アラフォー艦隊のやべー奴ら   作:オパール

8 / 15
「サン・ル院」




「やはりアイリスか。いつ出撃する? わたしも同行する」

・ラフィー「改になっても真っピンク」

 

 茹だるような炎天下、鎮守府から少し離れた、小ぢんまりとした別棟。その一室。

 

「あ゛っづ……」

 

 ジーワジーワと蝉が今日も種の保存のための努力を怠らず。

 重桜の一般家屋をモチーフにした俺の私室、窓は全開、傍に扇風機を置いて、丸テーブル(ちゃぶ台というらしい)の上には書類の山。

 

「このクッソ暑い時期に空調の点検……理屈はわかるけどタイミングよ……」

 

 明石と不知火、その他ベルファストを初めとした有志達が、鎮守府中の空調設備を総点検している。

 立地的に日光が直撃してくる執務室で空調無しの執務は正直死ねる。なのでこうして、少しでも涼める場所で書類仕事にかかっている次第。

 

 ちなみにどれだけ暑いかというとベルファストが中々の量の汗かくくらい。わかりにくいと思うが相当である。

 

 扇風機の反対側には、桶に張られた大量の氷水とこれまた大量の飲み物。この暑さの中で水分補給を怠ることは自殺行為、とベルファストに釘を刺されているためのこれである。

 そんな状態だから服なんて着ていられるわけもなく、今ばかりは軍服も上着を脱いでタンクトップ、下は流石にそのままだが欲を言うならパンイチになりたい。

 

 けたたましく鳴く蝉の声に混じって、学園から聞こえてくる艦艇たちの生活の声。大小さまざまな女性の姿を取った彼女達。陣営の垣根を越えて交流を続けるその様は、声だけとはいえその光景を俺に教えてくれていた。

 

 

 

 共に鍛練に励む重桜の高雄とユニオンのテネシー

 

 ベルファストの指示であちらこちらに駆けずり回る、同陣営のケントやサフォーク

 

 綾波、ジャベリン、ラフィー、Z23とZ46が筆頭に立って先導する駆逐艦達

 

 

 

 

 

 

 

 ノーガードで殴り合っている愛宕と赤城

 そんな二人を野太い気合と共に叩き伏せるロイヤルのフッドとイラストリアス

 誰か(音からして戦艦級)の無言の艦砲

 淑女らしからぬ怒声を上げて襲いかかる二人

 

 

 

「慣れたよね」

 

 諦めとも言う

 とりあえず母港内でぶっ放したバカは後で処罰することを決め、手元の資料に意識を戻す。

 

 アイリスという、アズールレーンに参加している陣営がある。

 そこが『自由アイリス教国』と『ヴィシア聖座』なる二つの勢力に真っ二つに別れ、アズールレーンやレッドアクシズまで巻き込む馬鹿デカい内ゲバの様相を呈しているらしい。

 もしかしたら近々ここにも召集がかかりそうな案件、それに備えるに越したことは無い。

 綾波以降、何隻かの近代化改修も終え、新規着任艦を初めとした多くの艦艇達の練度向上、装備の見直しも順調。そんな中で、泊地内でドンパチするのはどうかと思うが、大規模作成に参加することになるであろう可能性を前にピリピリした雰囲気が流れているのもまた事実。

 

 どこかで一回ガス抜きさせにゃいかんかなー、と小休止も兼ねて床に寝転がると、そこに控えめなノック音。

 

「? どうぞー」

「失礼しますね、指揮官君」

 

 ドアが開いて、そこから入ってきたのは弊艦隊主力の一隻。

 薄紅色の長髪の上には白のハット、黒マントに同色のアームカバーを両腕に嵌め、白いタンクトップにも見えるようなもので胸元を覆い、下半身は左右で長さの違うパンツ。

 綾波に次いで近代化改修を終えた、ユニオンの空母、レンジャーだった。

 

「おーうレンジャー先生。委託任務ご苦労さん」

「はい。商隊護衛任務、問題無く完了です」

 

 その手に持った資料をテーブルに置くレンジャー。

 立ったままにさせておくのもあれなので、座布団を一枚敷いてそこに座るよう促す。

 

「暑かったろ」

「ええ、今日はいつにも増して……」

「何か飲むか? ベルファストが山ほど置いてったんだけど、流石にこれは処理しきれん」

「いいんですか? ならお言葉に甘えて……」

 

