アラフォー艦隊のやべー奴ら   作:オパール

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ツイ垢作ったのとドイッチュラント恒常追加のアナウンスが来たので初投稿です

今回まぁまぁ長いのと、綾波について解釈違い起こすかもしれぬ方はすぐにバックでカントリーサインの旅してきて、どうぞ


三笠「まだ若いし。いけるし」

 

 

 

―――既に過去となった、今は遠いあの日

 

 

 

 ―――濡羽色のあの人に、一目で心を奪われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ」

 

 アイリスの内戦が一応の終息を見せてから一月余り。

 うちの艦隊も微々たるものながら海域攻略へと乗り出していった。

 綾波、レンジャー、扶桑、サフォークに続いて、ラフィーとジャベリン、重桜の軽巡洋艦である阿武隈の改造も完了。『認識覚醒』という、練度の上限突破に関する委託任務に主に関わることになった綾波を除いた六隻を主軸に未踏破だった海域も次々と突破出来ている。

 特に陣営毎で纏めた艦隊の突破力は目を見張るどころか相手側に思わず同情してしまいそうなほどの力を見せている。

 

 クイーン・エリザベスを中心にジャベリン、サフォーク、そしてベルファストが前衛を務め、エリザベスの両翼をフッドとイラストリアスで固めた、最も安定した火力と耐久を持つ布陣のロイヤル艦隊。

 航空戦艦となった扶桑を旗艦に、そこに赤城と加賀の一航戦を加えて圧巻の一言に尽きる航空制圧。とある海域で遭遇、そして参加を果たした重桜駆逐艦の夕立を主軸に阿武隈と愛宕を伴った雷撃による見敵必殺の重桜艦隊。

 誰もが知るLuckyE、エンタープライズと我が艦隊の戦艦において最古参のカリフォルニア、そして単艦での面制圧にかけては並ぶ者無しとなったレンジャーを主力艦隊に、ラフィー、クリーブランド、あとは軽巡のヘレナ或いは重巡のウィチタで、耐久に難ありだが素殴り火力による道中の露払いには最適のユニオン艦隊。

 主力はティルピッツとグラーフ・ツェッペリンの二隻のみながら道行く全てを鏖殺し、前衛には近々、近代化改修を迎えるZ23。その両サイドをフィーゼとプリンツ・オイゲンで補佐する鉄血艦隊。

 更には海域でそれぞれを補佐する、伊19、伊26、伊58、U-557、U-81、デイスら潜水艦達。

 

 主に第一から第四までの席を埋めるこの四つの艦隊と二つの潜水艦隊が、現在の主力となる。

 

 アイリス内戦以降、同作戦に参加していたユニオンのサウスダコタ級戦艦のマサチューセッツが参加。更に件のアイリスからは駆逐艦のフォルバンとル・トリオンファン、軽巡のエミール・ベルタン、潜水艦のシュルクーフが。ヴィシア聖座に籍を置く駆逐艦のル・マルス、そして巡洋戦艦のダンケルクがそれぞれうちの艦隊に着任した。

 唯一、ヴィシアの首魁に位置していたジャン・バールのみが姿を見せず、マサチューセッツが少し寂しそうだったのは記憶に新しい。

 

 これにより更に厚みを増した我が艦隊。采配にこれまで以上に気を遣うようになったが、戦力として見るならばもういいんじゃないかな、とも思う。

 

 

 

 さて、ちょっとアレな話になるが、そんな大所帯になれば当然いろいろと経費なり何なり嵩むこと請け合い。

 その戦力に見合うだけの戦果は上げられているハズ。加えてここは一応正規の手続きに則って運営されている艦隊。

 俺自身は民兵みたいなもんだが、軍属となってる関係上、当然上司というか上官というかそういう立ち位置の人もいて。まぁ時々顔を出して報告するなり何なりの義務もある。

 

 てなわけで、今は基地を離れて一人、その直属の上官に当たる人への定期報告に来ていた。

 

 

 

「―――艦隊とその指揮官の数だけ、様々な色がある」

 

 御歳六十三歳になるこの御仁。

 俺とは親子ほど歳の離れたこの人も、俺と同じようにお国から徴用喰らって艦隊指揮官を勤めていたらしい。

 そんな似通った背景だったからか、教導等で艦艇やセイレーンに関する基礎知識を一から教えてくれて(なお指輪とかその辺はノータッチであった)、なおかつ何かと気にかけてくれている、俺としても尊敬してる人だ。

 

「だがな、どれだけの数の艦隊があり、指揮官がいようとも、最終的には全て二つのタイプに分けられる」

 

 高齢を感じさせないピンと伸びた背筋。

 髭の蓄えられた貫禄漂う面持ち。

 厚手の軍服の上からでもハッキリとわかる、老衰という言葉とは凡そ無縁な体格。

 

「―――即ち。我を取るか、和を取るか」

「……それは」

 

 ―――まるで、レッドアクシズとアズールレーン

 

 俺が抱いたそんな言葉を読み取ったのか、静かに頷く。

 ただの老兵ではなく、ただの上官でもなく。

 まさに『歴戦』、その言葉が正しく当て嵌まる。

 

