アラフォー艦隊のやべー奴ら   作:オパール

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二部に入る前の断章なので初投稿です

たぶん「ん?」と思うとこあると思うけど深く考えた奴から負けるのが世の常なのでスルーするか笑って流して、どうぞ


長門「えっちなことしたんですね?」

 

 

ムッワァァァァ……

 

 

 

 とある母港。その寮舎の一室に四つの人影が。

 

 ユニオンの空母エンタープライズ

 ロイヤルのメイド長、軽巡洋艦ベルファスト

 鉄血陣営の重巡洋艦、プリンツ・オイゲン

 そして重桜、かつての連合艦隊旗艦を務めた戦艦三笠

 

 所属も艦種もバラバラな四人が、小ぢんまりとした室内で鍋を囲んでいた。

 

「……しかし驚いた。まさか人型セイレーンが私達KAN-SENのエネルギー源足りうるなんて」

「ですが、やはりというか何というか、匂いがかなり独特ですね……本当に食べて大丈夫なのでしょうか?」

「まぁ、問題は無いだろう。指揮官には『ナニが起きてもこちらの自己責任』と伝えてあるしな。最後まで止められたが」

「……」

「……どうした、オイゲン? 先ほどからだんまりだが」

「……ええ」

 

(どうしたってのよ、私……)

 

「……ふむ。そろそろ良い頃合いでしょうか」

 

(どう見てもベルファストが……色っぽい……)

 

 この時、オイゲンはもちろん、他の三隻も正常な判断能力を失いつつあった。

 

 それもそのはず、今回使用されているピュリファイアーを初めとした人型セイレーンは、確かに彼女達KAN-SENのエネルギー足りうる物質を含んでいるとされている(諸説あり)。

 だが、KAN-SENという存在と近からずも遠からずといった存在であるセイレーン(諸説あり)、それがKAN-SENに何の副作用をもたらさないはずが無い(諸説あり)。

 

 早い話、KAN-SENに対して強烈な発情効果を与えてしまうこともままにあったりなかったりするのだ(諸説あり)(何故だ)(誰も知らない)(自爆で差をつけろ)

 

「……ふぅぅぅぅぅ」

 

「「「!?」」」

 

 バツンッ、と

 しっかりと留めてあるはずの三笠の軍服、その胸元が何故かひとりでに大きく開かれた。

 

「おっと、留め具が……」

 

(この弩級戦艦……スケベすぎる……!)

 

 軍服どころかその中のブラウスのボタンまでものの見事に外れている。下着は見えない。まさかノーブラじゃあるまいなこの大先輩

 

「……うぅ」

「「「!?」」」

 

 オイゲンと三笠の隣、ベルファストの対面から小さく漏れた呻き声。

 見やれば、エンタープライズが頬を火照らせ、頭を抑えて俯いていた。

 

「頭がくらくらする……」

「なにッ!?」

「大丈夫ですか、エンタープライズ様!?」

「横になりなさい、今すぐ!」

 

 三笠とベルファストがすぐさま介抱に当たる。

 

「胸元を開けて楽にした方が良い!」

「ええ、下も脱がせて……いえこの際です。全て脱がせましょう!」

 

 横になったエンタープライズの衣服を、妙にこなれた手つきで剥いていく二人。

 あっという間に帽子と(何故か)ネクタイを除いて全裸にされたエンタープライズがそこにいた。

 

 呼吸の落ち着いたその姿を見て胸を撫で下ろす三隻。

 するとそこへ、控えめなノックの後に扉が開かれる音が響く。

 

 

 

「……あれ。みんな何をしてるです?」

「……綾波?」

「「……(ゴクリ)」」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

・指揮官「ケッコン式?」

 

 春もとっくに過ぎ去り、いよいよ(去年は地獄だった)夏が近付いてきたある日のこと。

 本日の秘書艦を務める空母の加賀から、そんな言葉が飛んできた。

 

「ああ。聞けば、お前と綾波がケッコンしてから一年になるそうだな」

「……ああー、そっか。もうそんなになるのか……」

「その頃は私はまだ着任してなかったが、話に聞く限りは、式の方はまだらしいじゃないか」

「まぁ、な」

 

