アラフォー艦隊のやべー奴ら   作:オパール

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エンタープライズ「深いのは業だと思う」



年末なので初投稿です

※綾波に次ぐケッコン相手は作者が悩み抜いた末に決断した面々です
これまでの話の流れとか関係無いのでそれだけご容赦を

※瑞鶴未入手なのにチョイ役で出てるけど許してクレメンス


ティルピッツ「正直、母性をくすぐる」ベルファスト「わかりみが深い」

「ベルファスト」

「はい、ご主人様」

「ケッコンしよう」

「……ご主人様」

「うん?」

「突然のことで少々驚きましたが、何の前振りも無くこのような形で告げることでは無いかと。紳士の所業とは程遠いことです」

「……あー、やっぱり?」

「私でしたから良かったものの、他の方ではこうはなりません」

「はい……反省します」

「……ですが、ご主人様がベルファストを選んでくださったこと。心から嬉しく思います。……それで、ご主人様」

「どした?」

 

 

 

 

「子どもは何人欲しいですか?」

「何かもうお前のそういうとこ一周回って好きになってきたよ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……てなわけでベルの奴はOKくれたけど」

「元々ベルファストさんは指揮官のこと好きでしたので……というか指揮官」

「ん?」

 

「情緒無さすぎなのです」

 

「反省してます」

 

 思い立ったが吉日。

 というわけなので、綾波に相談をしたその翌日から行動に移すことにした。

 

 まず渡した相手はベルファスト。古参の一隻たる彼女には本当に何から何まで世話になってきた。

 戦闘における信頼性はもちろんのこと、秘書艦業務や俺の身の回りのあれやこれ。ロイヤルや艦隊への貢献と忠誠心についてはもはや言わずもがな。

 

 ……何より、白状すると俺個人としてはもうベルのメイドスキルにどっぷり呑まれている感もあり

 

 それを抜きにしても、ベルファストという艦船はもはや俺にとって無くてはならない存在になり始めていた。時おりぶっ飛んだことを言うが。

 

「……それで、ベルファストさんは?」

「仕事に戻るって言って別れてそれっきりだな。もう後ろ姿見ただけで浮かれまくってるのはわかった」

「そうですか」

 

 ちなみに今は綾波と共に母港の演習場の波止場で空母同士の演習を見物中。無論、そこに置いた簡素なテーブルで執務も行っている。

 そんな俺達の傍らには疲れきった表情のエンタープライズがいたりもするが、その理由はまぁ演習してる面子にある。

 

 

 

「退け! グレイゴーストに挑めない!!」

「ぽっと出の重桜が彼女に挑むなんて片腹痛い!!」

 

 

 

「お前さん方々によろしくないフラグ乱立させすぎじゃねえ?」

「……いや、その」

 

 ユニオン所属のエセックスと重桜の第五航空戦隊が一角、翔鶴型空母の瑞鶴のタイマン勝負が繰り広げられていた。

 勝った方がエンタープライズに挑むということもあって鬼気迫るものを感じる。

 まぁ蓋を開けてみればどっちも尊敬なり何なりを拗らせすぎて煮詰めすぎただけなのだが。

 

「……でも66連戦はやりすぎだと思うので止めてくるです」

「頼むわ。ついでに寮舎にぶちこんどいてくれ」

「はいです」

 

 スイー、と艤装を展開して艦載機なり空爆なり飛び交う海域に大した警戒も無く乗り込んでいく綾波。その背中が頼もしすぎる。

 

「……いや正直な話さ、エンタープライズ的にはあの二人のことどう思ってんだ?」

ていっ(鬼神)>

 

「そう、だな……エセックスは、本当に頼りになる。最新鋭の名に恥じないその在り方は、尊敬するに値すると思っている」

グワーッ!>

 

「なるほどねぇ。瑞鶴は?」

ていっ(全弾発射)>

 

「瑞鶴か……彼女とは鎬を削って闘った。彼女もまた誉れある重桜の航空戦隊に相応しい艦船だ……今は味方であることは、ありがたいと思っている」

グワーッ!>

 

「……そういうとこだと思うぞ」

ていっ(鬼神演舞)>

 

「えっ」

グワーッ!>>

 

 エンタープライズと話している間に、瑞鶴とエセックスの制圧を終えた綾波が二人を抱えたまま寮舎へと歩いていく。

 駆逐艦一隻で空母二隻を軽々持っている異様な状態でも、うちの不動のエースだからしょうがない。事実、すれ違う艦船の誰もツッコミを入れないのだから。

 

