アラフォー艦隊のやべー奴ら   作:オパール

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クリーブランド「栄光は……お前に……ある、ぞ……」
モントピリア「姉貴ィィィィ!!!」

メンテ終了に間に合わなかったので初投稿です


クリーブランド「『轟沈させる』と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ!」モントピリア「やっぱ姉貴はすごいやッ!」

 ―――貴方様

 

 鈴を転がすような、優しい声が耳に届いている。

 

 ―――起床の時間ですよ、貴方様

 

 凛としているが、慈愛に満ちたその声音はむしろ目覚めかけた意識を再び沈めてしまいそうなほどに甘い。

 薄く目を開くも、その音一つひとつがあまりにも心地よく、起きねばと思う一方でそれに身を委ねてしまいたくなってしまう。

 

 ―――もう。仕方がありませんね

 

 言葉とは裏腹に呆れるようなニュアンスではない。

 むしろ、まるで出来の悪い弟を放っておけない姉のような。

 

 ―――貴方様?

 

 その声が少し近くなる。

 

 ―――起きてください。貴方様

 

 耳元で擽られるように、起床を促される。

 だがその時、目覚め始めた俺の頭に一つの疑念が生まれた。

 

 ―――起きていただけないのなら

 

(まだ声帯実装されてないはずだよな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ し ま す よ ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怖ぇよ!?」

 

 布団捲って跳ねるように起き上がる。

 顔には一瞬で汗が吹き出したし、ついでに言うと動悸がやばい。

 枕元で呑気にけたたましく鳴る3d5目覚まし時計があまりにも耳障りだったので、強めに叩いて止めた後布団に叩きつけておいた。壁にぶん投げようかとも思ったが、厚意で用意してくれたものだし、仮に壊してもどうせまた今夜には新しいのに替えられるだろうからここまでにしておく。

 

「今日の目覚めいつになく悪いわ……」

 

 そうぼやいて朝支度。

 

 綾波にマウント取られてる赤城の怒声を聞き流しながら顔を洗い歯を磨く。それが済んだらクローゼットからいつも真っ白な軍服を取り出して着替え。履くつもりだった靴下の片方が見当たらなかったので、愛宕に三角絞めを極めているベルファストに教えてもらった。

 着替えも終えて、床に突っ伏す赤城と愛宕、朝の運動とばかりに良い汗かいた綾波とベルファストと挨拶を交わして部屋を出る。

 白目を剥いて気絶している大鳳と、そんな大鳳に乗っかっているアルバコアにもおはようの挨拶を。

 

 朝食を摂ろうと食堂へと向かう道中で、ベルファストから今日一日の予定、並びに出撃と委託班の編成の確認。後で執務室でも擦り合わせをするが、昨日の内に決めておいたことを業務開始前に改めて確認するのも大事なことである。

 

「……では、ご主人様。私はこれで。本日より三日間、秘書艦の業務とご主人様の身の回りのお世話はニューカッスルさんが担当いたしますので」

「ああ」

 

 失礼いたします、と恭しく頭を下げて、ベルファストは立ち去っていく。ここしばらくベルファストは働き詰めだったので休暇を与えることにした。

 それを伝えた時にメチャクチャ絶望したような顔してたが、何も俺の世話するだけが仕事じゃあないんだけどなぁ……

 

「……行くか、綾波」

「はいです」

 

 

 

「エンタープライズ先輩! 一手お願いします!」

「昨日も一昨日もしたはずなんだが……」

「ご迷惑でしたら無理にとは!」

「……いや、構わないさ。演習場へ行こうか、エセックス」

「ありがとうございます! 昼と夕方と夜も是非とも!!」

「えっ」

 

 外から聞こえてくるそんなやり取りを聞きつつ、朝食を終えて綾波と共に一路執務室。

 

「……なぁ綾波」

「? どうしました、指揮官?」

「今日、執務とか色々終わったら話……てか、相談したいことあるんだけど、いいか?」

「相談、ですか? 指揮官がそんなこと言うなんて、珍しいです」

「まぁ、な。お前以外にはちょいと話せないことだし」

「わかりました。今日の業務が終わったら、ですね」

「ああ」

 