 綾波と一線を越えてからこっち、確かに『そういうこと』をする機会も多い。

 風呂も一緒に寝るのもほぼ毎日、行為事態は週一程度だったのがここ最近は週に2、3度だったりも。

 言われてみれば、そうまでしておいてケッコン式とやらをしないのは確かに順序があれなとこもあるな、と納得。

 

「しっかし丸一年そういう話してないのに今更感無いか?」

「むしろ一年間しなかったのか……」

 

 呆れ返った視線にぐうの音も出ない。

 言い訳がましいが、やべー奴らのあれやこれやに時間を割かれすぎたというのも、理由としてあるにはある。

 

「……ちょいと考えてみるかぁ」

「そうしてやれ。姉様や大鳳もいないことだしな」

 

 そう言って、加賀は饅頭を連れたって執務室を後にする。

 工廠へと向かうその背中を見送って、俺も残りの書類に向き合うことにした。

 

 

 

 余談になるが、こういう話に真っ先に食い付いてきそうな赤城と大鳳は加賀の言葉通り今この母港にはいない。

 

 翔鶴の提案のもと、サイコロの出目だけに従い重桜本土を巡るとかいう正気の沙汰とは思えないことをやっているらしい。

 お目付け役の鳳翔、赤城が「やられる」姿を見たいだけの翔鶴、「カメラ持ってるから」という理由だけで撮影係として巻き込まれた青葉の三人が同行しているそうな。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「「「「………」」」」

 

 場は混沌としていた。

 全裸に帽子+ネクタイというニッチな需要を満たしそうな姿で布団に横になっているエンタープライズを尻目に、オイゲン、ベルファスト、三笠。そして先ほど入室してきた綾波がテーブルを囲んで鎮座している。

 ムッワァァァァ……という明らかに鍋から出ていいはずがない音とピンク色の湯気は、噎せ返りそうなまでの熱気を孕んでいた。

 

「指揮官への報告も済ませたので食堂に行こうと思ったんですけど、何か話し声が聞こえたので」

「ああ、すまないな。例の人型セイレーンに関することで我々四人で少々」

「ですが、やはりあまり良い影響は無いみたいです。エンタープライズ様がご覧の通りに……」

「けほっ……何だかむせるのよねぇ、これ」

「……綾波も、何だか熱っぽくなってきた気がするのです」

 

 思い思いに鍋にぶちこまれたブツへの所感を漏らす。

 そんな中でも、胸元を扇ぐオイゲンや綾波を妙に熱の入った視線で見回す三笠とベルファスト。逆に、ざっくり開かれたベルファストのメイド服、その豊満な丘のラインを滴り落ちる汗を眼で追うオイゲンと、三笠の首筋から放たれる香りに頭がぼやけ始める綾波。

 そして天井をぼんやり見上げながら吐息を溢すエンタープライズ。

 

 そんな無言の時間が続く中、おもむろに口を開いたのは綾波だった。

 

「……オイゲン」

「ん?」

 

「何て言うかその……色っぽくなったのです」

 

「……やめなさいよ、まったく

(かわいい)

(可愛い)

(愛い)

 

 予想だにしない相手からの予想だにしない言葉だったが、それをおかしいと思う理性すらもう無い。

 自分が好意的な視線を受けているのを知り、両手を頭の後ろで組み、ここぞとばかりにその肢体を見せ付けた。

 

「……そういう綾波さんも、ずいぶんと艶っぽくなられたといいましょうか」

 

 ベルファストさえ駄目だった。

 

「そう、ですか……? どうです、三笠さん」

「ヌッ!」

 

 自分の肩に指を這わせ、媚びるかのような目付きの綾波から思わず三笠は眼を背ける。

 その胸の内から沸き上がる衝動をなけなしの理性で押し留めるも、その表情は完全に崩れていた。

 

(何なのだこの感覚……抑えきれんっ)

(こんな気持ちハジメテです……どうやって発散させれば良いのでしょう……!)

