基本的にいちゃついてるだけなので受け付けられない方は後ろをバックして、どうぞ
※色々と解釈違いを引き起こす可能性がありますので、特に終盤の閲覧はお気をつけください
・エンタープライズ「戦功褒章に触れ合いを」
攻略海域より現れるという艦艇による戦力増強に一時の見切りをつけ、未踏海域へ踏み出した弊艦隊。
数度の威力偵察や本格進軍を繰り返したりその合間に鎮守府拡張や艦艇たちの地力の向上なんかを細々と行ってきた。あと建造。
「指揮官。海域攻略部隊、ただいま帰投したです」
「ご苦労さん、みんな」
艦隊旗艦はカリフォルニア、その両サイドをエンタープライズとユニオン陣営のレキシントンで堅めた主力艦隊。
前衛は綾波を先頭に愛宕とクリーブランドで進む先を焦土と変える火力ゴリ押し編隊。
これがうちの第一艦隊の基本編成だ。
時々、前衛も主力もサイドのどっちかを別の艦で編成することもあるが、センターの綾波とカリフォルニア、並びに大前提としてる
『殺られる前に雷撃処分』という考えは基本的に変わらない。
「被害報告……は、特に無さそうだな。せいぜい、クリーブランドが軽微の損傷くらいか?」
「あー……うん。思ったよりも軽砲もらっちゃった」
「まぁ大したこと無さそうでも、メンテなんかはしっかりな」
「了解!」
ニカッと晴れやかな笑顔を浮かべながら敬礼をとるクリーブランドに、釣られてクスリと笑みが零れる。周りのみんなも同様に。
長いことこういう編成で進めてきたためだろうか、仮にも軍属らしからぬアットホームな雰囲気がここにはある。
ユニオンや重桜、この場にはいないがロイヤルや鉄血といったあらゆる陣営の艦艇が集うこの鎮守府。個々の価値観だとか戦いに関する感情だとかに違いもあるだろうに、それでもみんなは一致団結して、目の前のことに挑んでくれている。
そういう辺り、正直助けられてばかりだ。
「指揮官。海域でいくつか装備箱も見つけたから、後で確認の方もお願いね?」
「ん、わかった。サンキューなレキシントン」
「いえいえ。それよりもぉ」
「?」
ふわっと微笑みながら追加報告をしてくれるレキシントン。
そんな彼女に何か対抗意識でもあるのか後ろで歯ぎしりしている愛宕に敢えて無視を決めながら、次の言葉を待つ。
「『いつもの』、お忘れじゃないかしら?」
その言葉に、クリーブランドとカリフォルニアが眼を逸らし。
綾波は何か期待するようにキラキラしだして、エンタープライズは照れたようにそわそわしだす。
愛宕は服に手をかけたので天井裏から現れたベルファストが処した。
「……あー、あれか。毎度のことだがそんな欲しがるほどか?」
「はいです」
「うわビックリした!?」
テンションそのままなのに矢鱈と食い気味に綾波が来た。
「あ、あのー指揮官? 私は別にそこまで欲しいわけじゃ……」
「わ、私もだぞ指揮官! 無理にしようと思わなくていいから」
「よしわかったお前ら最初な」
「「
椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がると、真っ赤っかになってあわあわしてるカリフォルニアとクリーブランドに歩み寄る。
「どうしようどうしよう」とあちらこちらに視線をさ迷わせるクリーブランド。
頭を抱えるように帽子を固く握り締めているカリフォルニアは即座にレキシントンに帽子を奪われていた。
「指揮官!」
「なんだ愛宕」
「お姉さんずっと待機してるんだけど! あとこのメイド力強い! 軽巡なのに重巡抑えきるってなんなの!?」
「ロイヤルメイドの嗜みですので」
「ロイヤルメイド怖い!?」
「愛宕」
「なに!?」
「待て(精一杯のイケボ)」
「待ちます♡」
チョロいというか御しやすいというか。何をすればいいかはハッキリしてるので、とりあえずは目の前の二隻をロックオン。
「あぅぅ、どどどどうしようクリーブランド!?」
「もう腹を括ろうカリフォルニア。これ以上は指揮官に対して失礼だ。……覚悟は良いか? 私は出来てる」
「あ、兄貴……!」
「兄貴言うなぁ!?」
「お前らそういう寸劇いいから」
ポンッ、と二人の頭に手を乗せて
―――なんてことない、ただ綾波にしているようにわしゃわしゃと撫でるだけだ。
そもそも何でこんなことになっているのか。
理由としては単純、ある日の帰投報告の際に綾波を撫でたところロイヤル陣営の軽巡、オーロラが言った
『ずるいです!』
これだけである。単純でしょ?