「サウスダコタァ! 今日こそは勝ち越してやるぞァ!!」

「……ワシントン」

「何だァ!?」

「僕らの演習に他の者を加える必要はどこに」

「たまたまいたからね! それに実戦形式ってなら、この方が緊張感出るだろ!」

「だからって何でハムマンが付き合ってやらなきゃいけないのよ! ヨークタウン姉さんとご飯食べてたのに!」

「ラフィー、も……寝て……Zzz」

「……」

「そうむくれるなエセックス。ワシントンの言うことにも一理あるのはわかっているだろう?」

「……やはり昏睡

「エセックス」

 

 元気な声が増えた

 

「……まぁあいつらもやめ時くらいはわかってるだろ」

 

 一応窓から様子を見てみたら、近くにグラーフやウォースパイトの姿もあった。いざとなれば二人がストッパーになってくれると信じたい。

 そうこうしている内に、執務室に到着。扉を開けた先には、頭頂部にプリムを乗せた黒髪が鮮やかなメイドの姿。

 

「おはようニューカッスル」

「ニューカッスルさん、おはようございます、です」

「おはようございます、貴方様。綾波さん」

 

 所作の一つひとつが実に優雅。ベルファストのそれとはまた違う柔和な笑みを浮かべる彼女は、ロイヤル陣営のメイド隊。タウン級(厳密にはサウサンプトン級というらしいが)軽巡洋艦のニューカッスル。何でも先代のメイド統括だったとか。

 

「本日より、私が秘書艦業務を務めさせていただきます」

「ああ、話は聞いてるよ」

「書類の方も纏めてありますので、ご確認のほど」

「助かる」

「それじゃあ指揮官。綾波はこれで」

「ああ。明石に呼ばれてるんだったか?」

「はいです」

「……何かされたらすぐ言えよ」

「大丈夫です。……たぶん」

 

 その言葉を残していった綾波を見送り、書類の積まれた机に向き直る。

 この後は出撃、委託にそれぞれ出る部隊の編成確認といくつかの通達。その後はいつも通りの書類仕事になる。

 その前に、疑問を一つ解消しておこうか。

 

「……なぁニューカッスル」

「はい。どうされましたか?」

「お前さん、今朝俺の部屋に来たか?」

「貴方様のお部屋に? いいえ、私は起床した後はベルファストと引き継ぎ事項について話をしていたので」

「……そうか」

「フフッ……変なことをお訊ねになるのですね」

 

 頬を緩ませてクスクス笑うニューカッスル。

 嘘を言ってる様子も無し、単に寝惚けて彼女の声が聞こえた気がしただけだろう。

 

「まだ声帯実装されてないしな」

「はい?」

「なんでもねぇ」

 

 さて、と

 

 今日も仕事を始めますか

 

 

 

 

 

 

 

・ネルソン「誰のどこがBIG SEVENだって?」

 

 憤怒の表情のグラーフ・ツェッペリンとティルピッツに追いかけ回されるアーク・ロイヤルの姿がそこにあった。

 

「……今度は何したのよ」

「フィーゼちゃんに手を出してしまったようですよ」

「あの性癖さえ無ければ……」

 

 離れた場所からそれを見ているのはネルソンとロドニー。

 その隣には、ユニオンのコロラド級戦艦であるコロラド、メリーランド、ウェストバージニアの姿もある。

 

 かつて『BIG SEVEN』と称された七隻の戦艦の内、その五隻が一同に会するという物々しい現場だった。

 

「……よぉ。お前らロイヤルの空母ってのはあんな奴ばっかなのか?」

「馬鹿言わないで。あれだけに決まってるでしょ?」

「指揮官は「空母にはやべー奴が集中してる」と言っていたが……あながち間違いでもなさそうだな……」

 

 赤いポニーテールが特徴的なメリーランドの言葉に反論するネルソンと、遠い目をした白髪のコロラド。

 視線の先ではツェッペリンとティルピッツに何故かインディアナポリスとミネアポリス(ついでにポートランド)が加勢していた。

 

「なんであの二人?」

「『ポリス(お巡りさん)』だからでは」

「ああ…」

 