 

「ふぅぅぅぅぅぅ……」

 

 天井のシミを数えていたエンタープライズから漏れる吐息。三笠もベルファストも綾波もオイゲンも、持て余すわけのわからない欲求に翻弄されるがまま。

 

 やがて、動くものが一人。

 

「もう、駄目。我慢できない……!」

 

 プリンツ・オイゲン。立ち上がって衣服を邪魔だとばかりに勢いよく脱ぎ捨てる。

 そして寮舎の家具等をしまってある押し入れへと手をかけ、背後の四人を振り返り―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガステージ出すわよ」

 

((((なるほどそうか!))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 室内に置かれたステージの上、唐突に現れたサンディエゴの幻影と共に、普段のクールな姿をかなぐり捨てて踊り狂うオイゲンとそれを見上げながら野太くコールする他三隻。エンタープライズは横目でそれを眺めるだけ。

 

 その喧騒は夕方まで続いていたらしい。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「………ふぅ」

 

 漏れたため息に、目の前で正座している艦船の一人が肩を震わせる。

 おどおどとこちらを伺うように向けられる視線を睨みつけると、その目尻はとろんと垂れ下がった。なんでや

 

 白に近い銀色のショートボブヘア。ルビー色の瞳にやや幼さの残る顔立ち。

 だがもっとも目を惹くのは、空母のイラストリアスや大鳳にも劣らぬであろうその胸部装甲。それを惜し気もなく晒け出す形の色々丈の足りないメイド服。

 

 ロイヤルメイド隊、ダイドー級軽巡洋艦シリアス。そいつが今俺と加賀の目の前で項垂れていた。

 

「何してんのお前?」

「も、申し訳ありません……」

「加賀。こいつの『やらかし』って何回目?」

「着任初日から数えて……すまん。頭痛が痛い」

「あっ(察し)」

 

 ちなみに俺の知る範囲では20を越えた段階でもう数えるのはやめている。つまりはそういうことである。

 

「あのさ。資源や物資も限りがあるし、壁なり窓なりも直せば良いってわけでもないのよ。そこはわかるよな?」

「はい……」

「戦闘じゃ本当に頼りになるのに、何でそこ以外だとここまでポンコツなんだよお前は……」

「申し訳ありません……!」

「いや別に謝って治る問題ならいいんだよ。でもそうなってないからな、本当に」

「はうぅ……」

 

 目尻に涙を浮かばせて小さく震えるシリアスの姿に、流石に罪悪感的な何かが浮かんでくるけど表に出さずに耐える。

 こういうこと徹底しとかないと同じことが繰り返されるだけだから。いや、もう手遅れかもしれんけど。

 

「ほ、誇らしきご主人様……」

「あん?」

「シリアスはダメなメイドです……誇らしきご主人様のお傍に置いていただける栄誉に、まったく報いることが出来ておりません……」

「うん、知ってる」

「あう……で、ですのでどうか。どうかこの愚かなメイドに、罰をお与えくださ

 

「俺からの罰なんざオメーにはご褒美でしかねぇだろうが、その無駄にデケェ乳にしか栄養行ってねぇのかこの駄メイド」

「ア゛ッ゛♡」

 

 何か達しやがった。なにこいつ怖っ

 

「も、もうし、ひっ♡ もうしわけ、ありまひぇぇん……♡」

「……加賀」

「生まれ変わらせる以外にあるまいよ」

「頼む、投げやりにならんでくれ……こんなんでもれっきとしたうちのKAN-SENなんだよ……」

 

 こんなん……と上擦った声を上げてまた身体を震わせるシリアスの姿に、どうにかしてでも向き合おうという気持ちがガン萎えしてくる。

 ていうか、最近気付いたけどロイヤルも割かしやべー奴多くないか?