それを皮切りにオーロラも同じようにしたら、今度は他の面子が自分も自分も、と群がってきた。
気付いた時には「海域攻略から帰投したら指揮官に撫でてもらえる」なんて話が駆逐艦や軽巡を中心に鎮守府中に広がりまくりこんな有り様である。
……単に、将来娘でも出来たらこういうことするのかなぁ、なんて考えながらのことだったのに。
余談だが当時の綾波の無意識の拗ねっぷりはすごかった。
「う、ん……ふ、ふひっ」
ニヤケているようで形容しがたい微妙な表情のクリーブランド。
「ねえさんが着任したら言いつけてやるぅ」
ちょっと怖いこと言うカリフォルニア。
「……いつもありがとな」
礼を言いつつ、最後にポンポンと軽く叩いてやる。
クリーブランドはニヨニヨしながら頭を抑え、カリフォルニアは「セクハラ指揮官ー!!」と人聞きの悪い捨て台詞を残して退室していった。解せぬ。
「レキシントン」
「はぁ~い、お願いねぇ指揮官♪」
先の二隻とは変わって、レキシントンにはゆっくりと、髪が痛まないようにゆっくりと撫でる。
艦艇の髪が痛むかどうかはぶっちゃけ知らんけど、こういうのはこっちの気持ちの問題だ。
クリーブランドやカリフォルニアみたいなタイプは、ちょっと髪が乱れるくらいがベストだと経験で判断している。
「はぁー……♪ このために頑張ってる気がするわねぇ」
「嘘だろマジかよおい」
「ふふっ、冗談よぉ……」
目を細めてうっとりしているレキシントン。頭を軽く叩いて終わりの合図。
「あらぁ、もう終わりなの?」
「まだ半分いるからなぁ」
「はーい。じゃ、私も失礼するわね。クリーブランドちゃん、行きましょ?」
「あっ、お、おう! ではな、しゅ揮官!」
「なんて?」
「あらあら~」
「―――ッ!!!」
噛んだのがよほど効いたのか、首まで真っ赤になったクリーブランドはレキシントンに引き摺られるように退室していった。
「さて、と。エンタープライズ」
「う、うん。私だな」
どもりながらもいそいそと帽子を脱ぐエンタープライズ。
窓から射し込む日の光に照らされ、どことなくキラキラしているようにも見えるその白真珠のような色の長髪にやんわり手を添える。
「……はぅ」
思わず出たであろう声にハッとなって、脱いだ帽子で目元から下を隠すエンタープライズ。そのいじらしい様がやけに可愛らしく感じて、撫でる手に力が入る。
「いつも助かってるよ、エンタープライズ」
「し、指揮官……?」
「航空戦力としてでも、委託で他の面子を引っ張ってくれてる時も、な」
「……当然だ。私は、貴方に仕えていくと決めたのだから。出来ることをしていくさ。……貴方の、ためにも」
「……ん、サンキュ」
最後に軽くクシャ、と前髪を撫でつける。
それに満足した様子で帽子を被り直したエンタープライズ、頬が少し赤くなっていたものの、見るからに満ち足りていた。
さて、と次の相手に向き直って……
「おっと」
ぽふっ、と腹の辺りに小さな衝撃。
なんぞ? と見やれば綾波がぐりぐりと頭を押し付けていた。
「……綾波?」
「……お嫁さんを蔑ろにするの、ダメだと思うです」
「……あー、そうか。そうだな。悪い」
最初期、着任からずっと一緒にやってきて、指輪まで贈った相手。確かにそんな相手を後回し、なんてのは流石に気がきいてなかった。反省。
「んっ…」
こちらを見上げる、そのルビー色の瞳をまっすぐに見つめ返す。不安げだったそれが、少しずつふにゃりと垂れ、喜色に染まっていく。
次第に口元も緩んでいって、雰囲気もほわほわしたものへと変わっていった。
向けられる瞳から感じる好意。感情を表すことが苦手、と言っていた彼女がここまではっきりわかるように示している事実が、何よりも愛おしく思える。
「……指揮官……相手は駆逐……」
「調教……徹底的……」
「やっぱりロリコンじゃない(断言)」
「おう聞こえてんぞオメーら」
