 海未がやや緊張を孕んだように呟く。僕は静かに首肯する。すると携帯から真鍋さんが僕を呼ぶ。

 

「村雨さん。準備ができました」

 

「お願いします」

 生唾を飲んで、返答するとその数秒後、施設内に激しい警報音が鳴り響く。あまりの音に僕と海未は一瞬、耳を塞く。

 

「緊急事態発生! 緊急事態発生! 侵入者を確認! 繰り返す! 侵入者を確認! 侵入者は武装した三人で現在は離散して三階で一人確認、矯正室に向かっている様子だ。なおを武装を施しているため、多勢でかかるように!」

残り二人は四階で確認! このような事態、逢崎会長に知られるわけにはいかない。施設内にいるものは全力で奴らを探して捕らえろ!」

 真鍋さんが監視室からマイクで施設内に怒号に近い声音で、放送を流す。すると廊下の角の奥から扉を強く開ける音が聞こえた後、多くの足音が近づいて来る。

 

「始めましょう‥‥‥」

 海未が廊下の奥を見つめながら、静かに足を進める。廊下の角から四人の黒いマスクを被った者達が走ってきた。四人はそのまま走り過ぎて、階段を駆け上がっていった。僕達も急ぎ足で廊下の角を曲がり、その先にあった扉を目視する。

 

 駆け足で近づいて扉を開けると、一斉に女性達の悲鳴やら鳴き声が飛び込んで来る。警備員が喧騒に憤りを感じたようで、壁を強く姿が蹴る目に入った。壁は今までの廊下とは違い、左右の壁側はガラスで覆われて、その中から聞こえるスクールアイドル達の阿鼻叫喚が僕の鼓膜を激しく揺らす。

 

 僕はすかさず憤怒している警備員に駆け寄る。監視室から交代として派遣されたことを告げると、彼は荒く息をあげながらも頷いて、奥の方にいた仲間達を連れて、部屋の外に出た。周りに他の黒いマスクがいないことを確認すると僕と海未は顔を見合わせて、マスクを取る。するとそれを見ていた誰かが海未の顔を見ると名前を叫んだ。それにつられたように他のスクールアイドル達がこちらに顔を向ける。僕たちは施錠されていた扉をICカードの使って解除していく。扉が自動的に開くと中から四人の少女達が中にいた。僕は彼女達の拘束具を解いて、顔をよく確認する。確かこの子達は『Mutant Girls』のメンバー達だ。

「あの、あなたは?」

 一人の少女が目を腫らしながら、不安そうな趣で尋ねる。他のメンバーの少女達も同じ疑問も含んだ目で僕に目を向ける。

「僕は音乃木坂学院のスクールアイドル『μ’s』の友人です。あなた達を助けにきました。ここから出ましょう‥‥‥」

 

 僕が偽りのない言葉を彼女にかけると、僕の後ろの方から扉の施錠を解除する音が聞こえて振り返る。海未が他のスクールアイドル達の解放してこちらに向かって頷く。海未の方から『Midnight Cats』の二人と『Yeast Heart』の四人が出てきた。

 僕と海未は彼女達を連れて、奥に進むと、聞き慣れた声が耳に入る。すると横にいた海未が、凄い勢いで走っていく。僕も彼女についていくと、そこにはガラスの折に囚われた九人の女神がいた。海未と僕はすかさず扉を開けて、みんなの拘束具を解いていく。穂乃果が拘束具を取られて海未の顔を見た後に、目から大粒の涙を流して、彼女の体に抱きつく。海未は我が子をあやす母親のように彼女の頭を優しく撫でる。最後の一人、希先輩の拘束具を解いた時、希先輩がいきなり僕の胸に顔を埋める。肩が少し震えて、小さく鼻をすする音が聞こえる。いつもはしっかりしていて、誰よりも優しい心を持ち、他のみんなを包み込むような母性を持つ彼女。きっとこんな状況でもみんなを励まそうとしていたのだろう。

「遅れてすみませんでした」

 僕は一言、呟くようにそう言った。

 

 

 

 海未が最後の一組、『A-RISE』を解放しに向かい、僕は出口の前で『μ’s』と他のアイドル達と彼女達が来るのを待っていた。すると奥の方から強く早い、足音がこちらに迫って来る。その足音に『μ’s』や他のアイドル達の顔色が怖気を貼り付けたような表情を浮かべる。敵か? いやもうここにはもういないはず、などと考えていたが『それ』が目に入った時に、仮説は一瞬にして吹き飛んだ。