 

「……シリアス」

「はひっ」

「今も言ったが、俺からお前への罰は正直ご褒美にしかならんと思ってる」

「そ、そのようなこと、は」

「んなわけで、だ」

 

 机に置いてあった鈴を手に取って鳴らす。

 何事かと首を傾げるシリアスと、呆れ返った顔で目を伏せる加賀。

 

 一拍空けて、直後。

 

 扉が開いてニューカッスルが。

 壁の隠し扉からシェフィールドが。

 天井からカーリューが。

 床下からはキュラソーが。

 

 メイド隊でも古参に位置、あるいは手練の四隻がそれぞれに姿を見せた。

 

「」

「お呼びでしょうか、貴方様?」

「このバカ頼むわ」

 

 顔色が一気に青紫と化したシリアス。抵抗どころか何か言葉を発する間もなく、高々と抱え上げられた。

 

「ほ、誇らしきご主人様? これは」

「言ったろがよ、俺が罰与えるわけにいかねぇって。ニューカッスル、シェフィールド、カーリュー、キュラソー。一任するから」

 

 かしこまりました、と口を揃えるメイド達。

 えっちらおっちら運ばれるシリアスの表情は何というかもう、絶望しきっているというか。

 

「……いえ、よく考えたらむしろこれが誇らしきご主人様からの罰と思えなくもない!!」

 

 と思っていた矢先にこれ。メイド隊でもとりわけ優秀な四人に担ぎ上げられながらもシリアスはまったくブレていない。お前らの同僚だろ早くなんとかしろよ。

 

「ではまずその余分で余計で余剰な脂肪を排除します」

「私怨が漏れてますよシェフィールド」

 

 そんな会話を最後に、五人は扉の向こうに消える。

 残された加賀と二人で、ため息を一つ。

 

「……加賀。お茶淹れてもらえるか?」

「ああ……」

 

 俺に何かを言おうとしたのだろうが、自分でもはっきりわかるほどの疲労に満ちた声。加賀も気を遣ってくれて、重桜らしく熱めの緑茶を淹れてくれた。

 

「ありがとな……」

「気にするな……」

 

 

 

 爆発音が響いてきた。

 

 

 

「ぶぇっう゛!? なんだぁ!?」

「爆発の前に一瞬だが航空機の駆動音がした。空襲か……?」

「おいおい、母港外からの侵入に関しちゃ陸海空問わず密に警戒してあるはずだろ!?」

「ああ。たまたまそれに漏れがあったのか、或いは」

 

「失礼します指揮官!!」

 

 ノックもそこそこにジャベリンが飛び込んできた。

 

「おうジャベリン。今の爆発の件だな?」

「は、はいっ。えっと、実はそのっ」

「落ち着け。何の……いや。()()仕業かわかったのか?」

「……誰の?」

 

 加賀の口振りからしておおよその察しはついている模様。そしてジャベリンを見やれば、言うべきかそうでないか迷っている様子。

 

 ……あぁ、なるほど。

 

「……ジャベリン」

「は、はいっ!?」

「報告しろ」

「はいぃ……じ、実はぁ……」

 

 

 

「ヴィクトリアスさんが、ティルピッツさんの部屋を爆撃しましたぁ……!」

 

 

 

「―――」

「……ジャベリン。秘書艦命令だ。今すぐヴィクトリアスに出頭するよう伝えろ。断るようなら誰を使っても構わん、叩きのめしてでも連れてこい」

「へっ!? で、でもそういうのは指揮官が……」

「見てわからんのか。―――怒っているぞ、この男」

「えっ」

 

 …………今日は厄日か何かか?

 

「加賀、内線は?」

「とっくに繋げてある」

「助かる。……明石か?」

『し、指揮官!? そんな怖い声を出されても、明石は何もしてないにゃ!?』

「んなこた今はいいんだよ。大至急に母港内全域に放送入れろ」

『な、なんて内容だにゃ?』

 

 

 

「『ヴィクトリアス、直ちに執務室へ出頭せよ。なお一分以内に現れず、もしくは誰かが出頭する姿を見なかった場合―――実力行使も辞さない』ってな」

 

 

 

