グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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すみませぬ。だいぶ待たせました!





第15話 球磨川という男。

「全土様。会議の結果、(くだん)の新入生と転校生が警戒対象となったであります」

 

 百々(どうどう)は片膝をつき、黒椅子の前で座る全土(ぜんど)の前で頭を垂れる。数枚の報告書を全土に手渡し、一歩後ろに下がる。

 

 そんな彼の様子を全土は満足気な目で見つめる。

 

「報告ご苦労だったね、百々くん。そうか、そうか、そう決まったか……件の内の一人は……ほう」

 

 全土は指をこめかみに当て、興味深そうに報告書を眺める。

 

「ど、どうかしたでありますか?」

 

「百々。君は……黒神(くろかみ)めだか、という人物を知っているか?」

 

「は、はい、もちろんであります! 確か……箱庭学園(はこにわがくえん)にいるバケモノ生徒会長のことでありますよね?」

 

 百々は全土の期待に応えようと緊張しながらも声高に返答する。着ている和服を少しでも見栄えよくしようと手ではたく。

 

「あぁ、その黒神だよ。では君は彼女がどうして『化け物』と周りから呼ばれているか……わかるかね?」

 

 百々は疑問を顔に浮かべ、知らないと首を横に振る。

 

「それは……あまりにも彼女が人間として『完成』し過ぎている、常軌を逸した異常(アブノーマル)以上の異常(アブノーマル)だからだよ」

 

「完成……し過ぎている? それは全土様、あなたよりもでありますか?」

 

 全土は滑稽と百々の発言を笑い飛ばす。

 

「はっはっは! 面白い事を言うな。そうだな……もしかしたら黒神とやらは、私より圧倒的に異常(アブノーマル)なのかもな」

 

「……そうでありますか」

 

 ーー失礼ながら全土様。自分は……あなた、いやあなた様が誰かに劣ると考えたこともないであります。世界中の誰にもあなたを超えられるとは……正直思えないであります。

 

「私も認めざるを得ないのだが……彼女の影響力は凄まじい。正直言って、この私も脅威に感じるほどだよ」

 

 相手の脅威を語る全土だが、その余裕は崩れない。

 

「だが、敵味方構わず自身の色に染めてきた彼女にも……()()染められなかった男がいたのだよ」

 

「……!? 存じないであります! 話を聞く限りでは黒神を屈服させられる者など全土様以外において……!」

 

「いるのだよ。いかなる強さをも、理不尽な能力者をも……全て螺子(ねじ)曲げてしまうような男が……たった一人」

 

 全土は報告書に貼られていた写真を取り、写真ごと腕を突き出し百々の前に見せる。

 

球磨川(くまがわ)……(みそぎ)?」

 

 百々(どうどう)が見せられた写真には一見普通の男子高校生生が写っていた。ゴツい……というよりも中性的な顔立ちだった。

 

「彼の目付け役を任されることになったそうだな? なら……用心しておくことだ、百々」

 

「こんな……どこにでもいそうな奴を、でありますか? どちらかといえば……もう一人の方が危険因子だと自分は思うのですが……」

 

 彼が机に置いたもう一枚の写真。心底つまらなそうな顔で写真を撮られた少女、鬼人 正邪の資料を百々は睨んだ。

 

 全土はふむ、と納得した様子で百々の方を振り返る。

 

「……なるほど、なるほど確かに。確かにこいつもこいつで引っかかるのだよ。最もおかしいのが……この女、鬼人 正邪の情報や記録がどこにもない、ということだ」

 

 彼女についてあらゆる手を使って調べ上げたが……彼女の戸籍以外なにも情報が見つからなかった。

 

 その点においては少名針妙丸(すくなしんみょうまる)とやらも同様だが……正邪ほど目立った動きをする素振りはない。

 

「自分が生徒会を執行しようとしている時に妙な事が起こったのであります。おそらく彼女は……自分達と同じく能力持ち(スキルホルダー)であります。それも強力な」

 