 今にも艤装を起こしてアーク・ロイヤルを撃ちそうな四隻の姿を眺めるBIG SEVEN達。

 さっさとお縄につけば良いものを、躍起になって逃げ回る変態空母の姿にユニオンの三隻は普通に引き、ロイヤルの二隻はもう慣れたとばかりに紅茶を口にしていた。

 

 やがて、そのアーク・ロイヤルの手を引く小さな影が現れたことで事態の終息を確信するBIG SEVEN達だった。

 

「こ、この小さい手のひら……まさか私を案じてくれる妹の」

 

「駆逐艦と思った? 戦艦よ」

 

「ゲェッ、ウォースパイト殿!?」

「こっち来なさい! 巡洋艦以上の艦種全員で搾ってやる!!」

「そんな!? せめて、せめて駆逐艦の妹を誰か一人ぃぃぃぃぃ」

 

 自身より馬力で劣るハズの戦艦にズルズル引き摺られていく空母。

 哀れ、Wポリスとフィーゼモンペ達に連行され哀愁漂うその背中に声をかける者はいなかった。

 

 

 

・ベルファスト「寝取られた気分」

 

 休日を与えられたベルファストだが、それはそれとしてとんでもなく暇だった。

 着任してからこっち、指揮官のおはようからおやすみまでを見守り身の回りをお世話し職務を補佐し夜のお世話もして三人くらい産みたいとか思ってたところにこの状況。

 無論、後を引き継いでくれたニューカッスルに不満は無い。不満など言える立場に無いし言うつもりも無いが、それはそれだ。

 メイドの命たるメイド服は今はクローゼットの中、ラフな服装に着替えたは良いがやることが無い。

 午後のロイヤルのお茶会への出席許可は得ているが、それもメイドとしてではなくあくまで一参加者として、つまりその場でもやることが無い。

 姉や妹が仕切るそうだが、そそっかしいところのある姉エディンバラやまだまだ未熟な妹、ベルちゃんとなると不安にもなる。

 まぁその二人は真面目な分、サボり癖のあるサフォークや体育会系なケントよりはまだマシだろう、という気持ちもある。

 

「……シェフィールドがいてくれたら」

 

 と、ロイヤル本土にいるであろう同僚に思いを馳せ、直後にそんな考えを切って捨てる。

 今この泊地にいるのは自分達だけなのだ。無いものねだりなど、ここで務めに励む彼女達への失礼にしかならない。

 

「……外に出ましょう、か」

 

 少し外の空気でも吸って気分を変えよう、そう思い至ったベルファスト。

 洋服箪笥に隠してあった、保存袋に入れてある男性用下着の匂いを軽く吸って部屋を出た。

 

 

 

「お、ベルファストじゃないか」

「クリーブランドさん」

 

 廊下を歩いていると、クリーブランドと遭遇する。

 委託任務の件で指揮官に話があるらしく、散歩ついでに執務室まで一緒に行くことになった。

 

「その服、今日は休みなんだってな」

「はい。ですが、どう過ごせば良いのかわからず……」

「あははっ……まぁ、あまり深く考える必要は無いんじゃない? 私もこの後はオフだし、もしよかったら一緒に何かするとかさ」

「フフッ……ありがとうございます」

 

 にこやかに笑いあいながら歩を進める二人。

 ここまでずっと長い付き合い。共に戦場に立つ機会は少なくなったが、それでもこの泊地における古参同士。道中擦れ違ったノースカロライナのバニーガール姿をスルー出来るくらいには、ここで過ごした時間は長い。

 陣営だとかそんなことは関係なく、クリーブランドとベルファストは堅い友情で結ばれていた。

 

「……あ、執務室だ」

「……扉が少し開いていますね」

 

 ベルファストの言葉通り、執務室は僅かに扉が開いている。

 そこから漏れ出る二人分の声。

 

「……」

「……」

 

 そういえばニューカッスルの仕事ぶりに関してはよく知らないな、とクリーブランド。

 後輩兼現メイド長として前メイド統括な彼女のことは尊敬しているが、指揮官に不満を与えるならばすぐさま自分が、とベルファスト。

 