「その点で言えば、君はどちらかというと和に寄っているな」

「そう、ですかね?」

「うむ。報告書ついでに持ってきてもらった彼女達からのアンケート、あるだろう?」

「ええ」

「目を通させてもらったよ。君と彼女達は互いが互いを信頼し合っているようだね。実に喜ばしいことだ」

「……恐縮です」

「……しかし、先程も言った、『我』を取るタイプ……彼女達を『モノ』として扱う輩が多いことも事実」

「それは……まぁ」

 

 まぁ、それも当然と言えば当然だろう。

 演習等で他所の泊地に行くこともままにあるが、いくつかでは艦隊を私物化しているような場所も見えた。

 これに関しては私見ではあるが、やはり艦艇に対する『不知故の恐怖』というものがあるのだろう。

 

 どこで、どこから、どうやって誕生したのか

 

 経緯、背景、構造

 

 それら全てが、未だに解明出来ない存在。

 

 ヒトはとかく、『知らない』モノを本能的に恐れる傾向にある。

 そしてそれは、結果的に『怖い、だから知りたくない』という最悪の堂々巡りを招く結果にもなっている。

 もちろんそんなタイプが全てではないことはわかっているが

 

「そういう人間が大多数なのもまた事実、なのだよ」

 

 心底悔しげに、彼はそう語る。

 彼自身もかつてはそちらよりだったそうだが、それでも艦艇達と共に過ごす内に心変わりがあったらしい。

 前線を退いた今でも、当時の部下達がこぞって顔を出しにくるそうな。

 

「だから、私としても君のようなタイプは非常に好ましい。上司としても個人としてもね」

「……ありがとうございます」

「照れるな照れるな。……彼女達と共に、これからも歩みたまえ。予算等の件も、遅々としながらでも確かな戦果を挙げているならば文句も出まい。都合は私がつけよう」

「……はい。ありがとうございます!」

「うむ。……ところで、話は変わるのだが」

「はい?」

 

 表情が一変、奥歯に何か挟まったような顔になった上司が、数枚の紙を俺に向けて差しだs

 

「oh……」

 

 

 

 

 

 

 

「君こんな怪文書送りつけてくる娘達と一緒で本当に大丈夫なのかね?」

「申し訳ありませんッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『いやまぁ君の所だけではないから特には気にしていないのだけどね』

『えっ』

『極々少数ながらあるのだよ、こういう基地』

『……ルルイエ泊地の友人が部下達に襲われて孕ませてましたねそういや』

『待って彼女達って妊娠できるの? というか襲われたの?』

 

 

 

 何とも微妙な空気で終わった定期報告。

 とりあえずヒトの上司にアンケートに混ぜて怪文書忍びこませた奴の目星はついてるので帰り次第処罰を決定。

 

 

 

 だが、足早に戻った俺を待っていたのは、予想だにしない展開だった

 

 

 

「……ぁ」

 

 口から乾いた声が漏れる

 息が続かず、脳が揺れて立っていられない

 

「あぁ、あ……」

 

 別に基地が襲撃されていた、とかそういうことではない

 いや、不謹慎だが、下手をしたらそっちの方が俺にとってはマシだったかもしれない

 

「ぁああああ……!」

 

 エンタープライズやベルファスト、カリフォルニア達といった、特に最初期から共に歩んできたみんなが俺に声をかけている。だが、俺の頭はそれを理解できていない

 

 俺を待ち受けていたのは、それほどまでに受け入れ難い現実だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッなんですこれ判定ガバガバにもほどがあるしドロップ渋すぎるし時間経過でボスが強化されるとか初見殺しなんて言うのも憚られるほどのクソ難易度ですだいたいシステム自体に粗が多すぎですしテキストの文字は子供騙し同然ボイスも無しで前作で爆上げされたシリーズ評価ダダ下がり確定じゃないですか制作スタッフやる気あるんですかこれなら前々作の方がまだ楽しめる構成だったですだいたいシリーズ続いてるのに新しいシリーズ出してしまってる時点で開発側が迷走してるって自己申告してるようなもんですそれの初作がコケてたらもう終わりだったって言ってるようなもんですだから一作目からのファンが離れてしまってるんです続編作る気無いなら最終作を尻切れトンボにするんじゃないです続編作りなさい徹底的にコキ下ろしてやるですそれにしても遅いですねロング・アイランドさんお菓子仕入れてくるってことなのにまさか強制労働でもされてるですかまぁそれならそれでやりようはあるですロング・アイランドさんラブ○ラスのヒロインを全員徹底的に調教してやるですフフフ次にこれを起動した時の顔が今から楽しみで酸素コーラがおいしいのですゲッなんですこれ全然進んでないじゃないですかこれじゃやる気も起きないですでもまぁこれはこれで好きにイジれるから解釈違いで殴り合いも出来るといえば出来るわけでフフフ普段ドン勝たれてばかりの恨み辛みを全てここにぶちこんでやるですほら反応しなさい一から百まで作り変えてやるですからアハハハハハハハハああやっぱり魚雷天ぷらを酸素コーラで流し込むのが最の高王家グルメとかそんなの【不適切】ですあんなの【不適切】ですやはり魚雷天ぷら is God.というわけで食べ尽くしてやるですフフフ出撃も無いけど太ることはないああありがとうございますロング・アイランドさんあなたの教えは最高です娯楽には触れてこなかったですがまさかこんな楽しいものだったなんてもうこのままこれでいいですいやもうこれホントに至福に尽きるですもうこのままここでお布団と添い遂げてしまってもいいですホントに」