撫でる手は止めなくとも好き勝手言ってくる奴らに注意する。
ロリコンじゃない、どっちかと言うと父性の発露だ。
「……ありがとです、指揮官」
「ん、もういいのか?」
「はいですっ」
俺から離れ、そのままさも自分の居場所だとばかりに隣に陣取る綾波。
さて
「は、あ……しきかぁん……♡」
そろそろやべー状態の重巡に、思わず眼を逸らしそうになるのを堪える。
「し、ししし指揮官……ここまでお預けされたんだもの……す、少しくらい羽目を外してもいいわよね? ……ね!?」
「……ったく。ベルファスト、そのままな」
「かしこまりました、ご主人様」
今にも動きだしそうな綾波とエンタープライズを目線で制して、愛宕に歩み寄っていく。
近付けば近付くほどにその顔がもうとんでもない状態なことに気付いていってるよおい眼にハートマーク浮かんじゃってるじゃねーか。
「ああああもうダメ指揮官いますぐ」
ぽふっ
もうベルファストを振りほどかんばかりになっていた愛宕、その頭にやはり軽く手を添えて。
「……ん?」
「愛宕」
「指揮、官?」
「―――頼りにしてる。これまでも、これからも」
そのまま優しく、労るように。今日イチレベルに優しく。
暴走寸前だった愛宕は、不思議なことに借りてきた猫の如く大人しくなった。
「……あぅ。し、指揮官……」
ぷしゅー……と湯気でも出てんじゃねーかとばかりに、首まで真っ赤になって俯く愛宕。
もはや暴れる様子も無くなったので、もうしばらく愛宕を撫でることにした。
※なおこの後ちゃっかりベルファストも要求してきた
・イラストリアス「ゆっくりと、のんびりと」
「えへへっ。お兄ちゃんのお膝、あったかい……♪」
「ったく、俺よりイラストリアスの膝のが心地いいだろうに」
「まぁまぁ指揮官様、そう仰らずに」
ある日の執務の合間の休憩時間。
俺の膝に顔を埋めて、喜色満面な笑みを浮かべている、藤色のロングヘアーに子供から少女への成長途中を思わせる容姿のロイヤル陣営の軽空母、ユニコーン。
隣でそんなユニコーンを、姉あるいは母かとばかりに微笑ましく見つめているのは、同じくロイヤル陣営の装甲空母、イラストリアス。
ロイヤル陣営切っての高性能艦たるイラストリアス、そして彼女とその同型艦のサポートとして建造されたというユニコーン。容姿は似ても似つかぬ二隻だが、その関係性は相違なく『姉妹』であると、それなりの付き合いで理解できていた。
「ユーちゃんもね、お兄ちゃんのお膝気持ちいいって」
「そりゃ光栄だね。でも実際、イラストリアスの方が……」
「指揮官様? あまりそういう風に否定なされると、ユニコーンも楽しめませんよ?」
「っと、言われてみればそれもそうだ。ごめんな、ユニコーン」
「ううん、平気だよお兄ちゃん」
そのまますりすりと膝に頭を擦りつけるユニコーンの頭を軽く撫でてやると、気持ちよさそうに息を吐く。
そんなことを続けている内に、いつの間にかすやすやと小さな寝息が聞こえてきた。
「あり、寝ちまってら」
「あらあらこの子ったら……ふふっ、指揮官様と一緒なのが、よっぽど心地良いみたいですね」
ユニコーンを優しく見つめるその眼は、どこまでも慈愛に満ちていて。
ユニコーンがイラストリアスを強く慕っているように、イラストリアスもまたユニコーンを大事に思っている。
同じ陣営、同じ艦隊の仲間としてだけではなく、大切な『妹』の一人として、だ。
「……指揮官様。執務の方は?」
「急を要するやつはだいたい片付けてるよ。今は小休止中」
「指揮官様はそういう職務がお得意なのですね」
「前の仕事の影響かねぇ。デスクワークがメインだったし、片付けられるもんはさっさと終わらせないと背中かゆくなるんだよ」
改めて考えるとごく普通の会社員だった奴が世のため人のために脱サラさせられて艦隊運営ってちょっといやかなりおかしいと思う。しかももうアラフォーだぞ俺ぁ。
