アラフォー艦隊のやべー奴ら   作:オパール

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旅 に 出 よ う や




最終回なので年内最後の初投稿です
ここまでの応援、感想、評価の全てに感謝を
本当にありがとうございました



※1/1、ラストを少し変更


翔鶴「赤城先輩」

「まぁ落ち着け。魚雷を突き付けられては落ち着いて話も出来やしない。……指揮官は無事だ、少なくとも今の所はな。この先どうなるかは卿次第だ。無事に取り戻したければ……我らに協力しろ。okay?」

 

 

 

綾波「おっけぃ」ズドンッ

 グラーフ・ツェッペリン「ウボァー」

 

 

 

 前略。

 指揮官が拉致された。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 犯人は当然と言うかなんと言うか、重桜が誇る航空戦力、赤城と大鳳の二名。

 

 事の発端はやはり、指揮官のジュウコンにあった。

 かねてから有言無言問わず指揮官への愛を公言して憚らない二人だったが、いざ指揮官が指輪を贈るということになって自分達が対象でなかったことは完全に予想の埒外であったらしい。まぁ周りからしてみれば残当と言わざるをえないのだが。

 

 結果、何を血迷ったのか睡眠中だった指揮官を拉致監禁するという暴挙に出た次第である。

 

 暴力的なまでの実力を誇り、なおかつ指揮官へのグラヴィティな想いを持つ二人が(呉越同舟に過ぎぬだろうが)手を組んだとあって、艦船一同が即座に警戒態勢へと移行した。

 特に最も長く指揮官と同じ時間を過ごした綾波を筆頭に、指揮官からの寵愛を得るに至った、ベルファスト、エンタープライズ、プリンツ・オイゲン、三笠の決意のほどは凄まじかった。

 どんな形であれ、赤城と大鳳に協力した艦船達をすぐさま特定、情報を聞き出した上で叩き伏せたのである。

 

『ご主人様はどこですか、アーク・ロイヤルさん』

『し、知らないぞ!? ……そうだ、レンジャー殿が知っている、彼女と会う約束をしてたんだ!』

『工廠でですか?』

『……どうしてそれを』

『このメモ書きが』

『』

『貴女への処罰はご主人様にお任せすると言いましたね?』

『そ、そうだベルファスト! まさか誇り高きロイヤルのメイド長が自分の発言を反故にするなど』

『 あ れ は 嘘 で す 』

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

『怖いですか? 当然です、ユニオン最初の特型空母の私に敵うもんですかっ』

『試してみるか? 我とて前弩級戦艦にしてかつての連合艦隊旗艦だ』

 

『オイゲンさん? それは』

『533mm五連装磁性魚雷(T3)よ』

 

『……さぁ来い瑞鶴。爆撃機なんて捨てて、かかってこい。楽に倒してはつまらんだろう。機銃掃射を叩き付け、私が苦しみもがいて、沈んでいく様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのか瑞鶴?』

『……あんたを沈めてやる……!』

『さぁ、オフニャを離せ。一対一だ。楽しみをフイにしたくはないだろう。来い、瑞鶴。怖いのか?』

『今日こそ越えてやる……猫なんて知らない、ッハハハ……猫にはもう用は無い!』

『………』

『クハハハ……デストロイヤーT3だって必要無いわハハハ……誰がお前なんか! お前など恐れるものか!』

 

『―――野郎ぶっ殺してやぁぁぁぁるっ!!!』

 

 

 

 同じ母港の仲間達との不毛な争いに傷付きながらも、それでも誰一人として決定的な情報を掴めなかった。

 加えて、もう一つ、何よりも不安な問題がある。

 

 

 

 愛宕が見当たらないのだ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 この手の問題では真っ先に主犯候補に名前が挙がる愛宕だが、何故か今回はとんと音沙汰が無い。