 

 

 

「綾波ぃぃぃぃぃあああああああッッッ!!!!?」

 

 

 

・指揮官「帰ってきたらケッコン艦がヒキニートになってた」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『お前! お前かこのクソ幽霊!? 返せよ! 俺の綾波を返せェェェェェェッ!!!』

『ぐえぇ……わ、わたしただ息抜きの仕方おしえただけだもん……』

『お前も近代化改修してやろうかァ!?』

『斬新すぎる脅し文句!?』

 

 

 

『……後に、『初期艦ニート化騒動』と語られる事件の始まりから一週間。例を見ないほどに取り乱した指揮官も今は落ち着いて、これまで通り精力的に執務に励んでいます。

 ですが、着任して間もない私でもわかるほどに指揮官の憔悴ぶりは隠しきれておらず、小さなミスが度々発生。その都度ネルソンさんやアドミラル・ヒッパーから容赦無い罵声が飛び出ます。

 指揮官も頭ではわかっているのでしょうけれど、それでも私達のリーダー的存在で、指揮官の初期艦、唯一のケッコン艦、一番信頼できる存在である綾波がああなったという心理的ショックは計り知れないモノだったようです』

 

『あ、申し遅れました』

 

 

 

「おはようございます。エディンバラです」

「おはようございます、姉さん」

「あ、ベル。おはよう。ちっちゃいベルもおはよう」

「おはようございます、エディおねえ様」

「ちょっとそのエディってのやめて。男の人みたいじゃん」

「ですがレパルスさんが、こう呼べばエディおねえ様が喜んでくださると……」

「ごめん二人ともちょっと用事できた」

 

 

 

「エディを名乗るそこのメイドォ!」

「うわっ、重桜の赤城!? ていうか名乗ってないけど!?」

「エディならばコーナーポスト最上段からフロッギーな気分で相手にボディスプラッシュでも決めてご覧なさいなァ!?」

「えっ何!? なんの話!?」

「ほらあそこにちょうど倒れてるのがいるから!」

「だからなに、ってキャアアアア陛下ー!?」

 

 

 

「……ご主人様の不調がこんなところにまで……」

「おねえ様?」

「……いえ、何でも。姉さんのフォローと陛下の救援に行きますよ」

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……指揮官、大丈夫か?」

「……ん。クリーブランドか? ああ、悪い。ちょっとボーッとしてた」

「指揮官……」

 

 綾波が引きこもるようになってから、指揮官は仕事してる時以外はずっとこんな調子だ。

 理由は今でもわかってない。綾波が唯一部屋に入れるのはロング・アイランドだけで、そのロング・アイランドに根本的な理由を問い質しても口をつぐんだまま。

 

 仕事に関してはネルソンから聞いた限りでは、時々小さな書類不備がある程度で大きな問題は無いらしい。ただ見てわかる通りの消沈具合が気に食わないらしく、ついついいつも以上に厳しい言葉と態度で当たってしまっていると。

 アドミラル・ヒッパーからも似たような話を聞いた。誰に対しても食ってかかるヒッパーが、その時だけはどことなく元気が無かったのがちょっと意外だった。

 

 指揮官がそんな状態なのが間接的に、艦隊の雰囲気をちょっとずつ悪い方向に向かわせている。

 綾波の元に向かっても取り合ってもらえず、故に指揮官を上手く慰めることも出来ない赤城は普段以上に情緒不安定。愛宕も意気消沈したかと思えばカリカリして高雄に窘められる毎日。

 重桜で特に深刻なのが扶桑型の山城。普段は天真爛漫で指揮官を「殿様」と呼び無邪気に懐いていた彼女の口から出た言葉は『不幸だわ…』の一言のみ。これに扶桑が大いに取り乱した。今は落ち着いたけど。

 

 鉄血組はティルピッツが真っ白に燃え尽き、ツェッペリンが平然とした顔でドカ食いし始め、オイゲンが不安そうにそわそわしていたのが印象深い。Z型駆逐艦のみんなやライプツィヒはそんな面子の様子に一周回って冷静になってた。何だかんだみんな指揮官が好きなんだと改めて実感した。

 

 私達ユニオンやロイヤル陣営、着任したばかりのアイリス、ヴィシアは平静を保てていたけれど、ことここに至って、私を含めた艦隊の全員が、指揮官がどれほど綾波のことを想っているかがよくわかった。

 

 私達が指揮官に向けるそれとはまた別物であるのだとしても、それでも指揮官にとっての一番はやっぱり綾波なんだと。

 

 もちろん、指揮官は何度も綾波と話をしようと部屋に通い詰めていた。それでもその扉が開くことはなく、それどころか返事さえされなかったらしい。

 

「……俺なんかしちまったのかなぁ……」

 

 力無く項垂れる指揮官。

 