「では、今ここには私達だけ。ユニコーンも眠ってしまいましたし……」
「ん?」
「指揮官様のご休憩が終わるまでは、私が指揮官様を独り占め、ですね♪」
そう言って、俺の肩に頭を預けてくるイラストリアス。
大人びた美女という見た目ながらその実、彼女は意外なことに茶目っ気に溢れている。
風貌通りに慎ましやかな淑女然としているかと思えば、思わぬ角度からの発言でこっちのペースを掻き乱す。
なのにそれをまったく嫌と思わせないという。どうやればそんな風になれるのか。
加えて、ひと度戦場へ繰り出せば、その航空性能と艦隊を守護する能力も相まって、勝利への重要なファクターになることも一度や二度どころの話ではない。
正直、『頼りになる困ったちゃん』というのが、あくまでもだが俺個人のイラストリアスという艦艇への印象だ。
現に今も、妹分が夢の中。綾波や愛宕といった面々が海域なり委託なりに出払っているところに、これ幸いとばかりに腕を絡めて密着である。これが若者だったらキレイな即堕ち2コマの出来上がりだよ。
天然なのか計算なのか。後者であるならまぁ対処のしようが無くも無いけどこれはもうたぶん天然だと思う。
「……静かですね。指揮官様」
「え。……ああ。そう、だな」
「波の音や風の音。工廠や学園からの音はもちろん聞こえてきますけれど……指揮官様とこうして、肩を寄せ合って。ユニコーンの寝息も合わさって……」
「……」
「ゆっくり、のんびり、穏やかに……こういう時間って、素敵だと思いませんか?」
「……だなぁ。それには同意する」
イラストリアスの言葉に心から思ったことを返す。それが嬉しかったのか、ほぅ、と息を吐いて肩に乗せたままの頭を少しだけ擦り寄せる。
「指揮官様」
「んー?」
「ここには、指揮官様と私達艦艇しかいませんけれど……私達二人がこうして寄り添いあって、ユニコーンが指揮官様の膝で眠っている。……今の私達って、知らない方々から見れば、どう見えるのでしょう?」
ほんの少し頬を染めて、スカイブルーの瞳に期待をこめて、イラストリアスが俺を見上げる。
正直、彼女がどんな答えを求めているのかはわかっている。彼女が俺に、何を渡してほしいのかも、まぁ理解している。
見目麗しい、純白の貴婦人。
戦場においては、守護の要。
そんな彼女が、今はただの『女』として求める答えを、俺は知っている。
だから
「……家族じゃねぇの?」
当たらずとも遠からず、そんな答えを俺は返す
「……もぅ」
ただまぁ、イラストリアスは俺のそんな答えをわかっていたのだろう。
本当に欲するものとは違っても、一概に間違いではないと彼女もわかっているから、微妙に拗ねたような表情で
「……ずるいです、指揮官様は」
・綾波「巡洋艦? 空母? 戦艦? 全部マトです」
―――遠雷が聴こえる
―――豪雨が傷付いた肌を叩く
―――荒波で足元が覚束ない
重桜の駆逐艦、綾波は息を切らしながら、壊れつつある自身の艤装を確認する。
―――主砲。使えるけど決め手にはならない
―――対空砲。間違いなく撃ち漏らしが出る
―――魚雷。残弾有。だがそもそも自分が得意とする距離に近付けない
ちらりと後方の仲間を見やる。
重巡、愛宕は先の航空攻撃が止めとなったのか、艤装はほぼ大破状態。自衛以外の戦闘行動は不可能。
軽巡、クリーブランドの状態は中破。航行並びに攻撃は可能だが、それでも『無いよりマシ』にしかならないだろう。
それより更に後方に陣取っている主力艦隊。
旗艦のカリフォルニア、弊艦隊が誇る航空戦力たるエンタープライズとイラストリアス。
三隻全てが小さくない損傷を受けていた。
カリフォルニアの艦砲は避けられ、エンタープライズの艦載機は一部を除いて叩き落とされ、イラストリアスの防御を張って、なおこちらを貫いてきた、まさに嵐の如き攻撃の数々。