「彼女……綾波は本当に頼もしいな」

「ハハッ、まぁな……なぁ。エンタープライズ」

「ん?」

 

 苦笑しながら綾波を見送っていたエンタープライズ。

 俺の声に振り向いた彼女は、俺の顔を見てその表情を引き締めた。

 

「……どうしたんだ、指揮官?」

「……や、その……」

 

 ……あれ、何だろう。いつになく照れ臭い。

 いやむしろ何か恥ずかしくなってきた。なにこれ

 

「……その、な。エンタープライズ」

「う、うん」

「お前さんとも、長い付き合いだよな」

「……ああ。あなたの下へ着任してから、もう随分と経つ」

「戦闘なり秘書艦なり、何かと世話になってきたし、個人的にも、エンタープライズって艦船に対しては……まぁ、その。好きだとは、思ってる」

「……ど、どうしたんだ指揮官。あなたが急にそんなことを言い出すなんて」

「いや。らしくないって自覚はある。こんなオッサンが何言ってんだって……だから、なんだ」

 

 頬を赤くしてこちらを見つめるエンタープライズに二の句が告げられない。

 その瞳が、まるで何かを期待しているかのように輝いていて、それがなおさらこっちを追い込んでいる。

 

 ……腹ぁ括れアラフォー。

 

「!?」

 

 急に立ち上がってエンタープライズの傍に移動、驚いている彼女の前で膝をつく。

 

「俺としてはエンタープライズに支えてほしいし、俺としてもお前さんを出来うる限り支えてやりたいと思ってる!」

 

「だから!!」

 

 

 

「―――俺とケッコンしてください!!」

 

 

 

 そうして、懐から取り出した指輪を差し出した。

 

 

 

「―――」

 

 ぽかん、と。

 恐る恐るその表情を覗き見てみれば、そんな呆気に取られた顔をしていた。

 

「………」

「………」

 

 しばし続く無言。

 頭を上げるわけにもいかず、かといってこんな状態を続けているのも、例のやべー奴らがやってきそうで怖い。

 

 そんな時間が続いてしばらく。

 

「……指揮官」

「っ……なんだ?」

 

 ぽつりと呟いたエンタープライズ。その声に顔を上げる。

 

「……いいのか?」

 

 目尻を歪ませ、瞳の縁に涙を湛えたエンタープライズ。

 そっと、指輪を差し出す俺の手に、自分の手を添えて。

 

「いいって、何が?」

「いや、先ほどベルファストに指輪を贈った、という話を綾波としていたから、彼女たち以外にも渡すのだろうということは理解できていた。しかし……私で、いいのか?」

「……ああ、もちろん」

「戦いしか知らない女だぞ、私は」

「それ以外も覚えていきゃ良い。それに、エンタープライズ『で』良いと思ったんじゃあねえ」

「……」

 

「エンタープライズ『が』良いんだ、俺は」

 

「……指揮官」

 

 微笑んだエンタープライズに笑みを返して、その手の薬指へと指輪を通す。

 陽光を反射して光るそれを、エンタープライズは感慨深そうに見つめていた。

 

「……ありがとう、指揮官」

「なーに。そもそも前々から欲しがってたろう、お前さん」

「えっ……あ、いや、あれは」

「……これからもよろしくな、エンタープライズ」

「―――ああ」

 

 差し出されたエンタープライズの手を取る。

 握り合った俺の手を、彼女は両手でしっかりと包み込んできた。

 

「―――命の果てまで、一緒に歩もう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレェェェイゴォォォォォストッ!!!」

 

「 終 わ り だ ッ ! ! ! 」LuckyE:Lv10

 

「サヨナラ!?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あら、お帰りなさい指揮官」

「おめぇ何勝手に俺の酒飲んでんだ鉄血コラ」

 

 綾波の手から逃れたはいいものの、エンタープライズにあっさり返り討ちにされて今度こそ寮舎に引き摺られていった瑞鶴を見送って執務室に戻ったところ、鉄血の重巡が一升瓶の酒を空にしていた。

 ……今夜飲もうと思ってた物をこいつ……

 

「つーかそもそもまだ昼間で今は仕事中だろが。委託任務任せてたよなお前?」

「とっくに終わったわよ。報告に来たのにいないんだもの」

「執務室にいなくても母港のどっかにいるに決まってんだろ」

「疲れてたのよ。だから戻るまでここで待ってようと思って」

「上官の私物の酒を勝手に空けた理由は?」

「美味しそうだったから。ついね」

「……はぁ」

 

