グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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第12話 小さな勇気と大きな野心

「……悪いな、球磨川(くまがわ)

『え……?』

 

 正邪(せいじゃ)は球磨川の腕を掴む直前に、自分の腕を下ろした。

 

「お前とは友達にはなれないな」

『……どうしてだい?』

 

「もう少し見てみたくなったんだよ」

『何を、……!!』

 

 アパートの階段の近くにいる球磨川が後ろを振り向くと……

 

「……正邪に……それ以上私の友達に近づかないで!!」

 

 そこには震えながらも球磨川の前に立つ針妙丸(しんみょうまる)がいた。

 

 トラウマのせいで肩は震え、瞳には涙が滲んでいるが、それでも必死に恐怖に抗い、震える足を叱咤し友達を救おうとする勇者の姿だった。

 

『針妙丸ちゃん……?』

 

 正邪は針妙丸を呆然と眺める球磨川の肩に腕を乗せ、彼の前を通り過ぎる。

 

「私と向き合おうとしてくれてるこの馬鹿の姿をもうちょっと見たいんだ。その結果コイツが私を拒絶するか、受け入れるのか……見てみたくなっちまった」

 

 正邪は悲しそうな笑みを浮かべ、球磨川の方を振り返る。

 

「悪いな球磨川、私はコイツらを捨てられない甘ったるい過負荷(マイナス)だ。お前の友達に、甘すぎる私は似合わない」

 

『…………ま、いいや。実はあんまり期待してなかったしね。いいよ、今日はもう帰るからさ』

 

 球磨川は負け惜しみを言いながら、沈む太陽を背に正邪達とは反対の方向に歩き去っていく。

 

「帰るぞ、針妙丸」

「……うん!」

 

 正邪は階段の近くで待っていた針妙丸の手を握り、階段を登る。

 

 正邪の手を握る針妙丸の様子はひどくご満悦だった。そんな彼女を見つめる正邪も……どことなく嬉しそうに見える。

 

 先程まで沈みかけていた太陽が地平線の向こうに消え、空を闇が覆い始める。

 

 

『甘ぇよ』

 

 球磨川は後ろを振り向かないまま手に持った大量の螺子(ねじ)を針妙丸と正邪の二人に容赦なく投擲(とうてき)する。

 

 油断しきった正邪に猛スピードの螺子が直撃--

 

「……あぁ、そうだった。言い忘れてたな」

『!?』

 

 ……するように思えた。

 

 正邪達の方に向かっていた螺子が空中でぴたりと動きを止め、そして……その方向が投擲した球磨川に向かって古びた時計の針のようにゆっくりと向きを変えていく。

 

 ーー螺子の進行方向が『ひっくり返る』。

 

 球磨川は異変に気がつき、正邪の方を振り向く。すると彼女も自分の方を向いているのに気がつく。振り向いた正邪の顔は美しくも……

 

「じゃあな。生きていたらまた明日」

 

 ーー醜悪に歪み、これから死にゆく哀れな球磨川を嘲笑っていた。

 

 そんな彼女を見て、球磨川はやれやれと肩を落とす。その様子はどこか満足気だ。

 

『……君には負けたぜ、正邪ちゃん』

 

 正邪が部屋の扉を開ける直前、彼女の背後から()()の骨と肉が()()()によってズタズタに引き裂かれる音がしたが彼女は気にも留めなかった。

 

 

 ====================

 

 

「倒せたのかな……?」

 

「さぁ……どうだろうな? 殺しても死ななそうなやつだ。ま、あの程度で終わるなら私の期待はずれってとこかな」

 

 外も暗くなってきたため、部屋にいた慶賀野(けがの)桜街(さくらこうじ)は各々の部屋に帰らせた。帰ってきた瞬間に二人にわんわんと泣きつかれた正邪だったが、それはまた別の話。

 

 どこか引っかかる言い方をする正邪に針妙丸は疑問を覚える。

 

「……正邪、また良からぬこと考えているでしょ……まさか球磨川君を味方に引き込むつもり?」

 

「へぇ、頭カラッポのお姫様でも考えるじゃないか。ピンポンピンポン、大正解です」

 

 まさかの正邪の返答に針妙丸は絶句する。

 

「あの残虐性、凶暴性、凶悪さ。どれをとっても一級品! いや、一級なんてもんじゃない。至高だ。あれだけの逸材を私は知らないね」

 

 興奮のあまり正邪は悦に入っている。邪悪な笑みがくっきりとその顔に浮かび、醜悪な本性が丸見えだ。

 

「……正邪。それ本気で言ってるの……?」

 

「本気の本気。超本気ですとも。球磨川を利用すれば学園支配どころが幻想郷の支配だって夢じゃない……くくく、素晴らしいじゃないか!」

 

 思考の暴走を始める正邪を見ていられず、針妙丸は机を両手で叩く。

 

 机からの大きな音を聴いた正邪が顔を上げると、そこには今にも泣きそうな顔をした針妙丸がいた。

 

