グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~ 作:ゼロん
深く不快な暗闇の中、その少女は逆さの城、
その少女に向かい……歩くものが一人。
少女が目を開けると、光も感情も失ったその瞳に一匹の小鬼が映った。
「……だれ」
「へぇ……ただの人形かと思いきや喋るんだな。あ、やべ声に出ちまった」
小鬼はあたふたと困った様子を見せたと思ったら、急にピシッと少女の前で姿勢を正す。
「初めまして、輝針城の城主よ……お会いできて大変光栄でございます」
「……消えて。小鬼に興味はないわ」
暗闇の中でチッと舌打ちが響く。
舌打ちの音に反応し、輝針城城主の少女が顔をしかめる。
「今、舌打ちしたわね」
「い、いいえ! めっそうもない」
小鬼は困ったように辺りを見回す。
「……ここは暗いですね。あ、そうだ。ある骨董屋から盗んできた珍しいものがあるんですよ……ちくしょう、暗くてスイッチがよく見えないな」
「……いいから早く消えて。目障りだから」
--どうせ、あなたが狙っているのはこの『打ち出の小槌』のくせに。……上っ面の敬意なんて不愉快だ。
「あ、あった。……へぇ~結構美人さんじゃないですか」
小鬼が懐中電灯を取り出したことで互いの姿が明らかになる。
城主は赤い着物を着た、薄紫色の短髪が特徴の小人。
対する侵入者は黒髪に赤と白のメッシュの小鬼。
逆さ矢印の模様のワンピースに腰と胸元に青いリボンを身につけている。……なぜかリボンは上下逆さまだ。
「そう、満足した? ならさっさと出て行って。小物妖怪さん」
「いえいえ、そうはいかないんですよ。私がここに来た目的をまだ果たしていませんからね」
「……どうせあなたの目的はこの秘宝でしょ?」
小人の城主、
「いいえ。私の目的は別にあります」
「へぇ……そう言って信じてもらえると思ってるの? 小物の小鬼さん」
少しだけ明るくなった秘宝の間にブチッと何かが切れる音が響く。
「姫、私をあの強く……忌々しい鬼の一種と考えてもらっては困ります」
「ふーん。じゃああなたは何者だというの?」
ふふふ、と笑みを浮かべ小鬼は両手を横に広げ--その場から消えた。
異変に気づいた針妙丸は、今までの能面のような無表情から驚愕の表情を顔に浮かべる。
「!? 消えた!? あいつはどこに?」
「ここですよ、姫」
針妙丸が天井を見ると、そこには両手を大きく広げた小鬼が……天井に足をつけて立っていた。
「天井に……立ってる!? あなたは一体……」
目を見開いて自分を見つめる針妙丸に、小鬼は勝ち誇るように目一杯の笑顔をその顔に浮かべる。
「我が名は
それは……久方ぶりに暗い針妙丸の目に光が灯った瞬間だった。
--これが私とお椀姫の初めての出会い。
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目覚めた正邪の目に映ったのは笑顔を浮かべた針妙丸の顔だった。
--目覚めの悪い朝だ。
「正邪、起きて。朝だよ?」
「……わかったから布団から降りろよ。うっとうしい」
針妙丸のくっついた自分の布団から身を起こし、寝間着から普段の一帳羅に着替え針妙丸の布団を押入れにしまう。
ついでに針妙丸を自分の布団にくるんで、しまっておく。
ぐぐもった叫び声と押入れを叩く音が聞こえるが、きっと気のせいだろう。
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朝食用に簡単に作った味噌汁をすすり、コンビニという店で買ったふりかけをご飯にかけて食べる。
小さなちゃぶ台の上で食べる二人の朝食。
頬張ったご飯をよく噛んで飲み込み、針妙丸は正邪に話しかける。
「ねぇ正邪」
「ん? なんだ?」
「そういえば最近、正邪はたまに私のことを『針妙丸』って名前で呼んでるよね? 『姫』じゃなくてさ」
「……!! そ、それがどうしたんだ? 名前で呼んで何が悪い」
動揺し、そっぽを向く正邪を見て針妙丸は『ふふっ』と笑う。
「な、なにがおかしい!」
「ごめん、つい嬉しくって……少しは私に心を開いてくれたのかなぁって」