 ……私は、私達は何をしてあげられるんだろう

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「綾波ちゃん」

「何ですか?」

「指揮官さん、だいぶ参っちゃってるみたいだよ」

「……」

「もう許してあげたら?」

「……」

 

 ムスーッと頬を膨らませ、ロング・アイランドの言葉には何も返さない綾波。

 流石に自分が意固地になっているという自覚は綾波にもある。自分が原因で、指揮官と艦隊の仲間みんなに迷惑をかけてしまっているのだから。

 だが、今日でもう一週間。そう簡単には引っ込みがつかなくなってしまっている部分もあって。

 

「……許すもなにも」

「うん?」

 

「……指揮官は、何も悪くないです」

 

「悪いのは全部……綾波、です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官?」

「指揮官様?」

 

「……なにさ」

 

 書類を片付け、気晴らしがてらに散歩してたら愛宕と赤城に詰め寄られていた。

 壁に押し付けられて退路を塞がれ、目の前に迫る二人の顔は何かもうすごい。目は血走ってるし隈もすごい。

 

「……ねぇ指揮官。いつまでも綾波ちゃんをあのままにしておくつもり?」

「あん?」

「お言葉ですが指揮官様、正直この状況が続くと赤城はもうおかしくなってしまいそウデス」

「既にだいぶキてるじゃねーか」

 

 カタカタ小刻みに震えている赤城。

 珍しいことにそんな赤城を宥める愛宕が、まるで初めて会った頃以来の真面目な表情で語りかけてきた。

 

「……ねぇ指揮官。お姉さんね、実は指揮官と綾波ちゃんの仲の良さ、もちろん妬ましいけど……それ以前に好きだったのよ?」

「え……」

「私達重桜にも、他の陣営の子達にも指揮官は分け隔て無く相手になって、信用も信頼もされているけれど……それでも、指揮官と一緒にいて一番サマになってるのは、やっぱり綾波ちゃんなのよ」

 

 悔しいけれどね、と苦笑と共に溢す愛宕。

 

「それに、指揮官がそんなままじゃあ、お姉さんとしても張り合いが無いわ。ドンと構えて私を冷たくあしらう指揮官でいてくれないとオトす気にもなれないじゃない」

「お前それ……」

「指揮官様」

 

 普段のような我欲に走った表情ではない、本当にマジの状態の愛宕に二の句が告げられなくなる。そこへ、赤城が俺の手を静かに取った。

 

「赤城?」

「指揮官様が赤城を選ぶことは自明の理」

「おい」

「ちょっと」

「お黙り重巡。……ですが、赤城にも赤城なりの理想、というものがありますの」

「……今の俺はそれに叶ってないって?」

「いえ、指揮官様はどんなお姿でも愛しいですわ。ただ……そうですわね。このケダモノ重巡と同じようなことを言うのは非常に業腹ではありますけれど」

 

 くっ、と握られた手に力が入る。

 真っ直ぐ俺の目を見て、いつものようにストレートな意思と言葉で、赤城は俺に伝えてくる。

 

 

 

「―――やはり赤城は、いつも通りの指揮官様が、一番素敵だと思っておりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったわね指揮官」

「手のかかる旦那様ですこと」

「……ところで誰がケダモノですって?」

「自覚の無い者ほど救えないモノは無いわねぇ」

「あら、あんたの目の前には鏡でもあるのかしら」

「ほほほ。やだやだ、これだから目の前しか見えていないイノシシは困るわ」

「化かすしか能の無い駄狐よりは有能だと思うけれどね」

「…………」

「…………」

 

「「…………」」

 

 

 

「「エイシャオラァッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 基地から外れの波止場。

 そこに柄にも無く寝転がって空を見る。

 

 晴れ渡る昼下がりの空。俺としては雲ひとつ無い、よりもむしろ雲がある空の方が、そのどこまでも続く蒼を彩る不定形な白色のコントラストも相まって好きだったりする。

『本日天気晴朗なれど波高し』というのは誰の言葉だったろうか

 

「いやまぁ別にこの状況とは全然関係無ぇんだけど」

 

 ……ここに来るまでで、愛宕と赤城に続いて何人もの艦艇達から話を聞いてきた。

 俺と、綾波に関することを。

 

 

 

『……そう、だな。私には綾波がああなった理由は見当もつかない。だが……あなたと綾波は、やはり二人で一緒にいる方が、私としても落ち着く』

『指揮官様は、色んな方達の心に寄り添ってきましたもの。けれど、指揮官様の心に寄り添えるのは、彼女が一番だと私は思います』

『ユニコーンね、お兄ちゃんのこと、大好きだよ? でも、綾波お姉ちゃんのことも大好きなの。お兄ちゃん達が、仲直りできるようにって、ユーちゃんも応援してくれてる……だから、がんばって、お兄ちゃん』

 

 エンタープライズと、イラストリアス、ユニコーン

 

『ご主人様と綾波さんについては、私も敬意を表しております。互いに信を置き、簡単には表せないほどの親密さ。……メイドにあるまじきことですが、羨ましいと感じております』

『私達が着任する前……それこそ、最初からずっと一緒だったんだもんな……大丈夫だ指揮官! 綾波だってバカじゃないし、きっと指揮官と面と向かって話せば、ちゃんと答えてくれるさ!』

