大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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更新遅れてすみません。『蹂躙篇』今回で最終話です!
それでは!


37話

37話

 静寂と不意に海風が吹く埠頭の中心。僕と逢崎蓮は互いに、刀身を何度もぶつけ合う。刃が削れて火花を散らす。腕に力を入れて、突き放す。逢崎蓮が即座に左手を懐に入れた。取り出す際に黒い何かが目視出来た。

 僕は即座に身構えると、逢崎蓮は勢いよくそれを取り出す。拳銃だった。引き金を引き、破裂するような発砲音とともに、黒光りした銃口から鉛色の弾丸が風を切り、迫ってくる。

 

 下から刃を切り上げて、弾丸が真っ二つに避ける。両頬の側を静かに通過する。刀身が僕の視界の上に上がった時、逢崎蓮は刃をこちらに向かって、身を低くして翔けてくる。急いで体勢を立て直して、肉薄する逢崎蓮の刀を止める。

「悠人!」

 海未が心配が混じったような声音で僕を呼ぶ。彼女は先ほどと変わらず、逢崎の手下に見張られていた。早く彼女を助けなければ。

「ほらほら! 園田悠人! こんなものじゃないでしょ!」

 逢崎蓮が腕に力を入れて、刀身を僕の肩付近まで押し込む。

「中々、筋がいいですね。剣を習っていたんですか?」

「ええ、強制という形でね!」

 逢崎蓮が力強く刀を振り、刀同時が強く弾け合う。勢い余って僕は後ろまで、後ずさりをする。一振りの風で地面から、僅かに埃が立つ。

 

「したくもない事を強要され続けてきた。これもその一つです」

 そう語る彼の目には光が一切、灯っていなかった。唯一存在するのは漠然とした虚無。

 静かに答えると虚ろな目で睥睨する。彼は剣だけではなく銃も携えている。あの剣の腕に拳銃とは厄介な相手だ。僕は勢いよく地を蹴り、彼の元に肉薄する。逢崎蓮が拳銃を取り出して、銃口をこちらに向ける。安全装置を外して引き金を引き、弾が風を切り裂き、こちらに飛んでくる。銃口の向きをみて、身を避けたことでかろうじて飛んできた銃弾を回避する。その後に続けて引き金を引いて、銃声が鳴る。銃弾が左の二の腕部分を掠った。僅かに感じる痛みに思わず、口角を歪める。

「おっ、掠ったか、んじゃもう一発ーー」

 再び、銃口を向けた時、僕は木刀を手首で弾くように投げる。木刀は拳銃を持つ手元にあたり、逢崎蓮が苦悶の表情を浮かべる。拳銃は彼の手から弾かれるように離れ、地面に落下して乾いた音が響く。

 

 僕は、すかさず彼のそばまで走る。僕を斬り伏せようと逢崎蓮が勢いよく、水平に刀を振る。体勢を低くして、刀を交わす。がら空きだった腹部に手根部を素早く強打する。逢崎蓮が身を後ろに反らせて足が地面から僅かに離れる。

「逢崎さん!」

 逢崎の部下の心配そうな声音が耳に入る。逢崎蓮は口元をにやつかせながらこちらまで走ってきていた。僕も足元に落ちている木刀で刃を防ぐ。突然、際ほど銃弾を受けた部位から鈍痛が伝わる。鈍痛により僅かに防御が弱体化する。それを待っていたと言わんばかりに、木刀に強烈な斬撃を受けて、足元が揺らぐ。怯んだ僕の肋部分に逢崎蓮が蹴りつける。強い衝撃が走り、歯をくいしばり、思わず膝をつきそうになる。木刀で防ごうとした時、体勢が悪く、四肢を斬りつけられて、地面に膝を付く。手から木刀が滑り落ちる。切り傷の方を見ると服が血で滲んでいた。彼の方に目を向けると刀身に伝う、血を振り払う。

 

「残念ですね。園田悠人君。本来の貴方なら僕に勝つことなんて容易いことでしょう。ですがここにくるまでに学校や『箱庭』などで戦闘を行い、そして、今、疲弊している状態での刀を交えている。もう限界なはずですよ」

彼が不敵な笑みを浮かべながら、告げる。彼のいう通りだ。今の僕には剣を振るう、いや、もう今、膝をついているので精一杯だ。

「どうやらもう限界みたいですね‥‥‥」

 逢崎蓮が刃先を虚空に掲げる。虚ろな目で僕を見下ろす。

「さよなら」

 

 彼が腕を振り下ろす。僕は呆然と迫る刃を目視していると視界に、何かが映る。

「大丈夫ですか! 悠人!」

 

 そこには木刀を手に、逢崎蓮の刀を防ぐ海未を立っていた。

「なぜ、ここに見張りは?」

 

「悠人が逢崎さんに一矢報いた際、見張りの方が僅かに隙を見せたので、その間に寝てもらいました」

 僕は海未のいた方を見ると、逢崎の部下が白目を向いて倒れている。逢崎蓮が軽快な動きで後ろに下がり、海未と距離を置く。

「悠人‥‥‥すみません。私が不甲斐ないばかりに‥‥‥今度は私が貴方を守ります」

 僕に背を向けて、つらつらと言葉をかけてくる。彼女の背中は大きく頼もしく見えた。

「だから帰りましょう。みんなの元へ!」

 彼女は熱のこもった語気を話し終えると、逢崎蓮の元へ駆ける。逢崎蓮も静かに冷笑を浮かべて、彼女に刃先を向ける。刀が重なると同時に、小さく火花が散り、金属音が鳴る。

 木刀を振るう海未の動きを見て、驚いた。僕が彼女の屋敷を襲撃した時より、動きが軽快で、見る限り刀の振りや動作に無駄がない。実力が以前より飛躍的に向上している。それの証拠に先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた逢崎蓮の表情が引きつっているように見えた。