 イラストリアスの妹とは思えないあの阿呆。

 徹底的に説教してやるから覚悟しとけ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 夕刻。

 寮舎内での乱痴気騒ぎを終えた綾波、エンタープライズ、ベルファスト、プリンツ・オイゲン、三笠の五隻。

 疲労のあまり室内でぶっ倒れていたところに明石からの放送連絡で我に返って、全員でのたのたと服を着込み今に至る。

 今はちらちらとそれぞれがそれぞれを見やっては視線を逸らすという状況、何か言おうにも気恥ずかしくて言葉が出ない。

 

「……何だか、大騒ぎになってしまった、です」

「「「「………」」」」

「えっと……このことは、綾波達だけの秘密にしておく、ということで……」

「「「「意義無し」」」」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あ゛ー……」

「……指揮官、お疲れです?」

「綾波ぃ……」

 

 布団に座る綾波の膝に顔を埋める。

 そのまま後頭部が優しく撫でられ、昼間のあれやこれやによる疲れが抜け落ちていきそうになる。

 

「シリアスのポカもそうだがよぉ、ヴィクトリアスに関しては何なんだあいつ……本当にロイヤルかよ」

「今まで見たことないくらいに怒ってたって、加賀から聞いたです」

「怒っちまったなぁ……」

 

 思い返してみると、自分でも引くくらいの剣幕だったと思う。反論も弁解も何も許さず一方的に捲し立てるという、嫌な上司の典型みたいなことをしてしまった。

 今思うと、ちょっとくらいは聞いてやった方が良かったのでは、とも感じている。

 

「……でも、お茶会に誘うだけで仲間の部屋を爆撃するなんて非常識には怒っても良いと思うです」

「それはわかってる。けど怒り方はもうちょいどうにかならんかったんじゃねーのか、とも思うからなぁ」

「よしよし、です」

「あ゛~……」

 

 今じゃすっかり俺の方が撫でられることも多くなってきた気がする。

 ケッコンしてるとはいえ、この見た目の差の相手に甘えるのはどうかとも思うが、こればかりは仕方ない。綾波の手は予想してたよりも遥かに癒される。

 

「……なぁ、綾波」

「はい」

「………」

 

 昼間に加賀から言われたことを思い返す。

 

 

 

 ケッコン式

 

 

 

 この母港に着任、並びに綾波とケッコンしてからもう一年余りが過ぎる。

 二人三脚で始めたこの艦隊も、今では百を越えるKAN-SEN達が過ごす大所帯になり、指輪を贈った相手も綾波だけじゃなく四人も増えた。

 遠方での軍事作戦に引っ張り出されたり、他所の母港と演習を重ねたり、ここでのドタバタややべー奴らのあれこれに巻き込まれたりして、気付けば綾波との時間もめっきり減った。

 気にしてない、と綾波は言うだろうけど、それでもある種のケジメはつけておかなければいけない。加賀の言葉で、強くそう思った……というより、思わされた。

 

 だから

 

 

 

「―――ケッコン式、やろう」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 俺と綾波のケッコン式。

 それを聞いたKAN-SEN達の大多数が賛成を示したことにより、準備は急ピッチで進められた。

 最初は他のケッコン艦―――エンタープライズや三笠達も、と思っていたが、意外なことに彼女らからは綾波一人だけで構わない、という答えが返ってきた。

 理由を問えば、みんなが綾波が最初、それも俺と二人で。とそう答えた。

 まぁその後はちゃんと自分達の分も、という確約はさせられたが、それについては俺も文句は無い。というかやるのが当たり前だろう。

 

 クリーブランドや、意外なことに加賀が主導となって進められたその準備。

 大講堂の一部を改装して、簡略的なモノではあるがそれっぽくした式場。席だったり何なりを並べたそこは、本物のそれと遜色ない仕上がりになっていた。

 

 そして、当日。

 

 

 

「……アーク・ロイヤル様。ご理解いただけていると思いますが、本日の挙式はご主人様と綾波さんの晴れ舞台です。信用しております故、拘束などはいたしませんが―――万が一の時にはお覚悟のほどを」