「……そうか。……ふむ、非常に興味深い。よくやった百々くん。現場から見ている君たち生徒会の意見は非常に参考になる」

 

「もったいないお言葉であります……!」

 

 全土は百々に背を向け、机の方に戻る。

 

「引き続き警戒を続けてくれ。彼女のスキルの詳細が分かり次第報告してくれるか?」

 

「も、もちろんであります! ではこれで自分は失礼するであります」

 

「あと百々くん。彼、球磨川 禊には……特に細心の注意を払うようにな。なにせ彼はまるで何も無かったかのようにあらゆる学校を廃校にしてきた男だからな」

 

 球磨川という男に警戒を払う全土の気迫に、百々はゴクッと息を呑み理事長室を後にする。

 

「し、失礼しました……であります」

 

 ーーなるほど、さすがに神井(かのい)会長が心酔するだけある。全土様が自分に背を向けた時……彼を斬りつけることも愚か、勝てるなんて……微塵も思えなかったであります。

 

「……良い報告を待っているよ」

 

 ーーたとえ自分の持つスキルを使ったとしても。

 

 

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 薄暗い校舎の裏で一人のD組生徒がC組の生徒二人組に絡まれていた。もちろん、三人以外には誰もいない。()えて誰も来ないような場所を選んでいるのだから。

 

「……う、かはっ……!! やめて……ぐっ!?」

 

 大柄の男と出っ歯の男が大人しそうな男子生徒に暴行を加えている。

 

「あぁ黙れよこのクズめ!」

「うぐっ!!」

 

「ちくしょう……ムカつくぜ。あの女ぁ……」

 

 殴りつけているのは球磨川(くまがわ)相手に絡み、憂さ晴らしをしていたC組の二人だったが、正邪に邪魔をされてからはさらに苛立ちが溜まっていた。

 

「あ、アニキ。大丈夫ですかい? まだあまり声を出せないんでしょう? 一緒にこいつでも殴ってストレス発散といきましょうよ」

 

「……あぁ」

 

「……あ、ぐぅ……! やめ、やめて。あぶっ!?」

 

 巨漢の男は少年の腹を思いっきり殴りつけ、悶絶させる。

 

「ったく。クソ女をぶち殺す前に憂さ晴らしだ……この礼はたっぷりとーー」

 

 青アザだらけになった少年の顔を容赦なく蹴り上げようとする巨漢。足を上げる直前に巨漢の肩を誰かが掴む。

 

 

『えっとごめん、トイレってこっちで合ってる?』

 

 

 後ろを振り向くと、二人が朝にボコボコにしたはずの少年……球磨川 禊が立っていた。

 

「あぁ? テメェは朝のD組か。なんだ? 仕返しにでも来たってか?」

 

 睨まれているにもかかわらず、球磨川はのほほんとしている。

 

『え? えーと、君……誰だっけ?』

 

「は?」

 

 球磨川の予想外の返答に出っ歯の男は呆然とする。

 

『ごめん、今思い出すからさ。えーと……そっか! 中学の頃の知り合いのタカシくんだっけ?』

 

「ちげぇよっ!! テメェ、なめてんのかこのクズ一号!!」

 

 出っ歯の男が怒号を上げるも球磨川はニヤニヤと笑う。

 

 

『……あっ、ごめん。君たちみたいな()()()()()に見覚えなんてなかったよ! いやぁーお楽しみのところ、邪魔して悪かったね! どうぞ僕のことなんて忘れてね!』

 

 

 てへぺろ、と嬉々として暴言を言う球磨川に出っ歯の男があっけにとられるも、大柄の男は間髪入れずに球磨川を殴りかかる。

 

「……死ね」

『僕は悪くない』

 

 腕が球磨川の顔に届く瞬間、巨漢の拳が螺子(ねじ)によってグシャグシャになる。

 

「ーーな」

『だって』

 