歯をキツく噛み締め、綾波は眼前の敵、その旗艦を睨む。
「―――White〈白〉。ここまで食い下がるとはな」
髪と、身体を覆う外套以外の全てが紅と黒で覆われたその姿。
その艤装はまるで、機械と生物が融合したかのような出で立ち。
女性らしい恵体を紅黒の服と白い外套で包む、所々が無造作に跳ねた、白銀の長髪。
ブラッドルビーとでも形容しようか、そんな紅の双眸が鋭く綾波達を見据えていた。
―――鉄血の空母。グラーフ・ツェッペリン
万物を憎み、世界と自身への破滅願望を胸に懐く、無慈悲な暴風の体現者
間違いなく、これまでの相手の中で、最凶最悪にして―――最強の敵だった
「よくやった、と言いたいところだが……言った所で何が変わるでも無し。我に挑んだその心胆、理解も出来ぬが……まぁ、認めはしよう」
グラーフ・ツェッペリンの艤装が、笑い、嗤い、嘲笑うかのように唸りを上げる。
周りの護衛艦は軒並み殲滅したが、むしろその存在が枷だったのではないかと思えるほどに―――実際そうなのだろうが―――その力は、圧倒的だった。
「……愛宕さん。クリーブランドさん。状況的に、どうですか?」
「正直、キツいわね……指揮官からも撤退命令出てるし」
「鉄血のグラーフ・ツェッペリン……見誤ってたわけじゃなかったけど……これほどとはなぁ」
「……主力の皆さんは、どうです?」
『ごめん、アヤナミ……まだ戦えるけど、自信無くしそう……』
『こちらも、まだ艦載機には余裕がある。私は大丈夫だが……』
『次の攻撃……耐えられるかどうか……』
「言っておくが」
この後の算段を立てようとする綾波達を、無慈悲に狙うその顎。
「逃げられるとは思わぬことだ。そちらにも別の艦隊はあるだろうが……全ては無駄なこと。合流するよりも、背を向けるよりも速く、我は貴様らを喰らい殺す」
「そう、殺す。例外無く殺し尽くす」
「憎き全てを。世界に存在せし全てを」
「艦艇、人間、生物、生命。ひとつ一欠片とて逃がしはしない」
「全てを殺し。総てを殺す」
「全て、全て、全て全てスベテ―――!」
―――我は喰らい、殺し、葬り去る
「―――」
冷や汗が吹き出る。艦艇なのに、皮膚が粟立ち、震えが止まらない。
だが同時に、確かな覚悟が全員の胸に定まる。
―――こいつを野放しにしてはいけない
―――ここで、確実に仕留めなければ
通信機からは、指揮官からの撤退命令が響いている。
一応は軍属として、何よりも敬愛なる指揮官のためにも、それに従うのが最良にして最善だろう。
だが、しかし
攻撃行動に入っている空母を前に、背を向ければそこに航空攻撃を叩き込まれ、第一艦隊は壊滅。
そうなれば次は、遠方にいる第二艦隊がこのグラーフ・ツェッペリンという暴威に曝される。
そして何よりも
こいつをここで倒さなければ、指揮官までもが死んでしまう
全てを殺すと言ったその言葉に嘘偽りは無い。そんな奇妙な確信があった。
だから―――綾波は初めて、指揮官に反抗することにした
「……ごめんなさい、指揮官。綾波達は、逃げられないです」
「だって、逃げようとしても、きっと後ろから撃たれるです」
「綾波達が沈んだら、その後は第二艦隊のみんなが」
「そうなったら、指揮官を守れなくなってしまうです」
「―――だから、戦います。戦って、勝って……みんなで、指揮官の所に、帰ります」
虚勢だった。
勝てる心算なんて無い。それほどまでに強大な相手だ。
本当は今すぐ逃げ出したい。
逃げて、逃げて、指揮官の胸に飛び込みたい。
―――怖い
ヒトの姿になって、理性や感情を知って、恐怖を覚えた
沈んでしまうことが怖い
帰れなくなることが怖い
あの海の底に戻ることが怖い
イヤだ、帰りたい、怖い、やだ、指揮官に逢いたい
―――でも
でも、でも、でも!
それ以上に!!
指揮官を失ってしまう事の方が、ずっと怖い!!
だから!!