 姉の高雄でさえ姿を見ておらず、また今回の件に関わっている気配すら無い。

 艦隊初期から母港の中心どころか至るところで指揮官への愛を叫び続けていた彼女が、指揮官のジュウコンに対して何も言わない。

 胸中に一抹の不安を抱えたまま、指揮官を愛する嫁艦たちは母港中を奔走していく―――

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「指揮官様。寒くはありませんか?」

「あ、うん。大丈夫」

「指揮官様。お粥が出来ましたが食欲は……」

「ある。いただくよ」

「でしたら赤城はクスリとお召し物の替えを用意しておきますわ」

「食事と食休みがお済みになったら、その……あ、汗を拭ったり着替えのお手伝いなどを大鳳と赤城さんで!」

……ゲフン。いえ、なんでも」

「うん、まぁそこはいいんだけどさ。まず質問」

「「?」」

 

「何で普通に看病されてんの俺?」

 

 真冬の海に叩き落とされたらまぁ風邪引くよね。むしろ死ななかった自分に驚いた。

 あの後、綾波の他、エンタープライズ達四人を含めた六人で大して広くもない部屋で雑魚寝。俺の隣、つまり綾波の反対側は誰かで一悶着あったが、綾波の鶴の一声でエンタープライズに決定したりとかあったが、概ね問題等はなく。

 

 ……問題は目覚めてから。

 頭と喉は痛いわ、発熱してぼんやりするわ動く気になれないわで、ああ、風邪だななんて考えに至って

 

 ふと、そこが自分の部屋じゃないことに気付く。

 そして傍らには赤城と大鳳。

 

 その瞬間に全てを察した

 

 

 

『―――いやこら拉致だよ!!』

 

 

 

 こいつら俺が寝てる間にやりやがった。

 しかも綾波、エンタープライズ、ベルファスト、プリンツ・オイゲン、三笠の睡眠を妨げず、なおかつ気配すら悟られなかったようで。

 

「仕事させてくんない?」

「ご自愛なさってくださいまし指揮官様」

「そうですわぁ。ただでさえ普段から根を詰めがちなのですから、こういう時くらいは」

「つってもなぁ」

 

 頼んでみてもにこやかに笑みを返されるだけで取り付く島も無い。

 粥の乗ったレンゲを差し出してくる大鳳を射殺さんばかりの眼を向ける赤城だが、どういうわけか何もする気は無いらしく服や薬を手にあちこちを歩き回っている。

 

「はぁい指揮官様ぁ。あ~ん♡」

「なぁ。まずここどこ」

「あ~ん♡」

「おいちょっと」

「あ~ん♡♡♡」

「……アー」

 

 言外に「はよ食え」と言われたので仕方なくそのレンゲへとかぶりつく。

 熱すぎず、かと言ってぬるいというわけでもない適温で柔らかく煮込まれ、あっさりとした味付けの米を咀嚼。傷んでいる喉を通りすぎても障害にはならず、スッと胃まで落ちていった。

 

「……うまい」

「うふふっ。何よりですわぁ。ささ、残りもどうぞおあがりくださいませ」

「ああ、うん。……それはそれとしてだ、あやな」

 

 み、と言おうとした瞬間、喉元に突き付けられる箸。

 目の前の大鳳の目付きは今しがたまでとは一変、剣呑としたそれへと変わっていた。背後から感じる赤城の視線も同様に。

 

「……指揮官様ぁ? 大鳳達と一緒なのに、他の女を気にかける必要がありましてぇ?」

「何も考えず、他の娘のことは差し置いてよろしいのよ指揮官様? 今ここには赤城と、大鳳と……指揮官様だけなのですもの」

「どうぞ大鳳を見てくださいまし、指揮官様ぁ」

「無論、赤城のことも見てくださらないと。ねぇ指揮官様」

 

「「さぁ……さぁさぁ―――指 揮 官 様 」」

 

 ―――タスケテ!!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……どうだ、ヘレナ?」

「ダメ……SGの感度を最大にしてるけど、捕まらない……いつもはこんなこと無いのに」

「そっか。……赤城と大鳳、指揮官をどこへ連れ……いつも?」

「? ええ。指揮官の動向はいつもSGで把握しているから……」

「えっ」

「え?」

「………」

「………」

「……と、とにかく早く指揮官を見つけないとな! エンタープライズも必死なんだし!」

「そうね。……待ってて指揮官。どこにいても……私が見つけてあげるから

(違う意味に聞こえるぅ……)