 グラスに氷を入れて差し出す。

 が、それを手に取る寸前で何故かピタリと動きが止まった。

 

「どした?」

「…………何を」

「あん?」

 

 ぽつりと呟かれた言葉に反応した瞬間、跳ねるように立ち上がると両手を自分の顔に当てて信じられないモノを見るような目でこっちを見るレンジャー。

 

 

 

「せせせ、先生に何を飲ませてナニをするつもりなの指揮官君!?」

「は?」

 

 

 

 見れば顔は真っ赤。

 実際、こっちとしても何を言っているのかさっぱりだった。

 

「なに言ってんだお前」

「夏! 室内!! 男女が!!! 二人きり!!!!」

「うん」

「ナニも起こらないハズがなく!!!!!」

「うん?」

「先生は先生なんです! ずっと指揮官君の先生なんです! だだだ、だから指揮官君とはそういうアレなソレになるわけには」

 

「あ、エンタープライズか? 悪いけどお前さんの同僚が熱暴走起こしたみたいだから冷凍室にぶちこんどいて」

 

「3P!!?」

「急いで」

 

 

 

・青葉「重桜の主力は曲者です」

 

『ああ、ダメよ指揮官君……おしりは排泄のためのォ……』

『指揮官、彼女はどうしたんだ……?』

『いつもの』

『あっ(察し)』

 

 レンジャーを冷凍室に放り込んだ後、不知火に色々と看てもらった結果、やっぱりこの暑さで頭がやられていたらしい。

 でなけりゃ飲み物勧められた程度でレンジャーの脳内ピンク劇場が垂れ流しになるはずもない。

 明石からの定時連絡では日没までには空調の方も使えるようになるらしいので、それまでは現状のままになる。

 

「お前さん達艦艇も暑さにやられたりするんだなぁ」

「人間の方々よりは耐性はあるはずなのですが……」

 

 ちびちび麦茶を飲みながら、向かいに座る艦艇に声をかける。

 猫科動物の耳がついた艶のある黒髪に胸元と足元を大胆にさらけ出すよう魔改造された和服だか巫女服だかを着た、見た目は妙齢のお淑やかな美女。

 

 重桜所属。戦艦改め、航空戦艦に改修した扶桑である。

 

「何も飲まなくていいのか?」

「ええ。お気持ちだけいただきます」

 

 出撃からの帰還、その報告ついでに休憩がてら何かと話に花が咲いていた。

 楽しそうに俺に語り、嬉しそうに俺の話を聞くその様は見た目の年齢不相応なほどに明るい。

 かつてはその境遇もあって、『不幸艦』だとか妹の山城と共に揶揄されてきたらしいが、そんな背景が嘘と思えるほどに扶桑型姉妹は毎日楽しそうだ。

 事実、扶桑自身「今は幸せだ」とそれこそ花が咲くような満面の笑みで言われたこともある。指揮官冥利に尽きる。

 

 ただ思い出したように「お世継ぎ」とか呟くのだけは勘弁してほしい。心臓に悪い。

 

(俺が生きてる内に終戦したとして、一応ケッコンしてる綾波やその後もついてくる気なエンタープライズはともかくなぁ)

 

 言うまでもなく独占したがる筆頭の赤城

 ロイヤル動かしてでも俺を婿入りさせる気満々の女王クイーン・エリザベス

 何故か先頭に立つライプツィヒを中心に囲い込みかけてくる鉄血組。きっとここは内ゲバで崩壊すると思われる

 

 なんだろう、指揮官は例外なく部下にその後の人生まで掌握されていくのだろうか

 と、少し前にとある泊地の指揮官から送られてきた彼の死に顔写真つきメールを思い出した。

 

「……」ブルッ

「指揮官様? もしや寒いのですか?」

「あーいや、ちょっとだけ、な」

 

 寒いというか寒気がしたというか

 

「……でしたら、扶桑が」

「あん?」

 

 言うや否や、いつの間にやら目の前まで来てた扶桑に抱きすくめられる。

 胸元に顔が押し付けられ、逃げられないよう腕でガッツリとホールドされて。

 

「……俺、結構汗かいてるけど。それに臭うだろうに」

「気にしませんよ。指揮官様のお身体が一番ですので。身体を暖めるには人肌、と言いますもの」

「そういうこっちゃないんだよなぁ」

 

 何とか頭を動かして扶桑を見る。

 途中いろいろと顔に当たるのを無視して見上げた扶桑は、いつも通りのおっとりとした、けれどどこか儚げな微笑を浮かべて俺を見詰めていた。

 

 ……性欲はまるっきり無いけど美人に目移りしないとは言ってないからな!