「クッソ! なんで折れないんだよ‥‥‥仲間も自分も酷な目に遭いながら何故、戦えるんだよ!」

 海未の風のように舞う、剣術に翻弄されながらも逢崎蓮が必死に食らいつく。その刹那ーー、海未が鋭い一撃が彼の左に叩きつける。逢崎蓮が歯ぎしりをして痛みを堪えるような顔をする。逢崎蓮が大振りをして、海未との距離を開ける。

 逢崎蓮が荒く、呼吸をしながら海未を睨みつける。

 

「簡単な事です。守るべきものがあるからです。私の父、母、お祖母様、学校のみんな、穂乃果、ことり、花陽、凛、真姫、絵里、にこ、希、そして‥‥‥悠人。私は今、生きた短い人生の中で心を許せる人がたくさんできました。みんなを守りたい。ただそれだけです」

海未は逢崎蓮に強い信念を、孕んだ言葉を伝える。彼は無気力に刀を構える。

「そんなものが‥‥‥」

怒りのせいか、彼は歯が潰れんばかりの強さで顎に力を入れて、海未の元へ走る。

「何になるっていうんだぁ!」

彼の断末魔に似た叫び声が埠頭の静謐な空気を揺らす。海未は軽い息を吐いた後、瞼を閉じて、木刀の刃先を後ろに向ける。激昂した逢崎蓮が刃先を彼女に近づいてくる。海未が瞬時に目を開けて、木刀を力強く振る。木刀の刀身が逢崎蓮の腹部に強打する。すると彼は静かに膝から崩れ落ちていった。ーー圧倒的だったーー。彼女の一太刀が見えなかった。目に見えない程の速度で木刀を抜いたのだ。

すると、海未がこちらに身を向けて歩いてくる。僕の前で止まると、目に涙を浮かべ始めた。

「ごめんなさい。悠人、本当に‥‥‥貴方を一人にしないといいながら、私は貴方に支えられてばかりでした。守られてばかりでした」

「いいんですよ。僕は今回、貴女に救われました。貴女がいなければ僕はこうして貴女と会話すらできていないんですから」

僕が彼女に笑いかけると、海未は安堵したように深呼吸する。別のところから物音が聞こえる。目を向けると、逢崎蓮が身を起こして、尻餅をついて左手で木刀を当てられた部分をさすっていた。

「逢崎蓮‥‥‥」

「なんで、こんな事になったんだろうな」

彼が吐き捨てるように呟くと、睥睨するような目で僕らを見る。

「園田海未‥‥‥貴女は嫌ではないんですか?‥‥‥園田家に生まれて‥‥‥実の両親から次期当主になれという‥‥‥両親の自己願望を押し付けられて‥‥‥貴方もですよ‥‥‥園田悠人‥‥‥分家の子として産まれ、先祖のせいで片田舎に押入れられて‥‥‥そのせいで貴方は‥‥‥あなた方は似てるんですよ‥‥‥望まれた未来を築けない者同士‥‥‥僕はね‥‥‥ずっとそうだったんです‥‥‥一番じゃなきゃダメだった‥‥‥褒められることもなかった‥‥‥そして気づいたんです‥‥‥父は僕を自分の替え玉としか思ってないんだと‥‥‥学校に行っても‥‥‥真面目な人間はなずなのに中傷を受ける日々、何故善良なはずの人間がこうも虐げられる。

僕は虐げている連中を見て思ったんです。彼らは僕の両親と全く変わらないって‥‥‥歳や立場は違えど人の自由を奪っている‥‥‥許せなかった‥‥‥ならばいっそ、全部壊してしまおうと思ったんです。逢崎が積み上げてきたもの、周囲に蔓延る不条理も全て‥‥‥」

逢崎蓮は悔しそうに拳を握り、月光に照らされた地面を叩く。すると、海未が静かに口を開く。

 

「貴方の言う通り、私も不満を抱いた事もあります。幼い事から日舞と剣道のお稽古の日々‥‥‥

泣き出してしまう事もありました‥‥‥穂乃果やことりが羨ましく思った事も‥‥‥でも、時より日舞を公で披露する母やお弟子さんに剣を教える父の姿を見た時に私はその姿に魅了されたんです。だから私も父や母のような立派な人になりたい‥‥‥園田の跡継ぎに相応しい人になりたいと‥‥そう思ったんです。だから私は自分の望んだ未来にゆっくりと近づいているんです」

 

逢崎蓮が目を丸くして、驚いたかのようにこちらを見る。僕も彼女に続いて、今までの事を彼に伝えることにした。

 

「僕もそうだった。両親を亡くして、園田宗家が原因で僕があの片田舎に閉じ込められたと知った時は宗家に心底、憎悪を抱き、必ず殺すと胸に誓いました。だけど海未に敗れた後、何をしていいかわからなくなった。何故敗れたのかも考えて、そして気付きました。μ’s、園田家が決死に僕を探してくれた時、僕はもう一人ではないんだと。だからこんなでも、なんとか生きているんです」

 

「 ハハ‥‥‥ご立派な事‥‥‥」

逢崎蓮は皮肉を交えた言葉を返す。虚空を見上げて、胸の内が軽くなったのか、微笑んでいた。

 

その後、逢崎蓮は自ら警察に電話をして自首した。たった一日の出来事だったが僕にとっては二日とも三日とれるほど長く感じた。

スクールアイドル達、全員の保護と逢崎会の他の幹部、協力していた暴力団組織の構成員の逮捕されてこの騒動は終わりを迎えた。

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!
残り数話でこの物語の本編も終了となります。それまでこのしがない自称作家にどうかおつきあいください。
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