 クリーブランドの好奇心とベルファストの嫉妬混じりの老婆心が重なり、二人してその隙間から中を覗き見るのに躊躇いは無かった。

 

 

 

「お茶が入りましたよ、貴方様」

「……ん? もうそんな時間か。いただくよ」

「はい」

「……」

「……もしや、お口に合いませんでしたか?」

「いや、違う違う。淹れる人によって紅茶の味って変わるもんだな、と思って」

「そうですね……私はもちろん、エディンバラやベルちゃんの淹れるお茶は、それぞれまた違うものになるかと」

「うまいよ、ニューカッスル」

「……ありがとうございます、貴方様」

 

 

 

「……結構いい仕事するんだな、ニューカッスルって。手際も良いし。なぁベルファスト」

 

「ああご主人様ニューカッスルさんも違うんですニューカッスルさんご主人様のお好きな茶葉はそれでは無いんですご主人様ご主人様どうかこのベルファストに一言ご命令くださいいえニューカッスルさんは素晴らしい方ですご主人様の言葉に嘘偽り無いことはこのベルファストよくわかっていますですがああそんなダメですニューカッスルさんそれはダメご主人様の使い慣れている道具はそれではありませんでもご主人様は何の問題も無くお使いになられてご主人様なぜそんなにこやかにされているのですかいえわかりますわかっていますニューカッスルさんの包み込むような柔らかい笑みは私も好ましく思っていますですがご主人様ああああそんな私以外のメイドにそんなお顔をされるだなんてご主人様もニューカッスルさんもそんな楽しげに語り合って笑い合ってううダメですダメよベルファストこんな感情を敬愛するお二人に向けてしまうだなんてでもこんな光景見せつけられて私は私はもう本当にどうにかなってああニューカッスルさん瓶入りお菓子の蓋を開けるためだけにご主人様の手を煩わせるだなんてご主人様そんな顔をしないでください私じゃないメイドにそんな微笑みを向けないでニューカッスルさんも紅くならないでそんな雰囲気出さないでご主人様ご主人様ご主人様ぁ」

 

「 う わ ぁ 」

 

 唇を噛み、悶えるように身体を揺らすベルファストの姿にノータイムで引くクリーブランド。

 指揮官を想う気持ちは理解できるが流石にこれは友人相手だろうと引く。

 

 何があってもこうはなるまい、とクリーブランドは改めて心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あいつらあれで隠れてるつもりなのか?」

「フフッ……ベルファストも随分と変わりましたね」

「にこやかに言うことじゃないと思う」

 

 

 

 

 

 

 

三笠「ぬわああああん疲れたもおおおおん」

 

「なにこれ」

「あっ、指揮官。お疲れ様です」

「あ、うん」

「やめたくなりますよぉ戦艦ぅ」

 

 夜。

 執務もだいたい終わったので、何やら騒がしい食堂に足を運んだらかつての連合艦隊旗艦が酔っ払っていた。

 その隣で微笑んでいるのは北方連合の軽巡洋艦、アヴローラ。

 なんでも昔一緒に戦ったことがあるらしく、その縁もあってか比較的二人でいる姿を見かけることが多い。

 

「今日のお仕事は終わりですか?」

「ああ。何か騒がしかったから寄ってみたんだが……」

「それは、ごめんなさい。三笠ったらお酒弱いくせにすぐ飲みたがるから……」

「お主長門のことが好きなのか!?(青春)」

「は?」

「ほらほら三笠。ナガトはここにはいませんよー」

「なーにが『三笠使うなら長門でよくね?』だ……陣営バフなら我だって持ってるし……性能だけで判断、恥ずかしくないの?」

「やべーなこいつ」

「たぶんそろそろ眠るはずですけど……」

「Zzz」

「「あ、寝た」」

 

 机に突っ伏して寝息を立て始める三笠。

 

 ……こうして見るとあの『ミカサさん』と似てはいる、というか容姿がまったく同じなだけの別人だとわかる。

『同一人物の別存在』とでも言えば良いのだろうか。

 

「指揮官も、よかったら一杯いかがです?」

「……だな。せっかくだし、いただくよ」

「はいっ」

 