「前から思ってたんだがベルファスト! 私へのその風当たりの強さと『ああ、こいつはやるだろうなぁ』という偏見に対しては流石に名誉毀損で訴えたら勝てるレベルだぞ!?」

「これまでのご自身の行動と犯罪歴を振り返ってから仰いなさい」

「お前もかシェフィールド!?」

 

 

 

「………」

「エンタープライズちゃん?」

「っ……ああ、ヴェスタル」

「……やっぱり、ちょっと羨ましい?」

「いや、そんなことは無いさ。あの二人のことは、今日までずっと見てきたんだ。喜ばしい、祝いの日だ」

「……寄りかかってくれて良いのよ。私は、あなたの専属工作艦だもの」

「……そう、か」

 

「あ~エンタープライズ~。ヴェスタルも~」

 

「って、姉さん!? まだ飲むには早いぞ! ああ、ホーネットを潰して……!」

 

 

 

「うむ。本日も晴天也。善きことだ」

「三笠様」

「おお、天城。体調の方はどうだ?」

「お気遣い、ありがとうございます。今日は良好ですし、なによりめでたい日ですので」

「はっはっはっ。……いや、実を言うとな。我も思うところは無いでもないのだが……なに。今お主も言った通り、自身の良人とその第一夫人の記念すべき日、立てるところは立てるのが重桜の女の甲斐性というものだろう?」

「……ふふっ。三笠様らしいですね……では、そろそろ参りましょう。加賀は先に長門様たちと共に会場入りしているそうです」

「うむ」

 

 

 

「……ずいぶんと大所帯ねぇ。これ、全員は入りきらないでしょう」

「まぁな。……オイゲン、卿も指揮官とケッコンした一人だろう。こんなところで油を売っていて良いのか?」

「自分の女が一人いないくらいで目くじら立てるほど小さくないわよ、あの男は。私はここで、のんびり祝い酒でも飲んでるわ」

「……そうか。では、我も付き合うとしよう」

「はぁ?」

「式への参列など、Z46やティルピッツだけでも十分だろう。ヒッパーやドイッチュラントも出ないと言っていたしな」

「……礼はいらないわよね、ツェッペリン?」

「無論だ」

 

 

 

(……まずい、緊張してきた)

 

 もうすぐ式が始まる。

 正式に夫婦となる『結婚』ではなく、あくまで俺と綾波が交わしたのは『指揮官とKAN-SENのケッコン』でしかない。

 それでも、俺は綾波を大切に思っているし、綾波も同じ想いを持ってくれていると確信してる。

 

 ただ如何せん、招待された側としてなら何度か出たことはあっても、自分がそういった式を挙げる側になるのは当然初めてのことだ。

 

 急拵えの式場であっても、正式に執り行う場所。

 多くのKAN-SEN達が所狭しと席に腰を下ろしているその場内に、司会兼神父役のZ23の声が響き渡る。

 

 

 

「―――ご来場の皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、指揮官と綾波のケッコン式を執り行いたいと思います」

 

 

 

 演奏を担当する饅頭達が奏でる荘厳な曲。

 略式的なものであるためか、俺は既に式場入り。綾波が後から入場してくる、という段取りになっている。

 

 そしてその手筈通りに、「新婦、入場」という言葉の後、後ろの扉が大きく開かれ、そこからジャベリンとラフィー、そしてZ46を伴った綾波が姿を見せた。

 

「―――」

 

 いつか見た、白無垢のような衣装に身を包んだ綾波のその姿。

 あまり間を置くことなくこちらに気付き、ほにゃりとはにかんだ、俺を落ち着かせてくれるその笑顔。

 

 だがどうしたことか、むしろ俺の心臓は強く、早く、その鼓動を刻み続けている。

 

 

 

 ―――こちらをまっすぐ見詰めるその視線を受けて

 

 ―――顔が熱くなるのを抑えろ、なんて無理な話で

 

 

 

 気付いた時には、綾波はもう俺の隣。

 俺の腕に、その小さな手をそっと添えて、まっすぐ目の前のZ23を見据えていた。

 