 

「指揮官様」

「ん?」

「扶桑は本当に幸せですよ。山城もいて、重桜の皆さんがいて、何より心から信頼できて、お慕いする指揮官様もいて。……これ以上は、無いくらいに」

「……さいで」

「ですが、一つだけわがままを。―――これからも、扶桑をお傍に置いてくださいませ」

 

 

 

 

 

 

 

『指揮官さぁ~ん……サフォークですぅ~……』

「はいよー」

「」

 

 力無いノックの後に聞こえてきたゆるい声。

 それを聞いた扶桑の動きがギッ、と止まる。続けて拗ねた表情と声で「ぐぬぬ」と一言。

 

 正直、それがあと少し遅かったら喰われてた自信がある。

 だって扶桑の眼、完全に愛宕や赤城と同じだったもの。

 

「ぷぇぇ……あついぃ~……」

 

 涙目でドでかいバケツ一杯の氷を持って現れたのは、ロイヤルの重巡洋艦サフォーク。

 彼女は近代化改修第四号。その気質と同じくふわふわしたピンク色のロングヘアーに、ロイヤルメイド隊の一員らしい服装に身を包んではいるが、もう汗まみれでちょっと可哀想だった。

 

「なんだその氷」

「ベルファストさんが持って行けってぇ」

「俺に対して過保護で同僚には鬼畜ってあいつもうわかんねぇな……ほれ、茶でも飲んでけ」

「でもすぐに戻ってこいってぇ」

「俺が引き止めたって言えばどうにでもなるわ。つーかそんな状態で帰して倒れられたら洒落にならん、良いから飲みなさい」

「ふぁいぃ……いただきますぅ」

 

 グラスに注いだ麦茶をくぴくぴ飲み干すサフォーク。あっという間に空になったそれを置いて「ぷへぇ」と息を吐いた。

 

「うぅ、ありがとうございます指揮官さん」

「気にすんな。扶桑、悪いけど扇風機サフォークの方に向けてやってくれ」

「はい。大丈夫ですか、サフォークさん?」

「ありがとうございますぅ……」

 

 扇風機から送られる風を真っ正面から浴びるサフォークの表情は、至福の一言に尽きる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛す゛す゛し゛い゛で゛す゛~」

「やりたくなるよな、わかるよ」

「……空調の点検、思ったよりもかかっているみたいですね」

「だなぁ。日没には終わるって言われたけど……そういや扶桑」

「はい?」

「お前さんが持ってきた紙袋、何それ」

 

 彼女が部屋に入ってきた時、何やら大きめな紙袋をその手に持っていたことを思い出す。

 

「ああ、私としたことが……指揮官様のお召し物を、と思いまして」

「お召し物……服か?」

「はい。気に入っていただけると良いのですが……」

 

 恥ずかしそうに紙袋から長方形の薄い木箱が取り出される。

 扶桑に確認してそれを開ければ、中には何やら黒い薄手の、着物のようなものが。

 

「これは?」

「甚平、という重桜の夏着でございます。これからまだまだ暑くなるでしょうし、指揮官様に普段着としてお使いいただければと……は、恥ずかしながら、扶桑が仕立ててみました」

「自分で作ったのか!?」

「はい……」

 

 どう見ても既製品なこれが自作。

 手に取って見てみれば、確かに所々にその痕跡が見てとれる。

 生地は薄く、そして軽い。確かに夏に着るにはちょうどいいモノだった。

 

「はーすっげぇなぁ……ありがとな、扶桑。今日の夜にでも着てみるよ」

「い、いえそんな。もしかしたら寸法が合っていないかもしれませんし……」

「そうかい? まぁもしそうだったら言うさね。心配いらんと思うけど」

「指揮官様……」

 

 

 

「ベルファストさん!? 大丈夫ですかベルファストさん!!」

「この暑さでベルファストがやられたぞ!?」

「メディック! メディィィィィック!!!」

「フフッ……ご主人、いえ旦那様……ひ孫というのも実に愛らしい……」

「ダメだもう別の世界にまで意識が飛んでる!?」

「ヴェスタルさん! ヴェスタルさんはまだですか!?」

「落ち着け彼女はうちにはいないぞ!?」

「明石ィィィィィッ!!」

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……すまんサフォーク。戻れ」

「そんなー('・ω・`)」

 