 

 ベルファストとクリーブランド

 

『女にしかわからないこともあるのよ指揮官さん? 綾波ちゃんは指揮官さんのこと大好きだけれど、ちゃんと言葉にしなくちゃ伝わらないことだってあるもの。だから、綾波ちゃんとお話をして、ちゃんと指揮官さんの伝えたいことも伝えなくちゃ』

『私、たぶん一番綾波と一緒に出撃してきたからさ、ちょっとはわかるんだ。綾波って甘え下手っていうか……うん、指揮官のことはもちろん好きなんだけど、だからこそ迷惑になっちゃうんじゃないかって思いがちなんだよね。……不器用というか何というか、誰に似たんだろうねー?』

 

 レキシントンと、カリフォルニア

 

 

 

 ここが始まって間もない頃に、ずっと支えてくれていた面々。

 ずっと先頭に立って海域を進んできた綾波と共に、誰よりも近くで戦ってきたみんな。

 その全てが、綾波を信頼して、心配している。そして、いつも通りの姿を見せることを信じている。

 

 こんな情けないオッサンのことも心配してくれて、誰も見放すようなことは一言も言わず、普段通りの俺の姿を見せてくれ、と暗に言われている気がして。

 

「……綾波」

 

 初期艦。たった一人の相棒。

 俺が指輪を贈った、唯一の―――

 

「―――男見せろアラフォー!!」

 

 立ち上がって、年甲斐も無く走り出す

 

 伝えるべき言葉はわからない

 

 ただそれでも、もし会いたくないと言われても

 

 俺は綾波に会わないといけない―――いや

 

 

 

 俺は無性に、綾波に逢いたかった

 

 

 

 

 

 

 

「……あー」

「? ロング・アイランドさん、どうしました?」

「や、指揮官さん来るみたい」

「えっ」

「しかも今回本気みたいだよー? これはもう覚悟するしかないんじゃない?」

「……でも」

「うん?」

「……怖い、です。理由を話して、もし、指揮官に嫌われたりしたら……うぅ」

「大丈夫だと思うよ」

「……えっ?」

 

「指揮官さんがそんなヒトじゃないの、綾波ちゃんが一番わかってるはずでしょ?」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「………」

「………」

 

 部屋を訪ねたら、ロング・アイランドが躊躇なく招き入れてくれた。

 気を遣わせてしまったのか、そのロング・アイランドは今は部屋を出ている。以前にキツく当たってしまったことを謝りそびれたが、それを察していたのか『後でいい』と言われてしまった。

 

 だから、ここには俺と綾波の二人だけ。

 

「……指揮官、ちょっと痩せた、です?」

「あー……そう見える、か?」

「はい……」

「……」

 

 会話が止まる。二の句が続かない。

 

(こんなことならなに話すか決めときゃよかった……)

 

「……綾波」

「ッ……はい」

「あー……その、だな……」

「……」

 

 訊かなければいけないことも、言わなければいけないこともいくつもある。だというのに

 

 目の前で不安げに、何かに怯えているような綾波を見ていると、喉元まで引っ掛かっているそれを引き出すことが出来ない。

 

 しかしそれでも、これだけはハッキリさせなければいけないから

 

 

 

「……単刀直入に訊く。なんで……引きこもったりしたんだ?」

 

 

 

「……それ、は」

 

 そこから先の言葉を、綾波は言えなかった。

 あちらこちらに彷徨う視線は揺れていて、俺にそれを伝えることを怖がっていることを如実に示している。

 出てくるのは掠れた声だけ、そんな初めて見る綾波の姿に、思わず詰め寄ってしまいそうな自分を何とか留める。

 しっかりと、彼女の意志と言葉で聞かなければ意味は無い。しかし当の本人が感じている恐怖と不安が、それを邪魔してしまっている。

 

 ならば、俺がやることは一つだけ

 

「……綾波」

「ひっ」

 

 立ち上がって、動きだした俺の姿に、綾波が小さな悲鳴をあげる。

 今の俺も恐怖の対象なのか、と少しだけイラっと来たが、それを優先して顕すほどもう子供じゃあない。

 

 歩を進めて綾波の目の前に。そこに腰を下ろして

 

 

 

 そっと、綾波の頭に手を置いた

 

 

 

「―――し、き、かん……?」

「焦らなくてもいいさ。綾波が伝えたいように言ってくれ」

 

 そのまま軽く撫でてやれば、いつものように、目を細める綾波。

 そんな時間が続くうちに、その小さな唇が開かれた。

 

「……ごめんなさい、指揮官」

「うん?」

 

「全部、全部……綾波の、ワガママ、なのです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ずっと、ずっと不安だった

 

 着任した日―――初めて指揮官と出会ったあの日から、ずっと不安を感じていた

 

 戦うことは嫌いじゃない。かといって別に好きというわけでもない

 

 ただ、何のために戦えばいいのか、そこだけが不透明なのが、ずっと、ずっと、不安だった

 

 ―――いつからだろう。それが少しずつ薄れ始めたのは

 

 指揮官と出逢って、同じ時間を過ごして、仲間達に囲まれて、いつしか彼から指輪を贈られた

 