 

 

 

「まだ下僕は見つからないの!?」

「申し訳ありません! 未だ足取りすら掴めず!」

「ぐぬぬ……この私から逃げおおせようなんて良い度胸してるじゃない……意地でも一番に見つけなさい! 他の陣営に負けるなんて、ロイヤル王家の栄光に恥を塗るわよ!!」

「Yes,Your Majesty!!」

「ここにいたかウェールズ! さぁ、私と共に……何故逃げるウェールズ! お姉ちゃんだぞ!?」

「遊んでるんじゃないわよそこぉ!!」

 

「……イラストリアス姉ちゃん。ユニコーンに手伝えること、ある?」

「ユニコーンちゃん……」

「ユニコーンも、お兄ちゃんのこと探せる、から……だから……!」

「……そうね。じゃあ、一緒に艦載機を飛ばして、空から探してみましょうか」

「う、うんっ。ユニコーンがんばる……!」

 

「あの二人のケツ蹴り上げてあげないと」

「ユニコーン、時々姉ちゃんの言ってることわからない」

 

 

 

「ニクンデイルスベテヲ……」ガー

「……今の、ツェッペリンだよね」

「綾波の雷撃を至近距離で喰らったそうな」

「あっ……(察し)」

 

「あの子はどこかぁ!!!」

 

「……ティルピッツ。また暴走してる……」

「シャルンホルストとグナイゼナウを傍らに置けば実質弱体化させられる。……ほら、向かった」

「……じゃあ、私達もまた探そっか」

「うむ。……待っていてくれ、愛する人……」

 

 

 

「吐け! さぁ吐け二航戦! 赤城と大鳳は指揮官殿をどこへ連れていったのだ!!」

「へぶぅ! へぶぅ!」

「やめっ、やめてくれ高雄! ボクも蒼龍姉様も何も知らないんだ!!」

「そんなはずがあるか! 瑞鶴が二人の協力下にあり、翔鶴も携わっていた以上、お主達が知らぬわけがない!」

「……あの……私達本当に何も……」

「……拙者が相手をしている内に白状した方が身のためだぞ」

「「?」」

「―――直に戦艦の加賀が来る」

「「」」

「大艦巨砲主義の誉たる主砲を浴びたくないのならば、すぐに白状するのだ二航戦!!」

「へぶあ゛ぁ゛!」

「ねえさまああああああああ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 思い思い、全ての艦船が手を尽くして指揮官と赤城達を捜索している。

 だがこれといった成果は得られず、時間ばかりがただ残酷に過ぎ去っていく。

 もはや日も沈み始め、母港を染めるのは夕焼け色。

 

(指揮官……)

 

 綾波の胸中に焦りばかりが募っていく。

 小さな手がかりすらも見つけられず、特に何も知らなかったらしい明石や、大した情報も無いくせにそれを餌に資金をボろうとしてきた不知火を処しても時間を浪費しただけにすぎなかった。

 

 待てど焦がれど―――大好きなあの人は、どこにもいない

 

 

 

「―――!」

 

 

 

 その名を、叫ぶ

 

『指揮官』という肩書きではない

 

 自分だけが知っている、あの人の『名前』を―――

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ―――綾波の声が聞こえた気がした

 

「……あ゛、ぁぁ」

「お目覚めですか、指揮官様?」

「……み゛ず」

「こちらに。ご気分のほどは如何様ですか?」

「……頭痛なんかは引いたけど、熱下がった気ぃしねぇ……むしろ、さっきより熱い……」

「そうですか―――それは上々」

「は……?」

 

 頭でその言葉を理解するより先に、視線を結び合わせた赤城と大鳳が覆い被さってきた。

 

「おま゛、え゛ら……!」

「ふ、フフフフフ……ああ、この時を一日千秋の想いで待ちわびておりましたわ!!」

「盛りやがった、な゛……!?」

「いいえ。クスリに頼るなど下の下。……ただ、食べ合わせ。というものもございましてよ指揮官様。お粥の味付け一つ取っても、存外化けるものでして」

 

