それでは4話どうぞ!
古びた屋敷の庭で少年とその父と母が円を作り楽しそうに談笑していた。
「僕、いっぱい修行していつか立派になって父さん超えるからね!」
「おっ、言ったな!」
「お父さんは強いわよ。悠人に超えられるかしら?」
「勝てるよ! 僕はいつか必ず父さんを超えるんだ」
少年がその場で立ち上がり、父親に向かって宣戦布告をする。
それを聞いて、父と母は顔を見合わせて笑う。それにつられて
少年が笑い出す。
そして、その光景が徐々に薄れていく。
「ん、もう朝か・・・」
僕は懐かしい夢を見た。父と母と暮らしていた田舎の古びた屋敷の在りし日々の事を・・・
二度と戻ってこないあの日々を・・・
服を着替え、学校に向かう準備をする。服を着替えて終えるとカバンを持ち、そのまま家を出る。
登校していると、突然後ろから物凄い勢いで何かが迫ってくる気配がして、振り向くと高坂さんが飛び込んでいた。
「村雨君! おはよう!」
「あっ、ああ、おはようございます高坂さん」
僕はいきなりの行動に驚きつつも、彼女に挨拶を返す。
「ねぇ村雨君、せっかく穂乃果と友達になったんだから穂乃果って呼んでよ」
「えっ? ですが・・・」
「えー呼んでよー」
彼女の少し膨れた顔を僕に近づけ、押されてしまう。
「わ、分かりました。ほ、穂乃果」
「うん! よろしくね! 悠人君!」
「穂乃果ちゃんを下の名前で呼ぶなら私達も呼んでほしいな♪」
鳥のさえずりの様に高い声を背に感じ、振り向くとそこには南さんと
園田海未が立っていた。
「おはよう! 海未ちゃん! ことりちゃん!」
「 お二方、おはようございます」
「おはようございます。穂乃果、村雨君」
「おはよう。 穂乃果ちゃん、村雨君」
「村雨君、良かったら私達も・・・名前で呼んでもらえるかな?
その・・・ほら! これから関わることも多いことだし!」
「私も・・・村雨君がよろしいなら」
「そうですね・・・分かりました。ことりさん、海未さん、僕の事も
気軽に下で呼んでくれて構いません」
「分かった。よろしくね、悠人君♪」
「よろしくお願いします。悠人」
僕たち互いに挨拶をして、歩き出そうとした時に園田海未が僕を名前を呼んだ。
「改めて昨日は助けていただきありがとうございます!」
「ああ、いえ、とんでもありません」
「えっ、なになに! 二人とも何かあったの?」
「歩きながら説明します」
僕たちは歩き出し、事情を知らない穂乃果さんと南さんに昨日の事を話した。
「えー、海未ちゃん! 大丈夫だった!」
「何もされてないの?」
穂乃果さんと南さんが心配そうに園田海未に近づく。
「はい、悠人が駆けつけてくれて私を助けてくれたおかげで、私は
無傷です」
「悠人君って強いんだ!」
「いえいえ、大したことないですよ。ただの処世術ですよ」
「穂乃果もその場にいたらこうやって!」
高坂さんはその場でシャドーボクシングを始める。
「あはは、、、」
南さんが抜ける様な笑い声を出し、僕と園田海未も困り眉を浮かべる。 しばらく歩いたのち僕たちは学び舎に着いた。
ー放課後ー
担任の号令が終わると、部活のある生徒達は足早に教室を抜けていく。
僕達もその一つで穂乃果さん、ことりさん、園田海未は更衣室で
着替えを済ましている間に、スポーツドリンクの入ったクーラーボックスを持ってくる。これが割と重い。
着替えを終わらせた穂乃果達と合流して、屋上へ向かって階段を登る。
元気よくに屋上の扉を開けると、練習着の格好になっている一年生組と三年生組が揃っていた。
μ'sの面々が僕達に手を振ったり、声をかける。穂乃果さん達も彼女達の元に行き、準備体操を始める。
僕のやる事は休憩時間のスポーツドリンクの配給、怪我をした時の応急処置、園田海未や絢瀬先輩の代わりにリズム取りぐらいだ。
練習が始まり、園田海未が前に立ち、手でリズムを取りそれに合わせて他の8人が踊りだす。
この間正直、僕のやることは何もない。 ただの怪我をしたメンバーに備えて待機するだけ。
こうしてみると実に美しい団体行動である。所々、間違っているところはあるが、徐々に訂正していき、直そう、上達しようという意思を感じる。
10分の休憩に入り、僕はメンバー達に声を掛けて、スポーツドリンクを渡していく。
メンバー達から感謝の声を聞きながら、会釈をして僕も日陰に戻って地べたに座る。
無気力に雲を眺めていると、絢瀬先輩が視界に入ってくる。すると彼女は僕の隣に座ってきた。
「穂乃果達とはもう仲良くなったらしいわね」
「ええ、向こうが積極的に仲良くなろうとしてくれたおかげです」
「穂乃果の積極性には恐れ入るわね」
「全くです」
僕と絢瀬先輩は口に手を添えて、肩を震わす。
「それで、どうかしら、私達 μ'sは?」
「いいグループだと思います。個々のミスをカバーし合い、そしてそのミスを克服して進んでいる。互いに理解しあってるから出来る事なんでしょうね」
「そうね。でもまだ一人だけその理解の範囲に入ってない人がいるわ」
「えっ?」
絢瀬先輩は立ち上がり、手を叩く。するとμ'sの面々がこちらを向く。
「みんな、村雨君の事をこれから下の名前で呼びましょう!」