 まったく悪びれる様子の無い重巡――プリンツ・オイゲンにため息が漏れる。

 言葉の上ではシラフに見えても、蒸気した頬とへにゃへにゃと緩んだ口角でだいぶ酔いが回っているとわかる。

 もう怒る気も失せたので、机に着いて報告を聞くことにした。

 

「……んで? 委託は?」

「滞りなく終了。大鳳がなんでかフォックスハウンドにやたらと絡んでたことを除けば問題無し」

「あいつは……これからはアルバコアも一緒に行かせにゃダメだな」

 

 

 

大鳳ー!>

KYAAAA!?>

 

 

 

「………」

「………」

「……あっ、そうだ(唐突)。ねぇ指揮官」

「流すのか……なんだよ」

 

 するりと

 いつの間にか椅子に座る俺の背後に回っていたオイゲンがしなだれかかってきた。

 そのまま指を俺の胸元に這わせ、頬同士を擦り付けてくる。漂う酒の匂いに顔を背けざるをえないが。

 

「なんで逃げようとするのよ」

「酒臭ぇんだよ」

「女の子に臭いだなんて、ずいぶんな言い草ね」

「残当なんだよなぁ」

 

 ぐいぐい胸押し付けてきてるし、頬めっちゃ擦り付けてきてるし、服の前開けられて地肌を直接触ってきてるし。

 

 だから目潰しくらいするよね

 

「イイッ↑タイ↓メガァァァ↑!?」

「しつけぇ」

 

 うぉぉぉ……! と両の目元を押さえてのたうち回るオイゲンを差し置いて執務を進める。

 ……あー、蒼龍と飛龍の近代化改修かぁ。良いと思うけど、改造図どれだけ残ってたっけか。

 

「あ、あんたねぇ……!」

「構ってほしいなら仕事終わるまで待てや。それかヒッパーんとこでも行け」

「……むぅ」

 

 背後から拗ねたような声が聞こえる。

 それが動く気配を感じて、ふと見てみれば覚束ない足取りで一路ソファへ。そのままそこに横倒れになった。

 

「おい」

「ふんっ。このままここで寝てやるわ。せいぜい寝込みを襲わないように注意なさい」

「襲わねーよ。てか寝るなら寮舎で」

「Zzz」

「早っ!?」

 

 思ってたよりも酔いは深かったらしく、目を閉じるなりすぐに寝息を立て始めたオイゲン。

 すやすやと心地よさそうに眠る姿に、思わず毒気が抜かれてしまった。

 

「……はぁ」

 

 ため息二度目。

 眠りは深そうなので、とりあえず内線で手の空いていたエディンバラを呼び出して、寮舎まで運んでもらうように手配をする。

 

「………」

 

 ソファで眠りこけるオイゲンの前に膝をつき、そっとそのしなやかな指先を手に取る。

 

 

 

 指揮官を始めて、一週間ほど経過した頃だったろうか。

 突如としてふらりと母港に現れたのが、他ならぬプリンツ・オイゲンだった。

 

 飄々としたその風貌や雰囲気、性格とは裏腹に戦場においては重巡らしい火力と装甲、加えて艦隊の面々のサポートまでこなすその戦い方に、当初どころか今でも助けられている。

 

『この程度じゃ足りないわ。もっと、もっとだ……!』

 

 気付けば、艦隊に無くてはならない一隻にまでなったプリンツ・オイゲン。

 今みたいに、思い付いたかのようにふらりと現れては何だかんだでこちらの張り詰めた気を抜いてくれたり。

 

「……ich liebe dich.(愛してる)か…」

 

 以前言われた言葉を口に出して反芻する。

 あの時はさっぱりだったが、意味を知ってからはあの対応はかなり失礼だったことに思い至った。

 

 捉えどころが無く、普段からの言動が本気か冗談かの判別もいまいちつきにくいが

 

 それでも、もしあの時の言葉が本心からのものであったなら

 

「応えにゃならんよなぁ、男としても」

 

 だから、その薬指にそっと指輪を通しておく。

 本当なら面と向かって渡したかったが、普段から何かとからかってくることへのせめてもの意趣返し。あと酒飲まれた恨みも込めて。

 むず痒そうに身を捩るも、その寝顔は穏やかなまま。

 

