大和撫子と復讐の徒   作:蛙先輩

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38話

冬が過ぎて、春の日差しが地上を照らし暖める頃、

音ノ木坂高校では三年生の卒業式の準備の為、たくさんの在校生達が引っ切り無しに動き回っていた。

 廊下や体育館などに装飾品やダンボールで切り抜いた文字などを貼り付けている。

 一方、僕は車椅子の上から、貸し出されたトランシーバーで他生徒に指示を送っていた。数日前の逢崎蓮の件で僕は脚に突き抜けるような痛みを感じて病院に行き、レントゲンの結果、右足にヒビが走っていて、左足にも細く小さな線が確認できた。そして、大事をとり現在、僕は車椅子で日常を過ごしている。

 

「いつもの活気を取り戻しましたね」

 艶やな黒髪が特徴の少女が僕の頭上から、他生徒を見守る。

「そうですね……」

 学校がいつもの賑やかさを取り戻したのは喜ばしい事だが、素直に祝えない。理由はわかっている。

 逢崎蓮の逮捕後、逢崎家の暴虐とも言わんばかりの所業が露見して『逢崎会』は解散。逢崎家に加担した暴力団組織はまとめて壊滅した。逢崎家の財産は『箱庭』で被害にあった人々や、傘下の暴力団組織が壊した公共物の修繕費用に当てられた。

 隠蔽された逢崎蓮の想い人であった少女の死がニュースとして公に取り上げられる。それは彼女の死からおよそ数ヶ月後の出来事だったそうだ。

自殺の原因を作ったスクールアイドルの少女は逢崎会の根回しにより、罪を隠匿されて悠々自適にアイドル活動を続けていたが、逢崎の全貌が明らかになり、悪事が発覚して逮捕。犯行理由は彼女が逢崎蓮に好意を寄せていて、隣にいたその少女が気に入らなかったという自己中心的な原因であった。又、逢崎家から多額の賄賂を受け取り、事件を隠匿した校長、理事長共々、懲戒免職とともに逮捕された。

 そして、その高校のスクールアイドルチームは解散。警察が教育委員会の協力を得て、一斉調査を行った結果、多くの案件が山の様に出て来た。不幸な事に、スクールアイドルの人気が急激に衰退の意図を辿る事になった。

 スクールアイドルはこの先どうなるのだろう? そんな不安感にここ数日、頭を抱えている。

 

「悠人」

 聞き慣れた声のする方に目を貼ると、海未が少し悲しげな笑みを浮かべる。

「あなたの考えていることはわかっています。私自身もショックです。私だけじゃない穂乃果やことり、μ’sのみんなもです。それでもーー」

 不意に海未がその長いまつ毛の先を一点に向けた。そこには穂乃果、ことり、花陽、凛、真姫が体育館前の飾り付けを行なっていた。穂乃果と凛が色紙で繋げた輪っかを首にかけて、戯けている。真姫が人差し指を立てて、咎めているのを花陽と小鳥が苦笑いでなだめる。その姿を見ると、先ほどまで凝り固まっていたものが解れて、自然に頬が緩んだ。

「みんな前に進んでいる。さあ私達も行きましょう!」

 海未の笑顔の提案に僕は首肯で応えると、車輪がゆっくり前に進んだ。

 

 

 

 放課後、車椅子を海未に押してもらいながら廊下を進んでいる時に、後ろの方から声がして、振り返る。

 担任教師が手に何かの用紙を持って僕の前に歩いてきた。

「村雨、お前に渡し損ねてたやつだ。まあ、ゆっくり考えろ」

 手に持っていた一枚の紙を渡すと、右手をあげてそのまま廊下の奥に消えた。

「悠人、それって、、、、、、」

「進路調査票……」

 「悠人はどうするんですか? 私は進学を希望していましたが……」

 今まで考えもしなかった自分の将来。本来なら宗家に復讐してから考えようとしていたが、それも終わった今、僕はただの学生。

「すみません。僕は未だに定まらなくて、、、」

 僕は気の抜けたような笑いを彼女に返す。

 

「あ、焦ることはないと思いますよ! 勢いで決めてしまえば後悔することもありますから!」

 海未は空元気を出したような態度で僕に語りかけた。彼女なりに僕を気遣ってくれたのだろう。僕はどうかして良いかわからず、彼女に薄ら笑いを向ける。

 しかし、次から三年生。本格的に将来について考えねばならない。

 

「将来か、、、、、」

 夕日が沈んで行き、夜の帳が侵食していく空を、窓から懊悩の眼差しで見つめていた。

 

 

 卒業式当日。雲ひとつない晴天のもと卒業式は行われた。送辞の述べた後、舞台にいた真姫がピアノで音色を奏で始めた。穂乃果の美しい声音が体育館の静寂な空気を震わせる。すると僕の隣にいた海未やことり、離れた座席にいる凛、花陽、絵里、希、にこまで口を開き歌い始めた。女神達の演奏に魅了されたのか館内にいた在校生も合唱を始めた。

 

 式を終えて、九人の女神と僕は校舎の庭で談笑した後、僕達は屋上に向かった。ここで彼女達は多くの壁とぶつかってきた。そして乗り越えてきた。すると穂乃果がタイルにモップで力強く大きく、自分達のチーム名を書く。

「ありがとうございました!」

 一同がタイルに向かい、感謝の念を込めて頭をさげる。いずれここに書いた文字も日差しに焼かれて消えるだろう。きっとμ’sという名も時代や環境によって忘れ去られるだろう。いずれ誰も知らぬものになる。

 しかし彼女が残したものは決してなくならない。この時間にかけた思いや絆は風化することなく彼女達と彼女達に薫陶を受けた人達の中で生き続ける。刻み続けたものは決して消えない。

 

「やり遂げたよ。最後まで」

 太陽の声が薄暗い屋上への階段で静かに響いた。




閲覧ありがとうございます。今作の本編も次で最終回となります。
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