 

 

 

 

 

 

・アーク・ロイヤル「逮捕(された)」

 

 

 

 夜

 

 

 

『指揮官様ァァァァァッ!?』

『ちょっとやだ指揮官それ甚平じゃない!? あーダメよダメダメアッー指揮官ダメえっちすぎるわ指揮官んんん!!』

「さこッ、さアッー! ささささ鎖骨!? しきっ、指揮官様の鎖骨ア゛ッー!?」

「無理ッ! 無理無理ダメダメ○む! 指揮官の赤ちゃん出来ちゃうゥゥゥゥッ!!」

 

 

 

 サウスダコタにバカ二人を冷凍室に放り込ませて少し。

 扶桑が仕立ててくれた甚平はピッタリで、改めて礼を言ったら恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑ってくれた。

 

 メンテナンスの終わった空調は試運転も恙無く完了。

 母港内に涼しい空気が回るようになった。

 

 レンジャーやベルファストも回復し、夏の一時を楽しもうということで駆逐艦達が中心となって花火をやろうという話になった。

 本日の執務も全て終了。海際でやるという話に決まっていたので、俺も向かおうと別棟から外へ。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、目の前でアーク・ロイヤルが大捕物に遭っているところに出くわした。

 

 

 

 

 

 

 

「……罪状はわからんでもないが、何したお前」

「閣下!? いや、違うぞこれは誤解だ! 誤認逮捕というやつだ!」

「誤認逮捕って言葉は被疑者の無実が証明されてから使うもんだ、覚えとけ」

「そうなのか!? いや、どちらにしろ私は何もしていないぞ!!」

「……とりあえず離してやれ。弁解くらいは聞いてやる」

 

 そう言うと、アーク・ロイヤルを取り押さえていたテネシー、ヘレナ、高雄が渋々といった表情で離れる。

 

「うぅ、ありがとう……ありがとう閣下……一生ついていきます……!」

「軽いなお前の一生。……んで?」

「そうだ! 私は怪しいことも罪に問われるようなこともしていないしするつもりも無い! ただ花火をする駆逐艦の妹達を陰から見守ろうとしていただけ! だというのに突然取り押さえられたんだ!」

「あーまぁそれはそこの三人が悪いな」

「だろう!?」

 

 

 

「お前が顔面に下着被ってなけりゃあな」

「えっ」

「確保」

「閣下ー!?」

 

 

 

 間髪いれずに再び地面に縫い付けられたアーク・ロイヤル。

 ヘレナに頼み、その顔面にあったサイズ的にどう見ても駆逐艦のモノのそれをひっぺがしてもらった。

 

「どっから盗んだお前」

「盗んでなどいない! 落ちてたんだ!」

「どこに」

「廊下!」

「なんで廊下に下着が落ちてるんですかねぇ……」

「私だって聞きたいさ! だがもし駆逐艦の誰かが困っているのでは……と考えたら、いてもたってもいられなかった! だから落とし主を探しに……!」

「だからって被る必要ねぇだろうよ」

「閣下は被らないのか!?」

「沈めんぞテメェこの野郎」

「指揮官?」

「そんな事実は無いからその眼やめろヘレナ」

 

 ハイライトオフのめちゃくちゃ怖い眼で見てくるヘレナを諌めて、しばし考える。

 こいつは無二無類の駆逐艦狂いの変態だが直接的な被害をもたらすような奴でもない。事実、一部の駆逐艦達からは「カッコいい」とごくごくたまに本当にたまにそんな評判が上がっていたりもする。調子乗るから教えないだけで。

 

「とりあえずテネシー、それとなく持ち主探しといてくれ。俺がやるわけにもいかんだろ」

「私か!? ……むぅ、まぁ構わないが」

「今回は証拠不十分ってことで、下着被った件についてだけ後で説教して済ませてやる。他の面々待たせるわけにもいかねーし、今は早く花火やりに」

「いや、その、指揮官殿」

「ん? どした高雄」

「拙者、その下着の持ち主に心当たりがあるのだが」

「ああ、そうなのか? じゃあ高雄に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――綾波のものなんだ」

「前言撤回いますぐ殺せ」

「閣下ァァァァァァッ!!?」




この話書き始めたのアイリスイベント真っ只中だったんだよなぁ……







三笠大先輩来ました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。