「はぁ!? 私が……お前にぃ!? 冗談じゃない。裏切り者のお姫様に心なんか一ミリも開くか」
「裏切ったのはお互い様でしょ? 頑固者の天邪鬼さん」
嫌そうに顔をしかめる正邪と、彼女に対し意地悪そうな笑みを浮かべる針妙丸。
いつものようにいがみ合う二人。共に憎まれ口を飛ばし合い、食事の時もおかわりをめぐってくだらないケンカをする。
正邪は『針妙丸と友達なんて真っ平ごめんだ』針妙丸は『もっと素直になってよ』と互いに譲らない。
……そんな光景も第三者から見れば仲のいい友達同士に見えるのだが。
ご飯を食べ終わった正邪は、自分の食器と使い終わった針妙丸の皿をスポンジで洗う。舌打ちをして眉をひそめながら。
「……ちっ、
「あっそ。けど正邪? じゃあ、なんで私をムリヤリ追い出さないの?」
あなたの本音などお見通しだ、と言わんばかりにニヤニヤする針妙丸。一瞬だけ彼女をにらみ、正邪は手に持った食器に目線を移す。
「……お前みたいな面倒くさい奴を適当に相手するより、追い出す方が手間がかかるからだよ」
--二人分の料理を作ったり、二人分の洗濯物を干す方が遥かに手間がかかると思うんだけど……頑固だなぁ。
「食材が余るんだよ」
「え!? 聞こえてた!?」
「全部口に出てた。しばらくしたら当番は全部お前に任せて、私は寝ることができる。あとは姫の役に立つところと言ったら……荷物持ちですかね?」
「む~!!」
針妙丸は頬をふくらませ、ポカポカと正邪の腕を殴りつける。
--あのクソみたいにムカつく能面顔から、よくもまぁ表情豊かになったものだ。こちらとしてはからかい甲斐があって、
彼女に叩かれても全く痛くないため、針妙丸の泣き顔を見ながら薄ら笑いを浮かべる正邪。久しぶりに針妙丸が不機嫌そうな顔を見れて嬉しそうだ。
「おっす! 姉御、学校一緒に行きませんか?」
「あっ、コウジ君ダメだよ……ノックなしで入っちゃ……お邪魔します。正邪さん」
ドアを開けて正邪達の部屋に無神経に入ってくるリーゼント男こと
「咬ませ犬にビビり眼鏡。よく来たな」
「酷くない(です)か!?」
二人のリアクションを無視する正邪。
食器置き場に自分の分の皿を置き、学校用の手提げカバンを持つ。もちろん教科書などは準備済みだ。
「じゃあ行くぞ」
「ちょっと正邪!? 私の分の皿は!? 洗ってくれないの?」
「流し台に持って行っただけで洗うとは言ってない」
ベーッと蛇のように舌を出し、部屋から二人を連れて出ようとする。
針妙丸がドアに向かって駆けだした直前、正邪にドアを閉められ、三人に伸ばした手がむなしく空を切る。
「正邪のいじわるーーーーーッッ!!」
……なお、さすがに針妙丸をかわいそうに思った慶賀野と桜街が皿洗いを手伝ったとか。
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「正邪さん、少し……すこーしだけ針妙丸さんへの対応が悪すぎませんか?」
「いや慶賀野。あれは『少し』とは言わないぞ。『かなり』だ。姉御、少名さんへの扱いが雑すぎないですか?」
朝のホームルーム終了後、授業が始まる十分前。正邪の座る机の周りに集まる慶賀野と桜街。
ちなみに針妙丸は今朝の件ですねて自分の机に突っ伏したままだ。
「もちろん。雑にしてるからな」
「意図的っすかっ!? 陰湿っすね!」
入学して一週間だというのに、特に距離感なく近くにいる慶賀野と桜街を不思議に思い、顔をしかめる。
「それにしても……入学してからあんまり経ってないのに、おまえら仲いいな。……もしかしてデキてんのか?」
「ち、ちがいますよ!? コウジ君と私はそんなのじゃなくて!!」
勝手な結論を出され、大げさにあせってしまう慶賀野。チャームポイントの三つ編みが激しく上下に揺れる。
大声を出した慶賀野を面白がり、周りの生徒が『ヒューヒュー』と口笛を吹き始めた。
それを聞いて彼女の顔がりんごのように真っ赤になる。両手で頬を抑えて必死に体温を下げようとしている。下がらないのに。
一方、桜街は慶賀野から目をそらしている。自慢のフランスパン……いやリーゼントで顔が隠れて顔色がよく見えない。