 大柄な男が声を出す間も無く顔に容赦なく螺子(ねじ)をぶち込まれ、絶命する。頭蓋骨が完全に砕かれるグロテスクな音と共に、周囲に脳漿(のうしょう)が飛び散る。

 

「ーーっ」

 

 大柄の男は糸が切れた人形のように仰向けになって倒れる。

 

 C組の二人組に先程まで理不尽な暴力を受けていた少年は顔を悲痛で歪ませ、彼の横にいた出っ歯男は口をパクパクとせわしなく動かす。目の前で起こったことが信じられないようだ。

 

『僕は悪くないんだから』

「あ、うわああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 出っ歯の男は血も凍るような光景に兢々(きょうきょう)とする。震える指を球磨川に向け、すでに惨死体となった大柄の男から必死に目をそらす。

 

「お、おぇっ! う、うう……お、お前ぇ!! ななな何をしたのか分かってんのか!?」

『え? 何が? あぁ……わぁお!! こんなところに遺体が!! 一体どこの誰がこんな酷い事を……!』

 

「え……え、は?」

 

 白々しくとぼける球磨川にかえって出っ歯の男は怖気を憶える。

 

 ーーこの男、マジでいかれてやがる……

 

『こんな……ひどい! あんまりだよ! 全く人をなんだと思っているんだ!!』

 

 涙を流し、遺体の身を案じるような素振りを大げさに見せる球磨川にこう思わずにはいられなかった。

 

 ーー絶対に関わりたくない。

 

『ところでさーー』

「ひっぃっ!!」

 

 大げさな嘘泣きをやめてヘラヘラと笑いながら出っ歯の男に振り返る。

 

 ーーこ、殺される。

 

『えーと……出っ歯くん。君の名前は?』

「こ、小西(こにし)です!」

『そっかぁ、小西くんか』『ところで小西くん』『……君の大切な()()()は元気かい?』

 

 小西はゾッとした。自分を見つめる闇色の瞳に。いいものも悪いものも全部混ぜて台無しにしたかのような……人間として終わっている目。

 

 ーーま、まさか……!!

 

 小西は彼の瞳に恐怖を覚えずにはいられなかった。あのような危険すぎる男が復讐のために自分にしてくる行為がなんであるかを……自然と、冷静じゃない自分の頭が『()()()()』に導いてしまったからだ。

 

「お、お前! 俺の妹に……母さんに何をした!!!」

 

 小西はみっともなくヒステリックに叫ぶ。家族に危険が及ぶとなれば黙ってはいられない。

 

 自分がやられた方が何倍もマシだと疑わなかった。その直後、彼は後悔することになる。

 

『いや、別に?』『何もしてないけど? ……小西くん。なんで君はホラー映画さながらに、ヒステリックに叫んでるんだい?』

 

「へ……ぇえ?」

 

 つい変な声が小西の口から漏れる。球磨川は相変わらず笑っている。いや、むしろ先程より彼の笑みがより濃くなっていく。

 

『けど、ふぅーーん』

『きみの大切な人は()()()()()()()()なんだね』『おぼえとこーーっと』

 

「…………!!」

 

 おぞましかった。ひたすらにおぞましかった。常人ならば絶対にやらぬであろう事を、あろう事かこの男は平然とやってのける。

 

 ーーくるっ、狂っている。まるで人間の負という負で固めて練り上げたような存在だ。

 

 何故こんなヤツに自分たちは関わってしまったのか。今になって後悔した。

 

 球磨川は嫌味ったらしく笑みを浮かべながら小西に向かって歩く。小西は金縛りにあったかのように動かない。

 

『あはっ、小西くんったらみっともなーい』

『ただ自分の憂さ晴らしをするために』

『関係もない他人を「虎の威を借る狐」みたいに』『誰かと一緒になって痛めつける。』『痛めつけられた本人から、どんな報復が来るのか』『誰にその報復が飛んでいくのか』『そんなことも考えずに』『こんな無駄以上に最低で』『愚かな事をしていたんだね。』

 

『その挙句にビビって、お漏らししちゃうとか』『なっさけねーでやんの!』

 