 やってきたエディンバラに彼女を任せる。

 指輪に驚いていたようだが、特に何も言わず、エディンバラにも口止めを頼んでおく。

 

 起きてそれを見た時の反応が今から楽しみである

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……んぅ……頭いたっ……」

「ああ、目覚めたか」

「ん……ふぃーぜ……?」

「水だ。指揮官の下で、飲酒を行ったと聞いた」

「……あー。そういえばそうだったわね……うわ、もう夜じゃない……」

「心地よさそうに眠っていた故、そのままにしておいたのだが……よかったか?」

「ええ……」

「……して、その指輪は?」

「は? 何のことよ」

「? 指揮官より贈られたものなのでは?」

 

「?」

「……?」

 

「―――!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

\ホアアアアアアアアアアアア!?/

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー驚いてる驚いてる」

「流石に趣味悪いと思うです」

「そう言ってくれるな綾波」

 

 もう夜遅くである。

 さて、この後乗り込んでくるのか夢オチを疑うのか。

 

「……それで指揮官」

「ん?」

「ベルファストさん、エンタープライズさん、オイゲンと来て……あと一人は誰なのです?」

「あー、それな。まぁ何て言うか……ちょいと腹括んなきゃいけない相手でな……」

「? 受け取ってくれそうにない人なのですか?」

「ああ、いや。受け取ってはくれると思うんだ。ただ、俺自身の問題でなぁ」

 

 そう。

 ここまで三人に指輪を贈り、残る候補はあと一人になった。

 

 ただ、贈るには本当に度胸がいる相手なのだ、マジに。

 

「……早い方がいいんだろうけど、な」

 

 最後の一箱を手にごちる。

 無論、贈るつもりはちゃんとあるが、相手を思うとどうにも腰が重くなってしまう。

 

 と、そこへ

 

 

 

ドンドンドン!>

 

 

 

「「!?」」

 

 連打される部屋の扉。

 何事かと返事をしようとする間にも扉は叩かれ続ける。

 

「なんですかー!?」

 

寝てるのかーい?>

 

「いや起きてるけどー?」

 

 その答えを聞いた珍客。

 勢いよく扉を開けてドカドカドカドカ入ってきて俺達の目の前に座ったかと思ったら何故か電気を消してから点け直して開口一番。

 

 

 

 

 

 

 

「腹を割って話そう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 濡羽色の髪。黒で統一された服。

 頭部から伸びる二本の角。

 

 即ち、三笠。

 

 ―――俺が指輪を贈るつもりの、最後の一人。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「………」

「………」

 

 気を利かせてくれた綾波を部屋に残し、二人で波止場へと出る。

 月明かりに照らされた海から響く波音。俺に背を向ける三笠の姿はどことなく寂しそうで。

 

「……三笠?」

「……なぁ、指揮官」

 

 俺の問いかけに振り返る三笠。

 何かを孕んだその眼差しが俺を射抜く。

 

「……お主は、我に何を見ている?」

「……何を、って?」

「誤魔化すな。……お主の眼は、我を見ながらも別の何かを見ているだろう?」

「っ……」

 

 ……察せられていたのは、当然と言えた。

 女性は異性からの視線には敏感、だというのはわかってるつもりでいた。だから、この問いかけはいつか訪れるものだとわかっていたはずだった。

 ……頭ではわかっていても、思わず目を背け続けていた。

 

 来る時が来たのだ、と小さく覚悟を決める。

 

「……ああ。そうだよ」

 

 絞り出した声で、そう告げる

 

「三笠を通して……貴女(・・)を見てた」

 

 

 

「そんなつもりは無かった。けれど……今、俺の目の前にいる三笠じゃあなくて……ミカサさん(・・・・・)を、俺は見ちまってたんだ」

 

 

 

 さぁ―――訣別(償い)の時間だ

 

 

 

「ミカサさん、だと……?」

「ああ。……綾波にも言ってないことだけど、実はガキの頃、『三笠という艦船』に会ったことがあるんだ」

「……それは」

「もちろん、お前さんのことじゃあない。お前さんとは別の『駒』のミカサさんさ」

 

『駒』と『素体』

 KAN-SENという存在を語る上では欠かせない、その存在の根幹に関わる二つの単語。

 曰く、『駒』とは即ち、今この母港にいる、或いは世界のどこかにて戦うKAN-SENを指す、『素体』のコピー。当然、『素体』は『駒』の大元であることを示す。

 

 指揮官になってから知りえた事実から、あのミカサさんもまた、『駒』の一つだったのだと理解できていた。

 