 ……まずい

 冗談とか抜きにして本当にまずい

 

「フフっ、アハハハハ……はぁ。指揮官様。この赤城を差し置いて、よもやあのグレイゴーストに指輪だなんて……」

「大鳳も、百歩譲って三笠さんだけならまだ耐えられないこともありませんでしたのにぃ……ロイヤルや鉄血にまでお渡ししてしまうなんて……イケナイ指揮官様……」

「そんなイケナイ指揮官様はどうしようかしら」

「ええ、ええ。それはもちろん―――」

 

 

 

「「オシオキ、です」」

 

 

 

「……ゃ、め」

 

 力の入らぬ身体では抵抗らしい抵抗はいっさい出来ず

 喉奥から掠れた声を出すしか出来ない

 

 視界が紅色で覆われていく。ギラついた眼光、それはまさに捕食者が獲物を捉えた瞬間のそれだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バタン、と

 赤城と大鳳の後方から物音が複数

 

「いたたた……まさか執務室に隠し扉と滑り坂があったなんて……」

「もうジャベリン。何してるんですかっ」

「……二人とも退いて……重い」

「じ、ジャベリンはそんなに重くないよぅ!」

「そういうのいいから」

「アッハイ」

「まったく……早く戻って指揮官を……ん?」

 

 聞き覚えのある声が三つ。

 重石かと思うほどに重い頭を起こしてみれば、そこには三隻の駆逐艦の姿が。

 

 

 

 ジャベリン、ラフィー、そしてZ23

 

 

 

 綾波を加えて、いつも四人で行動を共にする親友同士の姿が、そこにあって。

 俺には―――天からの救いに見えた。

 

 

 

「―――いたぁーーーーーッ!!」

「指揮官、お疲れ……?」

「そういう問題じゃないです! あれってどう見ても……あの、その……お、犯さ……ンンッ! と、とにかく、赤城さんと大鳳さん! 指揮官を解放していただきます!」

「チッ。まさかあんな小娘共にこの場所が割れるなんて……!」

「問題ありませんわ赤城さん。……ここで奴らを仕留めれば、万事元通りですもの」

 

 大鳳の言葉に呼応するように、その身体に艤装が展開される。一つ頷いた赤城も同様に。

 

 だがその行動を予想していたのか、大した驚きも無く三隻の駆逐艦(主人公)達は、何かを手にした右手を高々と掲げた。

 

「……? 何です、あれ」

「―――」

 

 大鳳は首を傾げるだけだったが、それの正体を知る赤城は一瞬にして顔色を変えた。

 

「大鳳、すぐに攻撃なさい!」

「え!?」

「航空隊、直ちに発艦!!」

「赤城さん、あれはいったい」

「いいから速く! あれを……!」

 

 

 

「あのスイッチ(・・・・)を押させるなぁーーーッ!!」

 

 

 

「いいえ!」

「限界です!」

「押すね」

 

 

 

「「「今だッ!」」」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 母港に散り散りになっていた艦船達が、一斉に執務棟を目掛けて走り出す。

 

 エンタープライズも。

 ベルファストも。

 プリンツ・オイゲンも。

 三笠も。

 

 そしてもちろん―――綾波も

 

 ジャベリン達が持っていたものは、この母港の駆逐艦ならば必ず持ちうるモノ。

 いつ起こるかわからない緊急事態(ロリコン)に備え、母港内にいる艦船全てに等しく所在を知らせる緊急通報装置。

 

 即ち―――防犯ブザー(アーク・ロイヤル対策)である

 

 一般的なそれとは異なり、音だけでは無く艦船それぞれが所持する受信装置を振動させることで緊急事態(ロリコン)の発生を検知。取り付けられた小さなモニタに場所が表示されることで、すぐさま対策班が現場へ急行。事案の対処にとりかかるというシステムである。

 もちろん、受信装置は駆逐艦も所持している。でなければ知らず知らずの内に事案に巻き込まれてしまう可能性もあるのだから。

 