正邪は満足げな笑みを浮かべ、慶賀野達をからかい続ける。
「じゃあ……慶賀野はコウジのフィアンセなのかなぁ? い・い・な・づ・け?」
「ちがいますよッ! お・さ・な・な・じ・みです!! 幼馴染! 彼とはただの幼馴染です! それ以上でも以下でもありません!! ……入学式の時は最後に彼を見た時と余りにも変わっていたから……その、気づかなくて」
そうとうショックを受けたのか、桜街はさっきまで立っていた場所で体育座りをしている。……耳をすませば、少しすすり泣きの声が聞こえる。
正邪が彼をゆすっても彼の姿勢はそのままだ。
さすがに気の毒だと思ったのか、哀れみの目を込めて、桜街を慰めるために正邪は彼の横に近づき肩に手を乗せる。
「……ドンマイ」
「うっせえええぇぇ!!」
大暴れしそうになった桜街とのどさくさに紛れて、正邪は針妙丸に丸めた紙くずをぶつける。
『あう』と小さな悲鳴をあげ、針妙丸は顔を机から起こす。
紙くずを開いてみると、そこには逆さ文字で何かが書かれてあった。
--解読に鏡が必要とは嫌がらせも良いところだ。普段、正邪は普通に字を書くのに……絶対にこれは私に対する嫌がらせだ。
クラスメートの女子から手鏡を借り、針妙丸は紙くずに書かれてあった逆さ文字を解読する。
『昼休みに別館の空き教室に来い』
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「で、ここまで呼び出しておいて何? 誰にも聞かれたくないことがあるってこと?」
「……いや、
空き教室の机に座っていた正邪は、針妙丸が教室に入った後、机から腰を上げた。
なぜか……今の正邪の声には覇気がなかった。
針妙丸から目をそらし、顔を見せまいとしている。
正邪は少しのためらいの後重くなった口をようやく開き、重々しく疑問を針妙丸に突きつけた。
「何でお前は私を追って死んだんだ?」
それは……避けては通れない質問だった。
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針妙丸の目が大きく見開き、正邪のみをその瞳に映す。
そんな正邪の姿のなんと弱々しいことだろう。
いつものしたり顔で嘘をつき、針妙丸をからかう普段の姿は……そこにはなかった。
「答えろよ……針妙丸。なんで私なんかを追って死んだんだよ?」
「……」
沈黙。二人しかいない空き教室は静寂に満たされる。窓の外から太陽の光が物に当たり、教室を陰で満たす。
「……わからないや」
「……は?」
針妙丸の煮え切らない答えに納得ができないという風で正邪は針妙丸をにらむ。
対する針妙丸の顔はどこか儚げだった。吹けばすぐに飛んで行ってしまいそうなほど。
「正邪がいなくなっちゃった後……私の頭の中は完全に真っ白になっちゃったの」
言葉を続ける針妙丸を静かに正邪は見つめる。
「……たぶん、正邪が死んだことを……あの時の私は、受け止めきれなかったんだと思う。気がついたら……もう三日が過ぎてた」
針妙丸は正邪に向かって、『おかしいよね、私』と悲しげに苦笑を漏らす。
淡々と話す針妙丸の言葉を聞き、正邪の顔に苦痛の色が現れる。
「その時はもう自分の体が動かなくなってた。正邪の膝の上で」
「……ッッ!」
「あとになってすごく後悔したの……なんで、なんで正邪ともっと話さなかったんだろうって」
窓の近くにいた針妙丸は正邪に背を向け、窓の外に視線を向ける。ここではなくどこか遠い、手の届かない何かを見ているようだ。
「……もっと一緒にいればよかった。もっと正邪のことをわかってあげるべきだった。一人でいることのつらさを私も知っていたはずなのに……」
「あんたは一人じゃなかっただろ……お前にはもう居場所があった。私を倒したあの巫女のところにでも行けばよかったじゃないか」
--私と違って、お前は……幻想郷に居場所があったんだ。
「霊夢は……なんだかった言って優しいもんね……しばらく彼女と一緒にいて、全く退屈しなかったし……楽しかったよ」
「だろうな。お尋ね者の私といるよりも、ずっと良かったんじゃないか?」