「ガキの頃、本当にたまたま見つけたんだ。傷だらけで浜辺に倒れてたあのヒトを。何者か、なんて考える間もなく助けようとして、でも出来ることなんて何も思い付かなくてさ」

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 本当なら救急車呼ぶなり人を頼るなりするはずなのに、どういうわけか自分だけで助けようだなんて無意味に躍起になって。

 

「……まぁ、大したことするまでもなくあのヒトはあっさりと目ぇ覚ましたんだけどさ」

「……して、そのミカサさん、とやらは?」

「しばらくはその浜辺にいたよ。人目につくわけにはいかないから、なんて言ってどこにも行こうとせず、俺にも口止めさせて。ちょいちょい食い物とか持って行ったりはしたけど」

 

 それでも、日に日に衰弱していく彼女を見ているしかなかった自分。歯痒い思いをするばかりだったのも覚えている。

 

 ―――恋しいと思う相手に対して何も出来ることが無いというのは、思ってたよりも悔しかった

 

「色んなこと話したり、教わったり。そんな日がしばらく続いた頃……セイレーンがその海に現れた」

 

 規模は大きくなかったように思える。

 事実、手負いのミカサさん一隻で返り討ちに出来たほどだったのだから。

 

 けど

 

「……その戦闘で、ミカサさんは海に消えてったよ」

 

 逃げよう、と何度も言った。一人じゃ無理だとも。

 それでもミカサさんは、頑として首を縦には振らなかった。

 

「『我らの砲火は故国と、何よりお主のような子供の未来を守るためにこそ在る』……それが、あのヒトから聞いた最期の言葉だった」

 

 耳どころか全身を震わせる砲の音と振動

 海面に立ち上る水柱

 沈んでいく鉄塊と、それを見据える小さな背中

 

 後には何も残らず、ただ静かな海―――見慣れた光景だけが広がっていた

 

「……その者を、想っていたのか、お主は?」

「……ああ。初恋だった。……誤解の無いように言っておくがな、その辺はもう本当にただの思い出だからな?」

「そのような顔で言われても説得力に欠けるぞ」

「解せぬ……」

 

 実際、三笠と出会うまでは本当にたまに思い出す程度の記憶でしかなかった。二十年以上も前なんだから当然だが。

 

「まぁ、そんなわけだ。……お前さんとあのヒトは違う。同じ顔、同じ声、同じ姿形をしてはいても……『三笠』と『ミカサさん』は別の存在なんだ。そんなことは、わかってるはずだったのにな。……それでも、どうしてもダブらせて見ちまってた。本当にすまん」

 

 しっかりと、頭を下げる。そうしなければ、いやこれでもなお足りないであろう不躾を、俺は目の前にいる女性にしてしまっていた。

 こんなことをしてきたのに、そのクセ指輪を贈ろうとしていただなんて厚かましいにもほどがある。

 

「……顔を上げよ、指揮官」

「………」

「言いたいことはわかった。お主が我を見る際の視線の理由も理解できた。……そして、それらを踏まえた上でだ」

「おう」

 

「―――我は今からお主を殴ろうと思う」

「―――断れる立場にない。全力で来い」

 

 顔面に衝撃

 身体に走る浮遊感

 足が地面から離れて、一拍遅れて―――着水

 

「真冬の海に落とされるまでは想定してない!」

「何を言うか! これで済んでよかったと思え!」

 

 海に漂う俺と、見下ろしてくる三笠。

 その表情は怒り心頭。初めて見る、三笠の本当の怒りだった。

 

「ミカサさんとやらと比べなかったことは評価しよう! だがな、厳密には違えど、過去の自分と被って見られてきた我の心が理解できるか!?」

「……」

「他の者と違う目で見られることがどれだけ苦痛か、何故自分だけが、などと女々しい思いを懐いてしまう自分をどれだけ恥じたか! 酒気を頼り、友にさえ迷惑を被らせてしまったことがどれだけ辛いか!」

 

 そこまで言って、肩で息をする三笠。

 海から上がり、ずぶ濡れだろうと気にせず、その前に立つ。

 

「……何よりも、お主が理由を教えてくれないことが辛かった」

「……ごめん」

「だが、今日聞くことが出来て安心した」

「三笠……」

「……指揮官。最後に一つだけ訊いても良いか?」

「ん?」

 

 

 

「お主は我を―――今、ここにいる()のこと、どう思っているの?」

 

 

 

「―――」

 