 そして、今回はそれが功を奏した。

 

 指揮官の捜索に辺り、綾波は親友達と一つの取り決めを行っていた。

 

 

 

『綾波かジャベリン達。もしどちらかが指揮官を見つけたら、無理に赤城達を相手取ろうとせず、すぐにブザーを鳴らすべし』

 

 

 

 アーク・ロイヤルがベルファストの手によって早々に行動不能(リタイア)に追い込まれた以上、もはやブザーを使用する理由は指揮官を見つけた自分の居場所を教えるのみ。

 

 もし自分達以外の誰かが見つけていた場合は意味を為さないが、それでも今、この策は正しかったと証明された。

 

「―――指揮官!!」

「赤城ィィィィ!!」

「大鳳ーーーー!!」

 

 綾波を先頭に、エンタープライズや三笠。その他全ての艦船が殺到する。

 

 状況は決した。

 赤城達の手元に指揮官はいるが、それでも彼女らの攻勢を掻い潜っての奪還は容易い。

 

「……赤城。大鳳。指揮官を返せ、です」

「返す? 誰に?」

「……?」

「そうでしょう? 赤城と指揮官様は出逢った時……いいえ。出逢う前から結ばれる運命にあるの。お前がいつから指揮官様を愛するようになったかなんて興味無いわ。意味も無い。だって―――指揮官様と赤城は、最初から繋がっているのだもの」

 

 熱に浮かされたように語り続ける赤城。

 天を仰いだかと思えば、うなされる指揮官の頬へと手を添える。

 

「―――だから邪魔をするな小娘」

 

 殺気。

 重桜艦隊が誇る第一航空戦隊の名に恥じぬ眼光が綾波を、そしてその後ろの艦船達全てを射抜く。

 

 だが、綾波は一歩も退かず

 

「……訊いてもいいです?」

「……なんだ」

「赤城は、指揮官が好きなのです?」

「何かと思えば、そんな当たり前……」

「ああ、いえ。訊き方が悪かったです。……赤城が好きなのは、『指揮官』ですか? それとも……綾波達が大好きな、『今そこにいる』指揮官ですか?」

「―――」

「何だか赤城の言い分は、『指揮官なら誰でもよかった』という風に聞こえるです。綾波は『駒』だけど……でも、『綾波の指揮官』を好きだという気持ちは、今ここにいる綾波だけのものです」

 

 その右手―――今でも色褪せない、一番最初の指輪が光るその手で、胸元を握りしめる。

 夕焼けの如く輝く瞳で真っ直ぐに、赤城を見据える。

 

「綾波はきっと、他の指揮官の所に行っても、今みたいに胸を張って指揮官を好きだと言える自信は無いです。綾波が好きなのは、好きでいたいと思ったのは―――」

 

 

 

 ―――どんな時も綾波を選んでくれた

 

 ―――今ここにいる、綾波の指揮官です

 

 

 

「……ぁゃ、な、み……」

「……赤城。赤城が好きなのは―――

『指揮官という概念』ではないのですか?」

 

「―――ほざいたな小娘」

 

 烈火の如き怒りが迸る。

 十字を象った紙片が舞い踊り、現れた何機もの艦載機が、全てを飲み込まんと室内に躍り出た。

 

「生きて帰れるなどと思うな……!」

 

 数的不利なれど、この上ない侮辱を受けて引き下がれるほど赤城は出来ていない。

 死なば諸とも、とばかりに艦載機たちへと攻撃の指示を飛ば―――

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら。お痛が過ぎますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そうとしたところで、全て撃ち落とされた

 

「は……?」

 

 呆気に取られる一同。

 集団の背後から聞こえたその声に、思わず全員が振り返る。

 

 

 

「鳳翔、さん……?」

 

 

 

 重桜の軽空母、鳳翔。

 いつも通りの温和な笑みの中に静かな怒気を携えて、その姿はそこにあった。

 

「鳳翔……さん……!」

「もう。指揮官様どころか皆さんにまで迷惑をかけて……それでも栄えある一航戦ですか?」

「ッ……大鳳、さっきから何故なにも」

 

