大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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今年最後の投稿になります。読者の皆様、本当にありがとうござます!! 良いお年を!!


36話

僕は電話の相手に憤りを覚えた。液晶画面の向こうで僕の怠慢さをおどけた口調で嘲笑する『逢崎会』会長、逢崎蓮。μ’sメンバーの一人で僕の友人、園田海未の声が聞こえる。海未は何かで口を塞がれているのか、上手く聞き取れない。電話の奥からはわずかに走行音が聞こえているので、現在どこかに向かっているのは確かだ。

「はいは〜い。海未ちゃんは静かにしてましょうねえ〜」

「おい! 今、どこにいる!」

 僕は焦りのあまりに席を立ち上がり、怒鳴りつける。すると先ほどから警戒していた趣の当主殿や警部の表情がより一層、険しさを増す。

「まあまあ、落ち着いてくだせえ。僕はyouとお話しがしたいだけ。お望み通り、教えまっせ」

 不快と感じるほどの口調で、逢崎蓮は僕の問いに返答する。

 

「『箱庭』から少し離れたところに埠頭があるからそこまでおいで〜。ただし、君一人でね。もし警察や他の人達を連れて来たら……海未ちゃんの原型をなくして、ネットにアップしちゃいます!」

 逢崎蓮が威勢のいい語気で、宣言する。僕は辺りを再び、見渡す。テントの中にいる警察官達が僕を怪しげに目視していた。

「んじゃ! また後でねー!」

 電話が切れて、僕は通話終了の画面に吠えかける。

 「どうした?」

 驚いた様子の当主殿が、僕の方に顔を覗かせる。

「すみません。またこれ借ります」

 僕は近くにあった木刀を手に取り、テントを飛び出る。後ろから聞こえる当主殿と警部の呼びかける声を聞き流す。裏門には記者やマスコミのカメラのシャッターが辺りの闇を照らしていた。裏門ではなく、視界の端に見えた侵入防止用の金網に飛び移り、よじ登る。施設を出た後、吸い込まれそうなほど漆黒に包まれた森の中を、分け目も降らず走り続ける。移動し続けていると、懐に入れた携帯が振動する。逢崎蓮から現在地の座標が送られて来た。確認したところ、さほど遠くはない位置にあるらしい。僕は再び、つま先に強く力を加えて地面を蹴った。

 

 しばらく、走り続けて、地図の近くまで近づく。暗闇の中、数メートル先に何かを大きなものが道の脇に見えた。刮目すると、一台のパトカーが駐車している。おそらく逢崎蓮が乗車していたものだろう。すると不意に何か遠くから音が聞こえる。水の音だ。つまり声は海水が風に揺られているということか。僕は傾聴しながら埠頭に向かう。

 

 目的地に着くと、海が近いせいか、冷たい風が僕の頬を撫でる。周囲に首を向けると建物に亀裂が入っていたり、木の蔓が絡まったフォークリフトがひっそりと佇んでいた。静寂と寂れた雰囲気が包囲する中、慎重に足を進める。埠頭の中心部分に来た時、突然、僕の頭上が明るくなり、光が二つ重なり、僕を照らす。思わず、左手で明かりを遮る。それを待っていたと言わんばかりに、僕の後ろ側から拍手が聞こえる。振り向くと、逢崎蓮が手を叩きながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。

「いやいや、お見事お見事、園田悠人君」

「海未はどこだ!」

 僕は熱のある語気で彼に問い詰めると、逢崎蓮が指を鳴らす。すると逢崎蓮の後ろの建物から一人の黒いマスクに身を抑えらている海未が出て来る。口は猿轡で塞がれいて、僕の目を見るなり、そばにいる黒いマスクに激しく抵抗する。

 

「海未!」

「おっと! 動くなよ〜下手な動きをすればここに来た意味、なくなっちゃうよ」

 思わず、走り出そうとした僕は、逢崎蓮の脅迫により制止される。

 

「彼女を離せ!」

「落ち着きなはれや〜、まあでも、ここまできたご褒美ぐらいはあげないとね〜」

 逢崎蓮が黒いマスクに、指で何かを催促すると、海未の口を塞いでいた黒い布が解かれる。

 

「悠人!」

 僕の名前を呼ぶ海未に逢崎蓮が、静かに冷笑を浮かべる。

 

「彼女から離れろ」

 僕は逆鱗を押し殺して、一言呟く。腰に携えた木刀に手をかける。

 

「やだなぁ、僕はお話がしたくてここまで来たもらったのにー」

 気味の悪い笑みを作り、電話越しと変わらないおどけた口調で返事を返す。しかし僕も彼に大して気になることがある。大勢のスクールアイドルを拉致したこと。実父を手にかけたことだ。

 

「なぜ、実の父親の逢崎宗次郎を殺したんですか?」

「えっ?」

 真実を知らなかった海未は驚いた顔で僕を見る。逢崎蓮は僕の問いに鼻で笑う。

 

「スクールアイドル助けたってことは『逢崎家』がやって来た事は知ってますよね。僕はね、父が昔から嫌いでした。父は僕を次期『逢崎会』会長にしようと必死で、学校から帰って来れば机に向かわされて、したくもない習い事も行かされるなどさせられて来ました。僕は会長になんてなりたくなかった。昔から『逢崎会』の行いを知っていたから。母が危篤になった時も、父は変わらず仕事ばかりしていました。母が亡くなったその日も……」