「―――新郎。……やばい、わたし指揮官の名前知らなかった……コホン。新郎は、この綾波を妻……に、もうしてたか……えー、とにかく。新郎は、新婦を敬い、労り、真心をこめて尽くし、愛することを誓いますか?」

「段取り下手糞かよ。誰だこいつに任せたの」

 

 厳かな場で言うことじゃないが、それでも聞こえてきたぐだぐだ加減に突っ込まずにはいられなかった。

 式場内から笑いが漏れ、顔を真っ赤にしたZ23。すぐさま軌道修正を計るも、ぶっちゃけもう手遅れである。

 

「い、今は大事な式の最中です、皆様どうか静粛に願います! ……新郎は、新婦を愛し抜くことを誓いますか!?」

 

「―――誓います」

 

 けど、それが逆に俺の緊張を解いてくれた。

 

 まっすぐ、その眼を見て、宣言する。

 

 ……けれど

 

「……新婦、綾波」

「はいです」

「あなたは、この男性なことを敬い、労り……」

「……ニー、ミ?」

「……新郎は、人間で。あなたは、KAN-SENです。そうであっても」

 

「―――あなたは、人間であるこのヒトのことを、愛していくと、誓いますか?」

 

 ―――そう。

 

 俺は人間。

 綾波はKAN-SEN。

 

 そこにはどうしようもない違いがある。

 戦うために生まれたというKAN-SEN。だがそれだけであってほしくないと、俺がどれだけ願ったとしても、その事実はどうあっても変えられない。

 人間と違って歳を取らず、人間と違って頑丈で、人間と違って傷を負っても短い時間で治る。

 人間と違って―――埒外の、規格外の力を振るうことが出来る。

 

 ……きっと俺は、綾波やみんなを置いて、一人だけ先に死ぬだろう、と思う。

 それが人間とKAN-SENの明確な差。去る者と残される者がはっきりと別れる。別れてしまう。

 

 Z23。鉄血のZ型駆逐艦の一隻にして、綾波にとっては親友と呼べる存在の一人。

 彼女自身、きっとこういうことは言いたくなかったのだろう。隠そうと努めても、下がった目尻と引き結んだ唇の歪みがそれを許していない。

 

 それでも、言わなければいけなかったのだ。

 

 人間とKAN-SEN、今は共に歩める存在同士であっても、いつかは明確な離別や訣別が訪れてしまうかもしれないのだから。

 

 それを理解して、それでも尚、共に歩んでいけるのか。その覚悟はあるのか、と。

 

 Z23や綾波、ジャベリンやラフィー達の仲の好さは俺もよく知っている。お互いがお互いを大切に想い、尊重し合って、一緒にいればそこにはいつでも笑顔の花が咲いている。

 

 友達だから、大切だから。

 だから、どれだけ厳しいことでも言わなければならないという―――Z23の優しさだった。

 

 

 

「………」

 

 綾波は顔を伏せている。

 俺もZ23も声をかけることはしない。場内が少々ざわついているが、それでも俺達は彼女の言葉を待つ。それしか出来ない。

 

 長いような短いような、そんな時間。

 

 それが過ぎて、綾波が顔を上げ―――

 

 

 

「―――はい。誓います、です」

 

 

 

 しっかりと前を見て、恐れも迷いも不安も、何一つ感じさせないほどの、力強い微笑みが浮かんでいた。

 

「―――」

 

 視界が滲む。同時に、綾波と出逢ってから今日までの思い出が次から次へと浮かんできた。

 

 

 

 この母港に着任、初めて会った日

 初めての海域攻略に繰り出して、てんやわんやになった日

 その品と行為の意味も知らず、綾波とケッコンした日

 多くのKAN-SEN達と出逢い、時に迫られ、時に騒動に巻き込まれるようになった日

 

 ―――綾波が不安から潰れそうになって、一緒に、迷惑をかけあいながらでも支えていくと誓った日

 

 ―――新しく指輪を贈る相手について相談して、それを笑って応援してくれた日

 

 ―――色んな意味で、ハジメテを迎えた日

 

 

 

「っ……くっ」

 