「……指揮官。ちゃんと、帰ります。誰一人欠けずに、指揮官の所に、帰ります。だから、だからその時は―――」
「―――いっぱいいっぱい、撫でてください」
「指揮官―――大好きです」
「遺す言葉は終わりか。ならば―――殺す」
暴風の発生と、綾波達が動き出したのは同時だった。
上空より飛来する何機もの航空機。雨霰と降り注がれる弾幕を、綾波はスレスレで回避していく。
まともに動けない愛宕はクリーブランドに任せるしかない。それはクリーブランド自身も、言われるまでもなく理解していた。
後方で動き有、イラストリアスが放った虎の子の艦載機達が、一機ずつ確実に敵航空機を撃ち落としていく。
だが、それでもまだ足りない。
制空権を取るには、あと一押しが、どうしても足りない。
だから、エンタープライズが自身の最後のカードを切る。
「―――ここ、だァァァ!!!」
発進した、エンタープライズの艦載機達。
前衛を襲う敵航空機へと放たれたそれは、速度も火力も桁が違っていた。
「―――む」
少しだけ、ほんの僅かにグラーフ・ツェッペリンの眉が上がる
『LuckyE』
ユニオン陣営の艦艇、『空母エンタープライズを空母エンタープライズ足らしめる』唯一無二のワンオフスキル。
艦載機の発艦と同時に発動するそれは、ほんの一時、艦載機の性能を上昇させるという、シンプルであるが故に強力なもの。これ一つで、いくつもの海域踏破に貢献してきた、まさにエンタープライズの最強の手札。
「―――フッ」
だが、それすらもグラーフ・ツェッペリンには僅かに及ばず。
多少動かされはしたが、あくまでそれだけだ。発進させた艦載機を叩き落とされはしたが、グラーフ・ツェッペリンは直ぐさま次の準備に入る。
「―――JUST ONE CHANCE」
―――その刹那の隙を逃さない、艦砲があった
「RELAX!!!」
グラーフ・ツェッペリンの右艤装が吹き飛んだ。
何事かと見やれば、その損傷具合から明らかに戦艦クラスの砲撃が直撃した証。
ユニオンの戦艦、カリフォルニア。
彼女にも意地がある。姉に恥じない活躍を、指揮官の期待を裏切ることのない戦果を。
当たり一つも無く終わるなど、彼女の意地が許さなかった。
ここまで回避し続けていた艦砲の直撃に僅かに仰け反るグラーフ・ツェッペリン。だが沈むほどではないと思考を切り替える。
次発の艦載機は既に準備完了、これで決める、と。
―――一度崩れた足並みを正すことは簡単なことではないと、『この』グラーフ・ツェッペリンは知らなかった
今度は、左脚へと灼熱が走った。
砲撃の熱、そこから這い上がる不快感。
放ったのは、ユニオンの軽巡洋艦、クリーブランド。
彼女が誇り、指揮官が頼りにする火力と速力。そして艦隊の火力を引き上げる司令能力。艦載機準備と艦砲によるダメージで生まれた隙を逃すほど、彼女は節穴では無い。
そして一方に気を遣れば、逆サイドから攻められるのが常である。
顔を直撃した砲撃、今度は戦艦の艦砲ではなく、巡洋艦クラスの榴弾。
重桜陣営重巡洋艦、愛宕。
腕の主砲は見る陰もなく壊れていたが、その顔は「してやったり」と喜色に彩られていた。
ここに来て、ついにグラーフ・ツェッペリンに動揺が生まれた。
つい先ほどまで死に体だったモノ共が食い下がっている。
我に喰らいついて……否
我を、喰らい殺そうとしている、と
状況を把握し、現状を飲み込み、動揺を抑えたグラーフ・ツェッペリン
そして彼女は―――笑った
眼前に迫る一隻の駆逐艦。
自身は既に艦載機を放った後、最出撃にはどうしても間に合わない。
右側が動かない。そこから熱が上がっている。
左脚をやられた。まともに動けない。
右目が見えない。榴弾で灼かれたのだ。
喰い殺される。自分が。グラーフ・ツェッペリンが
―――ああ
「……暗い、な」
後方で爆音が響く。
グラーフ・ツェッペリンが放った艦載機の攻撃が、愛宕とクリーブランドを呑み込む音。
胸が締め付けられる。痛打を受けてしまった仲間を思うと、どうしても悲しくなる。
だが、それでも前を。グラーフ・ツェッペリンだけを見据える。彼我の距離は既にほぼゼロだった。
綾波が全ての艤装を起こす。
軋む音がするが、構わず砲門全てを解放する。
あらゆる海域、あらゆる戦場。
その領域を支配していたセイレーンの艦艇には様々な艦種があった。
駆逐艦がいた
軽重を問わない巡洋艦がいた
あらゆる空母がいた
戦艦だっていた
そして、その全てに、綾波達は勝利してきた。
綾波が持つ全ての艤装を、ただ一隻に向けて一度に放つ。
「鬼神の力―――」
これを喰らって生き残った艦はいない。
これを喰らって海から上がってきた艦はいない。
主砲を、対空砲を、何より魚雷を―――
「―――味わうがいいッ!!」
―――一切合切、零距離で放つ!!