 

「悠人くうううううううん!」

 優木あんじゅさんがウェーブした茶髪をなびかせて、物凄い速度でこちらに向かってきている。彼女は陸上選手にも遜色ないほどの美しい姿勢でこちらに走って、飛び込んできた。すかさず僕は彼女を受け止めると、彼女は両手で僕の体を抱きしめて、胸元に何度も顔を頬ずりして上目遣いでこちらを見る。

 

「悠人君! 私のこと助けにきてくれたんだよね! ありがとう!」

 

「いっ、いえ、お気になさらず」

  僕が苦笑しながら答えると再び、僕の胸に顔を埋める。気のせいか知らないが先ほどより締め付ける力が強くなっている気がする。すると海未と『A-RISE』の二人が少し息を切らしながらこちらにきた。

 

「あんじゅ、貴女テンションの起伏が激しすぎるわよっ!」

 綺羅ツバサさんが両手で両膝を抑えるような体勢で荒い息をする。

 

「さっきまで恐怖で震えていたのに園田海未がそこの青年がいると聞いた途端、まるで生き返ったかのように顔色が戻って、そのまま廊下に出て行ったんだ」

 統堂英玲奈さんが呆れたような目でであんじゅさんの方を見る。あんじゅさんは英玲奈の表情を見るなり、甘えるように僕に擦り寄った。

 

「アノ‥‥‥モウイイデショウカ‥‥‥」

 海未からの凍りつきそうなほど強い視線を浴びることになった。その時の彼女の瞳には色がなかった。その姿を見て、『μ’s』のみんなは苦笑を浮かべたり、他のアイドル達と同様に怯えているようだった。

 

 

「海未ちゃん。あの黒いマスクの人より怖いにゃ‥‥‥」

 

「うん‥‥‥」

 凛と花陽が震えながら肩を寄せ合う。その光景をみて、苦笑は浮かべていると懐の携帯が鳴る。携帯の表示画面を見ると、真鍋さんからだ。

「悠人君。作戦はなんとか成功したよ。そちらは」

 

「ええっ、こちらも皆さんの解放に成功しました。では今から脱出を始めます」

 僕が監視室で唱えた作戦はこうだ。まず監視室からサイレンを流す。最初に少女らしき人物が矯正を受けていた巨大な矯正室に多くの黒いマントを誘い込んで、真鍋さんが外から施錠する。これで大多数の黒いマスクは閉じ込められて、残りの残党を僕が片付けて、戦闘中に彼女達を逃す。これが僕の考案した作戦だ。

 

「残りの残党は四階に二人、二階の廊下に三人です。大丈夫ですか?」

 

「ええ、」

 僕が静かに返すと、真鍋さんは「ご武運を」とだけ返して電話を切った。僕は海未達の方を向き直り、会話の詳細を話す。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 海未が真っ直ぐな目で不安そうな声に尋ねる。それは他のみんなも同じだった。どこか不安そう目でこちらを見る。

 

「一緒に逃げようよ! 悠人君!」

 穂乃果が僕の右手の裾を掴んで、必死に訴えるように吐露する。彼女の気持ちは嬉しいがここで僕も引くわけにはいかない。

 

「大丈夫です。相手は数人。油断さえしなければ問題ありません」

 

「でっでも! 危険です!」

 海未が張り上げた声で僕に投げかける。彼女の言う通り確かに危険だ。しかしそんなことはもうここに来る前に、理解していることだ。僕は彼女達を守れなかった。海未と互いに腹を裂いた後、屋上で僕を受け入れてくれた時に、守ると固く誓ったはずなのに僕は出来なかったんだ。奇襲してきた、多勢に無勢だったなんて考えればいくらで言い訳は出てくる‥‥‥それでも僕は‥‥‥成し得なかったことに対して言い訳で終わらせたくないんだ。

 

「海未」

 僕は不安そうな彼女の頭を撫でると、綺麗な黒髪が僕の手の下で静かに揺れる。海未は少し驚いたような表情でこちらを見る。

 

「僕に任せてください」

 彼女の目を捉えて、嘘偽りのない言葉を彼女にかける。すると彼女は呆れたのか、静かにため息を漏らす。

 

「全く、貴女と言う人は‥‥‥」

 蚊の鳴くような声で、静かに呟いた後、僕の腰に両手を回して顔を僕の胸に埋めた。

 




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