 アヴローラが用意してくれたグラスに、酒が並々と注がれていく。

 北連産だというヴォッカ、グラスと鼻が離れていても強く感じるその酒の匂い。迷うことなく一口飲む。

 

「~~~ッ、結構強いな、これ」

「そうですか? 故郷では身体を温めるのによく飲みますから、私はあまり」

 

 そう言ってヴォッカを飲んでいくアヴローラ。

 それなりに飲んだ後なのか、普段は雪景色のように白い肌がほんのり蒸気していた。

 

「んっ……ふぅ。三笠ももう少し飲めるようになってくれれば良いんですけど」

「普段から二人で飲んでるのか?」

「いえ、お酒はたまにですね。いつもはお茶で」

「ふぅん」

「でも三笠はいつもこうなってしまうので……」

「この人ここまで弱いとは知らんかったなぁ」

 

 寝言でさえ長門とやらと比較されることの不満を述べる三笠を見やる。

 いつもは凛として、尊敬の眼差しを集める三笠だが、今こうして酔い潰れている姿からはとても同じ存在とは思えない。

 ヴォッカを飲み進める内、ふとアヴローラがこっちを見詰めてきていることに気がついた。

 

「……どした?」

「指揮官って、私や他の人達と、三笠を見る目が違いますね」

「ッ!?」

 

 喉元を過ぎた酒が逆流した

 

「だ、大丈夫ですか指揮官!?」

「ゴホッ……お、おう。……しかし、何だ急に」

「あぁ、いえ。前から気になってて……」

「……あー、それな。いや、特に理由らしい理由とかは無いんだが……」

 

 正直、あの頃に関することは誰かにおいそれと言えることじゃない。

 俺の中ではもう思い出で、まだ想ってるだとか女々しいこというような歳でもない。だが、だからといって簡単に口に出来るほど軽いことでも無いのだ。

 

「……まぁ、あんまり言えることじゃない、とだけ言っておくよ」

「指揮官……」

「邪魔したな。酒、うまかったよ」

 

 そう言って、逃げるように席を立つ。

 背中にかかるアヴローラの視線が妙に痛く感じて、そのまま足早にその場を後にした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……三笠?」

「……」

「……もう。起きてるなら言ってくれれば」

「……指揮官は」

「?」

「我を、疎ましく思っているのではないのだな?」

「……ええ。それは間違いなく」

「……そうか」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「綾波、戻ってるかー?」

 

 自室の前。

 ドアノブに手をかけ、開く前に声をかけてみる。

 

『あ、指揮官。大丈夫です。もういる、です』

「そっか」

『ああ、でも。ちょ、ちょっとだけ待ってほしい、です』

「あん?」

『その、心の準備が必要、です』

「心の準備?」

『すー……はー……よし。どうぞ、です』

「? 入るぞー」

 

 というかなんで自分の部屋に入るのに待つ必要が……と思いながらドアを開いて

 

 

 

「お帰りなさい、です。指揮官」

 

 

 

 ―――その姿に、思わず息を呑んだ

 

 白と紅で彩られたその衣装。

 豪奢で、それでいて美しいその衣装。

 

 まるで、花嫁衣装のような姿の綾波が、そこにいた。

 

 

 

「……指揮官?」

「え? あ、あぁ。ただいま、綾波」

 

 予期せぬその姿に見惚れてしまっていた。

 

「綾波、その服……」

「これ、ですか? その、明石が用意してくれたです」

「明石? ……今朝言ってた用ってそれか」

「はいです。『ケッコンしてるのに普段の服装のままでいさせるなんて甲斐性の無い指揮官だからにゃあ』とか言ってました」

「耳削ぎ落としてやろうかあいつ」

 

 目の中にダイヤを浮かべてにやつく顔が容易に想像できて腹が立つ。

 にしても……

 

「……よく似合ってるなぁそれ」

「そう、ですか? 指揮官に一番に見てほしくて……綾波、指揮官のお嫁さんらしい、ですか?」

「ッ……」

 

 もじもじと身体を揺らしながら、薄く色づいた頬と上目遣いが妙に色っぽく見えてしまい、言葉に詰まる。

 

「……ああ。とても」

「えへ……よかったです。嬉しいです」

 