「何考えてるの!? 馬鹿なことはやめて! 球磨川君とは友達にならないって……さっきはっきり言ってたじゃん!!」

 

「……利用する相手に『お友達』なんてお綺麗な関係は似合わないとも言ったんですよ、姫」

「けど……!」

 

「いいですよ? 臆病な姫は彼と関わらなくて。元々幻想郷の支配は()()野望ですからね。あぁ……素晴らしいんだ。あれほど純粋な負の存在は一度も見たことがない! アイツなら妖怪の賢者や博麗の巫女だろうと私に向かってくる奴らの精神をぶっ壊してくれそうだ! ははははっ!!」

 

 ーーもう、止められない。

 

 すでに針妙丸にはわかっていた。正邪の野望は誰にも止められない。たとえ一度野望が潰えたとしても、この天邪鬼は絶対に諦めないだろう。

 

 いくらそれが惨めでも、醜くても、滑稽に見えたとしても、彼女は決して歩みを止めない。

 

 それが逆襲の天邪鬼、鬼人正邪なのだから。

 

 ーーだけど、わかっているからこそ。彼女の友人である私だからこそ……やらなければならないことがある。

 

「正邪、もし正邪が間違ったことを、みんなを悲しませることをするつもりなら……私は全力であなたを止める」

 

「へぇ〜かっこいー。正義の味方気取りですかね? 私の友達になるつもりはもうないってことですか?」

 

「友達が間違った事をしようとしているなら、私はそれを全力で止める」

 

「……私がその『間違ったこと』をすることを望んでいるとしてもですか? ただのエゴじゃないですか。押し付けがましくて素晴らしい友情だなぁー」

 

 正邪に反論する針妙丸だが、正邪はその志を真っ向から否定し、折ろうとする。

 

 それでも針妙丸は怯まず、正邪の赤眼をしっかりとその薄紫色の瞳で見据える。

 

 次に口を開く針妙丸の姿は……どこか哀愁に満ちていた。

 

「……もう、友達に死んでほしくない。そう思うことの何がいけないの?」

「……」

 

 針妙丸の口から出た言葉に驚愕し、目を見開く正邪。

 

 ーー全てを敵に回して、一人寂しく死んだ天邪鬼。

 

 誰の心に残ることもなく、ひっそりと転がる自分の屍を正邪は容易に想像できてしまった。

 

 溜息を吐き、正邪はその場から立ち上がる。

 押入れにあった布団を取り出し、寝る準備をする。

 

「……私に逆らった罰だ。夕食は自分で作れ」

「えぇ!? 意地悪ぅ……」

 

 正邪は寝巻きに着替えず、そのまま布団を被り横になる。

 

 針妙丸は冷蔵庫付近の戸棚から、レンジでできる即席ご飯を漁り始める。コンビニで買った『サ〇ウのごはん』は見つかったものの、ご飯のおかずになるものが見つからずエサをお預けされた犬のような顔になってしまう。

 

「うぅ〜……」

「……あと、お前にも言い忘れてたな」

「え?」

 

 正邪は仰向けの姿勢から、針妙丸のいる方とは逆の方向に首を向けて顔のほとんどを布団で覆う。

 

「……頑張ったな、針妙丸。不格好だったけど……お前が来てくれて本当に嬉しかった」

 

 当然、顔を真っ赤にした正邪の姿を針妙丸が見ることはできなかったという。

 

 

 =====================

 

「ちっ……なんでアイツの下着も私が干さなきゃならんのだ……自分のならともかく」

 

 眠そうに目をこすりながら正邪はベランダで洗濯物を一つ一つハンガーに吊るしていく。

 

 優しく朝日が辺りを照らす。

 

「……よしこんなものだろう。いや、針妙丸の着替えだけベランダの真下に落としてやろうか……」

『おーい! 正邪ちゃーん! いい朝だね!!』

 

 ーーあぁ、最悪の朝だ。

 やっぱ生きてたか球磨川。

 

 正邪は球磨川を無視して窓をベランダのドアをさっと開けて部屋に戻ろうとする。

 

『無視なんてひどいなぁ。少しお話ししようよ。こんなにいい朝なのに』

「地獄に帰れ」

『またまたぁ、僕が相手だからってそんなに照れなくてもいいんだよ?』

「……ハァ」

 

 ーーこれ以上こいつと話したくない。

 

『そういえば……そこにぶら下がっている横シマのパンツは正邪ちゃんのかい?』

「ーーッッ!!!!」

 

『やっぱりぃー。けど、正邪ちゃんには青のしましまパンツよりも赤シマパンツの方が似合うと思うんだ。 ……そうだ! 今度よかったら一緒に可愛い下着を買いに行こうよ! ……きっと楽しいーー』

 

 

「もういっぺん死ねぇえええええええ!!!」

 

 

 翌日、球磨川は学校を欠席した。

 教師によると、頭部に投げつけられた洗濯かごが原因で脳震盪を起こしたらしい。

 

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