 彼はその意味をよくわかってなかったらしい。けれど、それでも嬉しかった

 

 戦うことは、今でも好きになれないけれど嫌いでもない。でも、それでも

 

 彼の―――指揮官のために。自分をずっと信じてくれている彼の望む未来のためなら、きっと自分は、どこまでも、いつまでも戦えると

 

 笑いかけてくれるその表情

 優しく語りかけてくれるその声

 撫でてくれる大きな手のひら

 

 自分―――綾波が大好きな全てのために

 

 

 

 ―――けれどいつしか

 

 ―――それさえも不安になってしまっていた

 

 

 

 戦うことに異論は無い

 

 けれどその果てを想像してしまった

 

 自分は、指揮官やみんなとずっと一緒にいたい。セイレーンとの戦いが終わった後でもだ

 

 でも、もしそれが叶わなかったら?

 

 大好きなみんなと、もしも永遠に離ればなれになること―――自分の戦いが、全て徒労に終わるようなことになってしまったら?

 

 先が見えないことが不安で

 そんな『もしも』が起こりうる可能性が不安で

 そんな思いが溜まり続けたまま、いつしか自分は前線に立たなくなっていた

 

 もちろん、それは指揮官による采配だ

 

 認識覚醒

 最高にまで到達した練度の上限を更に引き上げる強化措置

 いくらかの資金と特殊な資材を用いて行われるそれを、指揮官は迷うことなく自分に注いだ。それについては文句は無い。その後、その資材を入手する委託任務を果たすことが、自分の主な仕事となったことも含めて

 

 多く在籍する艦艇達の中には、当然練度が乏しい者達もいる

 一度上限に届いた自分をフォローに回し、彼女達を優先して鍛えることは確かに理に適っているのもわかる

 

 

 

 ―――許せないのは、それをずっと続けたいと思っている自分がいることだった

 

 

 

 指揮官のために戦いたい

 

 けれど、先の見えない未来を思うとどうしても不安で

 

 でも、指揮官やみんなにとって、自分はまだまだ必要な存在で

 

 ぐるぐるぐるぐる

 

 色んな感情が渦巻いて、頭は色んなことを考え通しでまとまらない

 

 だから、だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わからないのです。綾波は、綾波はどうしたらいいのか……自分が何をしたいのかも、もうわからないのです……!」

「―――」

「怖い、です。もし、もしこの先、どれだけ綾波が頑張っても、それが全部無駄になってしまうのが怖いのです……指揮官や、みんなと、ずっと一緒にいたい……でも、でも……!」

「……綾波……!」

 

 苦しそうに、絞り出すように語り続ける綾波。

 そんな彼女に俺がしてやれることは、震える身体を抱き留めてやることしかなくて。

 

「……ごめん、ごめんな、綾波……」

「違う、です……指揮官は、何も悪くないのです……綾波が、弱いから……」

「そうじゃない、そうじゃないんだよ綾波……お前がそこまで思い詰めてるなんて、気付いてやれないどころか、思いもしなかった。悩んだりすることなんて、当たり前なのに……!」

「指揮官……」

「綾波なら大丈夫だろうって、勝手に思ってたんだ。そんなこと、あるわけないのに……どんな奴でも、気にしてやらなきゃ潰れそうなことにも気付かない。そんな、当たり前のことを、俺は……!」

「……ぅ、うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい、しき、か……!」

 

 小さく漏れ出る嗚咽が、次第に大きな泣き声に変わっていく。

 俺の背中に腕を回して、子供のように泣きじゃくる綾波の姿は、いつも以上に小さく見える。

 改になろうと、練度がどれだけ高くなろうと、その精神面が成熟していようとも、駆逐艦という『フネ』であるのだとしても

 

 ―――まだまだ子供……いや

 

 ―――子供から大人へと変わる途中の『少女』

 

 ―――そこで成長が止まってしまっているような、そんな不安定な状態なんだ、綾波は

 

(俺は、バカだ。筋金入りの大馬鹿野郎だ……!)

 

 綾波はいつも静かに、俺の隣に立っていた

 はにかむような微笑に癒され、救われてきたことだってあった

 初期艦として、いつもみんなの先頭に立って、戦場を駆けるその姿は頼もしくて

 

 それに引き替え、俺は?

 

 俺は綾波に何をしてやれていた?

 装備を整え、技能を鍛え、戦場に送り出して、帰って来たら言葉をかけて労って

 

 そんな当たり前の事ではなくて(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 こんなに小さくなって震えている彼女に、俺は何かしてやれてきたのか?

 

 彼女の不安や悩みに、気付いてあげられることも出来ないような俺が、何を……!