 そう呟いて、俺に飛び込んできた綾波。

 衣装が崩れないように、気をつけてその背中を抱いて頭を撫でる。

 蕩けるような息を吐いてそれを受け入れる綾波。

 

「……そう言えば指揮官」

「ん?」

「今日、何かお話があるって」

「あー、それな」

 

 正直、こんな姿の綾波を見た後で話すことでも無いことだが、それでも話す必要がある。

 

 いや、どうしても綾波には話しておかなければいけないのだ

 

「綾波。話っていうか相談なんだが……」

「はい……」

 

 綾波を先に座らせ、鍵をかけてあった机の引き出しを開けて、そこからあるものを取り出して綾波と向かいあって座る。

 

 俺が差し出したそれを見た綾波の目が大きく開かれた。

 

「指揮官、それ……」

「うん……綾波がそんな衣装見せてくれた後でこういうこと話すのは正直、気が引けるんだが……」

 

 俺達の間に置かれた、四つの小箱

 

「前に、しばらく誰にも渡すつもりはないって言ったけど、さ。そうも言ってられなくなった」

 

 ただの海域攻略だけじゃない。

 これまで起こってきた事件と、これからも起こるであろう強敵達との戦闘。

 

 言い訳がましいけれど、それでもそういう理由や事情は確かにある。だから―――

 

 

 

「―――四人だ」

 

「この艦隊の艦船四人に、指輪を贈ろうと思ってる」

 

 

 

 小箱に入っている、誓いの指輪。

 綾波がいつも薬指に嵌めているそれと同じもの。

 艦隊の強化という意味合いももちろんある。だがそれ以上に、俺自身が、支え合いたいと思える相手がいるという理由もある。

 気の多いオッサンと笑わば笑え。

 俺が決めたことなのだから、誰かに言われた程度で取り下げるつもりは無い。

 

「だから……いいか? 綾波」

 

 だが、こと綾波の言葉となれば話は別だ。

 仮初めのものとはいえ、一番最初に指輪を贈った相手が首を縦に振らない限り、どうすることも出来そうにない。

 綾波の俺への気持ちは理解できている。だからこそ、俺は彼女の意志を尊重してやらねばならない。

 俺がやろうとしていることは、見る者によっては綾波への裏切りに見えてしまうものなのだから。

 

 けれど

 

「―――はい。綾波は賛成です」

 

 ―――意外なことに

 

 綾波はなんの迷いも無く、そう言った。

 

「……えっ。良い、のか?」

「はいです」

「もっと悩んだりするもんかと」

「指揮官は、ちゃんと綾波に相談してくれた。指揮官が綾波のことを大切に想ってくれてるのは、綾波もわかってる、です」

 

 微笑みながら話すその顔には、一切の嘘や誤魔化しは無い。

 心から、賛成してくれているのだと理解できた。

 

「綾波は、指揮官が大好きです。みんなも、指揮官のことが大好きです」

「綾波は駆逐艦だけど、子供じゃあないのです」

「だから―――指揮官が本当にしたいと思うこと、綾波は応援したいのです」

 

 ―――ああ。なんて。

 

 なんて、俺よりも大人なんだろう、綾波は。

 

 俺が悩んでいたことを、そんな言葉であっさりと受け入れてくれた。

 

 その姿にはもう最初の頃のような、物静かで常に不安そうな様子は微塵も無い。

 

 それほどに、この綾波という少女は成長していたのだ。

 

「……そっ、か。ありがとう綾波」

「どういたしまして、です」

「それと……」

「謝るのは無しです」

「……あー、ああ。そうだな」

 

 そっと綾波が差し出してきた手を取る。

 

「……誰に贈るか、もう決めてあるのです?」

「ああ。散々悩んだけどな」

「指揮官が決めた人なら、綾波は大丈夫です」

 

 その手、薬指で光る指輪。

 

 この先まで照らしてくれそうな、そんな気がした。




(正妻の余裕)



・言い訳
ニューカッスルの声帯云々についてはメンテ終了前に投稿する予定が急用につきこんな時間になったから。直すにももうここまで来たら行っちゃえと思いました



たぶんあと二話以内で一旦完結します
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