「いや、絢瀬さん、二年生組は同級生だから打ち解けるのは速かったですけど、他のメンバーは・・・」
「いいわよ」
「うちも賛成!」
にこ先輩と東條先輩はこの意見に同意なさった。そしてその他の面々も同意していく。
「どうやら、納得してくれたみたいね、私は絵理でいいわ」
「すみません、絵理先輩でよろしいですか?」
「うーんちょっと寂しいけど許してあげる」
「寛大なご配慮感謝します」
絵理先輩との話していると希先輩が近づいてきた。
「うちの名前は東條希! 気軽に希って呼んでな」
「先輩慣れしてないので、希先輩で」
「えー、まぁええか、よろしく」
希先輩と握手を交わすと、なにかを悩んでいる星空さんが目に入った。
悠人先輩? 悠人君 どっちで呼んだほうがいいかきゃ?」
「どちらでも構いませんよ。 呼びやすい方で」
星空さんは顎に手を添え、首を固まる。
「なら、悠人君にするにゃー、だから凛の事も下の名前で呼んでほしいにゃー」
「分かりました。凛」
「なんだか、海未ちゃんが二人いるみたいだにゃー」
凛がそういうと、他のメンバーがクスクスと笑いだす。奥から髪を人差し指で回しながら西木野さんと彼女に隠れて小泉花陽が近づいてくる。
「改めて、私は西木野真姫、真姫でいいわ。 悠人」
そう言い、彼女は手を伸ばす。
「わかりました。真姫」
僕は立ち上がり、彼女と握手を交わす。
「ほら、花陽も」
真姫が背後に隠れている小泉さんに声をかける。
「む、村雨先輩、私の事は花陽で構いません、
「分かりました。花陽」
僕は彼女に笑顔で答える。
「悠人・・・先輩、でいいでしょうか?」
「それで結構ですよ。呼びやすい名が一番です」
「はい」
彼女は元気よく僕に笑顔で答える。
花陽さんと話していると奥からモデル歩きで矢澤先輩が歩いてきた。
失礼ながら似合ってはいない。
「・・・にこでいいわよ」
「分かりました。にこ先輩」
にこは納得したかのような素振りを見せ、元いた場所に戻っていた。
「にこちゃん照れ屋さんだにゃー」
「うるさいわね!」
屋上に女神とそのサポーターの笑い声が聞こえた。
練習が終わり、メンバーの着替えと共に僕はクーラーボックスを直して、校門前でメンバーの帰りを待つ。
「おーい悠人君〜」
穂乃果が僕の名前を呼んで、手を振る。
他のメンバーと分かれ道で別れていき、僕はこの街に美味い和菓子屋があると聞きいたのでそこに向かっていた。
「ここか和菓子屋 穂むら」
外観は古い木造建築だが、店の周りはとても綺麗で古き良き老舗といった感じだ。
扉を開けると、店員であろう女性が商品の団子を摘み食いをしていた。
「あっ」
女性は僕に気付くと、早急に団子を飲み込んで、胸を叩いた。
「いらっしゃい、ご注文を」
「あ、はい」
僕はカウンターに向かい、並べられた商品を見ていると奥から誰かが近づいてきた。
「お母さん! 私が楽しみにしてたチョコパン食べたでしょ!」
「今日朝に食べたでしょ! それに今、接客してるんだから部屋に戻ってなさい!」
「あっ、失礼しました・・・って悠人君!」
「穂乃果・・・」
僕はいきなりの知人の出現に驚いた。
「あら、貴方が噂の共学生?」
「そうですね、僕が2学期から転入してきました。村雨悠人と言います」
「穂乃果の母です。うちの馬鹿娘がお世話になっております」
「こちらこそ、娘さんにはお世話になっております」
「ちょっとー! 馬鹿ってなにさ 馬鹿って!」
穂乃果さんは自身の母に馬鹿にされた事で膨れっ面になる。
「あっ、そうだ。村雨君、うちの新商品の味見してもらえる?」
「僕でよろしければ」
そう答えると、穂乃果さんの母上はカウンターの奥に行き、何かを手にして戻ってきた。
「これが次に売り出そうとしているものなんだけど」
新商品と言われる物を持ってきた。見た目はどこにでもある饅頭だった。
僕はそれを手にして、一つを口の中に入れた。
その時、ふと僕は昔の事を思い出した。
僕が屋敷の庭の草で仰向けになっていると母が何かを手に僕の元に歩いてきた。
母は僕を起こして横に座り饅頭や団子が乗ってある皿を差し出した。
僕は母から受け取った饅頭を嬉しそうに頬張る。それを見て母を笑う。 父がその光景を見て、足早に近づいてくる。
父も僕の横に座り、母の作った団子を食べる。
僕は母が作る饅頭が好きだった。そして父と母と過ごすこの時間が・・・
「悠人君?」
穂乃果の声が聞こえ、ふと前を向く。すると穂乃果が不安そうにこう付け足した。
「どうして泣いているの?」
「えっ」
僕は彼女にそう言われると頬に違和感を感じて、手の甲で拭うとたしかに濡れていた。
「あら、涙が出るくらいうちの饅頭が美味しかったのね」
穂乃果の母がその場の雰囲気を和ませるようにそういう。
「そうです。最近、こんなに美味しい和菓子食べた事なかったから」
僕は2人に作り笑いを向けて名物の穂むら饅頭を1パック買って店を出た。
街灯が照らす、薄暗い帰り道を僕は一人、うつむきながら歩いていた。
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