「……良くないよ」
「……あぁ!?」
背を向けていた針妙丸は正邪の方に振り返る。目をうるわせて、それでも泣くのを必死に堪えて。
悲しい顔を打ち消すように、針妙丸は穏やかに微笑む。
「だってそこにはあなたがいないもの」
正邪は針妙丸の一言にショックを受け動きが止まる。
「口が悪くて、素直じゃなくて……頑固者で、卑怯な……私の最初の友達がいないもの」
……根は優しい天邪鬼とは言わなかった。言えば、きっと正邪はそれを認めないだろうから。
--私を退屈で深い闇から引っ張り上げてくれた天邪鬼。
あなたが輝針城に来てから、冷たい牢獄だった私の城は……暖かいお家に変わったの。秘宝を守るためだけにいた私を……少名針妙丸にしてくれたのは紛れもないあなただった。
ケンカにしながら一緒に食べるご飯も、後から見れば嘘だらけだった私たちの関係も、正邪にとっては偽りだったかもしれないあの笑顔も……私にとっては絶対に色あせることのない大切な宝物。
自分をじっと見つめる針妙丸を正邪は鼻で笑い、あざけり笑う。
「は……私を忘れて他の奴と楽しく過ごせば良かったじゃないか。……初めからお前を利用しようと近づいた、偽りの友達を忘れてさ」
「そうかもね……けど、私は正邪みたいに器用になれないよ」
「他の友達がいたとしても、その友達と過ごすのがどんなに楽しくても……きっと正邪のことは忘れられない」
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針妙丸の頭の中を過去に正邪が言った言葉が反芻する。
『姫、ご飯ができましたよ!』
『ったく……めんどくせぇガキだな……あ、いいえ! 何も言ってませんよ? 空耳ですよぅ、嫌だなぁもう』
『それは私の分だ! よこせお椀姫!!「あなたは居候でしょ!? 城主の私に譲ってよ!」』
楽しかった輝針城での日々。
『我が名は鬼人正邪!! 生まれついての天邪鬼だ!!』
『……姫のことが大っ嫌いでしたよ。最初っからね』
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「……私が死ぬ前に一番後悔したことを言ってもいい?」
「お好きにどうぞ。ま、聞きませんけどね」
予想通りの正邪の反応に針妙丸は小さく笑う。
「それは……最後まで正邪を信じなかったことなの」
「……ッッ」
「私が信じていたのは自分の中の……勝手な理想のお友達だって、ようやく気づいた」
絶対に自分を裏切らない、嘘をつかない、何でも正直に話してくれる……そんな友達。
「ちょっと前の私は正邪ときちんと向き合っていなかったんだって。本当の正邪を受け入れられなかったから私は……」
--お触れを出したのだ。友達としてではなく、異変の黒幕。自分をだました外道を。大罪人を捕らえよと。
「それが普通だろうが……! 誰もが言う友達ってそんな意味だろうが……!!」
--間違っている。針妙丸の言っていることは間違いだらけだ。自分のような
針妙丸は首を横に振る。
「私は……正邪と今みたいに本音で話したい。正邪の本当の言葉で話したい。わかり合って……向き合って、私は正邪と本当の友達になりたい」
針妙丸は正邪に詰め寄り、手を差し出す。
「もし、友達になれたら……また、やり直してくれる?」
正邪は差し出された手を乱暴に振り払い、そっぽを向く。
「……もうやり直してるだろうが」
「え?」
「なんでもない! 教室に戻るぞ! せっかくの昼休みが終わっちまう」
針妙丸に背を向け『きもっちわるい宣言だったわ~吐き気がする』と、あえて針妙丸に聞こえるように正邪は独り言を言って教室を後にする。
「……ありがとう、正邪」
--私、正邪と友達でよかった。
丁寧な態度をとらなくなったのも、名前で呼ぶようになったのも……彼女なりの歩み寄りだったのだと。再び気づかされた針妙丸だった。
--今日も一日よろしくね、正邪。……大好き。
「そういえばお前がぐしゃぐしゃにした布団は干したんだろうな? 頼んどいたはずだぞ」
「あ……置きっぱなし……(ボソッ)」
「はぁっ!?( ゚Д゚)」