「オッスオラアルバコア!」

「」

 

「」

 

 いざとなれば人身御供にでもしようと思っていた相手がとっくに屍と化していた。

 この時点でもう八方塞がりは確実。これが他の奴なら指揮官を人質にでもしただろうが、自分のために指揮官を傷付けるなどという考えは赤城には無い。

 

 つまるところ

 

「……フッ。あは、アハハハハハハ!!」

 

 赤城の敗北は、決定した。

 

 だからこそ

 

 

 

「艦載機たち―――私を撃て」

 

 

 

 残っていた最後の戦闘機を自身へと向ける。

 

 そもそも方法として間違っていたのだ。

 自らの想いに酔いしれ、指揮官を得ようとした。その結果、不様を晒しこの有り様だ。

 

 

 

(この命で贖いとさせていただきます、指揮官様)

 

 

 

 

 

 

 

 ―――まぁ、それすらも許されるわけないのだが

 

 

 

 

 

 

 

 閃きが一つ。

 赤城に向かって空を走っていた戦闘機が、刀の一振りで叩き落とされる。

 何事かと見やれば、そこにあるは人影。

 

 艶やかな黒髪に、ピンと立った獣耳。

 その豊満な肢体を丈の短い白の軍服に身を包んだ美女の姿。

 

 姿の見えなかった重巡洋艦、愛宕がそこにいた。

 

「愛宕……!」

「……はぁ。お馬鹿ね。こんなことして何も解決なんてするわけないじゃない。むしろ、指揮官が気に病むとは思わないの?」

「今さら出て来て何を……!」

「鳳翔さん、お願い」

「はい。ほら、行きますよ」

「ちょ、待……!」

 

 鳳翔に腕を抱えられ、それでもなお食い下がろうとする赤城。

 そんな彼女に業を煮やしたのか、鳳翔は笑みとその中の怒気を強めて一言。

 

「―――悪い子は」

「……あっ」

 

()ッ」

 

 ゴヅッ

 鈍い音と共に脳天にめり込む拳。

 一撃で意識を刈り取られた赤城、そのままズルズルと引き摺られていった。

 

「……はっ。指揮官っ」

 

 パタパタと指揮官に駆け寄って行く、綾波を初めとした一同。指輪を贈られた面々と愛宕を残し、艦船達もその場を後にしていく。

 

「ご主人様……ああ、なんとおいたわしい……!」

「嘆いてる暇があるならさっさと運ぶの手伝いなさい」

 

 ぐったりとしている指揮官の意識は既に無く、ベルファストとプリンツ・オイゲンに両脇を抱えられて運ばれていき、三笠とエンタープライズが背中を支える。

 その後を着いて行こうとする綾波だったが、ふと愛宕に呼び止められた。

 

「綾波ちゃん。ちょっとだけいい?」

「はい?」

「さっきの赤城に切った啖呵、良かったわよ」

「はぁ。……それだけですか?」

「いいえ、もう一つ。……いえ、二つかしらね」

「?」

 

 そう言ってしゃがみこみ、綾波と目線を合わせる愛宕。

 

「赤城に言ったことだけどね。確かに私達は『駒』でしかないけれど、綾波ちゃんも言った通り、『駒』なりの想いがある。指揮官を好きだっていう気持ちも、ね」

「……」

「ああいうことを言いたくなる気持ちはわからなくもないけれど、誰が相手でも……指揮官を想うことを、ああいう形で否定しないであげてね?」

「……はい。覚えておくです」

「ん、よし。……じゃあ、最後に」

 

 立ち上がって綾波に背を向け、肩越しに視線を向ける。

 その瞳の奥には―――熱があった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――お姉さん、これから本気だからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……迷惑かけたな」

「いえ、指揮官は悪くないのです」

 

 赤城と大鳳の暴走から数日。

 体調も快復して、今日から改めて職務に復帰である。

 

