グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~ 作:ゼロん
二人の寮の部屋は余った二人部屋を使っている。
女子二人ならば特に問題ないと生徒会からは判断され、要求はあっさり通った。
「おいしょっと。随分と軽いもんだな。小さくなってくれればもっと楽だったのに……」
正邪は奥の和室の床に針妙丸を寝かせ、部屋の出口手前にあるキッチンに駆けだす。蛇口をひねり、近くに置いてあった茶碗に水を注ぐ。
「いつまで寝てんだ。起きろ」
「うぇっ!! づめだいッ!!」
正邪は容器に入っていた水を針妙丸に容赦なくぶっかける。茶碗の水は空になり、当然床と彼女の着物は水浸しだ。
「……ッッ!!」
一瞬我に返り、針妙丸が運ばれる直前の記憶が再びフラッシュバックする。
--外の世界で初めてできた友達の惨死体。血みどろの教室。犯人とおぼわしき少年の言葉が頭にずっと響き続ける。
『相手を殺してもいいんだ! だって……友達を守るためだもん!!』『君は悪くないよ』『君は悪くない』『君は悪くない』『君は悪くない』『君は悪くない』『君は
自分がつけた致命傷を負いながらも、彼は自分に向かって歩いてくる。血を流しながらゆっくりと。
「あぁ……あ……ぁ」
針妙丸はたまらず自分の顔に両手を当てる。肩が震え、寒気が止まらない。
--水のせいではないな。
「参ったな。こりゃ重症だ」
頭をポリポリと掻き、ため息を吐く。
黙っていても埒が明かない。荒療治に出るしかない。
正邪は針妙丸の両手を彼女の顔から力づくで剥がす。
「え……?」
「いつまで自分の世界に閉じこもっているつもりだ針妙丸っ!!」
声を張り上げ、針妙丸の顔に思いっきり張り手を喰らわせる。針妙丸は衝撃で床に倒れ伏す。
「ううっ!!」
「情けない。そのざまで私と向き合うだぁ? 友達になるだぁ? 呆れてものも言えないぜ」
「……」
まだ虚ろな目をしている針妙丸に正邪は呆れ果てる。正邪は和室でうずくまっている針妙丸に近づき、彼女の隣に座る。
濡れた畳の感触が正邪の手のひらに伝わってくる。
「本当に私と向き合いたいなら……あの程度の
「ぅ……!」
「姫……あんたは……そんなに弱い奴じゃないだろ? 私も見込みがあるって思ったからお前を下克上の時に利用したんだ」
--なんで私はこの裏切り者にこんなことを言っているんだろうな……
持っていた茶碗を自分の横に置き、正邪は針妙丸の薄紫色の瞳をしっかりと見る。
「かつての私の同志なら自分の足で立って、アイツに復讐でも何でもしてみろよ」
「でも……」
「ん?」
「でも、もう死んじゃった功名さんたちは帰ってこないんでしょ……!? コウジ君も……クラスのみんなだって……」
針妙丸は目を潤わせ、正邪の腕を力強くつかむ。
「……姫」
「それに……もし正邪がまた死んじゃったら……! 私のせいでもし正邪が死んじゃったら……わたし……」
自分の名前が出てきたことに正邪は驚愕する。
大嫌いとまで言った自分を、針妙丸はまだ心配しているというのだ。
球磨川と彼女が対峙した時も正邪はすぐには彼女を止めようともしなかった。球磨川の戦い方を観察し、彼を利用できるかどうかを確かめたかったのだ。
そんな最低な考えを持つこの鬼人正邪を針妙丸は心配しようというのだ。
--全く。本当にお人好しだな。このお姫様は……呆れてものも言えないぜ……
何も変わっていない。幻想郷で下克上を起こした時と、何も。
裏切っても……彼女のやさしさは何も変わっていなかった。
「なめられたもんだな……」
「え?」
「我が名は鬼人正邪ッ!! 幻想郷の全てを敵に回した妖怪だぞ? そんな私が、簡単にやられると思っているのかぁ?」
できる限りの邪悪な笑みを浮かべ、腕を広げる。
「私は決めたぞ針妙丸! 私は再びこの世界で反逆する!! この学園を、我々弱者の楽園に変えてやろうじゃないか! あのふざけたエリートどもをぶっ潰し、この私が学園の支配者になってやる!!」
正邪の突然の宣戦布告に呆然とする針妙丸。「どうだ?」と正邪が顔をこちらに向けてくる。
「私も弱者が圧倒的強者をぶっ潰すなんていう大きなことをやるんだ。お前もそれくらいの過負荷、乗り越えてみせろ」
ふん、と鼻で笑う正邪を見て、クスっと笑う針妙丸。
「ふ……ふふっ……そうだね、それもいいかもね……うん! 私やる!! やってみる」
「その意気だぞ、針妙丸。それに……」
「針妙丸(さん)!!」
正邪の言葉に割って入り、死んだはずの
「良かったです……! あの転校生の攻撃を受けて重症だって聞いて……!」
「姉御は!? 少名さんは大丈夫なのか!?」
「え……? なんで……どうして? ゆめ……な、の……?」
幻を見ているのではないかと勘違いをし、固まって動けない針妙丸。
「ちがう。二人とも無事だ。D組の教室にいた奴らも全員な。私が確認したから間違いはない」
針妙丸はすくっとその場から立ち上がり、二人に向かって飛びかかる。
「うぉっ! 少名さんんん!?」
「針妙丸さん!?」
「よかったぁ……うそ、でも……いい……また……ふたりに……あえたぁ……!!」
二人に抱きつき嬉し涙が止まらず、わんわんと泣く針妙丸を見て、正邪は思わず満足げに彼らを見つめる。
「はぁ……ようやく泣き止んだと思ったら……またこれか。ほんと、泣き虫姫だな……全く」
--それでいい。彼女達みたいなプラスに……
「姉御……球磨川は人首先生みたいな、何かしらのスキルを持ってる。……たぶん、幻惑とか幻を見せるタイプの能力だと思うぜ」
フランスパンみたく突き出たリーゼントをいじり、桜街は重々しい表情を浮かべる。
何を思い出したのか、慶賀野も目線を下にそらしている。
「幻覚ねぇ……なるほど」
「姉御も気をつけてくれ、絶対にこれ以上あいつと関わらない方がいいと……」
……ピンポーン!
突然、部屋の外のインターホンが鳴り始める。
--
そしてスピーカーから声が響く。
『もしもーし! 針ちゃーん! 正邪ちゃーん! いる~? 体調が悪いって聞いたからお見舞いに来たんだけど~?』
--ヤツからだった。
「……ッッ!!」
針妙丸の肩が再び震え始める。無理もない。ついさっき、やっと持ち直したばかりなのだ。
--この状態の針妙丸を球磨川に会わせるわけにはいかない。
入口に向かい、歩き始めた正邪を桜街達は止める。
「だ、だめです姉御! 球磨川はヤバイ! ヤバすぎる!」
「そ、そうですよ!!」
この二人も正邪が知らない間にトラウマを植えつけられたらしい。証拠に『行かせまい』と必死に正邪を押しとどめてくる。
無論……針妙丸もだ。
「正邪……!! だめ……!! あなたまで壊れ……」
ドアを開ける前に針妙丸の方を振り返る。
「大丈夫ですよ、姫。『幻惑を見せる程度』の能力者にやられるほど、柔いアマノジャクじゃありませんから」