「……ぅ……やめろ、やめてくれ」

 

 小西は自分の濡れたズボンを御構い無しに耳を両手で押さえつけ、頭を左右に振り球磨川の言葉を聞くまいとする。

 

『けどね、小西くん』

「ひっーー」

 

 球磨川は小西の腕をどける。弱々しく細すぎて折れてしまいそうな彼の腕を、何故か小西は払い退けられなかった。

 

『いいんだよ。最低で。』

「……へっ?」

 

 先程と打って変わって優しい声を出す球磨川に……小西は安心した。いや、安心してしまったのだ。

 

 ーー悪魔のささやきがこだまする。

 

『情けなくて、みっともなくて、恥ずかしい』『なーんにもできない役立たずの弱い最低な奴』『それがきみのかけがえのない個性なんだから!』

 

『無理に変わろうとせず自分らしさを誇りに思おう!』

 

『きみはきみのままでいいんだよ』

 

 優しい、球磨川は優しい。だが、ここまで世にも歪んだ『易しさ』があるだろうか。

 

「あ、……あ、ああああああああああああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」

 

 小西は球磨川を、彼の「易しさ」を押し退け、(せき)を切ったように流れるしょんべんを垂れ流しながら、彼は必死に球磨川から逃げた。

 

『あちゃーフラれちゃったよ。……また勝てなかった』

 

『……それで結局誰だったっけ? さっきの小西くんとこのゴリラは? どこで会ったんだっけなぁ』

 

 本当に球磨川は先程のC組の二人が朝に自分を殴りつけたことなど覚えていなかった。『自分に()()()()()()()()()何か嫌な事があったから、()()()()()()八つ当たりした』。

 

 ただ()()()()である。

 

『まぁ……いっか! よくわかんないけど。あーなんかスッキリした』

 

 彼、球磨川 禊にとっては本当に息を吸うように日常茶飯事のことだった。

 

『あれ? 君、ボロボロじゃないか。どうしたの?』

「……ぁ、球磨川、くん」

『あぁ、君は! ……えっと、ごめん。同じクラスだってこと以外忘れちゃった』

 

 ガクッと虐められていたD組男子が頭を地につける。球磨川は彼に触れた瞬間ーー

 

『うん、とりあえずは。これでもう動けるよね』

「……え?」

 

 少年の傷が……跡形もなく無くなっていた。まるで()()()()()()()()()()かのように。

 

「あ、ありがとう。けど……どうする? お前、こいつがどうしようもない奴とはいえC組の生徒を殺しちまったんだぞ……?」

 

『嫌だなぁ、人を殺人犯みたいに。僕みたいな温厚な生徒がそんな乱暴なことをできるはずがないじゃないか!』

 

 球磨川は腰に両手をあて、ぷんぷん!と効果音が出るような怒った素振りを見せる。

 

「けど、死体が……」

『ん? 何を言ってるの? 死体なんて……どこにも無いじゃないか』

 

 死体は……どこにも無かった。先ほど起こったことが()()()()()無傷のC組の生徒が倒れている。

 

「え……? だって……」

『それに誰のことを話してるの? 君はあの出っ歯くん一人に殴られてたんでしょ?』

「球磨川、お前何を……あ……そうだった。何を言ってんだ、俺」

 

 記憶の混乱に戸惑い、思考を繰り返そうとするD組の生徒。

 

 球磨川は身体をせわしなくモジモジさせている。

 

『えーと、悩んでいるところ悪いんだけど……トイレってどこかな? 本当に限界なんだけど……』

 

「お、おいおい! 勘弁しろよ! こっちだよ。ついてこい!」

『ありがとう! クラスメートA君! いやぁーこの学校広くってさぁーー』

 

 なお、倒れていた大柄のC組生徒は……みんなの記憶からさっぱりと()()()()()()()()()()()()()()かのように消えていたという。

 

 

 

 

 




「村人Aみたいに言ってんじゃねぇよ!」
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