「―――ああ……暗い、な」
必殺の一撃を受けたグラーフ・ツェッペリン。
大破炎上、その先に待つは、轟沈。
静かに呟いた言葉と、どこか満ち足りたような笑みを最期に
鉄血の空母は―――海へと消えた
「……」
よくわからない物悲しさが、綾波の胸に去来する。
死に物狂いで、艦隊のみんなと掴んだ勝利。生き残った喜びはある。けど何だか……悲しかった
遠くから、第二艦隊のみんなの声がする。
それに振り向いて、ほんの少しだけ顔が緩む。
背後に振り返って―――みんなに
ロイヤルの装甲空母、イラストリアスが護った、誰も欠けていない第一艦隊のみんなに、告げる
「―――帰りましょう。指揮官が待ってる、です」
※以上の戦闘は全てイメージです。実際とは異なる場合があります
・グラーフ「我はここに在り」
鎮守府内を、一隻の空母が歩いている。
白銀の髪に黒い服、白の外套。
ブラッドルビーの瞳は鋭く、力強く前を見据えている。
グラーフ・ツェッペリン
ある日の建造により着任した、鉄血陣営の誇る空母。
張り詰めたピンとした空気を纏う彼女に、好んで近付く艦艇は、そうはいない。
そんな少数派の筆頭が、グラーフへと歩み寄っていた
「―――グラーフさん」
「む? ……ああ、綾波か」
綾波。
鎮守府の最強の一隻。彼女は何故か初対面の時点でグラーフに対して親しげにしていた。
「戦術訓練、終わったですか?」
「うむ。その報告を指揮官へとな」
「でしたら、綾波も一緒に行くです」
「お前も何か報告か?」
「はいです。装備箱の開封報告を」
「そうか」
どちらもあまり口数が多い方では無い。
ないのだが、綾波は少しずつでもグラーフと語りあっているし、グラーフもそんな綾波へちゃんと言葉を返している。
陣営も艦種も戦術もまったく異なる二隻
だがそこには―――奇妙な友情があった
「……綾波よ」
「はい」
「その指輪は、指揮官から贈られたものだと」
「はいです。綾波の宝物です」
「……そう、か」
「……グラーフさん?」
「―――指揮官よ」
「……グラーフ。朝に目が覚めたら艦艇が自分を見下ろしているという状況がどんだけ恐怖なのかを理解してほしい」
「卿に一つ頼みがある」
「無視っすか」
起きたら視線の先に真顔の鉄血空母。目覚まし(視覚情報)は心臓に悪すぎる。アラフォーの心臓は弱いんだから労ってほしい。
「……で、何よ。まさか指輪欲しいとかじゃねーだろうな」
「……」
「どうした」
「……流石の慧眼だな。我の望みを看破するか」
「マジかよ」
そういうの、一番興味なさそうな奴からのまさかの指輪要求。朝っぱらから呑み込むにはいささかヘビーなんですけど。
「まぁいい。そういうわけだ指揮官。我に指輪を」
「無理」
「何故だ」
「まだ誰にもあげる気ないから」
「……綾波か」
「……まぁな」
「……そうか」
すっくと立ち上がって部屋を出ていこうとするグラーフ。
もうここで見送ってしまおう、と思ったけど
妙に嫌な予感がした
「なぁグラーフ」
「なんだ?」
「お前いま何を考えて……てか、何しようとしてる?」
「ん? ああ、なに。大したことではない」
ドアノブに手をかけたまま、こちらに振り返ったグラーフはニヒルな笑みを浮かべて
「綾波を葬る」
「やめろバカ」
イラストリアスがいる
エンタープライズがいる
グラーフ・ツェッペリンがいる
「私は?」