 

 逢崎蓮が静かに拳を握りしめているのが見えた。

「僕は気づきました。父にとっては僕も母もどうでも良くて、僕は父の後釜に過ぎないのだと……そして、年月が経ち、通っていた高校で、ある少女に出会いました。その少女はとてもおとなしくて、どちらかというと地味な子でした。委員会をきっかけに知り合い、スクールアイドルが好きな事を知りました。スクールアイドルの話題を話す時、嬉しそうに話す彼女に僕は惹かれました。そして、貴女達のファンでもありましたよ……」

 逢崎蓮は冷めた目で、海未の方を静かに一瞥して僕の方に戻す。海未は驚愕しているのか、唇を震わせていた。

 

「しかし、僕の通っていた学校にいたスクールアイドルのメンバーが彼女を虐めて、そして……彼女は自殺した」

 逢崎蓮が突然、憎悪を宿したような目でこちらを目視する。僕と海未は予想もしなかった事実に動揺を隠せないでいた。逢崎蓮が僕の趣を見るなり、再び口を開く。

「だが、彼女の死は公にならなかった。それは何故か」

 

「『逢崎会』の仕業……」

 海未が震えた唇から振り絞って、呟くと、逢崎蓮に届いたのか、彼は静かに頷く。

 

「『逢崎会』は当時、父が牛耳っていた。スクールアイドルは父にとって商売道具のようなもの。難癖をつけられてしまえば、面倒ですからね。父の根回しによって、彼女の死は闇に葬られた。許せなかった。罪のない彼女が殺された事、加害者がのうのうと生きている事。都合よく物事を進める父、何も知らず、何も気づかず『逢崎会』の支配下で踊り続けるスクールアイドル。そして僕は決めました。何もかも壊してやろうと……」

 悲壮な表情だった彼が、最後の言葉の際に邪悪の笑みを浮かべて、僕の背筋に微かな怖気が走る。

 

「スクールアイドルが不幸な目に合わなかったのは残念ですが、世間に『逢崎会』の悪事が露見したので、これで『逢崎会』も終わりですね」

「確かに貴方に起こったことは紛れもなく不幸な事だと思います。でも! だからといってこんなひどい事する道理にはならないはずです!」

「おや? 園田海未、貴女、人の事言えるんですかあ〜? 知ってますよお? 園田家が何をして来たのかを……」

 逢崎蓮が嘲笑するような語気で海未を煽ると、僕に目を向けて微笑する。

 

「貴方のことも調べましたよ、園田悠人君。園田分家の子として生まれて、先祖の我が儘で片田舎に引っ込められて、そして愛する両親も逢崎に奪われて……僕と貴方は似てるんですよ。囚われていた事や栄光の影の位置にいる事が……」

 彼の言葉に思わず黙念する。確かに僕たちは似ている。彼は幼少から父親に言われた事を強いられて来た。僕はあの山から出ることが許されかった。鳥籠の中にいる鳥同士だ。自由を謳歌する者に嫉妬して、籠の中から必死に鳴く一羽の鳥。

 

「だから園田悠人君。この国を出ませんか?」

「えっ?」

 僕は急な発言に思わず、顔を眉間にシワを寄せる。海未の方を目を向けると彼女は顔を歪める。

 

「もうすぐ、ここにフェリーが来る。僕達でこの口から出て、世界を周ろうではありませんか。君だって広い世界を見たいだろう? これまで影の中にいた僕達が光に照らされるんだ! そして、始めるんだ。新しい人生を!」

 彼は両手を大きく広げて、高らかに宣言する。その表情は先ほどの人を蔑むような顔ではなく、純粋無垢な子供そのものだった。彼の気持ちは痛いほどわかる。だからこそ知っている。囚われ続けていた者は何をするかわからない事も。ならやることは一つだ。

 

「僕は行かない。貴方を止める」

 僕は彼の目を捉えて、聞き間違いようのない声音ではっきりと告げる。逢崎蓮は僅かに驚いた表情を見せたが、瞬時に微笑を僕に向ける。

 

「あー貴方は貴方で居場所、見つけたんですね。なるほど」

 彼は再び、黒いマスクに指で何かを催促する。黒いマスクが右手を懐に入れる。取り出された手には拳銃が握られていた。銃口が海未の頭部を捉える。海未の顔は次第に白くなっていき、引きつった顔で銃口を後目で確認する。

「海未!」

 僕は彼女の元へ、勢いよく走り出す。その瞬間、背後から殺気を感じて、腰に携えた木刀を勢いよく抜いて後ろを向く。逢崎蓮が黒い刀を手に握り、が僕に斬りかかろうとしていた。すかさず木刀で相手の刃を防ぐ。木刀と刀が激しく削りあい、逢崎蓮が後ずさりをする。

「いや〜奇襲にも対抗できるなんて流石っすね、悠人君。一緒に侍ごっこしましょう」

 そう言い、逢崎蓮が刃先をこちらに向けて、静かに構えを取る。殺気を感じ取るのが遅ければ切られたのは間違いなく僕だった。僕も静かに構えを取る。埠頭周囲内を再び静寂が支配する。不意に二人の間に海風が吹く。

ほのかな塩の匂いが僕の鼻腔を駆ける。風が止んだ後、僕は静寂を振り切る勢いで、地面を強く蹴り駆け出した。




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