 

「……綾波」

「グスッ……しきかん?」

「怖いんだよな? 先が見えないことが」

「……はい」

「……実はな。俺もなんだ」

「えっ……?」

 

 

 

 ―――だから

 

 何が出来るか、してやれるのかもわからないけれど

 

 ―――せめて。寄り添うだけでも、してやりたい

 

 その不安を、ほんの少しだけでも掬い取ってやりたい

 

 

 

「俺、元々は普通の会社員だったって話しただろ?」

「はい……」

「けど今はこういう場所で、指揮官って立場にいる。いつ終わるかわからない戦争の真っ只中。……正直、終わったところで元の生活に戻れるって保証も無い」

「……」

「戻れたところで、きっと今まで通りにはいかない。間違いなく、大事な何かが変わってるハズなんだよ」

「……」

「けど、さ。実際はそうならないかもしれない(・・・・・・・・・・・・)

「……えっ」

「戦争は俺が生きてる内には終わらないかもしれない。仮に終わっても俺は指揮官として残り続けるかもしれない。もしかしたら指揮官の任を解かれるかもしれない。……考え出したらキリが無ぇ」

 

 ガキの頃から、その思考の繰り返しだった。

 自分が今やっていることは本当に自分のためになるのか?

 或いは誰かのためになることなのか?

 これは本当に自分がやりたいと思っていることなのか。もしそうであってもこの先このままでいいのか。

 

「……だからさ、綾波。もしかしたら今のお前には、ちょっと厳しいかもしれないこと言うぞ」

「……」

「そういうことばっかり考えてた時にさ、あるヒトから言われたんだよ」

 

 

 

「『未来に思いを馳せるのは佳い。だがそれだけに執心することは、今を蔑ろにし、結果その未来を遠ざけることだ』」

 

 

 

「……その言葉の真意は、今でもわからない。でも指針は見えたんだ」

「指針……?」

「……要するに、だ」

 

 未だに不安げな綾波。その目元に残る涙を脱ぐって、真っ直ぐにその瞳を見つめる。

 夕焼けのような明るい色。いつだって俺を見守ってくれていた、その眼差しを思い出す。

 

 

 

「俺の個人的な結論だけどさ―――先のことなんて誰にもわからねんだから、考えるなんてバカバカしい。それよりも、今やるべきこととやりたいことに全力出すべき―――そう思うようになったんだ」

「―――」

 

 

 

 綾波の目が大きく見開かれる。

 今の先がわからないことに不安を抱いている奴にこういうことを言うのは間違いだとも思うが、それでも伝えずにはいられなかった。

 

「……でも」

「ん?」

「でも、綾波は、わからないです。さっきも言ったけど……もう、やりたいことも、やるべきこともわからなくて……」

 

「だったら見つけようや、一緒に」

 

「―――え?」

 

「わからない、見つけられないなら俺も手伝う。何でも良いって言うんだったら、出撃でも委託でも何でも回してやる。それでも見つけられないようなら―――いつまでも手伝ってやるからさ」

 

 これは紛れもない本心だ。

 ずっと綾波に助けられてきた。ずっと隣にいてくれた。

 そんな相手のためなら―――俺は、何だってしてやれる。いや、してやりたい

 

「それ、は……でも」

「でも?」

「でも……迷惑じゃ、ないのです?」

「ハッ。迷惑なもんかよ。……つーか第一」

 

 言って、綾波の手を取る。

 その薬指には、今でも色褪せることなく輝く、指輪がある。

 

「―――仮にも、ケッコンしてるだろ、俺達」

「あっ……」

「何を今さらって思うだろうけど、さ。頼ってくれていいんだよ。もっと、甘えてくれていいんだ。……むしろ、その方が、俺も嬉しい」

 

 握った綾波の手を、もう片方の手で包み込む。

 小さな手。だけど、温かな熱を確かに感じる。

 

 綾波が『生きている』ことを教えてくれる、その証明に他ならない。

 

「………」

「………」

「………」

「……あー、ダメ、か?」

 

 ポニーテールがぶるんぶるん揺れるほどに、首が激しく横に揺れる。

 そして、俺の手を何度も、感触を確かめるように何度も握っては離しを繰り返す。

 

「……いいん、ですか?」

「ん?」

「綾波……指揮官に甘えても、いいん、ですか?」

「ああ」

「迷惑じゃあ、ないのです?」

「もちろん」

 

 くしゃり、とその表情がまた歪む。

 けれど、さっきまでと比べて、悲壮さは感じられず

 

「……指揮官」

「うん」

「撫でてほしいです」

「おう、いいぞ」

「抱きしめてほしいです」

「……ん?」

「もっと、綾波とお話してほしいです。もっと、綾波に触れてほしいです」

「………」

「出撃から帰ったら、『おかえり』って言ってほしいです。頑張ったら、褒めてほしいです」

「綾波……」

「もっともっと、指揮官と一緒に色んなことがしたいです。一緒にごはんを食べて、一緒に色んなものをみて、色んな所に行ってみたいです」

 

 俺の手を握るその力が、少しずつ強くなって、同時に綾波の口調も、少しずつ強く大きく変わっていく。

 その顔の険が取れ始める。憑き物が落ちたように、次第に晴れやかな面持ちへと。

 

「―――指揮官がいてくれれば、綾波は、どんなことでもやれる。……そんな気がするのです」

 

 涙は残っていたけれど

 

 

 

 ―――顔を上げた彼女は、いつものはにかむような微笑を浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――一夜明けて

 

 あの後、綾波はすぐにみんなの所に謝りに行った。

 一人ひとりにしっかりと頭を下げて、自分の失態を詫びていた。

 当然、誰ひとりとして気にしている者はおらず、綾波が引きこもっている間に練度が追い付いたクリーブランドが綾波が請け負っていた委託を代わりにやるとまで言い出したりも。