 がらりと変わった三笠の口調と雰囲気。

 これこそが彼女の『素』だと知っている。だからこそ、それほどまでに本気だとわかる。

 

「……色々、ある」

「色々……?」

 

 艦隊の要

 頼りになる先達

 この母港の艦船達の導

 俺を過去と訣別させてくれるヒト

 

 けど、それよりも何よりも―――

 

 

 

「―――大切だと、思ってる」

 

 

 

 この答をどう捉えるかは彼女次第だ。

 紛れもない俺の本心だが、もしかしたら彼女の求める答とは違うかもしれない。最悪、はぐらかしていると思われるだろう。

 

 それでも、大切な存在だということには変わりない。

 過去のことを抜きにしても、今ここにいる三笠を、俺は

 

 結果

 

「……はぁぁぁぁぁ」

 

 大きなため息と、拗ねているように尖った唇。

 

「……だめですか?」

「ダメ。ダメ中のダメに決まっているだろう、何だその答えは。女が決意と共に投げ掛けた問いに対して不誠実極まりない」

「ぐうの音も出ない」

「……けど、嘘で好きだなんて言われるよりはマシ、なのかな」

 

 しょうがないなぁ、なんて言いながら、三笠はそっと右手を差し出してきた。

 

「? なにその手」

「指輪。あるのだろう?」

「え゛」

「部屋を出る時、懐に入れてるの見えていたぞ」

「……」

「我と話すだけなら、そんなことをする必要は無い。となれば……と、考えていたのだが……わ、我の自惚れではないよな? な!?」

 

「……ははっ」

 

 自信満々な表情から一転、あたふたと慌て出すその姿に思わず苦笑。

 一言呟いて、服と共にずぶ濡れになってしまった箱を取り出す。

 

「……良いのか?」

「ん?」

「いや、その。さっきまでの話の流れからこうなるのは、流石に気が引けるし……ジュウコンになるんだけど」

「……まぁ、な。一人の男が仮初めとはいえ妻を複数娶るなど、我の時代からすれば正気の沙汰とは思えぬ。……が」

「?」

「―――君となら、それもまた佳し。なんて、ね」

「……敵わねぇなぁ」

 

 箱を開き、そこから取り出すのは最後の指輪。

 差し出された三笠の手を取り、その薬指へとそれを通す。

 

「……指揮官」

「うん?」

「もう、私と彼女を重ねないと、誓える?」

「……ああ。あのヒトを思うのは、今日で最後だ」

「目の前にいる私を、ずっと大切にしてくれる?」

「もちろん。そのつもりだ」

「……なら、よし」

 

 そう呟いて、三笠がそっと目を閉じた。

 俺に向けて顔を上げ、そのまま身動ぎせず。

 

 それが意味するものは、一つしかない

 

 

 

 一つしか、ないんだけど、なぁ……

 

 

 

 

 

 

 

『綾波もまだなのに他の人が先とか絶許です』

『こ、ここは公の場だぞ指揮官……』

『ベルはいつでも待機しておりますのに……』

『はよ』

 

 

 

 

 

 

 

 視線の先、三笠の後方から目だけでそんな訴えをしてくる四人。漏れなく指輪贈った面々である。

 

「……腹を決めた女を待たせるとは」

「えっ」

「よし。我の妻としての最初の仕事は、お主に女の扱いを叩き込むことのようだ」

「いや、ちょ、ちが」

「安心せよ―――とことん付き合ってあげる♪」

 

「嘘ォォォォォ!!?」

 

 ぽーん、と

 

 殴り飛ばされた先ほどと違い、今度は一息に放り投げられた。当然海へ。

 

 

 

 ……まぁこんなオチはついてしまったが

 

 とりあえずは当初の予定通り

 

 

 

 ベルファスト

 

 エンタープライズ

 

 プリンツ・オイゲン

 

 そして、三笠

 

 

 

 綾波に次ぐ四人の艦船とのケッコン、完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗がりの中、静かに息を潜める影が二つ

 

 瞳は紅く、光は灯らず

 

 吊り上がった口角は獣の如く

 

 現実を喰らわんと、二つの影は牙を剥く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しーきーかーんーさーまー(しーきーかーんーさーまー)

 

 

 

 

 

 

 

 




SSRばっかりなのは触れない方向で一つ
兄貴姉貴のケッコン衣装がもっと早く告知されてればオイゲンのポジション兄貴姉貴になってたのは秘密だ

最終回と同時投稿してます
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