 俺の隣に立つその姿。凛とした佇まいと、歴戦の風格すら漂うその小さな身体。

 そこにはもう、不安に押し潰されそうになってばかりの、儚げな少女はどこにもいなかった。

 

 

 

 今ここにいるのは―――俺にとって何よりも大切な、そんな最愛のヒト、ただ一人だけだった。

 

 

 

「……では! その宣言を以て、改めてお二人を夫婦であると認めます!」

 

 涙を流しつつも、笑顔のZ23がそう告げる。

 綾波と向き合い、饅頭が持ってきた俺達の指輪をそれぞれ手に取り、お互いの薬指へ。

 最初に行ったのはもう随分前になるなぁ、としみじみ。

 

「それでは、お二人とも……」

 

 

 

 ―――誓いのキスを

 

 

 

 もう余計な言葉はいらない。

 

 心臓の高鳴りはとっくに消え、頭の中には今やるべきことと、目の前にいるヒトのことしか無い。

 その薄く染まった頬に手を添える。

 瞼が閉じられ、足の爪先が伸びて、小さな唇がちょんと突き出される。

 

 俺は膝を曲げ、背中を少しだけ丸めて、瞼を閉じる。

 

 

 

「―――」

 

 

 

 唇が触れる直前、俺の耳に小さな言葉が届く。

 何を言ったのか理解するよりも前に、式場内に大きな拍手が鳴り響いた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「指揮官! 綾波ちゃん! お姉さんここにいるから!! ちゃんとここに投げてちょうだいね!?」

「おうなんかそのノリ久しぶりだな愛宕ォ!」

「赤城姉様には悪いが気が変わった。あの獣の如き怒声、柄ではないが正直濡れた……!

「加賀……」

 

「……ユニコーンちゃん?」

「あっ、イラストリアス姉ちゃん……その、ね? ユニコーンもやっぱり、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい、から……だから、ユニコーン、ちょっとだけ悪い子になる……!」

「あらあら。……じゃあ、私も悪い子になっちゃいましょうか……」

「ええっ!? で、でも姉ちゃん、陛下が……」

「ふふっ、そうよ? だから―――二人で、ね?」

「―――うんっ」

 

「あ、姉貴っ。本当に行くんですか!?」

「止めてくれるなモントピリア。私もいいかげん腹を括った。もう綾波やみんなに気を遣い続けて、自分の気持ちを押し殺すのはやめようってな!!」

「姉貴ィィィィィ!!!」

 

「……あっ」

「ティルピッツ?」

「……ふ、はははっ。いや、なんでもない。……そう。貴女も来るのね、ビスマルク……」

 

 

 

「なーんか大騒ぎになってら」

「フフッ……でも、みんな楽しそうです」

「だなぁ」

 

 ケッコン式の最後の一番、ブーケトス。

 血気盛んなKAN-SEN達がギラギラと野獣の眼光を漲らせて、今か今かと待ち構えていた。

 

「……なぁ、綾波」

「なんですか、指揮官?」

「俺はさ、たぶんだけど……お前らを置いていっちまう」

「………」

「もうこんな歳だし、きっと、俺が生きてる間に戦争が終わる確率、思ってるよりも低いと思うんだ」

「指揮官……」

 

「―――だからそれまで、どうか末永く。これからもよろしくな、綾波」

「―――はい。これからもずっと一緒です」

 

 

 

 そうお互いに言葉を交わして、軽く触れあうだけのキスをする。

 周囲から巻き起こった冷やかしやブーイングを鼻で笑い飛ばして、綾波に目配せを。

 

 

 

 綾波が放り投げ、天高く舞い踊ったブーケ。

 

 誰の手に渡るにしろ、風に煽られてどっかにすっ飛んでいくにしろ、その結末がどうなるかなんてわからない

 

 

 

 俺達の、これから進む未来と同じように―――




ほんとなら今年の六~七月中にあげたかったけど諸々の事情につきこんな時期になった

こんな話あげといて何だけど次期ケッコン艦についてもガチで悩み通し。予定は三隻
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