 まぁその時は流石に綾波の精神面を落ち着かせるために休ませていたのだが

 

(いや、まさか飯はともかく風呂も寝るのも一緒ってねだってくるとは思わんかったなぁ)

 

 綾波曰く『夫婦らしいこと一つもしたことないです』とのこと。

 断る理由も無く、そもそもケッコンしてるということは俺から言い出した手前、無下にすることも無い。

 布団に入り、俺に寄り添ってきた綾波の表情は幸せいっぱいといった感じだった。

 

 

 

 ちなみに言っとくけどそれ以上は無いからな

 

 

 

 朝となった今は、朝食も終えて綾波と共に一路工廠へ。

 何でも明石が『今なら何か普段現れないフネが建造できそうな気がするにゃ!』とか言い出して、朝っぱらから叩き起こされて今に至る。

 

「そういえばアイリスの時から建造とかあんまりしてなかったなぁ」

「あぁ……キューブ貯めすぎにゃ、とか明石が言ってた気がするです」

「お、今の『にゃ』、ちょっと良かった。もっかい言って」

「えっ……いやです」

「良いじゃんよ、あと一回」

「指揮官、アーク・ロイヤルさんみたいです」

「ごめん。謝るからあれと同列に扱うのだけはやめて」

「……冗談ですっ」

 

 そう言って小さく舌を出す綾波。

 もう昨日までのような不安感は感じられない。もちろん、これで大丈夫だなんて思うつもりは毛頭無い。

 

「……さーて、と。綾波」

「はいです」

「休んだ分はきっちり働いて返してもらうからな? やりたいことも見つけなきゃだが、その前に『今やらなきゃいけないこと』だけはちゃんとやってもらうぞ」

「もちろんです。ご迷惑かけてしまった分、倍返しにしてやるです」

「よーしよく言った。んじゃ、さっさと工廠行こうか。明石の奴待たせるとうるせぇからな」

「はいですっ」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「テメェなに俺に黙って回してんだコラ?」

「だって! だってキューブと建造材が山ほどあるからそりゃ回すにゃいだだだだだだ」

「しかもお前大型回しただろ?」

「こ、小型でチマチマやるよりは戦艦が出てくる分、遥かにマシだと思うにゃ!?」

「資材の無断使用をまず謝罪しろお前指輪の一件から少しも反省してねぇなぁこのクソネコォォォォ!!!」

「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 工廠に行ったら既に建造回されていた。

 案の定、やらかしたのは担当の明石。とりあえずシバき倒して転がしておく。

 

 向き直れば、そこには見慣れぬ二つの人影。

 一人は長身。黒い長髪に白い服装の特徴、そして側頭部から伸びる二本の角から重桜の艦艇だとわかる。

 もう一人は背丈からして駆逐艦クラス。両肩から胸元までを大きく露出した軽装。黒のショートヘアで、こちらは黒い角が頭から伸びている。

 

「金剛型二番艦―――御召艦比叡が参上しました」

「陽炎型三番艦・黒潮、参上……」

 

 どちらも重桜所属の艦艇。

 綾波がどことなく嬉しそうな表情のまま歩み寄ろうとして―――ピタリとその足を止めた。

 

「綾波?」

「指揮官、まだ現れるみたいです」

「マジでか」

 

 見れば確かに、建造ドックはまだ稼働している。

 放り込まれているキューブの数は二つ。つまりはあと一隻出てくることになる。

 そのすぐ下に転がっている風化したドリルから、もうそれはすぐにでも出てくるだろうことも察しがつく。

 

 そして建造が完了したという証明する光が走る。

 その色は―――金色だった。

 

「……ちょっと待て、いつもより強くねぇか!?」

「指揮官、比叡さんも黒潮も下がるです……!」

 

 

 

 爆発でもしたかのような光が迸る。

 それに思わず目を瞑り、腕で何とか遮る。

 

 一瞬のこととはいえ、その光量はかなりのもの。倒れていた明石にはだめ押しとばかりの追撃になった模様。

 

 

 

 コツ、コツ、と、床を叩く靴音に引かれて、軽く目を向ける。

 

 

 

「―――」

 

 ―――息が、止まった

 

 

 

「―――我、弾雨硝煙を振り払い」

 

 

 

 ―――その姿を知っている

 

 ―――その声を知っている

 

 

 

「勝利を以て祖国に威光栄誉をもたらす者なり―――」

 

 

 

 ―――その眼差しを覚えている

 

 ―――その濡羽色を覚えている

 

 

 

「重桜艦隊旗艦・弩級戦艦―――」

 

 

 

 ―――俺の目の前で、海へと消えた

 

 ―――その最期の笑顔を覚えている

 

 

 

「―――三笠、推して参る!」

 

 

 

「―――あぁ」

 

 

 

 ―――ミカサ(・・・)さん

 

 ―――貴女が俺の前に現れるのは

 

 

 

 ―――いつだって、突然なんだな

 

 




綾波って恋愛面での嫉妬とかはあんまりしないけど考えすぎて溜め込んじゃうタイプなのではという雑解釈







言っとくけどこの展開引っ張らねぇからな





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