 件の赤城と大鳳は流石に注意程度ではすまない事態を引き起こした。なんで簡素な造りとはいえ明石が急ピッチで仕上げてくれた懲罰房に叩き込んでおいた。

 艦隊戦力に不可欠な存在故に、おいそれと雷撃処分なんて真似も出来ず。結果としてこういう形で落ち着いた。

 

「指揮官代理の合間に看病までしてくれてさ。頭上がらないなお前さん達には」

「……お嫁さんなんだから、当然です」

「そう、だな。……綾波。何かお願いとか無いのか?」

「はい?」

「いや、流石に言葉だけで感謝ってのも足りないだろうから。何かあるなら、遠慮なく言ってくれ」

「……そう、ですね」

 

 顎に手を当て、しばし考え込む綾波を待つ。

 寮舎の窓から吹き込む風は冷たいが、それでも射し込む陽光はまだ暖かい。

 

「……もう年の暮れだもんなぁ」

 

 艦隊運営を始めて、もうかなり経つ。

 色々あったし、色んな奴らと出会ってきた。そして、これからも多くの出来事や艦船と遭遇するんだろうな、なんてぼんやりと考える。

 

「……指揮官」

「ん? 何か思い付いたか?」

「はい。……あの、しゃがんでもらってもいいです?」

「? いいけど」

 

 綾波に従って、目線を合わせるようにしゃがみこむ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――んっ」

 

 

 

 

 

 

 

 唇に、何かが触れた

 

「―――は」

 

 それが何なのかを認識するよりも先に、顔を真っ赤に染めた綾波の表情が目の前にあった。

 

「……ご褒美、もらいました、です」

「………」

 

 ……成長、したな

 

「指揮官、顔真っ赤なのです」

「……お前さんもな」

 

 それっきり無言のまま、二人で食堂まで並んで歩く。

 

 手を引かれる感覚に目を向ければ、慎ましげに俺の手を握る綾波の姿。

 

 ―――その手を取って、握り返して

 

 驚く綾波を少しだけ見て、そのまま一緒に歩みを進めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら指揮官。おはよう」

「ああ、愛宕。おはようさん」

「……おはようなのです」

「綾波ちゃんもおはよう。……ねぇ指揮官、朝食まだでしょう? お姉さんちょっとはりきってみたんだけど、食べてもらえるかしら?」

「は?」

「もう、赤城や大鳳じゃないんだから、妙なモノ入れたり変な作り方なんてしてないわよ」

「あ、いやそうじゃなくて……お前さん、何か変わったか?」

「ん? そうね……考え方を、ね」

「?」

「ほら、もちろん指揮官も指輪も欲しいのは変わらないわよ? ただ、アプローチを変えようと思って」

「はぁ」

 

「ただ欲しいとねだるんじゃなくて……指揮官から渡したいと思われるような女になればいいんじゃないかって」

 

「……お前」

「だから指揮官? これからお姉さん本気で落としにかかるから、指輪の準備ちゃんとしておいてね?」

「いや、準備も何ももうしばらく指輪買うつもりは」

「あら、まだ一つ残ってるじゃない?」

「……おい、まさか」

 

「期待してるわよ? ―――結婚指輪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこかの海軍基地

 

 やや年を食っている指揮官と、彼の下で戦う艦船少女達

 

 純粋に彼を慕う者もいれば、何かと道を踏み外したやベー奴もいたりいなかったり

 

 まぁそうだとしても

 

 なんやかんや、うまいことやっていくだろうこの艦隊は

 

 

 

 

 

 

 

「―――巡洋戦艦天城、参りました」

 

「遺伝子レベルで一目惚れです結婚してください」

 

「「「「「おい」」」」」

 

 

 

……きっと、うまくやってくんじゃないかな

 

 

 

 




※(天城いないので)5000%、無理です





最後が何かやっつけ感あるのは見逃す方向で是非とも

とりあえずこれで一旦完結とさせていただきます
『一旦』なのでまた何か公式からの供給なり何なりあったら何かしら書こうと思ってます

一発ネタのはずがここまで膨らんだことには驚きなりとも、それでも感想や評価をくださった方々、それは無くとも目を通してくださった読者の皆様に感謝いたします

ではこれにて
ありがとうございました
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